第383話……そんな事で胸を張られても

「えっと……、いけそうですハクアさん」


「OK。カイルがその子で良いならそのままやってみて」


「はい!」


 本日の私はカイルの付き添いである。


 テイマーとしての才能があるカイルにも、今まで訓練は施してきたが、やはり本領を発揮出来るのは従魔が居る状態。

 そんな訳で今回、カイルがどんな物がテイム出来そうなのかを調べに来たのだ。


 テイム自体、私も興味あるしね。


 テイマーと一言で言うのは簡単だが、実はそんなに簡単に言い表せるものではない。

 動物を使役するのが得意なビーストテイマー、虫を使役するのが得意なインセクトテイマー、中にはドラゴンを使役するドラゴンテイマーなんて者も居る。

 更には水辺に居るモンスター、属性別のモンスター、空を飛ぶモンスターを使役出来るなどという特異なテイマーも居るのだ。

 テイマーはそれだけその分野に置いて細分化されている。


 そんな中からテイマーそれぞれが、得意な種類を把握、そして使役しなければいけない。

 そしてその把握と言うのが、実はちゃんと確立されていなかったりもする。


 しかしこれもしょうがない部分もある。


 何せ、自分にその分野の才能が無かったとしても、相手が自分の事を気に入ってしまえば契約出来てしまう事もあるのだ。

 過去には、最初に運良くホーンラビットと呼ばれるモンスターと契約出来て、ビーストテイマーだと思い込んでいたら、実はインセクトテイマーだったなんて事例もあるらしい。

 更には同じビーストテイマーでも、動物の犬なら契約する事は出来るが、犬型のモンスターだと契約出来ない。なんて事もあるらしい。


 そんなテイマーの資質をどうやって見分けるのか?


 実は方法は簡単、色々な物を見て回って、直感的にテイム出来そうかどうかを判断させるだけ。


 これが意外とバカに出来ない方法だ。


 私の正体を知らなかったカイルが、何となくでも私をテイム出来そうだと感じたように、テイマーの資質を持つ者はなんとなくで、自分の使役出来る相手が分かるらしい。


 しばらく街を探索して回って分かったのは、動物ならほぼテイム出来そうだという事。他にも虫もある程度なら行けるそうだ。

 そこからギルドで幾つかの依頼を見繕い、森に向かいモンスターも行けそうか調べてみた。

 いくつかの種類のモンスターを見て回った結果、モンスターも動物型と人型のものならいけるっぽい。水棲モンスターや虫型はどうやら苦手なようで、オークやコボルト等の獣人型は特に相性が良いようだ。

 ついでにユエ達にも会わせた所、何となく行けそうな気配はあったとの事。


 もしかしたら知能の高い人型モンスターが一番相性が良いのかも知れない。


 どれもこれも無条件。という訳ではもちろんないが、私が聞いていたテイマーの話と比べると、大分その種類は多岐に渡るようだ。


 色々と楽しみではあるが、どうも本人はどのモンスターともしっくりとは来ていないみたいだ。


 そんなカイルと依頼を軽くこなしながら森を歩いていると、不意に木陰から気配が飛び出して来る。


 殺気も然る事ながら敵意が無い為放置していたが、木陰から出て来たのは、全体が赤い毛並みで先の方がオレンジの子狐型のモンスターだ。

 この辺りでは見ないタイプだが、どうやら怪我をしている。

 それを見たカイルが無防備に近付き治療を始める。


 全く、少しは警戒しないと……いや、アベル達よりも気配察知には長けてたから、殺気の有無は感じての行動か。


 調べてみると狐は地狐というモンスターらしい。


〈たまに出現するレアモンスターのようですね〉


 ほうほう。これはあれか……フラグか?


〈マスター〉


 大丈夫分かってるから。しかし……ふむ。


 治療を終えて地狐に水を飲ませているカイルを見て、「その子と契約は出来そうか?」と、思い付いた事を聞いてみた所、出来そうだと言う色良い答えが返ってきた。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 そして冒頭に戻る。


〈何を言っているのですかマスター?〉


 すいません。独り言です。


 ちょっと回想に浸ってモノローグを入れると、ヘルさんからツッコミも入れられる。

 そんな私の前ではカイルが今まさに地狐と契約を行おうとしている。

 護身用に渡していたナイフで、親指の腹を少し切って血を出すと、前と同じ様に魔法陣を手に描くと地狐へと突き出し魔力を篭める。


 ……ほう。特訓の成果がだいぶ出てるな。


 その魔力制御は前と比べれば段違いだ。カイル自身少し驚きの気配を出しながら、それでも集中を高めて続けている。


「我が名はカイル。今ここに汝との絆を結び 共に学び 共に育ち 共に歩む誓いを捧ぐ 汝の力 我と共に 契約を結ぶのならば応えよ」


 さて……どうなるかな。


 ここで相手が応じれば契約は成立だ。


「コンっ」


 カイルの言葉に地狐が応えると、手に描かれた魔法陣が地狐へと飛んで行き、カイルの魔力の一部が地狐へと取り込まれパスが出来上がる。


 なるほど。傍から見るとこんな感じなのか。

 ぶっちゃけ私の契約方法よりも、テイマーの契約のがカッコイイな。


〈気にする所はそこですか〉


 ……け……結構大事よ?


〈…………〉


 うわん。せめて反応して下さい!?


「ありがとう。これからよろしく」


 契約の終わったカイルが地狐の頭を撫でながら挨拶をしている。


 ……なんか、私もブランをもふもふしたくなって来た。


「それで、名前はどうするの?」


「あっ、そうですね。えっと……フレイ。フレイでどうかな?」


「コンっ!」


「おお、気に入ったみたいだね。よろしくねフレイ。って、あれ?」


 カイルに続いて私が名前を呼ぶと、何故か魔力が吸い取られる感覚がした。


 もしかして私が名付けした感じになってる?


〈そのようですね〉


 なんで!?


〈……私見ですが、テイマーの名付けと、力のある名前付きのモンスターからの名付けは別なのでは?〉


 あー、確かに。その可能性は考えて無かったわ。

 テイマーとその従魔両方と友好的な、名付けが出来るほどのモンスターが、名前を呼ぶなんて無いもんな。

 フレイはマスターの近くに居た私も、仲間としてカウントして受け入れちゃったのか。


〈恐らくは……、前例が無いので推測になりますが〉


 うーん。合ってそうな気がするの……。


「ハクアさん。今ハクアさんから魔力が」


「ああ、悪い」


 少し不安そうにしているカイルに今の推測を聞かせる。すると納得したように頷き受け入れてくれた。


〈カイルが良くても……〉


 ははは。大丈夫。人様の従魔にもやらかしたと思うので、後で怒られる覚悟は出来てる!


〈……そんな事で胸を張られても〉


 だって……、いつも通りだと絶対なんか起こるもん。


〈…………〉


 グスン。


「名付けをされたモンスターは強くなるんですよね。それなら大丈夫です。僕も頑張ってフレイに負けないよう強くなりますから」


「コンっ!」


「そか。じゃあ早速実戦と行こうか」


「えっ?」


「コン?」


 私の言葉と共に武装したコボルトソルジャーが一体現れる。

 コボルトソルジャーはゴブリンソルジャーと違って、武器の他に東洋の甲冑のような安物の胴鎧を着ている。


 まあ、鉄ではなく木製だが……。


「さて、いきなりになったけど初の実戦だ。危なくなったら助けるけどなるべく自分の……自分達の力で戦ってみな」


「えっ、そ、そんないきなり」


「ほら来るぞ」


「えっ? うわっ!?」


 なんとか間一髪避けたカイル。


 ふむふむ。ギリギリで避けた割にはちゃんと攻撃を見て避けた。訓練の効果は出てるみたいだな。


「フレイ!」


 カイルが避けると同時に、主を守る為、敵へと体当たりを仕掛けるフレイ。

 しかしその小さな身体では、胴鎧を付けているソルジャーには、ダメージは疎か仰け反らせる事さえ出来ずに弾かれてしまう。


 そんな姿を見たカイルは、そこに来てようやく腹を括ったのか臨戦態勢に入る。


 うん。多少判断は遅いけど不用意に踏み込む事も無くよく見てる。これなら上出来だ。


「カイル! フレイの特性は後衛よりだ。特技は【体当たり】と魔力攻撃の【狐火】だ。相手がソルジャーと言えど、今のお前ならなんとか一人でも倒せるレベル。フレイと協力してやってみろ」


「わかりました!」


 突発的な戦闘だが、これは良い訓練になりそうだ。

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