第406話お熱出すと結構です辛いのですよ
「それは……お前がさっきからやってる方法か?」
私の言葉に反応した澪の言葉に頷くと、澪と瑠璃は何やら微妙な顔になる。
それを不審に思ったのかヒストリアがどうしたのかと聞くと、二人は顔を見合わせて口を開く。
「ハーちゃんがあの姉弟にまとわりついていた瘴気を、どうやってか取り除いたのは分かるんですが……」
「お前……それは全く影響が無い訳じゃないだろ? 呪いも含めてそんな物をなんの制約も無く排除出来るとは思えない。ましてやこいつの呪いは普通では解呪出来ない筈の【禍魂】なんだからな」
「うーむ。バレたか」
「バレたかってハーちゃん……」
「まあまあ、結論から言うと制約はあるよ。でもそれは命に関わる程じゃない」
「そうなのか?」
「うん。その証拠にっと……」
そう言って私は自分のステータスを全員に見せる。
すると──。
「これは、ステータスが下がってる?」
「そう。瘴気を消したのもこれから呪いを解呪……と言うか喰うのも【暴喰】の能力の一つなんだわ。んで、人にまとわりついてる瘴気を消すくらいなら、少しの間ステータス下がるくらいで済む」
「じゃあ、呪いを消すのはどうなんですか?」
「どの程度になるかは私も分からん。分からんが暫くの間、ステータスの減少と後は……」
「「「後は?」」」
「具合が悪くなる」
「……命に関わる呪いを消して、それだけで済むと言うべきなんですかね。判断に困ります」
それは私もそう思う。
「しかし、ステータス減少に体調不良とかダイレクトに戦闘力削りに来てる感じだな」
「そうなんだよね。しかもこれ私のスキル由来の体調不良だから【全異常状態無効】とかも効果無いし、その他のスキル、回復魔法、薬なんかも全く寄せ付けない。実際どのレベルでどの位の期間動けなくなるのかも分からないと言うね」
「下手に使いまくればサックリ死ねるな」
「うむ。強い敵が出て来るのもそうだが、最近手に入れたスキルが私の命を狙ってくるんだよ」
身体強化系は強化が強すぎて身体壊しに来るし、思考制御は性能超過で脳をパンクしに来るし、【暴喰】はダイレクトに戦闘力削りに来るしで。
「まあなんだ。ドンマイ」
「それは傷付くんだって……」
「でも、確かに使いにくくはありますが、それだけで済むと言えば済むんですよね。その間私達がハーちゃんを守れば良いだけです」
まあそうなんだけど、お熱出すと結構です辛いのですよ?
「その他の利点としては、呪いを解いても術者に分からないって事かな。呪いを掛けた相手が、死んだかどうか、呪いが発動してるのかが分かるってものも中にはあるしね」
「なるほど、確かにそれは大きいな。せっかく助けても命を狙われたら意味が薄まるからな」
「そういう事。んじゃそろそろやるよ」
千景の胸に手を置いて【暴喰】を発動する。
すると千景の身体の奥深くに巣食うように漂っていた力が、私の右手に吸い込まれるように集まって行く。
「くっ」
昏く澱んだ泥のようなヘドロのような、憎悪と怒りを煮込んで煮詰めたような、そんな物が千景の身体から、触れさせた右手を通って蠢くように這い上がってくる感覚に顔を顰める。
思った以上にキツい。
飛びそうになる意識を必死に保ち、いつ終わるとも知れない行為を続ける。
その間も千景の身体から這い上がってきた力は私の全身を駆け巡るように蠢き暴れる。
まだ……か。
今まで感じた事の無い感覚になんとか耐え続ける。
しかしその終わりは呆気なくやって来た。
今まで千景の身体から這い上がって来ていた物が無くなった。そう感じた瞬間、私の中を好き勝手暴れ回っていた物が、何か巨大なナニカに喰われたかのように一瞬で消え去ったのだ。
だがその代償もまた大きかった。
暴れ回っていた物が無くなった。そう感じた瞬間、私の体力も同時に一瞬で持っていかれた。
身体から力が抜け、力を入れる事も出来ない程だ。
力入んねぇ。身体中汗だくで気持ち悪い。
「おい、大丈夫か」
「まあ、なん……とか。呪いは無くなった……筈だよ」
「はい。ちゃんと解呪出来てます」
途切れ途切れになりながらもなんとか伝えると、千景の事を見た瑠璃が呪いの有無を確認してくれた。
初めてだったから完全に信用はしてなかったけど、どうやら上手くいったみたいだな。
しかし……このレベルの呪いを掛けた相手か……厄介な事にならなければ良いけど。
その後、指一本動かす事すら億劫になった私は澪に背負われながら、千景を連れて宿へと戻る。
そして、両親の居なくなったアズサちゃんと弟くんを説得し、フープの孤児院で受け入れる事に決め、今日一日宿に泊まったらフープへと急いで帰る事が決まった。
因みに私はアズサちゃん達を説得し終わった段階でぶっ倒れました。
その状態を見て、速攻で帰る事が決まったらしい。
ああ、これ絶対明日からもっとしんどい奴だ。
倒れた私はそれだけをボンヤリ考えていた。
▼▼▼▼▼
「あら?」
「どうしたんだ?」
部屋の中、地図を挟んで向かい合うように座っていたアルフィーナとローレンス。
他国の反応からこれからの詳細な動きを詰めていた二人は、アルフィーナが何かに気が付いたように動きを止めた事で中断された。
「ふふ、いえ、前に逃げたした召喚者。彼女には確実に死んで貰おうと呪いを掛けていたんですが、どうやらちゃんと死んだようです」
「ほう、その手の呪い……と言うと【禍魂】か?」
「ええ、禁術指定されているとはいえ、私なら反動なく使えますし、確実に殺すならあれが一番ですからね。一度掛かれば死ぬまでの間、目覚める事もありませんもの」
「確かにな、一度あれに掛かった人間を見たが酷いものだった。魂が侵食されると身体も端から黒ずみ、生きながらに崩れ落ちていく。正直、ああはなりたくないと思ったものだ」
「ふふ、そうですわね。まあ、私としてはそれを眺めるのも趣があるとは思いますが」
アルフィーナは愉しそうに嗤うと部屋の窓を開け夜風を入れる。
その夜の空気に肌を晒し、気持ち良さそうに晴れ晴れとした顔をすると、クルリとローレンスへ振り返り今日はここまでにしましょうと打ち切った。
「いきなりだな」
これには義妹の異常さに慣れているローレンスも流石に驚いた。
だが、アルフィーナはそんな事など意に介さず、愉しそうに踊り出しそうな雰囲気を滲ませる。
「ええ、だってあれが死んでしまったんですもの。ああ、可哀想な勇者様。幼い頃から一緒に居た女に裏切られ、更生させようと頑張っていらしたのに、その女は死んでしまった。そんな勇也様はこの事実を知ってしまえば、今また失意の底に落ちてしまわれるでしょう。でも、大丈夫です。私が居ます。私がずっとずっとずっと傍に居ますわ。私は貴方の物、貴方は私の物。ああ、なんて素敵。貴方の悲しみにくれる顔を、絶望に染まる顔をこれからも私に見せてくださいませ。その為なら如何なる生命さえ何十、何百、何千、何万でも捧げてあげますわ」
「はぁ、今日は出直すとしよう……」
自分がここに居る事など忘れたように、未だ狂いながら嗤い踊る義妹を残し部屋を後にするローレンスは、あの狂った義妹に見初められた異界の勇者に少なからず同情を覚えるのだった。
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