第501話はっはっはっ、やっておしまい
「あー、死ぬかと思った。頭が割れたらどうしてくれるのさ」
「その時は妾自ら丁寧に火葬してやろう」
「そんな予約は入れたくないですが!?」
ようやっとトリスのアイアンクローから解放された私は、先程までの蛮行を糾弾したが何故か状況は劣勢だった。解せぬ。
「まあまあ、ハクアも悪いっすよ? せっかくあのトリスが珍しく頭まで下げて礼を言ったのに」
「そうなの。あのプライド高いトリスが、同族以外に頭を下げるなんて珍しい事したの、ちゃんと受け入れれば良かったの」
「お前らも火葬されたいのか?」
「そうらしいよ」
「「フォローしたのに!?」」
「いや、出来とらんじゃろ。そしてサラッとそっち側に着くハクアが流石じゃなぁ」
褒められちゃった、照れるぜ。
「まあなんにせよ、私は皆が言ってるような礼を言われるような事はしてないんだよ」
最初から言ってた通りレリウスは才能あったし、今の段階であの戦い方が合っていないだけで、あのまま数年も訓練を続ければ恐らくモノにはなっただろう。
訓練にしたって少しアドバイスした程度の事を、自分のお陰でなんて誇る気もないのだ。
「つー理由で、私は何も礼を言われるよう事してないのだよ。トリスが思ってる言葉全部レリウスの努力の結果なんだから」
「お前は本当に……はぁ」
「なんでいその反応は」
「やっぱり妾はお前が嫌いだ」
「何すげー良い笑顔でズバッと言ってくれてんのこの女!? いきなりディスられたんですが!?」
なんなのこの人。酷くない!? いや人ではないけども……それでも酷くない!?
「まあ、今のはハクアが悪いのじゃ」
「なんで!?」
いきなりディスられた私は可哀想な被害者ですのよ!?
「うーん。そこが分からないのがハクアのいい所とは思うっすけどね」
「長所であり短所でもあるの」
「えぇ……」
なんなん。ドラゴン様方はやっぱり私とは違う考えなの?
(そりゃ、素直に感謝したいのに本人がその自覚全くなければあれっすよね)
(プライド高いトリスとしては、素直に礼を受け取って貰えないとか普通にイラッとするの)
(まあ、わし個人としては好ましいとは思うのじゃ。自分のターンになったら少し困るが……な)
私が一人困惑してる間に、後ろで何やらヒソヒソと話しているがそんなものはどうでもいい。
「はぁ、まあいいや。冗談はこれくらいにして……皆ちょっと付き合わねぇ?」
「……おい。妾達から離れるなと言ったのに、もう何処かふらつく気か?」
「だから誘ってんじゃん!?」
「何処に行くのじゃ?」
「んー、ちょっとね。まあ、着いてくれば分かるさね」
▼▼▼▼▼
「おい! どうなってんだ!」
幾つか設定されている待合室の近く、誰も近寄らない通路にわざわざ人払いと認識阻害の結界まで構築し、怒号が鳴り響いていた。
怒号を放つ人物? ドラ物? の、リーダー格のお山の大将であるモブAが、先程の試合で負けたモブCに詰め寄っていた。
その周りには三人組のモブBと、多数の仲間と思われるモブが集まっている。
「俺も何がなんだがわかんねえよ! アイツがついこの間まで俺達に手も足も出なかったのは、お前だって知ってんだろ!」
「そうだぜルービス。あいつがこの大会に出られたのだって、たまたま欠員が出てそこに龍王の息子だからって理由でねじ込まれただけのはずだ」
「じゃあ何か!? アイツはたった数日でいきなり強くなってコイツを負かしたって言いてえのかよ!」
「それは……」
ルービスと呼ばれたお山の大将が、仲裁に入った三人組最後の一人のモブBにも食ってかかる。
「クソッ! まあいい。それなら他のやり方で落とせば良いだけだ」
「あ、ああ。そうだな」
「へぇー。随分とまあ面白い話ししてるじゃねえか。私も混ぜてくんねぇ?」
「なっ!?」
そう。そんな奴らの目の前に現れたのは何を隠そうこの私なのだー。だー。だー……。
うん。反響させてみた?
「まあまあ、それよりも面白い話ししてんじゃん。その話、私の後ろの奴らにもゆっくり伝えてみてくれよ」
私の台詞に合わせて出てきたのは当然トリスを含めた全員だ。
その姿を見て諦めた顔をする者、絶望した顔をする者、焦る者に、怒る者、様々な反応を見せている。
はっはっはっ、やっておしまい。
目の前で行われるのは一方的な展開だ。ミコトなどは私の隣で、トリス達三人の撃ち漏らしに備えるくらいに余裕しゃくしゃくだ。
ふむ。しかし、あれってルービスとかって名前だったのか。まあ、もう出てこないだろうから覚えても意味無い名前だろうけど。
でもこういう奴に限って、コアなクイズの問題になったりするんだよなぁ。厄介な。
そしてレリウスはそんな理由でねじ込まれてたのかぁ。本人も知らんのだろうが、今となってはこいつらよりも強いのだから関係ないか。
ふむ。そろそろかな。
「はいはい。終了でーす。ブレイクブレイク」
トリス達があらかた散らしたのを見計らってストップをかける。
「くっ、俺の邪魔ばかりしやがって。お前がレリウスに変な事をしなければこんな事には……」
「ははっ。本当にそう思ってるの?」
「なんだと!?」
「ねぇ? なんで私達がここを探り当てられたか本当に分からない?」
「ま……さか……」
「そうだよ。お前らは切り捨てられたんだよ。私に売られるくらいにね」
「あ、アカルフェルの野郎……」
私の言葉にルー……ルー? うん。モブAだけではなく、他の皆も驚く気配がする。しかし空気を読んで誰も何も言わない。
「とは言えだ。私もアイツの事は気に食わないし、お前にさして恨みがある訳でもない。このまま大人しくこいつらを解散させて、普通に試合に挑むなら見逃してやる」
「なっ!? モガガガッ──」
その言葉に誰よりも早く反応したトリスが文句を言おうとするが、その口はいち早くシーナ達によって塞がれる。
ナイス!
「本当だろうな?」
「ああ、本当だとも。そうじゃなきゃここで止める理由もないだろ? ついでに言えばこちらを勝たせろなんて要求する気もないから安心しな」
モブAが私の顔を眺めながら真意を探ろうとするが、生憎とそんな程度で見破られる程甘くはない。
モブもそう思ったのだろう。諦めたように首を振ると、一言わかったと呟き集まった奴らを連れて静かに去る。
さて、終わった終わった。
「……ハクア」
と、思ったらまだ終わってなかった。
後ろを見れば激おこのトリスが居る。
「まあまあ、落ち着け」
思わずミコトの後ろに隠れながらそんな言葉を吐くが、トリスは怒り心頭だ。
「……何故奴らを見逃した」
「はぁ……。ここで事を荒立ててもしょうがないからだよ。てか、意味が無い」
「なんでっすか? 現場も押さえたのに」
シーナも空気を読んで私を手伝ってくれたが、どうやら疑問だったようだ。
「まあ、色々と理由があるけど、とりあえず一番の理由は今日の本題はこっちじゃねえからだよ。あくまで私達は付き添い、主役はレリウス……だろ?」
「うっ、それは確かに……」
「さっきの話が本当なら、あいつらを排除して不戦勝になってみろ。レリウスの実力が疑われるだけだ。ただの運でってな」
「あー、確かにそうかもしれないの」
「そうじゃな。さっきのを見るとそうなる可能性は高いのじゃ」
「だろ? だから見逃した。つー理由で、さっさと戻ろう。他の理由はゆっくりと観戦しながら教えるよ」
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お読みいただきありがとうございました。
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