第408話マジで私の事を殺しに掛かって来てないかこのスキル共?

 あれから一ヶ月程の時間が経った。


 どうやらその間にも色々な事があったらしいが、私はその中のいくつかの事柄しか知らない。


 ヘタに話すと首を突っ込むか、巻き込まれるかするだろうからという判断だったらしい。


 それはあまりにも失礼じゃないかな?


 そんな訳で私が知っているこの一ヶ月にあった大きな出来事を幾つか話そうと思う。


 まず一つ。

 喜ばしい事にコロがこのフープにて、城の中とギルド限定だが鍛冶屋を始めたのだ。

 元々いつか店を出したいと言っていたが、私が拐われた際の戦いでレベルアップを果たしたコロは【修復】というスキルを手に入れた。

 ここ最近は戦闘訓練に魔力操作の訓練を続けながら、そのスキルを鍛え続けていたらしい。


【修復】のスキルは【リペア】の上位スキルで、元のスキルの通り壊れた物、ボロボロになった物を元に戻す事が出来るスキルを強化したものだ。

 使用の際には素材などは必要無いが、直す物と同じ素材を用意する事で性能を下げずに直す事が出来る。

 MPと素材さえあればダンジョンの中でも壊れた装備を性能を落とさず修復出来る便利スキルだ。


 但し、制限はちゃんとある。


 それは一度【修復】のスキルで直した装備品は強化が出来なくなると言う物だ。

 ゲーム風に言うなら、+5つまりは五回まで強化出来る剣を【修復】したら、それが例え一回も強化した事が無い物でも強化が出来なくなる。

 しかし、最初から+3まで強化していれば、性能を全く下げる事無く+3のままで修復出来るのも強みなのだ。

 因みに普通に直せば通常の+3状態よりも性能は落ちるが、その場合後二回は強化出来る状態が残る。


 この辺は強化の状況と個人の好みによってどちらにするか決めれば良い。

 それでも【リペア】に比べれば破格の性能のスキルなのだから。


 そんな訳で城では兵士様の装備を作り、ギルドでは使えなくなった装備を【修復】して、格安で新人に売るのだ。


 まあ、ギルドでの仕事は私がエグゼリアと一緒に企画したものだけどね。販売路は既に水面下で整えてあったから、私が寝てる間に進めていてくれたらしい。これでお小遣いが増えるはず!!


 これで鍛冶の腕が鈍らなくて済むとコロも喜んでいた。


 そして二つ目は……。

 遂に王都で謀叛が起こったのだそうだ。

 周辺の国々を次々に従わせ、逆らえば滅ぼしていたロークラの王だが、それに異を唱えていた王子が立ち上がり、遂に勇者の力も借りて王の首を取ったらしい。

 そして今は国の中を平定する一方、新たな王が先頭に立ち新たな国として、王女や勇者と共に周辺国に救援を送って復興を手伝っているのだとか?


 正直シナリオが出来すぎているというのが私達全員の考えだ。

 アリシア、エレオノ、コロ、ミルリル等の純粋な組は考え過ぎだと言っていたが、どうにも王都は信用出来ないというのが私の考えだった。


 再出発。


 そんな名目で進められた今回の復興支援。

 当初起こると予想されていた連合軍の反発も、戦争時に起こった王都外周部に住む国民を襲った悲劇。

 一部の連合軍の暴走によって引き起こされた凄惨な虐殺を、王女が涙しながらそれでもお互いを赦すべきだと主張した事で、痛み分けという形で納得したって話だけど……。


 話を聞けば美談だが、それは本当に連合軍の仕業なのだろうか?


 この辺の事は千景に聞けばわかるのだろうが、生憎とその張本人は未だ深い眠りについている。

 テア曰く呪いのダメージが大き過ぎたらしい。

 これは私達ではどうしようも無く、時間に任せるしか無いそうだ。とはいえ、命には別状無いとの診断だった事は喜ばしい。


 考えればキリが無いが、考え過ぎても意味が無い。そんな訳で要警戒という話で決着が着いた。


 そして三つ目。

 アベル達がBランクにまで到達したらしい。

 この短期間でここまで実力を伸ばしたアベル達は、ギルド内でもホープとして扱われているのだとか。


 とりあえず今度ボコっておこう。調子に乗らせない為にね!


 見舞いに来てくれたエグゼリアはこれで仕事が割り振れると喜んでいた。

 ついでにBランクに上がる際の試験官は、ベルゼブブの一件でサラッとBランクに上がっていたダグラスだったらしい。

 当初は物凄く嫌がっていたが、終わってみればその実力の違い、クエストに対する姿勢がまるで違ったと高評価だったそうだ。


 苦労しましたから。うんうん。


 そして四つ目は私が連れて帰ってきたアズサちゃんと弟のウルズ君の事だ。

 二人は当初の予定通り私が出資している教会に預ける事になった。

 私はぶっ倒れていた為に細かな事はエルザにやって貰ったが、今では教会の孤児達と仲良くなっているそうだ。


 うんうん。子供なんて馬鹿みたいに無邪気に笑っていれば良いのだよ。


 まあ、そんな風に幾つかの出来事があった一ヶ月だったが、当の私といえば──。


「完! 全! 復活!」


「復活そうそうやかましい!」


「ギャース」


 一ヶ月程前、同級生にしてクラスメイトの巫 千景に掛けられていた呪いを喰って、もとい解呪してからずっと高熱に冒されていた私は、今ここに完全復活を果たした。


 まあ、ぶっちゃけ熱自体は一週間前位に下がってたけど。いやー、とはいえ、まさか初の解呪で三週間も寝込むとは思わなかったよ。

 しかもステータスは未だに治りきっていないというね。


 まっ、そんな訳で完全復活と言いながらステータス下がってるのはご愛嬌。


 そうはいっても、目覚めてからのこの一週間観察した感じでは、あと数日もあれば恐らく元のステータスまで戻るだろう。


 一つ問題があるとすれば、スキルを使った今回の副作用。これが毎回同じだけ来るものなのかどうかだ。


 もしも今回の物と全く同じだけの代償を支払わないといけないのなら、そうそう軽々しく使える能力ではない。

 そしてこれが【禍魂】という強力な呪いを解呪したからなら、今度はどんなレベルの呪いを解呪すると、どれ程の副作用なのかを把握しないと危ない。

 だがこれもこれで、どれ程の期間行動不能になるのか分からないからなかなかに難しい。


 マジで私の事を殺しに掛かって来てないかこのスキル共?


「まあまあミオ。ご主人様も今まで退屈していたんですから」


「そうですよみーちゃん」


「お前らがそうやって甘やかすからダメなんだろ」


「Hey。私への教育理論を私抜きで話すのは止めてもらおうか。と、言うかなんなの? 親なの?」


 ツッコミを入れても誰も聞いてくれない。

 いいもん。別に寂しくないもん。


 高熱にうなされた三週間に関しては、正直本当になにも覚えていない。

 なんか変な夢を見ていたような気もするし、盛大に小っ恥ずかしいミスを犯していた気もするが、思い出せないからしょうが無い。

 テアや心達が妙にホクホクしていた気がするが、思い出せないんだからしょうが無い。頭を撫でるなガルルるる。


 熱が下がってからの一週間は、なんとHP、MP、気力以外のステータスが平均百まで落ちていた為、監禁──もとい大事をとって絶対安静状態だった。


 まあ、そんなものを守る気もサラサラなかったのだが、流石というかなんというか、澪に出された課題に没頭するあまり気が付いたら一週間経っていた。


 うむ。摩訶不思議。


「そういえば、お前に渡してた物は完成したのか?」


「んー。後ちょっとな気がするんだけど……」


「どうした?」


「なんか足らん」


「そうなのか? まあ、出来たら儲けものくらいの物だ。あまり根を詰めるなよ」


「了解了解」


「そういえば目が覚めてからはずっと何かしてましたね? 何をやってたんですか?」


「んー? 澪にこの世界の生活水準をもう少し上げられないかって聞かれたから色々考えてた」


「えっ!? なんか凄く簡単に言ってるけどそれって滅茶苦茶大変じゃない?」


「エレオノの言う通りですよご主人様。どうするつもりだったんですか?」


「……貴女、領民全員精神改造しようとしてたとか言わないわよね?」


「アイギスよ。君は人の事をなんだと思っているのだね?」


「あ、あははは」


「流石おねちゃん」


 いや、コロもあはははではなくてツッコんでくれません!? 

 そしてアクアさんもそこで流石とか言われたら、私が本当にそんな面倒な事を企んでいたようじゃないか!?


「全く、失礼な奴め。それは面倒だし処理も難しいから最初の段階で諦めたよ!」


「……考えはしたのじゃな」


 皆か何故かドン引きしている。


 何故だ? 実行してないんだから良いじゃないか。


「君らしいな。それで? 形になってはいなくても方法は考えたんだろ? どうするつもりだったんだ?」


 心の言葉に全員が私の方を向き答えを待つ。


 そんな事よりも私らしいという言葉を追及したいがどうせ却下されるんだろうなぁ。


「……えっと。この国の全員が魔法使えるようにしてみようかなって」


「もっと実現不可能な事考えてた!?」


 そんなアイギスの叫びに同情の視線が集まっていた。


 解せぬ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る