第382話残念な転生者になったものだ

 本日はまたまた魔法組の講習となっております。

 あれから更に数日、やっとの事で魔力制御していた皆の訓練も、形になってきた事で全員が【無詠唱】を会得出来た。

 そして本日、ようやく次のステップに移る。


「次のステップ?」


「うむ。皆にはとりあえず火、水、土、風の四属性を覚えてもらう」


「はい。ハクアさん」


「何かねマト?」


「そんな簡単に他の属性が使えたら私達あんな苦労してません!」


 そんなマトのある意味説得力だけしかない言葉に、同じ土魔法建設の同僚であるパッセとスーナも首を縦に振って同意している。


「まあ、言いたい事は分かるが、言うほど簡単と言う訳でもないぞ」


「そうなんですか?」


 パッセの言葉に頷いた私はまず皆に質問する。


「お前らは、魔法ってなんだと思う?」


「何って……そうね。改めて説明するとなると難しいけど、魔力を使って魔法陣や呪文を起動するって所かしら?」


 エイラの言葉に全員がウンウンと頷く。


 ここまでの認識は共通のようだ。

 これ自体は間違ってはいない。だが、正解でもない。


「何か違うんですか?」


「うん。魔法陣や呪文ってのは魔法を使いやすくするシステムや補助の事だ。んで、肝心の私の質問の魔法って何かなんだけど、簡単に言えば魔法とは魔力を改編して現象を起こす事……だよ」


「改編に現象ですか……」


「そう。魔法は色んな属性があってそれに見合った物を使っているつもりだけど、実際やっているのは魔力を放出、変化、制御の三つなんだよ。まあ、もっと言えば火や水の別の物に変える変換魔法と、魔物や魔族が使う魔力をそのまま放出する無変換魔法って所かな」


「……おかしくありませんか? それならなんで使える属性と使えない属性が生まれるんですの?」


「うむ。スーナの言う通り私の言葉が正しいならそれはおかしい。けど、そこが一番の間違いなんだよね」


 そう。このポイントこそが勘違いなのだ。


 これは前にも推察したが、今の魔法やスキルは駄女神が大した修練もせずに扱えるよう、カスタマイズした物。これも前に言ったが歩行器や補助輪のようなものなのだ。


 だがこの簡易的なシステムが今回の勘違いを産んだ。


 システムの通りに魔法を使おうとすると、その属性に適性が無いと使えない。

 ただしこれは正確に言えば、使えないのではなく発動しないのだ。


「それのなにが違うの?」


「そうですよハクアさん。使えないから発動しないんじゃないんですか?」


「それは違うぞマト。使えないと発動しないは全くの別物だ」


 火魔法が使えない。と、発動しようとした火魔法が使えなかった。との違いと言えばわかり易いだろうか。

 前者のように使えないだと、今までの常識通り適性がなければ使えないと言う事になる。

 しかし、後者のように発動しようとしたものが使えないのならば話が違ってくる。


「さっきも言った通り、今、世の中で使われている魔法は、万人が一定の才能があれば簡単に使えるようにしたシステムだ。そしてその水準に満たなければ発動する事が出来なくなっている」


「それが?」


「まだ分からないか? なら、そのシステムが認識出来ないレベルの魔力の変化を自力でやれば、熟練度を上げる事は出来るんだよ」


 そうこれが勘違い。


 一定の水準以上なら発動出来るのが今の魔法。

 上級魔法などになれば起こる、魔力不足、実力不足は実は最下級の魔法にも適用される。

 光や闇など、基本の四属性以外は本当に才能が全く無ければ使えないが、四属性はそれに当てはまらないのだ。


「言いたい事は分かったわ。でも、もしそれが本当だとして、それならなんで名を馳せた魔法使いも使えない属性があるの?」


「理由は簡単。一つは不得意な属性は変換効率が極端に低いんだよ」


 魔法を使える人間は、自分の使える属性を調べる水晶の魔道具が存在する。

 手を触れ魔力を込めるとその属性の色に光る物だ。これは先程言った通り、一定以上の才能が無いと光らないようになっている。

 そして、これに光らないレベルの属性はと言えば、最低でも五十分の一。下手をすれば百分の一変換効率になるのだ。

 そして女神の作ったシステムは、流石にそこまで効率が悪い魔力変換に、エディット機能でさえ対応していない。

 消費を最小にしたって発動出来ないのだ。


「なるほど……因みにハクアさん。もしも、最下級の魔法でその変換効率に対応していたらどうなるんですか?」


「まあ、実際は分からんが、パッセの言う通り対応していたとすると……」


「「「すると?」」」


「初心者が唱えた瞬間に、全ての魔力を持っていかれて魔法は発動せず、下手をすれば重度の魔力欠乏状態になってそのまま死ぬ」


「怖っ!?」


「それは……確かに対応なんてしない訳だわ」


「そしてもう一つの理由が威力だな」


 不得意な物を努力して覚えても、人並み以下の速度でしか熟練度を得られない。

 熟練度が上がれば変換効率も良くなるが、それが人並みになるまでにもかなりの時間が掛かる。


「──と、言う訳でそれなら自分の得意な属性を極めたくもなるだろ」


「確かにそうですね」


「あれ? ならなんで私達は他の属性覚えるんですか?」


「お前達ならもう分かるだろ? この世界の魔法は戦闘に使う事にのみ特化してる。魔法を有効活用しようとは考えられてないんだよ」


「確かに……私達も今でこそハクアさんのお陰で働けてるけど、最初は土魔法ってだけで絶望的してたものね」


「うん。今パッセが言ったけど、戦闘で使うとなれば多少心もとないし、使う機会も少ないだろうね。けど、少しでも魔力を変化させることが出来れば、飲水の確保から火の確保なんかも容易になる」


「そうですわね。全部を代用しようとすれば魔力が足らなくなりますけど、近場での依頼ならそこまで気にしなくても良いし、少しならもしもの時にも役にたちますものね」


「そういう事。まあ、続けて修練すれば戦闘でも使えるしね」


「そういう事なら納得ですわ。でも、ハクアさんはどうやって、ワタクシ達に他の属性を覚えさせるつもりなのかしら?」


「だからこその【無詠唱】習得なんだよ。スーナ」


 そう。魔力制御の効率を上げて【無詠唱】が出来るまでになれば、システムから外れた魔法の運用に手が出せる。

 そしてそれは、システムで無理矢理引き出される魔力を、自分の意思でコントロール出来るという事だ。

 そしてこの世界は、その程度の取っ掛りがあれば、熟練度という形で成果が出る。

 不得意ならその熟練度もなかなか貯まらないが、それでも一歩でも一ミリでも進めるのなら習得は可能だ。


「話は分かりました。でも一つ疑問良いでしょうか」


「なんだヒストリア?」


「ハクアさんの言う事は理解出来ました。ですがそれなら魔導書はどういった物なのでしょうか? あれはハクアさんの言う才能の無かった者でも、魔法が覚えられるという物ですが」


「それは簡単。初級魔法を覚えられる魔導書は、熟練度を上げる物なんだよ」


 高位の魔導書は魔法の仕組み、効果を頭に刻み込み理解させる物だ。しかし、初級の魔導書は少し違う。

 あれは魔法を覚える物ではなくて、使用者の熟練度を多少引き上げる。どちらかと言うと経験値を獲得出来るアイテムなのだ。


「例えばだ。初級魔法を使うのに十の才能がいるとする。それに満たない五しか才能が無いとさっき言ったように発動しないが、初級の魔導書は読むと才能を五プラスして発動出来るようになるんだよ」


「では、それを使っても覚えられないのは?」


「才能が五以下だから最低値の十に届いてないから。まあ、わかり易く言っただけで実際はここまで単純ではないけどな」


「なるほど……面白いですね。ではアベルさまが全属性使えるのも」


「ああ、その辺の間違った知識が無かったからこそ、全ての属性を練習して覚えられたんだろうな」


 そこまでは努力の人だったのに……残念な転生者になったものだ。


 因みに今の会話で分かる通り、アベルは自分の事をしっかりと仲間に伝えたようだ。


「ただし一つだけ問題もあるんだけどね」


「問題……ですか?」


「ああ、変換効率が悪いとさっきから言ってるけど、不得意な属性は、それにプラスして普段無意識でやっている、魔力を他の属性に変化をさせる感覚が分からないんだよ」


 つまり、魔力を水に変える感覚は無意識で理解出来るが、魔力を火に変えるには無意識では出来ず、その感覚を自分で掴まなければならない。

 魔力を火に変える。そのどうして燃えるのか、どうやって燃えるのかを理解しなければ、変化させる事が出来ないが、それが理解出来ないからそもそも使う事が苦手な属性なのだ。


「じゃあどうするんですか?」


「うむ。そこで私の出番な訳だ。エイラちょっと協力して」


「どうすれば良いの?」


「そこに座って、両手を胸の前で掲げて」


「こう?」


「そうそう。そのまま目を綴じて集中して」


 そこまで言った私はエイラの後ろに周り、肩に手を置くとゆっくりと自分の魔力をエイラに浸透させる。

 そして、エイラの魔力を掌握するとその魔力を使って火の初級魔法灯火トーチを発動させる。

 掌の上に現れた灯火は、今もユラユラと揺れている。


「目を開けて」


「嘘……これ、私の……?」


「そう。エイラの魔力を使って私が変化させた。この感覚が分かるか?」


「ええ、これが火を生み出す感覚なのね」


「ああ、一度感覚を覚えればここまでの大きさの物は作れなくても小さな火種程度の大きさなら作れる筈だ。後はこれを出来る限り続ければ火魔法を覚えられるようになる」


「凄いわ」


 これは契約魔法や支配魔法の応用だ。


 相手の身体に魔力を浸透させて、相手を縛ったり、操る事が出来るこれらの技術を応用して、魔力をだけを操り、属性の変化を強制的に身体に覚えさせる荒業だ。

 因みにこの方法でユエ達やエルザ達、魔法を使える面々も四属性魔法は使えるようになっている。


 こうして魔法組の特訓は新たな段階へと進んだのだった。

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