第179話「それはほら、賠償金を払って黙らせたわ」
ギルドの面々と負傷した冒険者達と合流するまでの間、各々休憩を挟む事になったハクア達は、土魔法で作った簡易休憩所の中で澪達と情報交換をする事になった。が──。
「うわ~、ハクアが物凄くダラケてる」
「ご主人様せめて座りません?」
「もう良いじゃ~ん。帰ろ~よ~」
そう、ハクアは簡易休憩所を作ると直ぐに中へと入り、ベンチの様な物を作るとそこに寝転がり、全力で怠け始めたのだった。
「良い訳無いだろ。さっさと起きろ!」
「いやもう、澪が特効して蹴散らせば終わるよ。私はもうお役御免だね!」
「良い笑顔で何を言い切っているんだお前は……」
「ハクアそれは流石に幾ら勇者でも無理じゃ無いかな?」
「いや、イケる。私は信じてる! 澪はやれば出来る子だから!」
「……本音は?」
「不確定要素は排除したし、お前にフープの兵、刻炎、暁がいればもう大丈夫だから。今すぐ帰って寝たい!
「……ハクア様正直すぎない?」
「見習いたいわね」
「そこは見習わないで欲しいなエルザ」
「それにほら、子供を働かせるとか良くないよ?」
「子供ってお前同年代だろ!」
「いいや! 私一歳弱だし!」
「……あぁ、そう言えばこっちでは産まれたばかりか?」
「そう。だから働くとか駄目なんだよ! これ以上私を働かせるなら、児童相談所に駆け込んでやる!!」
「コイツは……まぁ、それならそれで良いか。本人がやりたくないならしょうがない」
「ミオ様何をおっしゃっているんですか!? ハクア様は大事な戦力ですよ! それを放っておくなど!?」
「で? 主様は何でそんなに全力で警戒してるのじゃ?」
クーの言う通り何故かハクアは、毛を逆立てる猫の様に警戒していた。
「ハーちゃんはこうやってみーちゃんによく騙されていますから」
「フカー!」
「野生化し始めた!?」
「ちょっとかわいいです」
「アリシアさんしっかりして下さい」
「まあ、そう警戒するな。だが──そうだな。私なら、まだ本拠地にすら辿り着いていない人間に報酬は出さんぞ?」
「……な、なん……だと──。いや、しかし私は報酬何て無くてもお金持ち。そうだ、大丈夫、大丈夫だ! 大丈夫にきまってるんだよ」
「そうかなら良いが。モンスターとの戦闘も私との戦闘も、ただの慈善事業。つまりはタダ働きになっても良いと言う事だな?」
タダ働き。その言葉を聞いたハクアは胸を矢で射ぬかれた様に「グハッ!」と言い、胸を押さえ崩れ落ちる。
「た、タダ働き……? 私が……? この私が、慈善事業のタダ働き……だと……? そんな、そんな事が」
「ああそうだ。しかも途中退場だからな勿論評価に繋がらない所か、こんな案件を途中で投げ出せば、ギルドからの評価はむしろ下がるだろうな。さてその下がった評価はどれ位真面目に働けば払拭出来るんだろうな? 最低でも一週間位休みは無しなんじゃ無いか?」
「慈善事業……タダ働き……私が……真面目に働く? ……しかも、休み無しで?」
「ハ、ハクア?」
「ご主人様?」
「有り得ない……こんな大変な思いしたのに……報酬も無く評価も下がったうえに真面目に働く……この私が……?」
澪の言葉にハクアは焦点の合わない瞳で宙を眺め、一人でブツブツとうわ言の様に呟きながら呆然とする。
「ハクア、慈善事業やタダ働きがそんなに嫌なんだ」
「まあ、ご主人様ですし」
「基本的にマスターは働いたら負けだと本気で思っていますからね」
「あ、あはは──」
「ハーちゃん生気の無い目も可愛いです」
「さて、やる気が無いならしょうがない。お前達を抜いた作戦を──」
「待って」
簡易休憩所から出て行こうとした澪の腕を掴み、ハクアはそう口にする。
「ん~? 何か言いたいのか?」
「……やる……グスッ、は……働ぐっ……から、まっで……」
(((……な、泣いた~!?)))
「……お前泣くとか」
「慈善事業イヤ~、タダ働きイヤ~、休みが無いのもっとヤダ~」
「こういうのを見ると、ご主人様の友人だと認識しますね」
「操縦方法に年季を感じるね」
こうして、ハクアは最後まで付き合う事になったのだった。
「それが普通──ゴブ」
「ウグッ!」
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「さて、どっかの誰かのせいで余計な時間を食ったな」
「全く。何処の誰のせいだ」
全員からの視線に負けず、しれっと言い放つハクアにタメ息を付きつつも話しを進めようとする。
その時丁度良いタイミングでローレスとマチルダ、ジャックやメル達がそれぞれのクランの副長を連れ、ハクアの所にやって来た。
「それにしても、何で皆ここに集まるの?」
「そりゃ正直テントよりもこっちの方が良いからだ」
と、大人数がやって来て手狭になった休憩所を広げながら、ハクアが聞くとジャックが事も無げに答える。
そしてそのままローレスから、ゲイルを追い掛ける為置いてきた部隊と無事に合流を果たした事、フープ側との和解が取り敢えず済んだと、説明を受けた。
「結構すんなり受け入れたね? あのハゲ程じゃ無くても、あれだけやられりゃ反発は在ると思ったのに」
「それはほら、賠償金を払って黙らせたわ」
「最低だこの女。金掴ませて黙らせやがった」
「ご主人様! 流石に失礼ですよ!?」
「そうだよハクア! 女王様だよ!」
「公の場ならいざ知らず身内なら気にしなくて良いわ。私もその方が楽だしね。貴女達も別に敬語とかは良いわよ」
「流石にそれは──」
「よろゴブ。アイギス」
「ふむ、いい感じに順応早いな」
「ミオもよろゴブ」
「ああ、よろしく頼む。さて、主要メンバーが揃った所で始めるか。まず始めに言っておきたいのだが、騎士国フレイスはあてにできんだろう」
「あぁ、向こうは魔族の奇襲受けて早々リタイア?」
「その通りだ。お前達が合流を果たした辺りではもう既に敗走途中だった。それ以降はこちらが連絡を取っていた」
「なっ!? では私が話していたのは──」
「無論私の手の者だ」
「そうだったのか」
「あぁ、だからこれ以上の援軍は期待するな。そして私達の動きだが、大まかには先程話した通り、私達がグロスとカーチスカを引き受けるから、他のメンバーで本隊を叩いて欲しい。ここまでは良いか?」
「ああ、異論はねぇぜ」
澪の言葉にジャックが答え、その答えに全員が首肯く。
「そういや、砦の間取りとか相手の数は聞いたけど、砦何だから防衛設備はあるよね? どうなってんの?」
「ああ、それなんだが城壁には各面に大砲が二〇門ずつ設置されてる
「何!? そんなに沢山の大砲は無かった筈だぜ!」
「確かに、私も行った事があるけど半分位だった筈よ」
「増やしたんだよ」
「「なっ!!」」
「実際私もあそこは見て回りましたが穴がありませんでした。ミオ様はどうするおつもり何ですか? どうやっても甚大な被害が出ますよ」
「確かにそうですね」
「確かにそんな状態だと難しいかな」
と、フーリィーの言葉に全員が考え始めたが、ハクアと澪だけはその状況を不思議そうに眺めていた。
「だよね。どうすんのハクア?」
「ん~。取り敢えずそれはどうでも良いよ」
「「「はっ?」」」
「大砲の火薬とかは勿論近くに在るんだろ?」
「あぁ勿論だ。次いでに何か有った時の為に玉も火薬も予備は各所に配置するように進言してある」
「なら良いや。皆は砦から出て来たモンスターとかの対処とか考えといて」
「おいおい、どうするつもりだよ?」
「ジャックの言う通りだハクア君、一体どうするつもりだ?」
「……ちょっと待って」
そう言うとハクアは自作の防音結界を張り、考え付いた作戦をその場の全員に話した。
その後、幾つかの細かな打ち合わせをして、翌朝エルマン渓谷へ向け出発する事に決まり、この場は解散となった。
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