第358話手記1 柊 勇也
今日、いきなり渡されたコレに何を書けばいいのか分からないけど……。
とりあえず思い付いた事を全部書きたいと思う。
「書けば気持ちの整理が出来る」彼女はそう言ったけど、正直そんな風には思えない。
やっぱりこうして何を書いても俺達が犯した罪が重くのしかかる。
今日はここまでにしよう。
×日目
あれから数日経って少しだけ気持ちの整理が出来た気がする。
これも多分俺達皆のケアを熱心に行ってくれている彼女のお陰だと思う。
幼なじみで同じくこの世界に飛ばされて来た千景も、彼女のお陰で大分顔色が良くなってきた。
ここに来てから毎日のように俺達皆の事を励ましに来てくれる彼女のお陰で、こうしてまた書く気が起きてきた。
それだけでも大分マシになっているのではと思えるようになった。
×日目
今日はまず自分の事から書こうと思う。
これは彼女に「召喚者は長い間こちらに居ると、自分の元居た世界の立場を忘れてしまう事がある」と、言われたからだ。
その対処の一つとしてこうして日記のような物を書き、そこに元の世界の情報を残すと良いと教わった。
いつも俺達の為を想って接してくれている彼女が「これくらいしか言えない」と、暗い顔をしていたのが何故だか無性にモヤモ──(乱雑に書き潰されている)
そう俺の事、俺の事だ。
俺の名前は柊 勇也。聖嶺高校二年四組に通っていた高校生だった。
そう、、、だった……だ。
事の始まりは突然起こったアレだ。
放課後いつものように教室で少し話して帰ろうと過ごしていた俺達を襲った光。
足元で光ったそれはきっと上から見たら、アニメや漫画などでよく見掛ける魔法陣だったんだと思う。
気が付いたら俺達は他のクラスの奴、部活動に参加していた人間、俺の通う学校の近くに居た人間も含め多数の人達が見知らぬ場所に居た。
そこから先はそれこそアニメや漫画と同じ展開だった。
ただ一つオリジナルの展開があったとすれば
(何度も書き直した後が続く)
俺達全員がたった一人を見捨てた事だ。
俺を含め今でも皆の心にはあの出来事が重くのしかかっている。
きっとこれから先も。
×日目
召喚されてからそれなりに時が経ち、俺や千景を含めた一部の人間は積極的に訓練に参加するようになっていた。
それは考えたくない事からの逃避だったのかも知れないが、やはり身体を動かしている間は余計な事を考えずに済む分気持ちが楽だった。
×日目
今日は彼女から嬉しい話を聞いた。
なんと俺達が追い出したと思っていた彼は、監視する人間こそ居るものの、今はこことは違う街でちゃんと元気に暮らしているのだそうだ。
何故すぐに教えてくれなかったのかと、一緒に聞いていた奴らが詰め寄ってしまったが、それも彼の安全を確保してからだった事、俺達全員の気持ちが落ち着くのを待っていたと言われてしまえば確かにその通りだった。
今日は久しぶりによく眠れそうだ。
×日目
彼女に話を聞いてからやはり皆の顔が違うと、千景と話をした。
千景も俺と同じでこの世界に来てから初めてちゃんとゆっくり寝れたと話していた。
その時千景から召喚された内の数人がこの城から逃げだしたらしいと聞いた。
これだけ世話になっているにも拘わらず逃げ出すだなんて。
×日目
今日は、今日はめちゃくちゃ恥ずかしかった。
なんで俺は気が付かなかったんだろう!
(自己嫌悪の言葉が延々と続く)
でもまさか彼女が姫様だったなんて全く気が付かなかった。
しかも、俺以外の全員が気が付いていたなんて。
なんで言ってくれなかったんだと皆に言ったが、知らないと思わなかったと言われて何も言えなかった。
彼女、姫のアルフィーナ様も「いつ気がつくのかと楽しくなってしまって」なんて、あんな笑顔で言われたら何も言える筈が無い。
今日はもう早く寝てしまおう。
×日目
更に数日が経ち、訓練をする人間は全員とは言わないが増えてきた。
中には戦う事は出来ないがほかの事で役に立とうと、色々な事に挑戦する人間も増えてきた。
その中で俺はなんと、本物の勇者なのだそうだ。
勇者召喚で呼び出された者はもれなく称号に【異界の勇者】スキルに【勇者】というものが付く。
しかし、クラスに関しては呼び出された勇者の中で一人しか、勇者のクラスになれないらしい。
そしてその一人が俺なのだそうだ。
正直、本当に正直に言えばなんで俺なんだろうと思う。
だけどそれが本当なのだとしたら魔王を倒せる一番の戦力が俺という事に当然なる。
だから俺は皆の為にそして俺を支えてくれるアルフィーナの為に頑張ろうと思う。
×日目
何度目かのダンジョン探索。
そんな中で今日初めての犠牲者が出てしまった。
きっと慣れがあったんだろう。
隊列を崩してモンスターを追い掛け、ダンジョンの罠に掛かってそのまま。
必死に治療を施したけど結局間に合わなかった。
これからは戦力を減らさないように注意しないと。
×日目
千景がおかしな事を言い始めた。
俺がおかしくなったとか、皆もおかしいとかいきなり言い始めた。
更にはあの皆に優しいアルフィーナの事まで悪く言うだなんて、普段の冷静な千景とはとてもではないけど思えない。
きっと昨日潜ったダンジョンで、トラップに掛かり呪いを受けた事が原因だと思う。
呪いの解呪が出来るスキルを持っている子に解呪して貰ったが、きっとまだその影響が強く出ているんだろう。
最近は魔族が活発に動き、それに合わせて他国も何かを企んでいるらしく、忙しいアルフィーナに中々会えないが会えた時には相談してみようと思う。
きっとアルフィーナなら何とかしてくれる筈。
あの優しくて、他人の事を思いやれる千景に戻してくれるだろう。
×日目
あの時以来千景とはあまり話せていないが、次の日すぐに「ちょっと呪いのせいで疲れて変になっていたみたい」と、俺に謝って来た。
千景も分かってくれたようで俺も安心した。
その日の夜、アルフィーナがオレの部屋に尋ねてきたので、ついでにその事を話したがアルフィーナも「呪いの種類によってはたまにある事です」と言っていた。
それはとても怖い事だが、アルフィーナが「千景が無事で良かった」と、瞳を潤ませてとても喜んでくれたのが何よりも嬉しかった。
×日目
今日、アルフィーナから千景が俺達を裏切ったと聞いた。
俺は千景がそんな事をするはずが無い。とアルフィーナに言ったが、千景が逃走の際にアルフィーナの腕を傷付けたと聞いて、その傷を見た時、自分でも驚く程に千景へと怒りが湧いた。
そして何よりもアルフィーナが千景に裏切られ涙を流していた事に対しても。
どうしちまったんだよ千景。
でも、アルフィーナを傷付け、俺達を裏切った千景を俺は勇者として許す事は出来ない。
×日目
ダンジョンに潜る日々は続く。
大分強くなったがこれでもまだ魔王の強さには全く届かないらしい。
それでも俺はアルフィーナの為にもっと強くなる。そうアルフィーナに誓った時、アルフィーナは腕の中で嬉しそうに、恥ずかしそうに笑った。
絶対にこの笑顔を守ろう。
×日目
一丸となって魔族と戦う。
そうすればきっと何とかなる筈なのに。
魔族に恐れを成した小国は人類を護ろうと先頭に立っているロークラに反逆を企てているらしい。
これから俺が参加するのは魔族でもモンスターでもない、人と人との戦争。
でも、この世界を平和にする為。
アルフィーナの為にも俺は戦う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます