第300話うわ~。真っ向否定された

 新しい仲間ミュリスが加わり、私は改めて今回の自分の戦果に一人満足する。


 感動的な場面だけでオチも無く終わるだなんて、私も成長してるんじゃね?


『シルフィン:普通はそうそうオチなんてつきませんけどね』


 うるさいよ!


 私がいつも通り女神の戯れ言を一蹴していると、こちらが一段落ついた丁度良いタイミングで、ミミ達月兎族組がドアを開けて入ってくる。


 ミミを含め目元が赤くなっているのは、きっと生きて会えた事を泣きながら喜んだのだろう。


 それをあえて指摘しない出来た私。完璧じゃね?


「話は終わった?」

「うん。これまでの私の説明と、皆を助けられた経緯は話したわ。それでハクア様。これから皆をどうするの?」


 どうするか、か~。

 ……言えない。何も考えてなかったなんて言えない。ミミの知り合いだから取り敢えず買い取っただけでそこから先の展望が全く無かった。

 そうだよね。買い取って終わりじゃ駄目なんだよね。まあ、でも、考えようによっては窮地を助けた+まがりなりにも主な訳だし、管理しやすい労働力だよね。そう考えれば良いお金の使い道だったんじゃない?


『シルフィン:考え方がゲスいですね。その通りではありますが』


 だしょ?


 そんな風に考え、改めてどう割り振ろうか考えていると、月兎族の集団の中から一人の女の子が抜け出し、ミミに何かを言うとトコトコと私の方へとやって来る。


 何これ可愛い。


 あのウサミミをウサウサして、思いっきり愛でたい衝動を鋼の意志で押さえ込み見ていると、女の子は私の前でピタッと止まり。


「ハクア様。私のお父さんやお母さん。お友達や村の皆を助けてくれてありがとうございました!」


 そう言ってペコリと頭を下げた後、私に向かいにぱっという擬音が聞こえそうな眩しい笑顔を向けてきた。


 ……そして、そんな輝かしい笑顔に晒された私は、膝を突いて項垂れてしまうのだった。


『シルフィン:ハクアは良心に致命の一撃を受けた』


 ごめんなさい。ごめんなさい。扱いやすい労働力ゲットだぜ! とか考えてごめんなさい。ウサミミメイドも増えそうとか考えてごめんなさい。とにかく何かもう色々ごめんなさい。だからそんな無邪気で純粋無垢な笑顔で見ないで下さい。


 でもでも考えて欲しい!


 月兎族の女の子は皆が皆本当に可愛いのだ。そんな女の子達を見てワンピースの水着を着ればリアルバニー服じゃね? とか思うのは当然ではないだろうか!?

 そんな事を思う私は責められるべきではないと思うのでどうか許して欲しい! それでも純粋な視線にダメージを受ける私を誰か慰めて欲しい! だからごめんなさいすいませんでした!!


(えっ? 何。ハクアどうしたの?)

(恐らくは、ウサミミメイド増えるとか、扱いやすい労働力ゲットだぜみたいな事を考えてる所に、無邪気で純粋な笑顔で礼を言われて、良心が耐えきれなくなったんだろう)

(……ご主人様らしいですね)


 のおおぉぉ! と、一人精神に大ダメージを食らっていると、そんな私を蔑んだ目で見ながらハクア様奇行は止めて。子供が困ってる。と、ミミに言われた私は、あっ、はい。すいませんと、言って立ち上がる。


(主従とはいったい?)

(ふふっ、これが私達とハクア様の主従関係です)

(エルザ、それ多分私達の側のセリフじゃないよ)


 その通りだよ!


 しかし改めて奇行をした自覚があるので、少し不安そうだった女の子の頭を撫でておく。


 ふおおぉ。髪の毛さらっさらで時折ウサミミに当たる手にもふっと感がぁぁあ!


「……ハクア様」


 また蔑んだ目で見られてしまった。反省。


 さて、そろそろ真面目に考えねば。


「そうだな。まずは希望を聞こう」


 それから私は大雑把に学問や研究等をしたい者、冒険者や兵士として生きてみたい者、手に職を付け働きたい者に分け、それぞれに各分野を教えつつ取り敢えずやってみる事にした。


 学問や研究をしたい者は私の一存で学校へと入学。冒険者や兵士として生きてみたい者はフープの獣人部隊へと配属。手に職を付け働きたい者はアリスベルで裏方の仕事を斡旋して、女性ならメイド見習いとしてテアやエルザに任せる事にした。


 因みに全員に簡単な読み書きと計算を教え、自分の生き方をまだ考えられないような子供は取り敢えず、メイドや執事としての教養を教え、その他にも鍛治や細工などの手仕事も任意で教えていく方向だ。


 かかった費用などは一応払うが、その内生活が出来るようになれば返して貰う予定だ。その時ついでに、甘やかすつもりは無いからやる気が無ければ強制的に人気の無い辛い仕事に就かせるとも脅しておいた。


 しかし、この世界の辛い仕事ってなんだろうか? まあ、震えてたからいっか?


 話が一段落つくと今度はクーとサキュバス部隊が部屋の中に入ってきた。


 う~む。皆、本当に良いタイミングで入ってくるのは外でタイミングでも見計らっているのだろうか?


「なんじゃ主様? 我の顔に何か付いとるか?」


「いや、別に」と、答えてサキュバス達に目を向けると、皆が一様に私の事を値踏みするかのようにジッと見ていた。


「アンタがエルクーラ様の言っていた元人間?」

「…………?」

「ちょっと! 何黙ってんのよ!」

「主様! 主様! 我、我じゃからエルクーラって我の事じゃから!」

「そ、そそそ、そんなん知ってるし! いきなり話しかけられてフリーズしただけだし!」

「……何故じゃろう。ここまで怪しいと逆にわざとかと思えてくるのじゃ」

「安心しろあれは百%素だ」


 余計な事を……って! おいこら君達。そんな残念な物を見るような目でこっちを見るんじゃないんだよ!


「やっぱり怪しいわ! エルクーラ様の名前すら把握してないだなんて! アンタ、エルクーラ様を騙してるんでしょ! もともと人間なのに魔族や獣人をこんなに集めてどうする気よ」


 あ~ほら。そんな事言うから月兎族組までちょっと怖がってるじゃないか。せっかくあんまり喋らないようにして信用を得たのに。


「くっ、誤解じゃリリーネ! 主様は人間だろうがなんだろうが関係ないのじゃ! 人間でも気に食わなければ平気で酷いし。他種族でも気に入れば仲間になれるのじゃ! 確かにすぐに脅そうとするし、考えがいちいち外道だし、魔族の方がいっそ優しいのでは? とか思う時もあるけど基本は優しいのじゃ! ……多分、きっと、恐らく、優しい……か?」

「自信無くなってんじゃねーか!」


 ああ、ますます私の事を怖がってる。さっきまで値踏みしてた他のサキュバスまで目が怖い。


「とにかく! 私達はアンタの事なんて認めないんだから!」


 うわ~。真っ向否定された。

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