第279話ようやく私も視界に入ったみたいだね

 現在私達はアリスベルに居た。


 それと言うのも例のゴブリン討伐の話し合いをする為だ。


 当初オーブは自分の後ろにロークラが居る事を仄めかす事で自らの立場も弁えず、フープに要求を突き付けるという暴挙にまで出て来た。


 そんな折アイギスから相談された私は、十商を動かす事でオーブを交渉の席に引きずり出す事に成功する。


 まっ、主に経済的な打撃だよね。十商は十商でこの規模の討伐に乗らないなんて事無いんだから、最初から参入出来る大義名分が出来てむしろラッキー。まっ、そんな訳で私が動かしたとはいえアイツ等は勝手に利益上げるだろうから投げっぱなしでOKなのだ。


 そんな事があり会議の場は中立な立場であるアリスベルで。と、なったのだ。


「……本当に商人って凄いのね。アレだけ悩んでいたのにあっさりと呼び出せるなんて……」

「国を動かす商人というのは本当にいるんですね」


 とは、アイギスとフーリィーの言だ。


 フープ側の会議への参列者は四名、私、アイギス、澪、フーリィーだ。アリスベルからは王と王妃、騎士団長と十商の武器、魔道具部門から二人が来ている。オーブはと言えば王、騎士団長、宰相の三人が、そしてアリスベル勢の後ろ会議室の扉近くにはもう一人、老人が来ていた。


 因みにアリスベルの王は私を、オーブの王はアイギスを睨み付けていた。


 おいおいそんな顔で見るなよ。国王の任期が短くなるぞ?


 席に着いているのは各国の王族と呼び掛けをした十商の二人で後のメンバーは立ち見です。私も座りたい。


 それとついでになのだがこの会議の内容は、ヘルさんのお陰で別室に居る全員にリアルタイムで情報が行っているのだ!


 〈お任せください〉


 頼りにしてます。でもそのうちチャット機能とか付かないよね?


 はてさてそんな感じに始まった会議なのだが、何とオーブの王はこの期に及んで「ソコの勇者は我が国で召喚した勇者だ。フープには即引き渡しをして戴きたい。話はそれからであろう」なんて事を言ってきた。流石にこれにはその場の全員が呆れてしまった。さもありなん。


 ふむ。事実ではあるからアイギスも表立って反論はしにくいみたいだな。


「幾つか確認したいんだがよろしいか。オーブの王」

「何だ貴様は! 無礼だぞ!」

「済まないね。私はハクア。この会議の発起人と言えば聞く気になってくれるかな?」


 私の言葉にオーブ勢の顔が十商の二人に向く。そして何も言わない事を確認すると、私の事を凄い形相で睨み付けながら顎で続きを促す。


 ようやく私も視界に入ったみたいだね。


 それも当然だろう。今の私の言い方ならこの会議を開いたのは私という事になる。それはつまり自分達の国を一個人で経済的に追い込み、更には十商、フープ、オーブ、アリスベルの国々まで私の都合で動かしたと聞こえてもおかしくはないのだから、警戒するのが当然。

 それさえ分からななければむしろこの場には居なくても良いくらいだ。


 一応自分達の後ろにロークラが居る事を全面に押し出して事を有利に運ぼうとはしてるんだから、自分達の立場は解ってんだろうけどね。まあ、むしろこれ位理解してくれないとこの後の話が面倒だから良かったよ。


「さて、私が聞きたいのは一つ。オーブはロークラを裏切ったのかい?」


 その言葉を聞いた瞬間、オーブ勢の顔色が変わり王に至っては私を射殺さんばかりに睨み付ける。


「貴様! 言うに事欠いて我が国が王都を裏切ったのかだと! バカな事を言うな! 何を根拠に言っているんだ!」

「ああ、済まないね。お宅達が勇者を召喚したなんて言うからそうなのかと思ってね」

「なっ!?」

「だってそうだろう? 王都が二番目に勇者を大量に召喚したのは小国のフープでも知っている。それをオーブが知らない? そんな訳はありえない。それなのに勇者召喚をしたって言うのは王都への裏切りになるんじゃないのかな?」

「ふん! そんな戯れ言本当に王都が信じると思っているのか?」

「でもハクア様の仰る通りそう聞くとそのように思えますわね」


 私の言葉にアリスベルの王妃が絶妙にアシストしてくれる。


 まっ、打ち合わせ済みなんだけどね。


「だとしてもここでの会話を王都が知る筈あるまい? 何せ貴様達は王都には逆らっているのだからな」

「ああ、忘れてた。実はこの会議を開くにあたって王都にも了解を取ったんだよ。三国が集まって会議なんてしたら疑われると思ってね? それはどの国に取っても旨くないだろ? 発起人としてもこうしてわざわざ集まって戴いた皆様に不利益を与える訳にはいかないからね。そしたら王都から使者として彼が来てくれたんだよ」


 私の言葉に扉近くに居た人間は軽く会釈をする。


「お宅達は王都に反逆の意思は無くやましい事も一切無いんだ。潔白が証明出来るんだからむしろ良い事だろう?」

「そ、それはそうだが……」

「それに……何を勘違いしているのかは知らないが、ここに居る勇者はフープが王都に対する抑止力として召喚した勇者だ。お宅達の言う者とは違うよ」


 まあ、正真正銘オーブが召喚したんだけどね? フープは既に協力しないと宣言してるから、こんな事を言っても立場は今更変わらんのさ。


「そんな訳があるか!? 確かにその者は!」

「言葉には気を付けた方が良い。情況は既に変わっているんだ。あんた等は有利な条件で要求を通せると思ったんだろうが、ここから先あんた等が勇者の代わりに交渉のテーブルに上げるのは、オーブに暮らす全市民の命だからな?」


 言葉を聞いた王の顔が怒りから驚愕へ、更に恐怖へと変わっていく。


 ふふん。こっちのチップは最小限に向こうのチップは大きくしないとね?


「あんたが取る行動は二つ。どうやって知ったのか知らないがウチの勇者をそっちが召喚した事にして勇者を手に入れ、王都を敵に回すか。まあ、その場合私も打てる限るの手を打つけどな今回のように……な。そしてもう一つは勇者を召喚したなんて出任せを撤回する事で、今のまま王都の庇護を得るかだな?」


 さあ、王都からの監視役の前で好きな方を選んで良いよ? 勇者か国民の命か? あんたはどっちを選ぶのかな?


 私の見ている前でオーブの王は私の顔と使者の顔を何度も確認している。


「ぐっ、くぅ……て、撤回させて頂く」


 まっ、そうだよね?


「大方、この間の戦いで魔族に勝ったのが勇者の力だと思って、あわよくばとこんな事をしたんだろ?」


 さあさあ、助け船に乗ってくれて良いよ。


「ぐっ、あ、ああ、その……通りだ。す、済まなかった……」


 うっわ~。スッゲー悔しそうな顔で睨んでるよ♪ でもこれで終わりじゃないよ?


「じゃあ。今後同じ事があっても困るからこの契約魔術の用紙に、今後同じ一切フープの勇者の事に関して関わらない契約をして貰おうか?」

「な、何故そんなものをワシがせねばならん!」

「だって、あわよくばでウチの勇者を奪おうとしたんだ。今後同じ事が無いようにしたいだろ? それにこの契約であんた等は、勇者召喚とは何の関係も無いという証拠にもなるんだ。おかしいなそんなに声を荒らげる程悪い話じゃない筈だが? それとも……本当にあんた等は王都を裏切って勇者を召喚したのか?」


 今度こそ顔を青くして使者の顔を見たオーブの王は、私の言葉を聞いて顔を険しくさせた使者に震え上がり、しぶしぶながら契約魔術の用紙に、サインを施す。


 サインを書き終わると用紙は青い炎を灯して燃えていく。


 うん。これで完璧。


「さて、私の用事は終わったから後は国同士の話し合いをどうぞ」


 こうして私は自分のやるべき事を成し遂げて、一人満足しながら会議の内容を聞き流すのだった。


 早く終わらないかな?


 〈ちゃんと聞いてて下さいマスター〉


 すいません。

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