第68話おべんきょうパート1してくるから

 翌朝、朝食の匂いに誘われて目が覚めた私はそのままキッチンに向かう。


「あっ、ご主人様おはようございます」

「うん、おはよう」

「おはようかなハクア」

「良い匂い」

「はい、もう出来るので少し待ってて下さい」


 そう言われ、朝ごはんを作る二人の後ろ姿を眺める。


 しあわせだな~。可愛い女の子の手料理を朝から食べれるとか私勝ち組だよね!


 〈マスターまだ寝惚けていますね〉


 断定された!? そこは普通寝惚けてるんですか? とかじゃないの!?


「おはよー」

「おはゴブ~……グー」

「おはよエレオノ、アクア。そしてアクアは危ないから立ったまま寝るのは止めよう」

「あっ、皆起きてきたかな? ご飯出来たよ」

「はいどうぞ、ご主人様」


 そして、私達は出来上がった朝食を食べながら今日の予定について話を始めた。


「じゃあ今日は昨日言った通り自由行動って事で」

「ゴブ」

「ハクアはどうするの?」

「その事何だけどコロ、図書館の場所教えてくんない? おべんきょうパート1してくるから」

「図書館かな? えっと、場所はギルドの裏手を──って感じかな? 分かった?」

「OKありがと」

「ご主人様、私も付いて行って良いですか?」

「別に良いよ。でも、そんなに面白くはないと思うよ?」

「はい、大丈夫です」

「あっ、ハクア私も──」


 と、アリシアと話しているとエレオノが手を挙げて言ってくるが、ジー! と、擬音が聞こえて来そうな程アリシアがエレオノを無言で見つめる。 


(ハッ! このまま付いて行ったら殺られる)


「どうしたの?」

「あ~、えっと、私も……欲しい物有るから買ってきて欲しいな?」


 まさかの、パシッて来い発言!?


「忙しいの?」

「うん、忙しい」

「まぁ良いじゃないですか、私も一緒に行きますから」

「まぁ、良いか。良いのか?」


(エレオノ。今のは危なかったかな)

(うん、油断した)


「どうかした?」

「「なんでもないです!!」」

「そ、そう」


 そして食事を終えた私とアリシアは図書館に向かう。


「ご主人様何を調べるのですか?」

「とりあえずは決めてないよ? 気になった物から読んでいく」

「じゃあ、私が読んであげますね」

「何で?」


 〈マスターは字が読めないからでしょう?〉


「ああ、字なら覚えたよ?」

「えっ?」


 〈私は教えていませんよね?〉


「まぁでも、人里に来てから結構経つからね? 文字を見ながら皆の喋ってる言葉の組み合わせを考えれば大体大丈夫だよ。まぁ分からない所は教えて?」


 〈分かりました〉


(……ヘルさん、ご主人様ってやっぱり……)


 〈ええ、本当に天才ですね。これはもう覚えるなんてレベルではなく、解読と言った方が良いでしょう〉


(ですよね)


「どうしたのアリシア?」

「何でもありません。行きましょうご主人様」


 二人で暫く歩くと図書館に辿り着く。


「ここかな?」


 〈はい、合っています〉


 ヘルさんの同意を得て私達は中に入って行く。


「いらっしゃいませ。当館のご利用は初めてですか?」

「あっ、はい」

「では、ご説明します。当館は貴重な書籍を保管、管理しています。そして、その書籍を一般に開放し閲覧が可能です。

 なお、貸し出しなどはしておりませんが書き写したい場合は銀貨一枚で紙十枚と羽根ペンを販売します。当館をご利用して頂くには保証金として一人銀貨五枚を預り、お帰りの際にこちらの書類にサインを頂き銀貨三枚をお返し致します。

 また、退館の際に本の破損、汚れ等かある場合銀貨はお返しせず度合いに因っては追加で料金を戴きます。

 支払いを拒否した場合はギルド等に手配書が出回るので理解の上でお願いします」


 うわっ、規則ガチガチ! でもそれだけ本が貴重なのか。


 〈はい、本自体もですがこの世界では紙も貴重です〉


 へ~、そうなんだ。その割には全然良い紙じゃないね。麻の紙で確か中国の放馬灘紙だったか? あっちは羊皮紙だし、木簡やパピルスまである。あ~。逆か? このレベルの紙しかないから貴重なのか。


「──以上が当館のご利用規則となります。よろしいですか?」

「はい」

「では、お二人で銀貨十枚です」


 私達は二人分のお金を払い入館する。

 中に入ると紙独特の匂いや木の匂いもする。建物の大きさはそれほど大きくなく小さい本屋さんという感じだろうか。それに本も私の知っているものではないので、大きさも何もかもバラバラで乱雑に置いてあるイメージだ。


 へ~、なんか古本屋って感じだな。思ったよりも本もある。いや、木簡ならあの山一角で一冊か……ここまで乱雑でもあれだけ金を取るんだからやっぱり貴重なんだろうな。


「ご主人様。私はあそこの魔法関連の書物を見てきますね」

「了解」


 ふむふむ。魔法関連はちゃんと本の形してるな、大きさは新聞紙並だけど……さて、私はっと。とりあえず歴史と地理だな。


 〈それなら、三番目の棚に多く有りますよ〉


 あっ、ありがと。えっと、これとこれ、後はこれかな?


 私は目的の数冊の本と紙の束を抱え席に着く。


「ご主人様何をお読みになるんですか?」

「とりあえず、地理と歴史、後はアースガルドに居る種族についての本だよ。アリシアは?」

「私は、魔法の教本と錬金術についてですね」

「何故?」

「ご主人様と出逢うまで魔法もあまり使わなかったので、これを期に基礎から調べようと思います。錬金術はコロのお陰で武器は良いものがあるので、付与等が出来ればもっとお役に立てるかと……」


 そんな事を言ってくるので頭を撫でる。


 ウチの子は可愛いな!


「頑張ります」


 さて、それじゃあ私も読み始めるか?


 〈分かる部分は注釈します〉


 うん、よろしく! とりあえず地理からだな。私自分がどの辺りに居るかも知らないし。コレがアースガルドか。


 〈ご覧の通りアースガルドは全てが地続きの大陸になっています。フリスク地方が人間の一番多い所ですが、それぞれの地方に他の種族の国も有ります。現在フリスク地方にもエルフ、ドワーフ、獣人を初めとした幾つかの種族が住んで居ますがやはり人間が一番多いですね〉


 確かに、簡単に言えばドーナツみたいな形だね? まぁ丸くはないけど、でもこの真ん中のこの黒いくてデカイ部分は?


『シルフィン:それが魔族領ですよ。魔族領を中心に結界が囲み、更にその周囲には広大な魔の森と呼ばれる森林地帯が広がります』


 ほう。じゃあ魔族は真ん中の黒い所から全方位に攻撃出来るんだ?


 〈いえ、それは違います。魔族領と人が暮らす場所はゲートと呼ばれる門がありそこから出入りをします〉


『シルフィン:かつて勇者が自らの命と引き換えに、魔族と人間を隔てる広域結界を張ったんですよ』


 じゃあ魔族はそのゲートからこっちに来るの?


『シルフィン:そうとも限らないです。力の弱い個体なら通り抜ける事も可能で、たまに綻びが生じて穴が空く場合もあります。その空いた穴が塞がる迄にこちら側には居ない強力なモンスターが出る事もあります。中には自分でゲートを作る事が出来る者も確認されています。後は、たまに現れる裂け目からやって来る事もあります』


 結構ザルだな!


 〈仕方がありません。こちらに女神様がいらっしゃるように彼方には邪神が居ますから〉


 ああ、そいつらが空けてると?


『シルフィン:ええ、大変遺憾ながら、ただし空けていると言うよりは力に耐え兼ね穴が空く感じですね。時間で修復しますが』


 ふーん、で、今私達が居るのはどの辺?


 〈その中央下の左寄りですね〉


 この辺? あっ、フリスク地方ってあった。でここがアリスベル。


 〈その隣の中央、魔族領に接しているのが騎士国フレイスですね。その下の国が王都ロークラ、更にその二つを挟んでアリスベルの反対にあるのが聖国カリグです。その他にもありますが、大国と呼ばれるのはその四つです。小国も王は名乗っていますがロークラに比べると力が弱く、内外共にロークラが王都と呼ばれています〉


 ふーん、まぁ聖国には近寄らないから、王都とアリスベルには行ってみたいな。後は、その周りの小国かな?


『シルフィン:嘆かわしい事に小国同士は、小競合いも多いので気を付けなさい』


 了解。


 〈次は、種族についての本ですか?〉


 そうだよ。どんな人間が居るのか分かってた方が、いろいろと都合も良いしね。


『シルフィン:聞けば教えたのに』


 いや、勿論聞くよ? 二人の方が正確だし。問題は人間から見た他の種族の見え方と、二人の意見かな? 後挿し絵があれば良いなと思って。


 〈なるほど、では軽く説明をこの世界には多数の種族がいます。

 一種目は勿論人間です。彼らのステータスは全種族の中で平均ですね。

 二種目はエルフです。魔法に優れ長寿でもあります。ですが、排他的な者達が多く他種族との付き合いは比較的少ないです。もちろん数もいますから当てはまらない者達もいますが、特に王族のハイエルフは人間では滅多に会えません。

 三種目はドワーフですね。体力があり力が強いのが特徴です。彼等は手先が器用な者が多く、鍛冶や彫金が得意な傾向にありお酒好きな陽気な者から職人気質な者までいます。

 四種目が獣人種です。彼等の種族は多岐に渡り猫、犬、虎、兎、鳥、魚等の様々な種族を総じて獣人と呼びます。体力が高く身体能力が高いのが特徴です。また、男は獣の特徴が強く出ている者が多くいます。獣人は【獣化】という、固有スキルを持っている者も多いので気を付けてください。

 五種目は妖精種です。この種族は体力が少なく数も少ないですが魔法に長け特殊な魔法も使えます。今のアクアなら珍しがられるでしょうが妖精種だと言えば羽根を出して飛んでも大丈夫でしょう。

 六種目は竜人種です。マスターに分かりやすく言うとリザードマン等がそうですね。彼等はドラゴンの血を引く者達でその血に誇りを持っています。

 七種目は小人族です。人種よりも劣りますが他の種族の中で一番付与等を得意としています。人種よりも若干魔法寄りの適性ですね。魔力の扱いも得意で魔道具は彼等が作る事が多いです。

 八種目は巨人族です。彼等は知能が低く魔法が苦手ですが、高い攻撃力と体力が特徴です。彼等もあまり他種族とは関わりません。

 九種目が精霊種です。彼等は目に見えない微精霊から強力な力を持つ者までいます。永く生きた精霊は強力な力を持っていて、たまに人に力を与えたりもしますが、自然を壊したりすると怒りを買うこともあり、中には神霊に近い力を持つ者達もいます。

 十種目は機人種です。彼等は機械でありながら人と同じように感情と魂を持ち、最終ロットの方ではそこに魔法を加える事で限り無く人に近い体を持つ者もいます。魂の失われた機人はたまにオークション等にも出品されます。

 十一種目は鬼種です。彼等は高い戦闘力と戦闘センスがある種族で、非常に好戦的で中には特殊な技を使う個体もいます。

 十二種目は天族です。この種族はマスターに分かり易く言うと、天使ですね。詳細はありませんが強大な力を持つ個体が多いです。

 十三種目は魔族です。これらには説明は不要ですね。ほとんどの種族を敵としています。

 十四種目は魔種族です。彼等は魔族との混血で特に種族の括りは無く、高い戦闘力がありますがほとんどの者が見つかっただけで倒されてしまいます。──が、彼等自体が人間に敵意を持っているわけではありません。中には迫害され敵意を持っている者も当然いますが。魔族の血を引くというだけで差別され、攻撃の対象になっている事が多いです。そして魔族からも劣等種として奴隷にされている事も多く、特徴としては魔族と同じような部分が一部在ることですね。それ以外は相手になった種族と大して変わりません。

 十五種目は神族です。これは過去にこの世界に来た神やその子孫です。彼等についても詳細は不明です。

 十六種目は竜族です。神に近い強大な力を持つ者で高い知能も有しています。竜の角を持ち人間そっくりの姿の者、ドラゴンが人化した者もいます。

 その他は亜人種と呼ばれてますが、彼等は他種族の血が入る事で、特殊な個体になった者で様々な個体がいるので説明は出来ません。或る意味魔種族以外の雑種という感じですね〉


 うわっ、長っ! 覚えきれん!


『シルフィン:彼女の説明以上は私から言える事はありませんね。それ以上は贔屓になるので教えられません。』


 まぁ良いけどね。これ以上の情報はパンクする。


 〈長くなりましたがこんなものですね。ですが、名前の付いていない個体も多いのでこれで全てという訳ではありません〉


『シルフィン:そうですね。私達女神すら把握出来ていない種族もいますからね』


 そっか、まだ長そうだな。私達の勉強はまだまだ続く! って、言えばこのイベント終わんないよね?

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