第86話ある日 森の中 勇者に 出会った  (森のくまさん調)

「はぁ~、こんな物がこの世界に有ったとは」

「ハクア嬉しそうだね」

「はい、良かったですねご主人様」

「でも、ボクも初めてだから嬉しいかな」

「我も初めてじゃ」

「楽ゴブ」


 現在私達はユルグ村から商業都市アリスベルへと続く街道を移動している。


 そして重要なのは徒歩では無く乗り物に乗っている事だ! しかも竜車だって言うんだから、テンションが上がらない訳がない。


 竜車とは元の世界の馬車の様な物だ。勿論、馬車自体も存在しているけどそれは王都などの大きな都市の中だけでの乗り物らしく、一般的に移動と言えばこの竜車がメインのようだ。

 それにはちゃんとした理由も有る。


 それもまあ、簡単に言ってしまえばモンスターのせいだ。


 村と街、街と街を繋ぐ街道にもモンスターは現れる。

 だから馬ではむしろモンスターを引き寄せる餌になってしまう。その点竜であれば小型とは言え龍の眷属、そこらのモンスターでは勝つ事は難しく滅多に襲われる事は無い(勿論ゼロと言う訳にはいかない)

 そしてもう一つの理由は単純に馬よりも竜の方がスタミナが多く力も有る為、荷を多く積め距離が有るほど馬より早く着けるらしい。


 まあ、そのぶん値段はまあまあ高いけどね! 皆にはそんなに遠く無いって反対されたけど押しきりましたとも! いや、だって竜だよ? 乗るでしょ普通。


「私も竜欲しいな」

「居てもしょうがないですよ?」

「いやぁ、皆でこうやって旅するならその内って事」

「確かにハクアの気持ちはわからなく無いよね」

「それはまぁそうですけど」

「その内検討しよう」

「うむ、我も賛成じゃ」

「ゴブ♪」

「でも【騎竜】のスキルはどうするのかな?」

「えっ? 何それ?」

「あっ、そっか、竜車を使うには竜を買うだけじゃなくて、そのスキルが無いと走っちゃ駄目だったっけ?」


 え~、運転免許みたいな感じ!?


 〈大体あってます。竜車を操り村や街に入る際にはギルド発行の【騎竜】スキルの証明証が必要になります〉


 その言葉で私はテンションが下り竜車から外を眺める。


 良い景色だな~。


「うわっ、一気にテンション下がった」

「ご、ご主人様? 元気出してください。あっ、ほら、お弁当ですよ~」


 アリシアさん? 私はそんなんで簡単にテンション上がらないよ? あっ、玉子焼き美味しい。やっぱりお弁当は卵焼きだね! でも、おにぎりも食べたいな。


「でも、アリスベルなら【騎竜】のスキル位なら売ってるんじゃ無いかな?」

「本当! モグモグ」

「ハクアはしたないから食べるか喋るかどっちかにするかな」

「モグモグ」

「そこで食べるの!?」


 いや、だってお腹すいてるし。美味しいし。

 でも、この世界実力以外なら意外に融通効くよね? 魔法も制御さえ出来てればレベル低くてもいろいろ出来るし、スキルも熟練度で覚えたり、昨日聞いたスキルの種で覚えたりも出来るからね。

 それにこれは私個人だけど前世のゲーム知識が異様な程に役立つ。

 シューティングで反射神経と見切り、ネトゲで相手の弱点や行動パターンを確認する技術、それと何と言っても格ゲーだね! 最近のはリアルを追求して、本物の動きをモーションセンサーとかで調べて作ってたりするのがあるから、格げーでフレーム単位の見切りをして、ネットチャンピオンになった事もある私は、体が動けばいろんな動きが再現できるしね。

 そのお陰で今までの格上との戦いも何とか勝てた様な物だ。


 〈普通は見て覚えた所で、動きを真似できる訳では無いと思いますけど……〉


 そうでもないよ?


 そんな事を考えながらゆったりと竜車の旅を楽しんでいると次第に景色は森へと変わりその中を走っていく。


「ご主人様、この森を抜けた所で今日は野営をするようです」

「流石に速いね。徒歩だったらここまで二日は掛かるよ」


 ほらっ、ほらっ、やっぱり乗って良かった。


 私がそんな事を思いながらアリシアを見ると仕方なさそうに「そうですね」と言っていた。何故だろう視線が生暖かい気がする。


「うわっ!?」


 話をしている最中、行者のおじさんの叫びと共に竜車がブレーキを掛けたかの様に横滑りしながら急停車する。


「何? まさかモンスター!」

「そんな! 竜にケンカを売るモンスター何て滅多に……」


 アリシアが言いかけた言葉で全員が私を見る。


 私は女神に呪われている!


『シルフィン:失礼な! ただちょっとスキルをあげただけです』


 それが問題になってんだよ!!


 〈マスターどうやらモンスターでは無いようです〉


 じゃあ何?


 〈行き倒れのようです〉


「「「はっ?」」」


 私達は訳が分からずそのまま竜車の外に出て事態を確認する。

 するとそこには茶パツをサイドテールにしている女の子が倒れていた。


「うう~、お腹空きました。しくしく」


 うわ、まさしく行き倒れだ。さて、どうしようかな?


 ・助ける

 ・見捨てる

 ・襲う

 ・とりあえず剥ぐ!


 最後だけ力強い!?


 〈マスター!〉


 な、何? どうしたのヘルさん? 変な事なんてこれっぽっちも考えてませんよ!?


 〈これを見てください〉


 はっ?


 名前:神城 結衣

 レベル:10

 性別:女

 年齢:16

 種族:人間

 クラス:付与師

 称号:異界からの勇者


 えっ? もしかして……勇者。


 〈はい、そうです〉


 ある日 森の中 勇者に 出会った♪

 (森のくまさん調)


 〈現実逃避している場合では有りませんよ〉


 ですよね~。でも、まさかこんな所で勇者と出会うとは。しかも行き倒れ。


「彼女、勇者何ですか?」

「不味いのじゃ」

「ゴブゴブ」

「初めて見た」

「ボクもかな」


 こうして私達は初めて勇者(行き倒れ)とエンカウントした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る