第556話それなんて蛮行?

「それにしてもいきなり襲撃とか過激すぎません今回の修行」


「あー、ハクア。言い難いっすけど」


「ん?」


「水龍王様が攻撃したのはハクアだけなの」


「なんで?」


「いや、わしらもビックリしたのじゃ。ハクアが周囲を感知したと思ったら、水龍王が後ろに移動し始めていきなり攻撃じゃからな。……しかも殺意高いし」


「ほんとにね! どゆこと!?」


「ハクアちゃんなら大丈夫だと思ったから、おばあちゃんもちょっとはしゃいでしまったのよ」


 その類の無条件の信頼やめてもらえると嬉しい。


 それは無理なので諦めましょう白亜さん。


 止めろー! 思考部分の地の文に割り込んでツッコミ入れるの止めて下さらない!?


「って、あれ───」


「大丈夫ですか白亜さん?」


 いつも通り話していたら急にクラリと来た。


「あー、力が足りてないんだね。ちょっとまってて」


 そう言って私の背中に手を当てたソウ。


 するとそこから暖かな何かが伝わってくる。恐らくは気と魔力をおくってくれているのだろう。


 と、いうか。


「うな〜」


 なにこれ気持ちよ。


「良いでしょ? これマッサージの時にやるとめっちゃ気持ち良いんだよ」


「もっと早く知りたかった情報」


「にしても、急にどうしたんっすかハクア」


「白亜さん」


「何?」


「いきなり霊力を使い始めるのは流石だと思いますが、それはまだ消耗が激しいので、今はまだ【第六感】で覚えた【魔気感知】を使った方が良いですよ」


 ……ん?


「あっ、本当だ。ハクちゃんったらもう霊力を使い始めてる。無意識だろうけど流石にまだそれは早いって。もうちょっと感度を抑えて」


 んん?


 あれ、なんだろ。嫌な汗が流れてくる気がする。


 言っている意味が分からない……いや、分かりたくない。


 しかしここは確認しないといけない場面なのだろう。


 そう、私が手に入れたスキルが【第六感】ではなく【霊圧】スキルだと言うことを!


「白亜さん」


「ひゃい!」


 タイミングを図りながら、ちょっと聞き間違えや言い間違えの可能性を信じて、皆の話に聞き耳を立てていたら先手をうたれた。


 テアの目は獲物を見付けた猛禽類、遊び道具を見付けたネコ科の目、そしてそれらを内包したドSの瞳のそれだ。


 さっきまで私の背中に手を当てていたソウは、いつの間にやら私をヌイグルミのように抱き抱え、ホールドの体勢である。


 ガッツリとテディベアさんホールドされとる。


 こうなったら腹を括るか。


「あの……一つお聞きしたいのですが」


「なんですか?」


「えっと、五感を封じられた今回の修行で得るスキルって───」


「【第六感】スキルね」


「ですよねー」


 食い気味に封殺されたなり。


「それで、ハクアちゃんは何を覚えたのかしら?」


 なかば確信しつつも聞いてくるあたり、確証はないのだろうがここは正直に話す事にする。


「えーと【霊圧】ってスキル覚えちゃった」


「「「……え〜!!」」」


「なんでっすか。どうしてっすか。何があるとそうなるんっすか!?」


「なんか知らない間に追い抜かされたちゃったの」


「本当になんでもありじゃなハクアは……」


「くっ、妾ですら覚えたばかりだと言うのに」


「ハクア。凄い」


 純粋に褒めてくれるのがシフィーだけというね。


「ひっ!?」


「あーあ……」


 私の言葉になんのリアクションもないと思ったら、テアとおばあちゃんの二人が静かに嗤う。


 その姿に思わず悲鳴が出る私と、明らかにやっちゃったね感が強い言葉を吐くソウ。


 まって今日も今日とて私のせいではないと思うの!


「あらあら、どうしたのハクアちゃん?」


「いや、そのなんとなく?」


「フフッ、面白い。本当に白亜さんは退屈しませんね。何がどうすればそうなるのかは知りませんが、こうなってしまったなら早々に仕込みましょう」


「ええ、そうですね。はぁ、こんなに予想が出来ない面白い子を育てられるだなんて、長生きはしてみるものですね」


「ええ、とっておきですから」


「あらあら、羨ましいですわ」


 楽しそうに話す二人から顔を背け、後ろに居るソウを見る。


 きっと今の私は雨に打たれた捨て犬のような目をしているのだろう。私が視線を向けると全員が一斉に顔を背けた。


 うわん。


「ではまずは【第六感】ではなく【霊圧】を覚えたと言ったという事は、白亜さんは【第六感】を覚えてはいないんですね?」


「うん」


「……なるほど、ではまずは【霊圧】を含めたその周辺について話しましょう」


 あっ、それ助かる。


 正直、ここに来てから仙力やらマナやら、鬼力やら竜力やらと、色んなの出て来たのにまだ増える事にビックリしてるから。


「先に制御面からの方がいいのではないですか?」


「確かに水龍王の言う事は最もだけど、それは普通の場合だね。ハクちゃんの場合、経験上色々とすっ飛ばした時は理論を教えた方が早い」


「ええ、理解力と適応力はずば抜けていますから」


 褒められてるんだよね。褒められてるんだよね!


「まず初めに言うと【第六感】とは本能と無意識を利用して、五感以外の感覚、外部刺激以外を感じ取ることが出来るものです」


 つまりは気や魔力、それに視線なんかの、実際にあっても感じ取れないはずのものを感じる感覚か。


「そう、そしてその【第六感】は霊力を感じるゲートにもなる」


「ゲート?」


 通常【霊圧】とはやはり私が考えた通り、存在としての格のようなもの、それが成長することによって魂の重さが増し、存在感を含めた格が成長する。


 そして霊力とはそこから派生する力を指すらしい。


 霊力は気や仙力、魔力やマナなどを引き出す役割を持ち、それが上がる事でより多くの力を扱うことが出来る。


 だからいくら修練を積んだところで、この魂の格以上の力を引き出すことは出来ないし、その魂の格に見合った力すら、引き出し切るには人生レベルの修練が必要になる。


 しかし通常、この霊力は無意識領域の奥深くに眠っていて手出し出来ないもの、それを可能にするのが、本能と無意識の領域、境界線にある力でもある【第六感】なのだ。


 そして【第六感】を完全にコントロールすることで、ゲートを開き無意識を扱う権限、霊力にアクセス出来るのだそうだ。


 だがここまで出来ても霊力を扱うのは簡単ではない。


 無意識は全体意識の多くの割合を占め、あまりにも広く深い、広大な内宇宙は扱いを間違えれば、自我の崩壊にも繋がる諸刃の剣なのだ。


 ちなみに、ドーピングなどで一時的に扱う力を上げる行為は、文字通り魂を燃やし、すり減らす事でその権限を無理無理上げる行為らしい。


「つまり、無意識を自在に扱う事で、ようやく魂に触れられて、そこから更に霊力を少しづつ使えるようになるはずなのに、私はそれを全部すっ飛ばしたって事?」


「ええそうです。ゲートも開かずにゲートの向こう側に入り、霊力を使う為に開けるゲートを、内側から無理矢理に霊力を使って開けている状態です」


 oh......。


「まあ、簡単に言えばそうだけど、実際はそんなに簡単じゃないよ。ちなみに分かりやすく例えると、ハクちゃんは建物に屋上から侵入して、床を叩き壊しながら一階に下りて、無理矢理壁から出て来たようなもんだからね」


 それなんて蛮行?


 白亜さんがやった事です。


 ハクちゃんの行動だね。


 だから最近ヘルさんですらやらなくなった脳内ツッコミしないで下さらない!?

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