第557話予想以上に切羽詰まった状態だった!?
ふむ。まあつまりは、今まで魔力や気が増えていたのは、レベルアップで魂が成長していたからで、それを自身の力で練磨するには霊力を扱える必要がある。
そして何よりも、ここから更に上を目指していくに当たって、霊力を鍛えて、力の質を上げていくのが課題になっていくのか。
「ええ、だいたいそんな認識で大丈夫です」
「まあ、言うほど簡単じゃないはずだけど、ハクちゃんはやっぱり簡単に飛び越えちょったね」
いや、私のせいじゃなくね?
「ついでに言うと、霊力を扱えるようになれば気力や魔力に、純粋に霊力の力が上乗せされるよ。それで霊力を防げるのは霊力だけだから、その分純粋に威力アップだし、覚えないと危険だね」
なるほど、出力アップに霊力がプラスで威力アップ。そしてそれを防げるのも霊力だけと。
「つまり、他作品で言うと念───」
「違います」
「そう、念だよ」
「違います」
「えー、じゃあスタンド?」
「それも違います」
「うーん。テアさんはそう言いますけど、分かりやすく言えばそれが一番わかりやすいじゃないですか」
「それは認めますが、認めたらダメなものもあるんですよ」
元女神としてはその辺シビアらしい。駄女神も利権関係には敏感なので神ともなると大変なのだろう。まあ、私は関係ないが。
「でもそんなに違うの」
「違いますよ。試しにやってみましょう」
そう言うとテアは私に向かい手のひらを突き出す。
「これは何もしていない状態。そして───」
次の瞬間、手のひらを中心に雰囲気が変わる。
正直に言おう。
怖い。
何がなのかは分からない。分からないが、テアが言葉を区切った瞬間から、自分の中の全てが危険だと警報をならし続ける。
「こんな感じですね」
これはダメだ。
知っていると知らない、ここにこんなにも大きな差があるとは思わなかった。
最低限、自分の身を守れるすべがなければ何も出来ずにただ殺される。そんな未来しか見えない。
そしてここで私は朧気ながら理解する。
ステータスを魂の強さと評したが、あれは霊力なのかもしれないと。
レベルアップで魂が強化されると同時に霊力も強化される。そうすることで魂から溢れ出す力である霊力、つまりステータスがアップする。
そして恐らくだが、霊力が強化されると同時にほんの少しだが、霊力の欠片、仮に霊子とでも呼べるものが攻撃や防御などの、各行動に混ざるのだろう。
だがそれは毎回ではなく、さっきの私のように行動と思いが完全に一致して、何がしかの条件が全て揃った時に少し混ざる程度。
だから私も、同じようなステータスの奴が同じスキルを使っているのに、脅威に感じる時とそうでない時があったのだと思う。
そしてその行動に霊子が混ざりやすいもの、それがステータスの値が高い成長しやすいもの、魂の成長方向なのだろう。
更に霊力の存在を知ることによって、怒りや感情の昂りでステータスがアップする、漫画やアニメのような仕組みも説明出来る。
霊力は精神や体調による影響が大きい。
ステータス=霊力だとすれば、感情の昂りで魂が揺さぶられ、無意識の内に一時的だがゲートが開き、霊力が過剰に供給される状態になる。
だが、そうしてこじ開けられたゲートは、本来扱えない力。
その代償として感情の昂りで一時的に力が増した後、反動で消耗した霊力が回復するまでステータスが下がったりするのだろう。
簡単に言えば力を得る代償に霊力を前払いしていると思えばいい。
そうして無理に引き出した場合、消耗した霊力を強制的に補う状態にするのがオーバーフロー。そのまま霊力を使い切るまで暴れるのが暴走なのだろう。
「驚いたわね。まさかここまで理解出来るなんて。これがハクアちゃんが霊力を会得出来た理由かしら?」
「わしも同じような説明は受けたがそこまでは思い至らんかったのじゃ」
「ほんとなの」
一度自分の中で整理した情報を、確認も含めて全員で共有するために話すと、おばあちゃん達はしきりに感心する。
ちょっと照れる。
「まあ、皆には当たり前にあったものだから余計だろうね。私には馴染みないものだったし、全幅の信頼置くにはステも低い、皆ほど強ければ私も大して考えてなかったやも?」
「ハクアの居た世界にはステータスが無かったんすよね?」
「うん。気はあったけどこっちみたいに自在に使う感じじゃなかったよ。攻撃の瞬間にとか、防御の瞬間にとかって使い方だった。私の知ってる限りでは魔力も無かったしね」
「いえ、魔力はありましたよ」
「まじで?」
「まあ、知らないのも無理はないよ。あっちだと気よりも更に力が希薄だから」
まじかぁ。知らんかった。
「付け加えれば向こうは魔法ではなく魔術ですね。少ない魔力を化学と合わせる事で奇跡を再現する。実現するための奇跡の御業。あれは地球の粋たる技術の一つですよ」
あー、魔術ってそんな扱いなんだ。
「でも、だからこそハクアちゃんは力の扱いが上手いのかもしれないわね。少ない力を効果的に使う事に慣れているのかもしれないわ」
「あー、確かに私らならどんだけ一発でぶっぱなせるかって感じっすからね」
やだ、脳筋。
ただまあ、色々と聞いたけどつまり霊力とは、肉体の素の力+気力+魔力に乗っける事が出来る第四の力。
霊力を鍛える事で気力や魔力の貯蔵を増やせるし、出力、力の質も向上する。
霊力は霊力でしか防げないので、ステで劣る格下でも霊力が使えれば、霊力を使えない格上にも勝てるようになるほど重要なファクター。
精神、体調にも左右されやすいが、感情の昂りなどで一時的なパワーアップも可能だが、その後、相応の代償もある。
「と、こんな感じ?」
「ええ、わかりやすいまとめ方だったわ。加えて言えば言うほど簡単なものではなないって事だけど、ハクアちゃんの場合はそこはもうクリアしてるものね」
全員そんな目で見るのやめようか? でも、これでわかった。
霊力という名の魂の力。
それが私の中に今まで漠然とあった、この世界の欠けていたピース。
体験して、理解して、詳らかにすれば、私の今までの行動に、今までとは違う意味が生み出され、これからの全てが劇的に変化する。
これが私に今必要なピースか。
あれ? でも……。
「はい。一つ質問」
「なんですか?」
「霊力が強いなら、魂そのものである幽霊。レイスとかのアストラル体、その系統の魔物とかってもっと強くていいんじゃない?」
「あっ、確かにそうなの」
確かに強い個体も居るには居るが、それでもやはり聖属性の魔法の前にはほぼ無力。
打撃は通じないが、光や聖属性がなくとも魔法は通じるから、余程強い個体じゃなければ苦労はしない。
「私も苦労した事なんてないっす。あいつらなんて息吹きかければ勝手に消えるし」
注、ドラゴンは高純度のマナの塊のようなものなので、その息には魔力の成分が意識しなくても含まれています。
なんか注釈はいった!?
「それはお前らだけでい。で、どうなん?」
「いい質問です。白亜さんの言う通りアストラル体の魔物は魂の状態ですが、まずはこれを見てください」
そう言って両手を差し出したテアは片手に魔力、そしてもう片方には霊力と思わしき力を集中して、手のひらの上に球体のエネルギーを作り出す。
それをどうするのか見ていると、テアは両方を同じくらいの大きさにすると、力の供給を同時に止める。
すると当然のようにエネルギーボールは霧散していくが。
「霧散する速度が違う?」
「その通りです。霊力は他の力に比べ拡散スピードが群を抜いて速いんです」
なるほど、だから私が仮定した通りたまに攻撃に霊子が宿ったとしても、上手く扱えなきゃ攻撃が当たる前には霧散する訳か。
「ええ、そしてアストラル体の魔物は体は霊体ですが、その体を維持するのに霊力を常に消耗します。その為、扱えるのはほとんど魔力のみ、その辺の木っ端程度では驚異にはならないんですよ」
「でも生前使えてたら強くなるんじゃね?」
「ええ、ですが体の維持に消費する霊力は想像以上に大きい、なので相当な実力者。それこそ神域に足を踏み入れる程度の実力が生前なければ、霊体になってもその力を維持するには足りませんね」
「因みにエルダーリッチよりも上のクラスになると、霊力を使ってくる敵もちらほら居るから気をつけた方が良いよ」
「フラグになりそうな注釈がやめてもらえますか!?」
やめてくれるそういうの!?
しかもテア達の話ではそれでも霊力の一部を使える程度だと言う。
聞けばおばあちゃん達竜王ですら完全には扱えない力なのだとか、それを完全に扱えるという事は完成された魂。
つまりそれは神と呼ばれる存在だ。
「まあまあ、これで疑問は解消出来ましたか?」
「うん」
「では、そろそろ【第六感】を含めたスキルを取得し、霊力を扱えるようにしましょうか」
いやいや、そんな簡単に言うなし。
「白亜さんなら大丈夫です。と言うか、そろそろ覚えないとあと三十分程で死にますよ?」
「予想以上に切羽詰まった状態だった!?」
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