第385話ほんま出来た子や

 訓練を開始してから二ヶ月、当初はどうしようかと悩んだがなんとか順調に進んでいる。


 この間仲間にしたカイルの従魔は、やはりと言うべきか私が名付けをした事で翌日には人型に進化していた。


 フレイは地狐から金狐という種族に、見た目は赤が所々に混じった金髪の巫女服姿。見た感じの年齢はカイルと同じくらいだ。


 足元まで届くモッサリめの髪と尻尾、狐耳が良い感じの女の子ですな!


 得意技は【朱金】という、土と火の二属性の混合技。タイプとしては後衛で、魔力を使った攻撃に特化している。


 この世界では土魔法の上位属性は金になるらしい。木火土金水の五行ではなく、地水風火の四大属性ならではの位置付けだ。

 まだまだ奥が深いぜ土魔法!


 そして何故かカイルは呼び捨てなのに、私の事をお姉さんと呼び、更にブランには本能からか、何故か下僕のようにあれこれと言う事を聞いている。


 一応、上位種ではあるけれど、なんか私よりも位が高い……別にいいのだが、やはり解せぬ。


 とは言え、カイルとはお互いに良いパートナーとして仲良くやっているようなので良しとしよう。


 そして叢雲は足軽コボルトへと。


 前から武士階級の進化をする個体が居る。その事は知っていたから名前を漢字にしたが、まさかここまで予想通りになるとは思わなかった。


 見た目は短い茶髪の青年。豪快に笑う気持ちの良い馬鹿だ。


 一応褒めてるよ。知恵のステータスもちゃんと低いけど……。


 タイプとしては私が思った通り前衛タイプで和装姿。身体が大きく、筋力特化というのも前衛としてはポイントが高い。

 その他、生体装備と呼ばれる特殊な装備を持っている。

 生体装備とは一部の進化個体が進化と同時に得る物で、武器、防具が最初から備わっており壊されても時間経過で修復され、本人の強化と共に装備も強化されていく物だ。

 その代わり一度破壊されると修復までの間は弱体化もしてしまうが、それを含めても強力な物である。


 そんな生体装備、叢雲は刀と胴鎧を持っていた。ぐぬぬ、羨ましい。


 因みに、私が武士階級のコボルトに興味を持っていた事は知れ渡っていた為に、名付けの時にちょっと期待していたのがバレ怒られた。


 まあ、確かに人の従魔でする事ではなかったけどね。カイルが庇ってくれなければもっと怒られていただろう。

 ここでレア進化したんだから良いじゃん。とか言ったら怒られるだろうな。うん。逆の立場で言われたら私もキレるわ。私も成長したもんだ。


 それにしても……何故ブランは他の皆のように人間形態に進化しなかったのかも謎だ。

 これ、のちのち変なイベントになるのではないだろうか?

 まあ、それを言ったらヌルもだが、ヌルはスライムだしね。人型になるとかナイナイ。


 それはさておき、前衛、後衛が揃い、カイルは遊撃としてその時々で相手によって役割を変える事で、安定したバランスの良いパーティーになった。


 ここで回復役が居れば更に良いんだけど、それは高望みし過ぎだろう。その代わり、ヌル特製の回復薬を低価格で卸しているから今の所はそれで間に合っている。


 タダでいいと言ったが固辞された。ほんま出来た子や。


 現在は冒険者登録をして、下のランクから徐々に頑張っている。時々ユエ達やリンク、リンナとも組んで仕事をしているようだ。


 アベルにこき使われていた経験から、皮肉にもアイツ等よりもよほど安定している。

 カイルならばよほどの無茶をしない限りは、それなりに稼げるようになるのはすぐだろう。

 戦闘経験の少なさを、ランクが低い内にしっかり稼いで貰いたいものだ。


 続いて一番の問題児であったダリアだが、やる気も無くどうするか考えた結果、風雲ハクア城へアベルとペアにして攻略させてみた。

 その結果、カイルに全ての索敵を任せてきたアベルは、その集中力の無さも相まって掛かるわ掛かる。

 それを見たダリアは今までの修行の成果で、自分ですら見破れるトラップに掛かるアベルを見て、その役割がどれほど重要なのかを多少は理解したようで、ようやっと真面目にトラップの対処を学び始めた。

 その後、はっきり言って目立った得手不得手も無いダリアへ、遊撃の戦い方を教え込んだ。

 その中でも特に相手の隙を突く事を徹底して教え、気配の消し方や弓の扱い、近接戦闘についても、そこそこの実用レベルまで引き上げた。


 いやー、疲れましたわー、マジで。


 エイラはあれから無事四属性全てを習得し、MPも飛躍的に増えた。

 更に魔力操作に磨きを掛け、得意な属性を存分に活かせる状況と敵ならば、Bランクのモンスター相手にも有効打を与えられるだろう。また、不得意な属性でもDランク程度のモンスター相手なら十分に効果を期待出来るまでに成長した。

 今は魔法の改変に力を入れ、既存の魔法を自分の使い易いようにカスタマイズする事に注力している。


 ヒストリアも同じく四属性を習得。

 しかし、元々回復職のヒストリアでは光魔法以外での戦闘への参加は難しい。これは元々分かっていた事で、もしもの時の自衛手段、生存戦略の一部として教えた意味合いが強かったので問題無かった。

 だがそのお陰もあり、エイラ同様MPの総量も増え、魔力操作の腕も格段に上がり、今までよりも的確に回復役として機能するようになった。

 また、補助魔法による強化、弱体化の魔法も覚え、回復役兼補助役としても活動出来るようになり、アベル達のパーティーの生存確率は飛躍的に上昇した。


 最後にアベルだが、一番の問題児はダリアだったが、それ以上にどうしようも無かったのがこの男だった。

 戦闘は見栄え重視、戦闘力自体はあるのだが、それを活かしきる事が出来ておらず、ほぼ才能任せのゴリ押し戦闘。

 格上のモンスター相手にも戦えるが、それは真正面から向かってくる敵のみ。

 複数で連携されればすぐにパニックになり力で押し切ろうとする。視野が狭く、戦闘の流れも読めない。一対一のパワー勝負に特化しているという感じだった。


 まさに脳筋、俺TUEEEEななろう系の戦い方。小説だと上手くいっても現実ならこうなるよね。だって苦労しなくても圧倒出来てたんだもん。


 対人戦ともなれば、フェイントに弱く、駆け引きも少ない、多少戦闘の心得がある人間からしたら、馬鹿正直に突っ込んで来るだけと変わらない。

 相当な実力差が無い限り、恐らくは少し戦闘技術を学んだ相手なら格下にも負けるレベルだと思われる。


 そんなアベルを使えるようにする為に最初に行ったのが、女神から授かったスキル【魅了の魔眼EX】の除去だ。


 現状これ邪魔にしかなっていない。


 だって考えて欲しい。

 これに魅了されればアベルに何かある度に「「アベル!」」と、駆け寄る馬鹿共のせいで隊列なんてあっという間に崩れ去る。

 更にエイラのように望んでもいないのになんて害悪でしかない。

 幸い、ダリア、ヒストリアの二人は本心からだったようだからいいものを……。


 それを本人に伝えると、嫌がるかと思いきや意外と素直に応じた。

 その際に、このスキルのせいで人を信じられなくなっていただの、自分でも制御が出来なかったから怖かっただのと、ぺらぺら喋っていたアベルに、いい思いしまくってたんだからごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! と鉄拳制裁を加えた。

 そしたら元の学校ではイジメられてただの、友達居なかっただの、余計な情報まで語りながら泣き崩れてた。


 うん。陰キャから転生無双目指すってなろう系かよ! 私見習えハードモードだわ! 閑話休題。


 さて、問題のスキルをどう除去するのか? 

 その方法は私の強化されたスキル【暴喰】を使う事だ。

 実はこのスキル。必要の無いスキルに使用する事で、スキルポイントに変換する事も出来るようになったのだ。

 しかもこれ、他人にも有効で、本人の承諾さえあれば同様に使用可能らしい。

 更に嬉しいのは、他人のスキルを除去すると変換したスキルポイントを1割貰えるのだ。


 まあ、それは内緒だが……。


 自分にも使った事が無く、他人にも勿論使った事が無くてちょっとドキドキしたが、無事除去する事に成功した。

 更にスキルが無くなった事で、エイラもアベルのパーティーに残留する事をなんとか了承した。


 そして肝心のアベルの修行内容だが、実は戦闘技術以外は案外マトモだったりする。


 まあ、それが無いのが致命的なのだが……。


 女神から貰ったスキルに、チート物の主人公よろしくの魔力修行で、ゴリ押し出来るレベルの力は既に持っている。

 ただ如何せんそれを活かす事が全く出来てない。

 相手を魔力で圧倒、技術面もスキルで圧倒する為、無くても問題が無い。

 その代わりこの間のように、相手のフィールドで戦うとなればトラップなどに簡単に引っ掛かり負ける。要するに俺TUEEEEし過ぎて倒せるけど、戦闘は出来ないのだ。

 この辺のモンスターがゴブリン系や、低位のウルフ系、プラント型のモンスターがほとんどで弱かったのも原因の一つだ。


 むしろ無駄だから私に寄越せよそのスキル群。


 と、いう訳で決定した修行内容はひたすらボコ──では無くて、なんでも有りの実戦的な組手に決まった。


 私の全てをフル活用した怒涛の攻めにアベルは時に吹き飛び、時に地面に転がり、埋まり、焼かれ、溺れ、落とされ、這いつくばり、縛られ、惑わされ、痺れ、毒を喰らい、呪いを受けと、実に様々な戦闘シュチュエーション、スキル、魔法、バットステータスを受けた。


 約二名からのバッシングは多かったが、その甲斐あってC級レベルのモンスターにも引けを取らない実力には引き上げられた。

 全員が上手く機能すれば、B級レベルのモンスターにもなんとか戦えるだろう。多分……。


 さて、それじゃあそろそろ仕上げといきますか。

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