第99話パンの耳は至高の食べ物だ!

「……ここがそうなんですかご主人様?」

「……うん。その……筈?」


 現在私達はカーラとの商談を終えたその足で、紙の製造技術の前報酬としてカーラから譲り受けた屋敷へとやって来た。


「凄ごっ! おっきい! 本当にこんなのタダで譲って貰ったの?」

「なっ、何かの手違いなんじゃ無いのかな! こんなのタダで譲って貰える訳無いかな!」

「うむ、家と言うより屋敷じゃな」

「大きいゴブ」

「う~ん。これ位なら普通じゃないですか?」

「……瑠璃先輩はこれが普通何ですね?」


 想定外の屋敷の大きさに私、アリシア、エレオノ、コロ、結衣の庶民組は混乱しつつ圧倒され。アクア、クーのモンスターコンビは呑気に屋敷の大きさに喜び。瑠璃は一人屋敷の大きさに及第点を付ける。


 ヤバイ、こんなんだと思わなかったから貰ったけど、後で請求書回されたらどうしよう。


 屋敷の大きさに内心ビビりながらも屋敷の門に向かって行く。そして、屋敷の門に辿り着くと──。


「これチャイムみたいの無いのかな?」

「チャイム? それは分からないけど、これ使えば中に来客は伝わるよ」


 そう言ってエレオノは門の横に在る水晶の様な物に手を触れる。するといきなりエレオノの手から水晶へと勝手に魔力が流れ水晶に人の顔が浮かび上がる。


 スゲー、何これテレビ電話みたいな物? と、言うよりはインターホンに近いか? 本当にデカイ町や都市だと魔道具が一般に流通してるんだな。


 そんな事を考えながら見ていると水晶に映った人物が私達に語りかけて来る。


「失礼ですがどちら様ですか?」

「すいません。私達はカラバス・マーンの紹介で来た者です」

「お名前をお伺いしても?」

「ハクアです」

「失礼しました。主のマーンより承っております。ただ今門をお開けするので少々御待ちください」

「はい」


 少し緊張しつつも水晶越しに丁寧に対応する。それから少し待つと門が開き、中から若い執事の格好をした男が丁重に出迎える。


「御待ちしておりましたハクア様。私はマーン様の執事をしております。タークスと申します。以後お見知り置きを」


 タークスと名乗った人物に私達はそれぞれ軽く自己紹介をした後、彼に案内されながら屋敷に入る。


「先程マーン様より連絡が有り、ただ今マーン様の私物等を運び出しております。その作業も後少しで片付きます。この屋敷の所有などに関する手続き等は既にこちらで済ませてあるのでご安心ください。必要なら皆様のお荷物もお運び致しますが如何致しますか?」

「う~ん。それはこっちで運ぶから良いや。気遣いありがと」

「いえ、お気になさらず。では荷物の運び出しと屋敷の清掃はこちらで済ませておくので、皆様は家財道具を買いに行かれてはどうでしょう?」

「そうだね。皆もそれで良い?」


 振り返り皆に聞くと全員から賛成の声が返って来たので、私達はそのまま皆で買い物に行く事にした。

 因みに結衣ちゃんはフロスト達が帰ってくるまで私が家に泊めると言い宿泊が決定した。


「ねえねえハーちゃん。私もあのお家に住んで良いんですよね?」

「良いけど、ギルドの寮はどうするの?」

「大丈夫です。何時でも出て行ける様に手続きはしてあります」

「手際良いな」

「えっへん」


 私の言葉に瑠璃が胸を張りそれを見たエレオノとコロ、クー、結衣ちゃんの四人が自らの胸元を見て溜め息をつく。その隣でアリシアが何か発言しようとして止めたのを見て賢明な判断だと一人思った。


「それじゃあ、買い物してから瑠璃の家に行って引っ越し作業をしよう」

「「「は~い」」」


 買い物に出掛けた私達はそれぞれの家具を買った後、二手に別れて行動した。コロ、アクア、結衣ちゃんの三人が夕食とこれからの食材の買い出しに、残りの面々は瑠璃とクーの装備品を買った後、その足でギルドの寮に在る瑠璃の部屋まで来ていた。


「ここがルリちゃんの部屋?」

「そうですよエレオノさん」

「凄く女の子らしい部屋ですね」

「うむ、もっとゴテゴテとお金持ちッポイ部屋かと思ったのじゃ」

「その辺は私達が昔矯正したから」


 まあ、パンの耳は至高の食べ物だ! 何て言い出した時には澪と二人でかなり焦ったけど……。


「どうしたのハーちゃん?」

「何でも。とにかく運んじゃおう」


 そうは言ったもののやる事は空間魔法ボックスに収納するだけだったので持ち運び自体は直ぐに終わってしまった。そしてその後に皆で掃除をしようとしたら瑠璃が明日以降に自分が一人でやる。と、言っていたのでそのまま新しい我が家へと皆で帰宅する。

 家に着くと執事やメイド達は居なくなりタークスだけが、私に挨拶する為に残っていたので皆を先に中に入れ一人で対応する。


「おかえりなさいませハクア様」

「タークスまだ居たの?」

「ええ、最後まで引き継ぎを行うのが業務ですので」

「悪かったね」

「いえいえ。これからも主ともどもよろしくお願いいたします」

「こちらこそ。明日またそっちに行くから」

「ええ、伺っております。お迎えの方は如何致しますか?」

「大丈夫」

「そうでごさいますか。では、私はこれで」

「良かったらご飯食べて行く?」

「いえ、大変有り難い申し出ではありますが未だ業務が残っておりますので」

「そうか、引き留めて悪かったね」

「いえ、こちらこそありがとうございました。では、また明日」

「うん。今日はいきなりだったのにありがとう」


 タークスと別れた私は家に入り夕食を食べ、部屋が未だ決まっていない為、結局皆で雑魚寝をして夜を過ごしたのだった。

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