第301話若手芸人の魂を感じる所存
うむ。いきなりアンタの事なんて認めないんだから! とか、ツンデレ風味な事を言われてしまった。
私にそんな事を言ってきたのは、オークションでサキュバス達のリーダーと言われていた奴だ。
年は私よりも少し上の二十代前半位で、サキュバスらしい立派な胸部装甲にクビレを持っていて、ピンクの髪をツインテールにしている。クーが言うにはリリーネという名前らしい。
そんな人にいきなり否定された私は「マジかよ。泣きそう」と言ったが「お前、そんな真顔の棒読みで言っても誰も信じんぞ?」とか、澪に言われてしまった。
解せぬ。
「マジかぁ~、クソかよ。こんなに悲しんでるのに」
「くっ、人の事を馬鹿にして! どうせアンタも私達の事を利用したいだけなんでしょ」
「いや、全然。むしろ君等、見た目が良いだけでデメリットしかないし」
「なっ!? やっぱりそれが本性なのね! 今がモンスターでも所詮は元人間。やっぱり人間の味方なんじゃない」
「ぬ、主様」
クーは私の言葉に驚きつつこちらを見るが、しょうがないものはしょうがない。向こうも協力する態勢でいるのなら幾つか打てる手も無くはないかもしれないが、最初から協力する気も無いのにモンスターを手元に置くのは、デメリット以外の何物でもない。
クーの仲間を無理矢理縛りたくもないしね。
「そ、それはそうじゃが。み、皆、見た目は良いぞ?」
「そりゃ見た目はね。実際、人間だろうが獣人だろうが魔族やモンスター、神だろうがどうでも良いけど反発しかしないならやれることは無いよ。クーに頼まれたからこその状況な訳だが、むしろ少し考えてメリットどころか私のデメリット感に愕然としてる所ですよ?」
うう~。と、唸りながらなんとかサキュバス達を私に認めさせようと頑張るクーだが、実際このままなら私にはデメリット以外浮かばずどうしようもない。
しかし、クーにリリーネと呼ばれていた子の横に居る、この中でも最年長っぽい美女が私の前に進み出る。
そんな彼女が私の前に出ると同時にクーは私の後ろに回り、彼女がリリーネの母親なのだと教えてくれる。
マジかよ!? でも確かにリリーネに似てるな。同じ色の髪を緩く一つに結びそれを前に垂らしいている。スタイルは言わずもがなで、確かにリリーネを更に色っぽくした感じだ。
一番年上っぽいけど見た目は二十代後半から三十代前半位にしか見えないぞ。そして溢れ出る色香も一番。それがまさかの子持ち……だと!? こ、これが母性……サキュバス、恐るべし。
「一つ……質問があるわ。貴女は協力する気が無いから打つ手が無いと言ったけど。私達が協力すれば本当に手はあるの?」
美女のその言葉にクーは私の事を期待の満ちた目で見詰める。
おいおい。君は自分でなんとかすると言ってなかったか? まあ良いけど。
「そうだな。アンタ名前は?」
「リコリスよ」
「そうか。ハッキリ言えば確証がある訳ではない。とは言え、何も分からなければ出来る事も出来ないけどね」
私がそう言うと少し思案したリコリスは、リリーネを抑えながら今度はしっかり私の目を見て「教えて、何をすれば良いの?」と、聞いて来たので私は幾つかの質問をした。
まず一つ目は他のサキュバスについて、ここに居るのは私が買い取った十二人のみ。この世界のサキュバスがこれだけと言う事は無いだろうと思い聞いてみた。
するとリコリスは過去の回想に入り始めた。
回想回とかマジタルいんですけど……。
なんでも争う事が嫌いで力の弱かったリコリス達数名は、サキュバスの中でも迫害の対象になっていたらしい。それをクーが助けて他のモンスターも集まった結果が、過去の不死の魔王時代に繋がるのだそうだ。
まあ、その辺は前に聞いたから割愛で。
「主様! 我の活躍する場面!」
はい。回想に突っ込みは要りませんよ。
「酷いのじゃ」
ともあれ、サキュバスの群れを離れたリコリス達は他のサキュバスは知らないらしく。クーが封印された後は散り散りになる仲間達と違い、クーの復活を信じ、なるべく近くで細々と生活していたそうだ。
その間も冒険者や兵等に何度か襲われ、今はここに居るそれなりに戦闘も出来る十二人と、先の戦闘からなんとか逃げ延びさせた戦う力が全く無い十八人の、計三十人のサキュバスが居るらしい。
やっぱり、魔物の一種と言われても非戦闘員も居るのか。
次に聞いたのはサキュバスの特性について、サキュバスと言えば人を虜にさせ精気を吸うというのが有名だが、聞いてみた所本当にその通りらしい。
サキュバスは食事と人間からの精気を得る事で生きているが、実際の所食事が無くても精気さえあれば生きていけるそうだ。逆に精気を得ないと力を失っていき死んでしまうのだそうだ。
今までは迷い込んだ旅人、討伐しに来た冒険者等を捕まえなるべく殺さない程度に搾取していた。と、リコリスは包み隠さず私に話した。
それを聞いた皆は多少の嫌悪感を出していたが私は気にしない。
生きる為に殺して食うのは誰だって同じだ。それが人間の男が多かっただけの事だしね。ただ殺したいから、楽しいからと殺したのでないのなら普通の事だろう。
それに恐らくだがリーダーは確かにリリーネだが、実際の指揮はリコリスが取っていたのだろう。少し話しただけでもこちらの意図を読み、不興を買わないよう話しているのが分かる。
更に詳しく聞くと、本当にたまにだけどオスのモンスターからも搾取していたらしいのだが、それだとあまり精気を多くは得られないのだとか。
その言葉から更に精気について聞いてみた。その精気だが吸収する方法は幾つか存在するらしい。
まず一つはそのまま吸収する方法。だがこれは実力がかなり無いと逆に具合が悪くなる副作用も出る事もあり、なまじ成功しても吸い取る量に対して吸収効率がすこぶる悪いのだそうだ。
次の方法はエロい創作物に出てくるサキュバスがやっている事、つまりは相手といたす行為だ。
相手といたす行為は、魂やら魔力やらの波長を相手と同調させ果てる瞬間に一気に吸収する事で、効率良く摂取する事が出来るのだそうだ。因みにこれが一番一般的でどんなサキュバスでも出来る簡単な方法らしい。
やだ。サキュバスってやらしい。
最後がこれまたサキュバスとしては有名な淫夢を見せるという物。寝ている相手に同調して夢を見せる事で、前者のように吸収効率を上げているのだとか。
これは相手といたす事無く出来る為安全性が高いが、その代わり肉体的な接触無く同調するには高い能力が必要なのだとリコリスが言っていた。
その後も、人間との共存が可能なら歩み寄る気があるのかどうか、精気を全く吸収しないでどれ程持つのか、人間と交わる事に忌避感はあるか等の細かい事をアレコレ聞いた。
「精気を吸ってみて欲しい……ですか?」
「うん。そう」
ある程度聞きたい情報が集まった所で私はリコリスにそうお願いする。
何もエロい事や淫夢をみたいと言うことではないよ? 本当なんだよ? だからそんな怖い顔で殺気とか放たれても困るんだよ。
ただ単に精気というステータスの項目が無いから気になったのだ。隠しステータスなのか、それとも何か別の物なのか、それを確かめなければ前提条件が分からない。
そんな訳でレッツトライ。
お互いに手を繋ぎ吸収してもらう事にした。
女同士だと効率が更に悪くなるらしいのだがその辺は実験なのでしょうがない。
リコリスが吸収を始めたのか、手から何かが引き出されるような奇妙な感覚がある。これが精気の吸収か? と、思っていると不意に目の前からふあっと、言う少し艶かしい声が聞こえる。
その声の主を見ると、何やら赤い顔をして繋いでいない手で口を押さえながらな、何でもないわ。と、少し動揺しながら言っている。
しばらく見ていると何やら必死に我慢している感じで少し不思議に思ったが、本人が大丈夫と言っているなら良いか。と、考えた私は自分のステータスをチェックしながら思考に没頭する。
これは、MPと気力が減ってる? それと多少の倦怠感が徐々に出てきてる。これは状態異常の一種か? だとしたら私は無効の筈だが?
……いや本当に全部が無効なら私は睡眠すら無くなる筈。と、いう事は魔法や攻撃以外の物は効くのか? その辺も検証は必要か。
「んっ、ふっ、あっ」
やっぱり減るのはMPと気力だな。その他は倦怠感以外は無い。恐らく精気ってのはこの二つの複合なんだろうな。
それに魔力も気力も底を突くと意識失ったりダルくなるからそれと同じか、もしくは無くなっても更に吸収を続けると、魂の方にまで手を出す感じなのかも知れない。
相手と交わって果てる瞬間に一気に引き抜くんだとしたら、もしかしてショック死に近いのかもしれないな?
そこまで推測した私は、雷装鬼を接触ダメージ無しの状態でリコリスと繋いだ手に集中して、そこからリコリスに魔力と気力を送り込むイメージをする。
「ふぁっ!? う、あん、あっ! んんっ」
さっきまでよりも少し楽。やっぱり送り込む感じで集中した方が自分でコントロールが効く分楽になるみたい。
「主様、主様!」
「あん? どうしたクー?」
考え込んでいると不意に呼び掛けられる。そんな呼び掛けた相手のクーを見ると、何故か顔を赤くして何やら指を指していた。
その指の先に視線を向けると、何故かさっきよりも更に顔や耳を赤らめ、声を押し殺しながら身体をビクンッ! ビクンッ! と、跳ねさせて息を荒げているリコリスが居た。
「リ、リコリス?」
私はあまりの変化に、声を掛けながら握っていた手に力を少し込めて強く握ってしまう。
するとリコリスは今にも涙が溢れそうな程目を潤ませ、一際大きくビクンッ! と、身体を跳ねさせるとら、らいりょうぶれす。と、呂律の回っていない返事が返って来た。
いや、大丈夫じゃないよね?
そう答えたリコリスは実験前、私を値踏みするかのような視線だったが、何故か今は荒い息を熱っぽく吐きながら、火照ったかのように赤らんだ身体に珠のような汗を浮かべ、潤んだ瞳とトロンとした顔で私の事をボ~と見ていた。
正直エロいですお姉さん!
何か知らんが瞳の中にハートマークまで見える気がするが、それはきっと気のせいだろう。不本意ながらここはラブコメの世界観ではないのだ。不本意ながら!
そんなリコリスを私から引き剥がすと、リリーネは再び私に食って掛かる。
「何をした!」だとか「私達をどうする気」だとか色々言ってきて、正直少しイラッと来たので角を両手で掴んで少し言い返してみる。
「なんじゃあ小娘! コラァ」
「おい待て。なんだそのいきなりの無頼漢モード。ここに来て新境地のキャラ開拓するなよ!」
溢れ出るイラつきをそれらしく表現したら不評だったようだ。失敗失敗。
そんな私達のやり取りを他所に、角を掴まれたリリーネは悲鳴をあげる。
「いや~。角は止めて! 引っ張らないでぇ! 角の根本が! 根本が悲鳴上げてるから! 円形脱毛症になったらどうするの!?」
「その時は写メってネットに拡散してあげよう」
「ちょっと何言ってるか分からないんですけど!? って言うか、いや~! 意味は全然分からないのに心の底から恐怖しか感じない!? 何これ怖い! 何に怯えてるのか分からない自分が凄い怖いんですけど!?」
「それは良かったぜ♪」
「良くないわよ!? って! 本当にダメ。根本が! 根本が悲鳴を! あっ!?」
角を掴んで離さずに居たらなにやら焦り始め、終いにはボフンッと音が鳴りリリーネが煙に包まれる。
何事?
それでも角を離さず観察していると、煙の中から私と同じ位の年に見える女の子が現れた。
現れた女の子は私に角を掴まれている。因みにさっきまでのボンッキュッボンッな体型は無く、豊かな双丘は平原とまではいかないが小山位になっていた。良くいえばスレンダー?
酷い。騙された気分だ。これが詐欺に遭った人のやるせない気持ちか。
そんな彼女は私の事をキッと睨み。「何か言いたい事は?」と聞いて来たのでしいて言えば、若手芸人の魂を感じる所存。と、言ったら滅茶苦茶キレられた。
解せぬ。聞かれたから言ったのに。
「ムカつく! 本当にムカつく! 意味は分からないのになんでか凄くムカつく! 悪かったわねサキュバスなのにちんちくりんで! 別にやってるの私だけじゃ無いんだから! 結構皆やってるもん!」
いやいや、もんて。しかも、他の奴にも飛び火するような事、暴露したんなや。
リリーネが私に叫ぶと同時に何人かが目を逸らす。
意外に分かりやすいなコイツら。そして自信の塊のように背筋を伸ばしてるのが何名か。
やだ怖い。っていうか、すでにセリフがインスタとかツイッターのSNS系詐欺写メ載っけてる女の言い訳のようになっておる。世界は違っても女の見栄は共通の物らしい。
「将来性に期待? ハッ! でも、クーの現役の頃の事を知っているという事は……ドンマイ? 需要はあるぜ」
「悪かったわね将来性すら無くて! どうせ一部の熱狂的な奴にしか受けないわよ! ムッキャ~! 殺す! 殺してやる! もうやだ! さっきから意味が分からないのに恐ろしい事なんだとか、馬鹿にされてるのだけは凄く伝わる!?」
「通じ合う心。正に以心伝心。照れるぜ」
「何で!? この一方的に角掴んでる体勢で何で照れるの!?本当嫌い! 絶対殺してやる!」
「え~。マジか泣きそう。そんなん言うなよ。私はお前の事気に入ってきたよ? 仲良くしようぜ~」
「いや~。何なのコイツ! ウザイ! 怖い! 凄く怖いこの人間! 誰か本当に助けて!?」
(ハーちゃん。リアクション大きい子からかうの大好きですからね)
(基本、素の性格を見せた相手には絡んで行くが、あいつの事を嫌う人間にはしつこく絡むからな。特に相手が女だと嫌い過ぎていとおしいわ~。とか、言うしな)
(うわ~。たち悪いわね。そしてその訳の分からない精神性が普通に怖い)
(あれ? でもその感じだとギルドの……ハゲの時はあんな風じゃなかったよねハクア?)
(ゲイルさんの場合は嫌っていたんじゃなくて、ただ単に興味が無かったんですよ。ハーちゃん、嫌いな相手にも絡みに行くけど、興味を無くした人は存在そのものを無かった事にしますから)
(おぉう。ちょっと怖い)
(昔も身内には容赦無かったからな。こっちで対人能力が上がって更に全方位になったな)
(えっ!? 何それ怖い。そして物凄く厄介。……あの子には悪いけど、フープの為にハクアのオモチャになってもらいましょう)
(((あっ、酷い)))
何やら後ろで話をしているが私は構わずリリーネと親睦を深めるのだった。
「誰か助けなさいよ!?」
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