第100話 「主様その考えは早く捨てるのじゃ!」

 カーラとの商談を終えて家を手にいれてからはいろいろ忙しかった。


 家具を置いたり足りない日用品を買い足したり。今までは移動が主だったので買わなかった普段着の服なども、それ以外にもカーラとの商談を詰めたり紙以外にも幾つかアイデアを出したりと、あっという間に時間が過ぎ去った。


 瑠璃も正式にギルドの引き継ぎを終え、今日は軽くモンスターと戦ってみようと言う事になり、今はアリスベルに一番近い初心者用のダンジョンへと全員でやって来たのだった。

 このダンジョンは試しの穴と呼ばれ、全三層で宝は無し、低レベルのモンスターのみ、ボスはオーク将軍が単体で出現する。そんな事からギルドでは初心者用のダンジョンとして勧められている。


「で、ここがその試しの穴な訳?」

「はい。そうですよハーちゃん」

「良し頑張ろう!」

「いやいや、今日は瑠璃とクーの動きの確認だからねエレオノ」

「私も動きたい!」

「じゃあしょうがない。二人が二対一に持ち込める様にエレオノが他の相手して」

「了解」

「私達はフォローと警戒って事で」

「「「了解」」」

「二人も分かった?」

「は~い」

「了解じゃ」


 役割を決め後はエレオノを先頭に瑠璃、クーと並び少し離れて他のメンバーが続く。

 暫く進むと前の方にオーク三匹の集団が見えた。


「どうするハクア」

「エレオノが二匹よろしく。コロとアリシアでフォロー、キュールもお願いね」

「了解」

「分かりました」

「OKかな」

「キュルー」

「じゃ、私が引き付けるから二人は後ろから、アクアはフォローよろしく」

「はい」

「うむ」

「ゴブ」


 作戦をたて終わると同時にエレオノが走り出す。そして、手前にいるオークに斬り掛かりオークの腕を切り落とす。


「フゴォォア」


 その事に気が付いた他の二匹が鉈の様な物でエレオノに斬り掛かるが【霧化】のスキルを使い攻撃をすり抜け、不発に終わった事でバランスを崩した一体を私に向かって蹴り飛ばす。


「フゴオォ」


 エレオノが蹴り出したオークの前に行き、オークの注意を自分に引き付け攻撃の威力を逃がしながら受ける。瑠璃はその間に用意したファイアアローを私が射線を空けると同時に放つ。


「ゴォぉあ!」


 ファイアアローが直撃と同時にクーはオークへと肉薄し、オークの腹にダークボールを直接押し当てる様にして掌底を打ち込みオークを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたオークは壁に当たると苦しそうにするが、何故か壁に張り付いたままもがき続ける。よく見ると壁から石の棘の様な物が突き出しオークを串刺しにしていた。

 瑠璃とクーはそれぞれ火と闇魔法のアローを発動し、張り付けになっているオークへと放ちHPを削りきり所詮は呆気なく終了した。


(こいつら容赦ね~)


「勝ったみたいだね」

「うん」

「ルリさん、クー戦闘はどうでしたか?」

「やっぱり少し緊張はしますけど、大丈夫そうです」

「我は元のステータスとの違いがまだ掴みきれていないのじゃ」

「クーはあんまり心配してなかったけど、瑠璃も思ったより大丈夫そうだね」

「はい。レベルも上がったしこれならハーちゃんの役に立てますね」

「そう言えば我も上がったのじゃ」

「良し、じゃあこの調子で頑張ろう」

「「「了解」」」


 それからは一階ではさっきの戦闘の様に戦いながら相手の数を少しずつ増やし、二階に降りてからは瑠璃とクーの二人だけで戦闘して貰った、そのお陰で二人もそこそこレベルが上がった様だ

 途中何度か即席ゆえの連携のミスから危ない場面が有りつつも、二人共接近戦もこなせオールレンジで戦える為、比較的楽に三階に降りる階段前の安全地帯まで辿り着けた。


「でも、ルリちゃんのジュージュツ? って本当に凄いね」

「確かにあんな大きなオークを簡単に投げ飛ばしてたからね。ボクも教えて貰おうかな?」

「良いですよ。じゃあ時間がある時にでも教えますよ」

「あっ、ルリちゃん私も教えて欲しい」

「はい、エレオノさんにもちゃんと教えます」

「ルリさんも凄かったですけど、私はクーがご主人の【魔拳】スキルみたいな戦い方していたのに驚きました」

「アリシアから聞いて我も驚いたのじゃ。とは言え我の方が若干魔法よりで主様の方が体術よりじゃな」

「あ~、そうかも? 私は若干だけど物理の方が高いからね」

「うむ、じゃから我がスキルで覚えるのは【魔法拳】じゃ」

「何が違うの?」

「【魔拳】は体術寄りスキルで【魔法拳】は魔法寄りなのじゃ」

「それ分ける意味有るのか?」

「うむ、スキルになると威力に補正がつくからどちらのステータスに補正が付くかは大事じゃぞ」

「なるほどね」

「瑠璃先輩凄いですね! 私最初からあんなに上手く戦えませんでしたよ。白亜先輩も最初から普通に戦ってたってアリシアさんが言ってましたし、やっぱりお二人は凄いです」

「私は一応格闘技の経験が在りますから」

「私は躊躇するほど余裕なかっただけ」

「それでも凄いです」

「でも、二人共前衛も後衛もこなせるから凄いよね」

「ありがとうございます」

「ふふん、我は凄いのじゃ」


 確かに、ゲームと違って全部をコントロール出来る訳じゃ無いし、特化型よりも遠中近とオールレンジでこなせる人間が増えるのは有難いな。戦略の幅が広がる。


「HP気にしなくて良いのは羨ましいゴブ」

「確かにね。私なら突っ込んで行くよ」

「な、なかなかに能筋な発言じゃな……。とは言え痛い物は痛いから、あまり攻撃は受けたく無いのじゃ」

「ふむ。痛みが無ければ特攻自爆が……イケるな!」

「主様その考えは早く捨てるのじゃ!」

「まあまあ」


 〈マスター休憩中に一度、お二人のステータスを確認してみては?〉


(それもそうか)


 そして、私は瑠璃とクーのステータスを【鑑定士】のスキルで調べ始めた。

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