第407話あぁ……終われる
………………。
ユラユラと揺れる意識と身体。
何も見えない何も聞こえない。
だがそんな感覚が少しづつ無くなって、遂には今まで感じた事の無い何かが身体全体を覆った。
そしてそれを感じた瞬間──。
▼▼▼▼▼▼▼▼
ユラユラとユラユラと揺れる意識と身体。
目を開けるとそこに何かがある。
それはこちらを見て何かをしている。
──はそれを何かの中から見つめている。
それが消えると同時に、──を包んでいた物が無くなった。
すると、──の身体に何かが覆い被さったかのように包み込み、身体が動かなくなった。
そして──は目を閉じた。
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ユラユラとユラユラと揺れる意識と身体。
目を開けると何かが音を出している。
わたしへと襲い掛かるようにガンガンと音を出している。その度にわたしの身体はユラユラと揺れる。
しかし、それが音を出さなくなると何かを始め、わたしを包んでいた物が次第に少なくなっていく。
「……これもまた失敗ね」
それがわたしが聞いた最初で最後の──。
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液体の中、ユラユラと揺れる意識と身体。
目を開けると人間が居る。
それは満足そうに私を見つめている。
私もそれを見つめるとその人間は顔を歪めて嗤っていた。
何かの中に容れられた私はユラユラとそれを見る。
それは満足そうに離れると何かを操作して液体を抜く。
苦しい。
液体が抜ける度に身体に襲い掛かる重さが辛い。
目を開けるて上を見るとそれと目が合った。
嗤う。
嗤う嗤う。
それが透明な何かを開け、私へと手を伸ばす。
「遂に形になった。さあ、次こそは──」
それが初めて聞いた人間の言葉。そして最後に聞いたのは何かが潰れるような──。
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身体を切り裂かれる。
…………。
身体を潰される。
………………。
腕に何かを刺される。
苦しい苦しい苦しい。
頭に何かが直接注ぎ込まれる。
痛い痛い痛い。
繰り返し繰り返し。
耐える耐える耐える。
その度に私が絶えて行く。
その度に私が消えて行く。
その度に私が──。
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「あっ……ぐっ……が……」
憎しみの籠った目で睨みながら、その細く長い両手の五指が私の首をギリギリと絞めていく。
「クソ! クソ! クソ! なんで……なんでアレが壊れてお前が!!」
私の首に五指を埋めるその人、私の母親はあらん限りの力を込めて更に首を締め上げる。
「はっ……ふっ……あ…………」
「やっと、やっと
朦朧とする意識の中、紡がれる怨嗟の声が私を死へと誘っていく。
あぁ……終われる。これで私もわたしと同じ所に……。
そう思った。
そう願った。
そして私の意識は闇に沈んだ。
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目が覚めた。
寝ていたベッドから上半身を起こす。
身体が痛い。頭がふらつく。
熱が身体にまとわりつき、ここに居るのにここに居ないような。
身体が重くて動けないのにどこかフワフワとしている。
久しぶりに嫌な事を思い出した。
姉が死にそれに耐えられなかった私は自らの死を願った。
そしてそれを叶えるようにあの人が現れた。
増悪を瞳に宿し、殺意を滲ませて。
実際に私は首を絞められ殺されそうになった。
死を願い、死を受けいれた私は、だが死ぬ事は無かった。
それは皆が私を助けてくれたからだ。
心臓も止まり、それでも諦めずに私を助けてくれた。そのお陰で私は生き残った。
だが、その時の私はそれを受け入れられなかった。
だから姉の葬式の最中、今度は自分で……そう考えて今度は澪と瑠璃の二人に助けられた。
そして最後に師匠に生きる理由を貰った。
あぁ、本当に私は助けられてばかりだ……。
役に立たない。親からも捨てられ殺されかけた望まれない
何故か分からないが涙が溢れる。
胸の中に黒いモヤが立ち込める。
「大丈夫。白亜、それは思い出さなくていい事です」
「テア……お姉ちゃん……」
「ゆっくり眠りなさい。そうすればそれはまた沈んでいきます」
いつの間にか現れたテアに頭を抱かれ、その優しい声音に私の意識は再び離れていく。
暖かい。
さきまであったモヤモヤはいつの間にか消えていた──。
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「ハクアは?」
「今また眠りました」
ハクアの眠る部屋へとやって来た心達は、ハクアに毛布を掛け直しているテアへと容態を聞いた。
その問へ、心達へと一時も視線を向けずに答えたテアは、ハクアの手を確りと握りながら頭を優しく撫でている。
「ハクちゃん。また
「ええ、どうやらあの子が死んだ時の事を思い出していたようです」
「そう……」
その様子を見た聡子が質問し、テアの答えた質問の答えに咲葉が短く、殺気を滲ませながら返事をした。
「やはりあの女だけは始末するべきだったか」
「滅多な事を言うものではありませんよ心」
「あはは、こればっかりは私も心さんの意見に同意かな。ハクちゃんをここまで苦しめてのうのうと生きてるんだから……」
「わかっているでしょう。私達神がそんな事をする訳にはいかないと言う事は……」
「そうね。それは決まっているわ。でも……」
「それに……もしそうなったら貴女達に渡す気はありませんよ」
肌に突き刺さるような殺気を滲ませながら、凍えるような声でそう言い放つテア。
「んっ……」
しかし、ハクアがそれに反応するように身動ぎするとその殺気はフッと消え去った。
「いけませんね。この程度で感情を乱すとは……」
本当にこの子と居ると自分の知らない感情が芽生える。そう言いながらテアはまた、ハクアの頭を優しく撫で続けるのだった。
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