第409話コンセプトは人間なんて電池にしようですな

「そもそもが、どうやってその思考に辿り着いたんだ?」


 アイギスに同情の視線を向けていた澪が、こちらに振り返りながら聞いてきた言葉に「どうやっても何も……」と言いながら私はポツリポツリと説明する。


 人族は魔法を使えなくても魔力が無いと言う訳ではない。

 それはスキルによってはMPを使うものもある事から明らかだ。


 と、言うか。テア達の説明では魔力もMPも精神エネルギーなんだからそれが無い=精神無いって事になる方が有り得ん。

 そう考えるとRPGの武闘家とかって、あれだけ精神力無いと出来ないような事やってて精神エネルギー無いって凄くない? 閑話休題。


 さておき、何故魔法を使えない人間と使える人間に別れるのか?


 一つは生まれだ。


 こう言ってはなんだが、平民よりも貴族の方がより多くの魔力を持っている場合が多い。

 それも当然だろう。

 貴族と言うのは過去に大きな功績を残した末裔だ。そしてその大きな功績は多くの場合が、戦闘によって立てられる事が多い。

 もちろんそれだけではないが多いのは事実だ。


 そしてこの世界で戦いによって戦果を上げたなら、魔力にしても気力にしても優秀な者が多くなる。

 更に貴族が平民と婚姻を結ぶ事は稀だ。

 多くの貴族は、同じく貴族と結婚する事で家の格を守る。それは優秀な人間同士の子供が生まれるのと同義なのだ。


 そんな事を繰り返せば、全員とは言わないが貴族全体の質が良くなると言うものだ。


 まあ、それに中身の質が伴っているかは別だけど。


 二つ目は教育だ。


 平民は貴族のように魔力の扱い方を教わる事が出来る訳でもなく、魔法を教えてくれる学校に行ける訳でもない。

 また自分がそんな事を出来るとも思っていない。

 それが大きな壁になっている。


 そして三つ目がギルドだ。


 私はやっていないが、ギルドでは最初に魔力の測定もやってくれるらしい。

 その測定方法は水晶に手を置くと光が灯るという、よく漫画で見かけるタイプの測定魔道具なのだそうだ。

 だがこれにはギルド職員にも知らされていない欠点がある。

 それがエイラ達に語ったものだ。


「欠点ですか?」


「そう欠点。って言うか、弱点?」


 私は瑠璃の言葉に頷きながら紙に描いて説明を始める。


「まず、皆にも話した魔力の変換効率とシステムの関係。それを前提にした話なんだけど、ギルドの測定器もシステムの流用してるから小数点以下の才能ってわかんないんだよね」


「……つまりはあれか? 魔法として発現は出来なくとも内在する魔力はあると?」


「そうそう。より正確にはMP……つまり精神エネルギーを魔力に変換、それを更に魔法として改編して現象を起こしてるんだよ」


 机に置いた紙に分かりやすく図解で説明すると全員が興味深そうに見ている。


「なるほど、お前にこの話を聞いてからなんでMPと魔力が別のステータスなのかと思ったら、その違いか」


「そう。だからMPがあるのに魔力が無い。魔法が使えないとなる。ステータスの魔力値も恐らく、最小値で魔法がなんとか一つでも発動出来る値が1なんだと思う」


「つまり魔力が無いではなくて、発動出来る魔法が存在しないから0と表記されるって事ね」


「そう。アイギスの認識であってると思う。で、ここからが私の考えなんだけど、多分、魔法が使えない人は、恐ろしく魔力変換効率が悪いんだと思うだよね」


 だから魔法が使えない。


 もしくは獣人のように放出する能力がそもそも無い可能性もある。

 前にミミがちょっとした怪我をした時に調べてわかったが、獣人もMPを魔力に変換する器官があった。

 しかし、どうやらそれを放出。外部に出力する力が無いらしい。だからこそ身体強化に特化していて他の種族を上回る力を振るう事が出来る。


「いや、おい待て」


「何?」


「そもそも変換する器官ってなんだ?」


「私も聞いた事がありません」


「あー、アリシアまで知らないの?」


「はい」


「えっとね。モンスターに魔石があるように、人間や他の種族にも魔力を貯める貯蔵庫みたいな器官があるんだよ」


「マジか?」


 澪が驚きながらアイギスを見るが、アイギスも首を思い切り横に振っている。


「そんなの聞いた事も無いわよ!? そもそも、そんな器官が身体の中にあるならとっくに知れ渡ってるはずよ」


「確かにアイギスさんの言う通りですね。その辺どうなんですかハーちゃん?」


「わり。言い方悪かったか。器官って言っても臓器や魔石みたいな物じゃなくて、なんだろ? 目に見えない力の塊って言うか、なんと言うかまあ、身体の中にコアみたいなのがあるんだよ」


「ああ、お前は【魔眼】でそれがわかるのか」


「うむ。身体の中……心臓辺りを循環してるのがわかる。因みに外に出力する力が無いと、変換した魔力がすぐに身体全体に広がるからわかる」


「へぇー。初めて聞いた。そんな事わかるなんて凄いねハクア」


「うむ。ありがとうエレオノ」


 うんうん。澪達だとなにか裏があるんじゃないかと思うけど、エレオノ達なら素直に賞賛を受け取れるね。


「まあ、話はわかった。それで? お前はどうやってその能力が無い人間に魔法を使わせようとしたんだ?」


「それはこれだよ」


 澪の言葉に私は大きな羊皮紙で出来た一枚の紙を取り出して皆にみせてみた。


「何!? この一目でおかしいくらい高度だと分かる魔法陣!?」


 そしたらアイギスがまたまた発狂しました。


 何故に?


「気持ちは分からんでもないが落ち着けアイギス」


「これは確かに凄いですね。基礎は教えましたが良くぞ独学でここまで……」


「テアさんから見てもそんなに凄いんですか?」


「ええ、使う魔法を緻密に組み立てる事で魔力を効率化しています。しかもこれは……吸い出しと変換ですね」


「うん。コンセプトは人間なんて電池にしようですな」


「お前……もう少しまともなコンセプトにならなかったのか?」


「いや、だってさ。これ思いついたのって【暴食獣】のベルゼブブが予備バッテリーだったからだし。だからあれみたいに人を魔力タンクに見立てれば良いかな? と」


 そう。私が魔法陣に組み込んだのはMPを吸い出す機構と、それを変換する機構だ。

 自分の体内で変換する事が出来ない。もしくは変換効率が悪いMPを、あえて変換しないでそのまま吸い出し、魔法陣の方で変換する。

 そうする事で自分で変換するよりも、遥かに効率化しているのだ。


 因みに自分で変換出来る人間の効率に比べれば全然劣る。


 まさに逆転の発想である。


「確かに……これならば魔法を使えない人間どころか、獣人でも魔法が使えますね」


「それってミミもですか?」


「うむ。理論上はこれで出来るはず。つー訳で使ってみて」


「どうすれば良いの?」


「えーと、まずはここに手を置いて──」


 使い方を説明し終えた私は少し離れて様子を見る。


 ないとは思うけど私の魔力まで吸ったら実験の意味が無いからね。


 今回魔法陣にしたのはクリーンの魔法だ。


 これが使えるようになれば衛生面もだいぶ改善される。


 結果を見守る私達の前でミミが魔法陣に右手を置き「クリーン」と唱える。

 私の目にはミミの身体から手を伝い魔法陣にMPが流れ込んで行くのが見える。

 その力が魔法陣を徐々に光らせ全てが光った所で、ミミが突き出した左手の先にある汚れた布にクリーンの魔法が発動する。


 やった! 成功した!


 結果は上々。思ったように効果が現れた魔法陣は成功と言っても良いだろう。

 本当に成功するとは思っていなかったのか、ミミも驚きながら自分の手を眺めている。


 あれ? 信じてなかった?


「そんな顔するな。普通は信じられないんだからな」


 澪が私の頭に手を置きながらそんな事を言ってくる。


 まあ、確かにそうだな。


「まさか……本当に成功するとはね。それでハクア。何が問題なの? 私には十分成功している気がするのだけど」


「あー、えっと。一つはコストかな。ぶっちゃけこのままだと各家庭にって程の値段にならない。後は単純にデカい」


「まあ、確かにそうだね。ほとんどアクアやクーと変わらないくらい大きいかな?」


「そうなんだよねー。コロの言う通りで子供と同じくらいの大きさの羊皮紙必要なんだよ。こっちの手間賃無くしても、羊皮紙だけで一般家庭には厳しいお値段」


「羊皮紙高いですからね」


「うん。その分魔力と相性良いんだけどね。こればっかりは植物紙じゃ劣りすぎる」


「そうですね。ここまで出来ているなら私が縮小化のお手伝いをしましょう」


「マジで!?」


「ええ、ここに居るメンバーで考えればもっと縮小化は出来るはずです」


 おお、これで目処がたった!!


「それでも平民には高くないかしら」


「んー、まあそうなんだけどね。後は作り方知ってるから石鹸普及させるくらいかな?」


「って、もっと簡単なのもあるんじゃないのよ!!」


 と、またもアイギスの絶叫が響き渡るのだった。

 あっ、コレあれだ。プレゼンの順番間違えたかも? てへっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る