第8話貴女は、一体なんなんですか?

「……ダ……マ、レ」


 私の口からやっとの事で絞り出た脅しのような言葉を聞いてエルフは黙ってしまった。


 やっちゃった。


 〈……マスター? 何故第一声が脅迫なんですか?〉


 すいませんでした!! でも、でも、初対面の人と話すの緊張するし、このエルフが捲し立ててくるし仕方が無かったんだよ!!


 〈はあぁ……、言い訳は良いので早く続けて下さい〉


 はい、直ちに。


 そうヘルさんにキビキビと返事をして私は再びエルフに向き合う。


 う~ん、改めて実物見るとやっぱりエルフって良いな。今までちゃんと見てる余裕無かったけど──このエロフ、じゃなくてエルフ、女性と言うよりは女の子って感じだね?


 むしろ呼び方はエルフっ子、見た目は17~18才くらい? 長い金髪に長い手足、目も大きく可愛らしい正に美少女!


 しかも、なんと言っても目を引くのがこの立派な胸部装甲部分、厚い上に本当に色々弾きそう!!


 更にゴブリンに捕まって服を破かれているので、私ですらドキドキしてくる!!


 ───これは、新しい扉が開く予感!!


 〈……マスター?〉


 おふ! ヘルさんがかつて無いほど機嫌悪い。


 そんな風にしていたら、またエルフっ子が暴れ出しそうになったので慌てて口を押さえる。


「む~!! ふぐ~! む~!!」


 泣きながら指を噛もうと反抗してくる。


 ちょっと恐い。


 そんなエルフっ子に私は──。


「た……す、け……るつい……て……こ、い」


 そう言うとまたエルフっ子の目が、私の事を見ながら有り得ない物を見るように驚愕している。


 まあ暴れなくなったからいいか?


 〈もう離しても平気ですよ〉


 えっ、そう? 私はヘルさんの助言に従い恐る恐るエルフっ子の口から手を離す。するとエルフっ子は震えながらも話し掛けて来てくれた。


「あっ、貴女は、一体なんですか? 言葉を話すだけでなく私を助けるなんて!」


 ええ~!! なにその質問。


 〈的を射てると思いますよ? そもそも言葉を話すモンスターは知能が高い個体だけですから。その中でも特に知性が低いと、言われているゴブリンなら特に有り得ないでしょう〉


 しかもゴブリンは獲物を巣に持ち帰れば、死ぬか、運良く助け出されないと、巣から出られないのはアースガルドの常識らしい。やだ怖い。


 マジか! そんな常識で私にこんな事言われればそりゃ疑うわ。そして嫌な常識を聞いた。


「しん……じ、ろ」


 私は無理矢理エルフっ子を立たせようとするが、やはりこんな怪しい奴の言う事は信じられないのかエルフっ子は抵抗する。


「いやぁ!! やめて!」


 〈マスター、出て行ったニ匹のゴブリンが戻ってきます〉


 なに!? ヘルさんの言葉に耳を澄ませてみると、確かにこちらに向かって気配が近づいてくる。


 不味い! 私は部屋の松明を一本残し全て消しさると、殺したゴブリンの死体を入口に一番遠い所に投げ捨て、無理矢理エルフっ子を連れて、部屋の隅に積まれている死体の山に飛び込む。


「むむ~!! んふ~!?」


 死体の山に突っ込んだ事でエルフっ子が泣きながら暴れる。


 ん? なんか柔らかい。って、それどころじゃないから! 良いから静かにして~!!


 無理矢理両手でエルフっ子を取り押さえなんとか動きを封じる。すると──。


「ギッ! ギギ!!」


 エルフっ子の動きを封じ込めた所で、ちょうど良くゴブリンが帰ってきた。危うく見つかる所だったが、息を殺して間一髪隠れる事に成功する。


 その頃には状況をようやく飲み込めたエルフっ子も体をビクッと震わせ静かになる。


 そんな私達を他所に、ゴブリンは仲間の死体を見つけると近付いていく。


 その隙に私はエルフっ子の手を掴み、死体の山からそっと脱け出し入口へと歩き辿り着く。──が、カツンッ! と、エルフっ子が足元の小石を蹴飛ばし音がする。


「ギッ!?」


 〈マスター、気付かれました〉


 あーもう、何してくれてるのこのエルフっ子! ドジっ子属性か! 現実のこんな場面でやられても嬉しくないんだよ!


 やはりと言うべきか、手を引きながら必死に逃げるが後ろからゴブリンが追ってくる。


「ご、ごめんなさい」


「はや、く」


「は、はい」


 向かうのは勿論ゴブゑとの合流場所。


 アイツら意外に速い!! もしかして残ってたのが一番弱かった!?


 〈調べたところレベルは4と5でした。このまま進んで! あの木の所です〉


「ギギ~」


 ゴブゑなんでここに? でも、ちょうどいいや。


 私はゴブゑに木の陰に隠れるように伝える。そして、エルフっ子の手を引き少しスピードを落とす。


「な、何を、追い付かれますよ!?」


「し、んじ、て」


 私はもう一度同じ台詞をエルフっ子に言う。すると今度はエルフっ子が首肯く。


「き、の……よ、こあい、ず、だす、とべ」


「はい!!」


 今度は声を出して返事をしたエルフっ子と共に、ゴブリンに追い付かれるギリギリまでスピードを落とし近付いていく。

 そしてエルフっ子の手を引き合図を送ると同時に、私達はそれぞれ左右に思い切り飛ぶ。


「ギギッ」


「ギッ!」


 予想通り急激な私達の動きにゴブリン達は対応出来ず、予め仕掛けてあった落とし穴に落ちていく。


 しかもこの落とし穴。中に鋭利な木の棒が刺さっているので、落ちれば大ダメージは免れない。


 私とゴブゑは呆気に取られるエルフっ子をそのままに、ゴブリンを仕留めに掛かる。


 まず、ゴブゑが自分の近くにいた右側のゴブリンに、木の棒を降り下ろし何度も叩く。ゴブリンはゴブゑの攻撃に対応していてこちらにまで気を配る余裕は無い。


 そんなゴブリンの背後から近付き、私はまた後ろから心臓を一突きにする。


「ギギャ~!!」

 

 ▶ゴブ子のレベルが6に上がりました。


 ▶ゴブゑのレベルが6に上がりました。


 悲鳴を上げゴブリンが事切れた──が。


「危ない」


 エルフっ子の声に勘を頼りに思い切り横に飛ぶ。だが、反応が遅れた分、回避が遅れ腕を深く切られた。


 くそ、レベルアップの音で反応が遅れた! アナウンスが未だに何か言っているけど、聞いていられるほど余裕が無い。


切られた腕が熱い、痛い、熱い、痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い。


 傷のせいで集中力を欠いた私が、目の前に迫っている白刃に気が付いた時にはもう体が動かなかった。


「ギギ~!」


「うぁあああ!」


 ゴブゑの声とエルフっ子の叫びが重なると同時に、私の体に衝撃が走る。


「きゃあ!!」


 飛び込んだエルフっ子は、運良く短剣の柄に当たり頭を打たれ飛ばされる。そこに今度はゴブゑが飛び込み、必死に木の棒で応戦する。


 〈マスター! しっかりして下さい〉


 そうだ。私はもうニ匹のゴブリンを殺したんだ。向こうだって必死に殺しにくる。それが当たり前の反応だ!


 しっかりしろ私! 自分に喝を入れると、頭を振って気合いを入れ直し、ゴブゑに下がるように伝える。


「ギギ!!」


 私の言葉を聞いてゴブゑは下がり、エルフっ子を隅に寄せる。そして私はゴブリンに向き直る。


 ゴブリン

 レベル:5

  HP:20/200

  MP:0/0


 ゴブ子

 レベル:6

  HP:100/140

  MP:60/60


 レベルは私より1つ低い。


 けど私は元々ステータスが低いから向こうの方が強い──はず、HPは残り20だから上手くすれば後一回、ちゃんと当てるだけでも勝てるはず。


「ギギ~!!」


 ゴブリンがナイフを振り回しながら迫って来る。


 今度はちゃんと見て余裕を持って回避。


 うん。スピードはそこまで速くないから避けられる。


 回避した私に再び同じように突っ込んでくるゴブリンに、すれ違い様に足を引っ掛けて転ばせ、追撃でナイフを突き刺そうとする。


───が、間一髪その攻撃は回避されてしまう。


 しかし相手が落としたナイフを拾い、ゴブリンが起き上がるのに合わせてナイフを投げる。


 慌てたゴブリンは体勢を崩し、私はその隙を逃さず、今度こそ真正面から心臓にナイフを突き刺すのだった。


「ギッ、ギギャ──」


 ▶ゴブ子のレベルが7になりました。

 HPが160に上がりました。

 MPが75に上がりました。

 物攻が15に上がりました。

 物防が15に上がりました。

 魔攻が19に上がりました。

 魔防が19に上がりました。

 敏捷が30に上がりました。

 知恵が150に上がりました。

 器用が100に上がりました。

 運が30に上がりました。

 スキル【急所攻撃LV.1】習得しました。

【喰吸LV.2→LV.3】になりました。

【鑑定士LV.2→LV.3】になりました。

【マヒ耐性LV.5→LV.6】になりました。

【言語LV.4→LV.5】になりました。

 スキルポイントを5獲得しました。


 ▶使い魔ヘルがスキル【念話】を獲得しました。


 ▶ゴブゑのレベルが7に上がりました。


 ふうっ……勝てた。しかもレベルアップで傷治るんだな。今まで怪我しなかったから分からなかった。


「ギギ~!!」


「終わったんですか?」


 いつも通りゴブゑが抱き付いてきて一緒にエルフっ子も歩いてくる。


 〈ここは巣から近く危ないので、合流地点に移動しましょう。初めての戦闘、それも連戦でお疲れでしょう。あそこなら巣から離れているので、マスター達以外はあまり近寄りません〉


 確かに疲れからか頭が少しぼうっとする。


 〈近いと言っても洞窟までは、多少の距離があるのであそこで一休みしましょう。あそこなら発見も容易いので敵を発見次第お伝えします〉


 そうだね。私は殺したゴブリンの死体の一部を切り取る。


「それを持っていくんですか?」


 エルフっ子の言葉に頷きつつ、ゴブゑとエルフっ子を連れていつもの休憩場所に行く。目的地に着くと何故かエルフっ子が私へと頭を下げてきた。


「まず、助けて下さってありがとうございました。それと、さっきは色々とすみませんでした!」


 色々。と、言うのは私の言葉を疑ったり音を出した事だろうか?


 私はエルフっ子に首を振りながら「きにし、てな、い」と、エルフっ子に伝えてあげる。


 おおっ、少し喋りやすくなってる!!


 〈レベルが上がったようですからね。一段落したら確認しましょう〉


 了解。


「あの、貴女は……一体なんなんですか?」


 そのエルフっ子の言葉に、私は今までの事をどう説明したものかと考えていると、ヘルさんからいきなり〈マスター〉と、呼ばれた。


 どうしたの?


 〈よろしければ私が彼女に説明しましょうか?〉


 えっ、そんな事出来るの?


 〈はい、先程マスターがレベルアップした事で新しくスキルを獲得しましたから。それを使えば可能です〉


 じゃあ、お願いします。


 〈分かりました。では──〉


「えっ!! な、何!? 頭の中に急に女の人の声が!?」


 おおっ、慌ててる、慌ててる、こうして見るとやっぱり可愛いな~!


 ヘルさんはその間も私が前世で死んでから女神に会い、この世界に転生した事を話していく。


 どうでも良いけどそんなに全部話して大丈夫なのかな? 普通転生とか誰も信じないから話さない方が良いんじゃない?


 そんな事を思っていると、ヘルさんのエルフっ子への説明が終わったようだ。


「はあ、貴女は転生者なんですね」


「しん、じ、るの?」


「ええ、私は会った事はありませんが。そういう方がたまにいらっしゃるというのは知っています」

 

 〈転生者の方は素性を隠そうとするようですが。ごく稀に自分から公言している者も居るのでそこまで不思議ではありません〉


 ええ~!! そうなの? 素性隠してチート無双だぜ! が、基本じゃないの?


「あの、貴女はこれからどうするつもりですか?」


「ごぶ、りん、つ、ぶす」


 〈そうだったんですか?〉


「そう……ですか」


 私は頷きながらヘルさんに理由を語る。


 簡単に倒せるとも負けないとも思ってないけど、私達が生き残る為にも追われるよりも、ここで戦った方がやり易い。


 何よりゴブリンの中でも最弱の私達が進化するには、ここのゴブリンを倒すのが時間的にも戦力的にもベストだと思う。


 〈ええ。そうでしょうね。マスターから提案がなければ私も同じように提案するつもりでした〉


 おっ、良かった無謀とか言われるかと思った。


「あの、私を貴女の奴隷にしてくれませんか?」


 エルフっ子がとんでもない事を言ってきた。


 あまりの事に私がフリーズしていると、自分が何を言っているのか分かったエルフっ子が顔を真っ赤にして説明してきた。


「あっ、あの、違うんです。そういう変な意味じゃなくて、とにかくこれを見てください」


 そんな事を言いエルフっ子が服を脱ぎ始めた。

 服に押さえつけられていた豊かな胸が出てきて、エルフっ子は恥ずかしそうに胸を隠しながら、後ろを向いてその長い髪を横に避けた。


 ソコにはエルフっ子の透き通るような肌には合わない模様があった。


 〈あれが、奴隷に科せられる奴隷印です〉


「私は少し前にこの辺りで居なくなった姉を捜しに来たんですが。その姉が見付からず、五日程前に帰ろうと思ったところで、奴隷商に捕まり奴隷になりました」


 この辺りで居なくなったエルフって──まさか!!


「ヘルさんに姉の事はお聞きしました。その事で貴女を恨んでいません。でも、ゴブリンは違います! 私のたった一人の家族だった姉を弄んだゴブリン達を許せないんです。だから貴女の仲間に入れてほしいんです」


 それなら、一緒に戦えば良いだけなんじゃ?


「一緒に戦えば良いだけ。と、思うかも知れませんが。私はもう奴隷商にこの奴隷印を付けられてしまったので───普通の生活に戻るにはこの奴隷印を消すための大金が必要です」


 〈彼女の言う通り、なんの後ろ盾もない状態ではその額を稼ぐのは難しいでしょう〉


「それに、一度契約が結ばれれば、幾らお金が出来たとしても、主が認めない限りずっと奴隷からは抜け出せません。だったら私は私の事を助けて下さった貴女の奴隷になりたいんです!」


 確かに、それを聞いたら誰に売られるか分からないんだから、自分が認めた人に主になってほしいかも。


「それに、これは私から貴女に払う報酬でもあります」


 報酬?


「貴女は私が居なくても行動するでしょうが。姉の敵討ちを一緒にさせてもらう、私からの私自身を賭けた報酬です。だからどうかお願いします」


 そう言ってエルフっ子は頭を下げた。


 どうしよう?


 〈私は賛成です。先程も言った通り戦力はあるに越した事はありません。何よりもエルフの奴隷は希少です。どのみち貴女の奴隷に成れなければ彼女は一生奴隷のままでしょう〉


 そう言われて私は決心する。


 まあ、こんな可愛いエルフっ子が仲間になるなら私も嬉しいしね。


「ど、うすれ、ば、いい?」


「私を奴隷にしてくれるんですか?」


 首を縦に振り肯定する。


「では、この奴隷契約石を私に使って下さい」


 エルフっ子からアイテムを受取り私はアイテムを使う。


 ▶奴隷契約石をアリシア・アールヴに使用しますか?

 はい

 いいえ


 勿論はいを選ぶ。すると──。


 ▶アリシア・アールヴが貴女の奴隷になりました。

 

 ▶スキル熟練度が一定に貯まりました【奴隷術】のスキルを獲得しました。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いいたしますご主人様」


 ぶほっ! ご主人様!! ご主人様と来たよ!? ヤバいテンション上がる。


 〈……マスター〉


 こうして私は二人目の仲間。


 眷属兼奴隷のエルフっ子アリシアを仲間にした。

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