第477話結局聞いちゃった!?
「……うーむ。ここ何処だろう?」
突発的な鎧武者との戦闘。
明らかな格上との戦闘になんとか食らいついていたが、小石を踏んで踏み込みが浅くなったところに、カウンターをぶち込まれたところまでは覚えてる。
ふーむ。なんとか白打を捻り込めたから、死んではない筈だけど……まさか死んだか?
辺りを見回すがやはり全く見覚えのない場所だ。
一直線に伸びた綺麗な石畳、沢山の鳥居の中を走るそれは、鳥居の立ち並ぶ様と相まって壮観ではある。
あるのだが……最近このパターン多くないだろうか?
いきなりこんな場面転換したら、小説や漫画なら読者が付いて来れなくて批判モノですよ。しかもただでさえ龍の里に来てから何回目だよって感じなんだから。
まあ、私の知ったこっちゃないが。
にしても……。本当に何処だろうここ?
もう一度改めて辺りを見回すがやはり見覚えはない。感覚からして駄女神達の空間や、精神世界に近しい場所だとは分かるが、こんな風景は見た事がない。
まあ、これを風景と言っても良いのかはわからんが。
そう、確かに石畳と鳥居は壮観の一言だ。地球の風景ならさぞSNS映えする事だろう。
しかしながら石畳以外の場所、つまりは鳥居の外は何も無いのだ。
それは本当の意味で何も無い。
暗闇と言うのもおこがましい程の虚無の空間がそこにはあった。
光はおろか音さえも呑み込んで仕舞いそうな、何かが存在する事すら許されない。そんな雰囲気をビシバシと感じる。
きっとこの光景は万人が圧倒的な恐怖を抱くことだろう。
まあ、私は感じないのだが。
しかし、光源も何も無いのにどうして石畳と鳥居が、色までこんなにクッキリと見えるのだろうか? 謎である。
ある程度の観察を終えた私は、ここに突っ立っていてもしょうがないと歩き出す。
そのまま五分程歩いてみるが、変わる事のない一本道と鳥居、景色が距離も時間も全てを曖昧にし狂わせる。
変わらないと言っても歩かなければしょうがない。とはいえこうも変化がないと、まるで鳥居が無限にあるのではないかと思えてくる。
……無限? ふむ、試す価値はあるか。
自分の考えに引っ掛かりを覚えた私は、思い付いた事を試してみる事にした。
それは前方に向かって魔法を放つ事だ。
威力を無くして水弾をただ前に向かって放ってみる。すると水弾はある程度まで進んだところで、
「おっと。やっぱりか」
消えた水弾は私が予想した通り後ろから現れる。それを受け止めながら【照魔鏡】のスキルを使って辺りを観察する。
「あった」
視線の先、さっきの水弾が消えた辺りの鳥居の根元部分に、地面から吸い上げるようにえげつない量の力が溜まっているのが見えた。
よくよく観察すれば、鳥居と同じ色で何やら複雑な模様が描かれている。
うーむ……見た事がない術式だな。魔法関連でもないし、ドラゴンの使っている術式とも違う。ちょっと覚えとこ。
しっかりと観察して模様を覚えた後、鳥居に描かれた模様の部分をナイフで削る。
すると削った瞬間、遥か彼方まで続いていた石畳と鳥居が消え去り、荒れ果てた荒野のような風景と、枯れ果てたおどろおどろしい形の枯れ木が見えた。
しかしそれは近くの風景だ。
視線を遠くの方にやれば、続く荒野は何故か空間が歪んだように歪曲して見える。まるでこうあるべきという形を持たないような世界がそこにはあった。
更に視線の先には、大きな壁のような門が見えた。
どうやら先程までの鳥居は、本当に無限回廊だったらしい。そして鳥居や虚無の空間も、きっと感覚を狂わせる為にあんな感じだったのだろう。
てっきり風景描写を考えるのが面倒なんだと思ったが違うようだ。
一応あれがゴールっぽいな。
他に何も見当たらないのでとりあえず門を目指す。
辿り着くと遠目に見るよりも更に大きい。
観音開きの扉はバスの横幅程もあり、高さは更に倍程だ。特筆すべきはなんと言っても扉の周りの装飾だろう。
数多の種族の骨が扉にまとわりつくように、上から下までビッシリと絡みついている。それはまるであらゆる位置から、扉を開けようとしているかのような光景にも、身体を使って守っているようにも見える。
パッと見だけでも動物から人間、異種族にドラゴンや巨人の骨が大人から子供のものまであるようだ。
更にそれらに引っ掛かるように鎖が何本も垂れている。数本は扉の前にもかかってるが、そのほとんどが意味をなさず強引に引き裂かれたかのようになっている。
そして私が一番気になったのは扉の材質。
黒く光沢のある、滑らかでいて重厚な金属。
しかしそれでいて硬そうにも柔らかそうにも見えるそれは、何度も頼り何度も助けられ、ついさっきも同じような物を見た気がする。
もっと正確に言えば襲われた気がするんだよ。
「正解。それが地獄門と呼ばれるものだ」
口を半開きにしてポケーと門を見上げていると、不意に言葉を投げ掛けられ、声のした方向から飛びすさり戦闘態勢を取ると、一気に集中力を引き上げる。
そこには今までなかった大岩があり、その上には酷く愉しそうな顔で笑いながら私を見る一人の少女が座っていた。
床まで届く程長く白い髪、あどけなさが残る顔とは裏腹に、達観したような月日を感じさせる老獪な視線が私をじっと観察している。
服は黒で統一され所々にアクセントとして朱が混じり、袖の部分には見た事のない鮮やかな華が刺繍されている和装。
全体的に動きやすさを優先した肌色成分が多く、脚部分などはチャイナドレスのようなスリットが深く入っている。
特徴的なのはやはり肌の色だろう。
全身が赤く、所々に黒い刺青のような模様がある。そしてその額には漆黒の双角が生えていた。
見た目は普通の少女だが、全身から溢れている気配は怪物そのものだ。
抑えた状態でこれなのか、そもそも抑えるつもりがないのかは知らないが、今も肌がビリビリとする程の威圧感を放っている。
だからだろうか。そんな絶対的な強者を前に、相手が敵意を持っていない事を察した私は、さっさと戦闘態勢を解いてやり合う気がないとばかりに、身体から力を抜く。
それに驚いたのは少女の方だ。
まさかいきなりそこまで無防備を晒すとは思わなかったのか、笑い顔を驚きに変えポカンと見詰めると、さっきまでとは違う純粋におかしくて堪らないというような笑顔に変わった。
「私をここに呼んだのはアンタ?」
「ああ、そうだ。会いたかったぞ人の子。いや、ハクア」
「なんで知って、って言うのは今更か。アンタも駄女神達と同じ側の存在だろ?」
「ああ、自己紹介もまだだったな。と言っても今の
それを聞いてやはり……と、言うのが私の感想だった。
感じる威圧感が駄女神や龍神と同じ類いのものだったからそう聞いた……が、それにしては妙なんだよな?
確かに気配は圧倒的な上位者のそれだ。しかし私の感覚ではそれほど鬼神が強いとは感じていないのだ。
もちろん今の私では勝てないだろう。だが、逆に絶対的に手も足も出ない相手とは思わない不思議な感覚なのだ。
そんな私の内情を察したのか、鬼神はニコリと笑うと口を開き始めた。
「貴様の感覚は正しい。己は昔、怒りに任せ全てを破壊しようとした罪のせいで、他の神に力を封印されている」
いやいや、ちょっと待とう。怒りに任せて全部を破壊しようとして、他の神に封印されたってそれは邪神と言うのでは? つかもしかしてコイツ……いや考えるのをやめよう。
「安心しろ。この己は大罪ではない」
「あっ、それは良かった」
良かったぁ。実はコイツ憤怒の邪神とかってオチで、また変なフラグ建設されたかと思った。
「まあ、憤怒の邪神は封印に失敗して抜けだした己の力の方だがな」
「結局聞いちゃった!? 変な事言うのやめてくれない!?」
やめてよ! 変なフラグ建てないでよ!?
「貴様は己の眷属。いつか対峙する時が来るだろうな」
「ぎゃーー!? お前そろそろ止まれや!?」
こうして私は鬼神に会って早々に変なフラグを建設されたのだった。
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