第384話君達はなんでそこに居ちゃうかな……

 突如として開始した戦闘。どうなるカイル!


 〈マスターが戦わせているだけですよね?〉


 どうなるカイル!


 〈…………〉


 もう一切手を出す気は無い。と言わんばかりに腕を組んで木の幹に寄りかかって観戦モードの私。


 そんな私を見る余裕も無く、カイルはひたすらに相手の攻撃を避ける事に集中する。


 ふむ。やっぱり回避には高い適性があるな。

 アベル達に避けタンクみたいな事をやらされてた成果って所か。でも──。


 カイルの武器は短剣だ。


 倒す事よりも、少しづつ相手にヒットさせる事で消耗を狙う武器。

 まだ幼く小柄なカイルにはちょうど良い。と持たせていたが、やはり今まで回避に徹して攻撃した事が少ないカイルでは、圧倒的に手数が足りていない。


 しかも……回避に比重を置いてるから、どうにも一歩踏み込みが足らない。

 そのせいでどうにも攻めあぐねてる。

 そして、フレイとの連携にもまだ難がある。


 〈それはマスターが契約後すぐに戦わせたせいでは?〉


 まあでも、知らない人間と組む事なんざ、ざらにあるからね。少しでもこんな経験は積んどくべきかな……と。


 〈……マスター〉


 ふふふ。私の思慮深い考えにヘルさんも感動しておる。


 〈後付けの理由ですよね?〉


 違った! 信用されてない!?


 そんなやり取りの間にもカイル達の戦闘は千日手に陥る。


 そろそろテコ入れが必要か。


「カイル。お前の得意はなんだ? 体術か、短剣か? 違うだろ。お前は今、テイマーとしてここに居るんだ」


 私の声に驚いたカイルが一瞬振り向き、その隙を突きソルジャーが剣を振るう。

 しかしその攻撃は、フレイの【狐火】を腕に受け不発に終わり、カイルは無事攻撃圏内から脱出する。


 まあ、集中が一瞬弱まった瞬間に声掛けたんだけどね。でも、これでわかったろ。お前の取るべき戦い方が。


「行くよフレイ!」


「コンっ!」


 自分が手に持っている短剣に一度目を落としたカイルは、強く握りしめるとフレイに声を掛けて再びソルジャーへと向かう。


 焼き直しのようにそのまま懐に飛び込むかと思われたカイルは、ソルジャーの間合いの中、先ほどよりも半歩遠い距離を保ちながら攻撃を避ける。


 半歩。


 その距離は踏み込めば互いに致命を与える事が出来る死地の距離。しかし、カイルはあえて下がる事で防御を重視する選択をした。


 それでいい。


 見つめる先、攻撃が当たらない苛立ちから、大振りになった攻撃を躱すと同時に射線を空ける。

 そこへ迫るのは、待ってましたと言わんばかりのフレイの【狐火】だ。


「ギャンっ!?」


【狐火】を顔面に食らったソルジャーは、悲鳴のような声を上げながら堪らず後ずさり、カイルから距離を取って逃げ出そうとする。

 ──が、そんな隙が見逃される訳もなく、雄叫びを上げたカイルが腰だめに短剣を構えて突進、その攻撃はソルジャーの胴鎧を貫いた。


「お疲れ様」


 肩で荒い息を吐いているカイルに声を掛け、回復薬を手渡す。


 因みにこの回復薬はヌルに出して貰った物で原価ゼロ円です!


「あ、ありがとうございます」


「どう? 初勝利は」


「えっと……凄く嬉しいです!」


「そっか。最初は一人で戦おうとしたからどうなるかと思ったけど、途中からは修正出来たみたいね」


「すいません。でも、その為にあのタイミングで声掛けたんですよね」


 ふむ。ソルジャーレベルなら立て直す事は出来るだろうし、出来なかったとしても私が居るからと思ってやったが、それにも気が付いたか優秀優秀。


「カイルの一番の力はテイマーの力だからね。仲間にした従魔の種類、数、得意な事、その進化の方向性によっても戦い方は無数に変わっていく。その為、他の人間と違って決まった型をあまり作れないから、これからも臨機応変に対応していかないとね」


「はい」


「まあ、今回の事でそれもわかっただろうし。良い訓練になっ──」


「っ!? 危ないハクアさん!!」


 カイルの正面、私の背後から今まで隠れて様子を伺っていた、ソルジャーとハイコボルトが襲い掛かる。


 ──だが。


「うわ……」


 初めからその存在に気が付いていた私は、向かって来なければ見逃すつもりだったが、襲ってきたからには容赦しない。

 予め張り巡らせていた糸を引くと、襲ってきた二匹の身体は、声を上げる事すら無くバラバラに切断された。

 

 無情なり。


 〈マスターがやった事ですよ〉


 まあ、そうだけど。


 私は倒した二匹をそのままに、カイルの後ろの茂みへと向かう。

 そこには襲ってきた二匹とは別の所に隠れ、タイミングを見計らっていたもう一匹のコボルトが、私の糸で簀巻きの状態になっていた。


 カイルだと処理出来なそうだから、こっちは先に簀巻きにしておいたんだよね。

 さて、何も出来なかったとはいえ、こっちを狙おうとしたからには放置は出来ないな。


 人を襲う事を考えたのなら、ここで見逃してもまた別の場所で誰かを襲う。

 それを防ぐ為にもここで倒すのが良いだろう。


 そう考えたのだが──。


「君達はなんでそこに居ちゃうかな……」


 私の眼前、簀巻きになったコボルトの前には、何故かカイルとフレイが庇うように立っている。


「うっ……すみません。でも、なんだか可愛そうで……」


「はぁ……それで、そこにたった君はどうするの? もちろんこのままただ見逃すなんて方法は取らないよ」


「それは……」


「君は何?」


「えっ? あっ!?」


 私の言葉に何か気が付いたカイルは、簀巻きになったコボルトの方を向くと、契約を発動する。


 さて……どうなるかな。


 そう考えたが、結果はいっそ呆気ないほど簡単に契約を受け入れ、コボルトはカイルの従魔になった。

 受け入れなければカイルがなんと言おうが倒したけど、仲間になったのならその限りじゃない。


「その調子で仲間を増やしたら大変だよ?」


「わかってます。でも、なんか見捨てられなくて……」


「長所でもあるけど短所でもあるね。優しさは大事だけど、見誤ればそれは君の身にも、仲間にも危険が及ぶ事は忘れない方が良い。仲間が大事なら尚更ね」


「……はい」


「さて、それじゃあそいつの名前も決めようか。今回は少し思う所があるから、私が名前をやっても良いか?」


「ハクアさんがですか? それは良いですけどどうしてですか?」


「見た所、前衛に向いてそうだから、今回は少し意志を持って名付けをしようと思ってね。名前を付ける時の認識で、ある程度成長の方向性が決められるらしいから」


「そうなんですね。確かに僕じゃ前衛は辛いから、それを補ってくれる仲間が居るのは嬉しいですね」


「まっ、どうなるかは分からないけどね」


 さて、名前……なんにしよう。


 〈考えて無かったんですね〉


 だって今思い付いたんだもん!


 〈はぁ……〉


 見ればこのコボルト。普通の剣じゃなくて錆びて刃もボロボロになった刀を使っている。

 うん。こういうインスピレーションは大事だよね。


「よし。お前の名前は叢雲だ」


 私が名前を決めると魔力が抜ける感覚がする。予定通り意識をして名付けを行った影響か、フレイの時よりも少し魔力が多い。


 これで明日にどうなるか……だね。


「さて、それじゃあ今日は帰ろうか」


「はい!」


 こうして無事カイルの従魔をゲットした私達は、次の日を楽しみに帰路についた。

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