第386話  まさかバレるとは……

 後日、私は澪、瑠璃と共にアベルパーティーを連れ魔境の森と呼ばれる場所にやって来た。


 ここは少し前私が連れ去られたダンジョンの近くらへんにある森で、ここらでは珍しく強い魔物が出る場所として有名な場所だ。

 なんでもモンスターを発生させる淀みがある場所らしく、森そのものが一種のダンジョンのようになっている珍しい場所らしい。

 しかもこの森で生まれたモンスターは、この森そのものから生命力を与えられた守護者のような立ち位置らしく、この森以外では活動出来ない特殊な個体なのだそうだ。

 なのでここからモンスターは出て来ないが、中では切磋琢磨、と言うか弱肉強食の世界が展開されており、強力なモンスターになっているのだそうだ。


 そして現在私達は森のど真ん中へやって来ております!


 私としてもここ最近はアベル達に掛かりきりだったので、ここまでの戦闘でこの間レベルアップした分のステータスの上昇に、ようやっと身体が慣れてきた。


 そしてここまでの道程で驚きの事実が判明!


 ベルゼブブを倒したときに手に入れたノースリーブのコート【暴喰の黒衣】だが、実はこれ倒した敵を吸収させる事で成長する装備だと、この森の中で遭ったモンスター、ブレードマンティスを倒した時に判明した。

 ブレードマンティスは姿はカマキリで、文字通り手の鎌の部分が磨き上げられた剣のようになっている、軽自動車ほどの大きさのモンスターだ。

 そしてその剣の切れ味と腕は、B級の冒険者や精鋭級の兵士と互角に切り結べる程の腕らしい。

 いちいち相手してられんと、ファイアーボールを放ったら真っ二つにされた時は驚いた。


 まあ、おかげで魔法を切る技術が見れたから良しとしよう。


 そんなブレードマンティスを倒し、いつものようにスキルを使用しようとした時に事件は起こった。


 なんとシステムから、


 ▶暴喰の黒衣がブレードマンティスの魔石を要求してます。魔石を吸収させて強化しますか?


 と、確認のアナウンスが流れてきたのだ。


 そんな事を言われたらしょうがないと、ワクワクしながら吸収させた結果【斬撃耐性、小】のスキルが暴喰の黒衣に追加された。


 その結果にテンションが上がり、これは良いと更に与えようとしたら、それ以降はうんともすんとも言わなかった。

 どうやら求める素材は一種類に付き一つらしい。


 とは言え、私のように雑食な訳ではなく、どのモンスターでも良いという訳でもないらしい。


 前にコボルト倒した時は要求が無かったし、この森の他のモンスター、アームズモンキーという、二本の巨腕に申し訳程度に身体が引っ付いたようなモンスターや、ブラッドグリズリーと呼ばれる、赤い毛並みのワゴン車並の大きさのモンスターを倒しても要求は一切されなかった。


 まあ、その辺は気長に探して強化したいと思う。

 しかし、装備よりも雑食な私とは……解せぬ。い、意外とグルメなんだぞ私だって。


 そんなこんなで辿り着いた森のど真ん中で野営を開始。

 今までカイルにやらせていた事を自分達で全てやらせる。その辺のサバイバル知識も全員に一応仕込んでおいた。

 ダリアは【気配察知】を覚えさせた為、先程からモンスターの気配に気が気じゃない様子。

 その他の面々も、スキルまでは覚えていないが、ここ最近の訓練で実力が上がったからか妙にソワソワしている。


 まあ、周りのモンスターの強さが、自分達がギリギリ倒せるかどうかなのだから当たり前だ。


 因みにアベル達の夕飯は、自分達で持てる範囲で三日分の食料を用意させた。その結果選んだのは持ち運び重視でほぼ保存食系のみ。

 まあ、これは普通の事だ。

 場合にもよるが、ほとんどの冒険者は保存食を無理の無い範囲で用意して、その他は狩りや山菜、木の実などの果物を採取して食料にする事が多い。

 そんな中今回のように食料の調達、水の確保が難しい場面というのも当然ある。それを見越した訓練でもある訳だ。

 そして私達三人はと言えば──。


「ほう、なかなかだな」


「ですね。このソースも凄く美味しいです」


「うむ。いやー、苦労したぜいこの味を出すのは」


 今回遭遇したアームズモンキー、ブラッドグリズリーの肉に、持ち込んだ野菜などを含めた豪華ディナーを堪能中であります。

 羨ましそうな、恨めしそうな顔をしているアベル達だが、何も私達だけで肉を独占している訳ではない。


 私とてそこまで鬼ではないのだよ。種族は鬼だけど。


 食料の調達が難しい今回、私達が倒したモンスターを実は既に分け与えていた。

 倒したモンスターの内の何匹かはアベル達に引き渡している。ただし未解体の状態で……だ。


 とは言え、私は一度だけアームズモンキー、ブラッドグリズリーの二体をスキルを使わず解体して見せた。

 生き物を解体する場面を初めて見たのか口元に手をやっていたが、それでも構わず解体の方法を教えた。

 結果としては血抜きが不十分で肉はダメになったが、それでも一応の解体手順は覚えさせた。

 次回からはなんとか食べられるくらいの処理は出来るだろう。


 まあ、今回の失敗を糧にすれば良いよ。


「ところで……このソースどうやって作った?」


「あっ、そういえばいつの間に作ったんですか?」


「……てへっ」


「お前これ毒の調合で作っただろ?」


「何故にバレたし!?」


「えっ、そうなんですか? 道理でさっきからたまに舌がピリピリと……」


「まあ、美味いから良いじゃん?」


 まさかバレるとは……。


 澪の言う通り、これは魔法で出した味付きの水に少しの香辛料、そして私が調合した毒と薬、更にモンスターの肉を焼いた肉汁のグレイビーソースを混ぜ合わせた物だ。

 こっちの世界では香辛料の種類はそこまで多くない。それをなんとか乗り越え作ったのがこの絶妙なバランスのソースだ。


 と、拳を握り締め。力の限り力説したけど結局呆れられた。美味しいのは重要なのに……。解せぬ。

 ▼▼▼▼▼

 夕食後、道具を全て片付け装備の手入れをさせると、改めて今回の趣旨についての会話に移る。


「目的?」


「そっ、目的」


 私はエイラの言葉にニンマリと答える。


「やっぱり野営の方法や、狩りの方法を教える為ですか?」


「いや、きっとモンスターとの戦い方を見せる為じゃないか?」


「モンスターを安全に避ける訓練じゃないの?」


「…………」


 ヒストリア、アベル、ダリアがそれぞれ自分の考えを私に問う。エイラだけは何も言わずに冷や汗を流しながら私のことを見つめている。


「まあ、正解と言うのなら全部かな」


「「「全部?」」」


「そっ、全部。お前らには明日、ここから自分達だけで帰ってもらう。まあ、流石に最初の方だけは見ていてやるけどね」


「さ、流石にそれは無理じゃないか?」


「いや、そうでもない。お前らが白亜に教わった事をフルに発揮出来ればギリギリやれない事は無い」


「そうですね。囲まれないような立ち回り、戦場のコントロールが必要になりますが、基本的な事が出来ていれば大丈夫なはずです」


 アベルの言葉に澪、瑠璃がその考えを否定する。


「この森は多様なモンスターが生まれ、勢力争いをしているはずだけど、幸いな事に今はブレードマンティス、アームズモンキー、ブラッドグリズリーの三種で状況が安定してる。

 しかもコイツらは気配を消して相手の隙を狙うタイプじゃなくて、見つけ次第抹殺ってパワータイプ。更に言えば、索敵は視覚と聴覚に頼ってる。これなら今のお前らのレベルでも先に察知出来れば隠れる事も逃げる事も可能だ」


 これは言いくるめる為の言葉ではなく、本心からの言葉だ。

 短い時間ではあるがそれが可能なレベルの技術は教え込んだと自負している。


「……ハクアは、本当に私達なら出来ると思っているのよね」


「うん。思ってる」


「ならやるわ」


「エイラ!?」


「どのみち、ハクアの方針には逆らわない約束だった。それに……この短期間でここまで魔法を使えるようにしてくれたハクアの事を信じるわ」


 エイラの言葉に多少の不満はあるようだが表立って文句を言う事も無かった。


 まっ、全員が必要な事だとは感じてるみたいね。


「今日の夜番は私達でしてやる。明日からはお前らだけでやってもらう。今日くらいはゆっくりと寝るんだね」


 その言葉を聞いて全員が硬い表情でテントに入って行った。

 ▼▼▼▼▼▼

「さて、どんな塩梅だ?」


「んー? チラホラと居るけどそんなに数は多くないね。流石にルートは頭に入ってるだろうし問題は無いかな。って、どうしたの瑠璃?」


「いえいえ。ガダルとの戦い以降、ハーちゃんの索敵範囲が凄く拡がってるなー。と」


「確かにそうだな。何をした?」


「何かした事を前提に話を進めないでくださいません!?」


「してないのか?」


「拐われただけでい!」


「それは十分な事態じゃないですか?」


 ちくしょうめ! 反論出来ないじゃないか。


「まあ、暇があったし周り敵だらけだったから余計経験値上がったのかも?」


「ふむ。お前の集中力なら有り得るか……」


「そうですね。ハーちゃんですもんね」


 解せぬ。なんだその納得の仕方は。


「でだ。明日は予定通りか?」


「うん。戦闘を何回か確認して調整だけしたら離脱するよ」


「実力は確かにあると思うが……行けるか?」


「もちろん。てか、その為に今日はあんな面倒な事をしたんだしね」


 私の言葉に二人が頷く。


 今日の私達は珍しく役割を決めて行動していた。

 瑠璃を前衛に置き盾役に、澪を後衛にして遠距離攻撃のみに絞らせた。そして私はと言うと、索敵に遊撃、妨害などを主として動いていた。

 今回、私達が三人な為に多少役割が被る部分もあったが、アベル達パーティーが参考に出来るように戦ったのだ。


 最初こそ動けないかも知れないけど、何回か戦闘をこなせば動けるようにはなる。

 森の探索ならいざ知らず、避けるにしても戦うにしても脱出だけなら難しくはない。


 私がそう説明すれば二人も頷いていた。


 二人にも訓練には付き合って貰ったから全員の進捗状況は知っている。

 今の質問も最終的な確認としての意味が強い。


 そもそもが、アベル達だけでの脱出と言っても、何も全く手を貸さない訳ではない。


 今この森で争っている三種のモンスター。

 それ以外にも少しだけ存在するモンスターの内、罠を張るタイプ、気配を消して近付くタイプのモンスターは、私達で対処する予定だ。

 それ以外のサーチandデストロイなタイプのモンスターは、三種以外のものも戦って貰うけどな。


 はてさて、どうなる事やら。

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