第33話ボクは家の中でも一番へたな落ちこぼれかな

「うん。ボクがここの鉱山に入るのを助けて欲しいかな!」


 これは!


 〈どうしましたマスター〉


 ボクっ子なだけでなく語尾がかな。とか言っちゃう感じの子。これは仲間になるフラグに違いない!


 〈…………〉


 え~と、はい。真面目にやらせて頂きます。


 〈続けたいなら続けても良いんですよ〉


 すいません! そんな優しい声で言わないで下さい。


「聞きたい事が幾つかあるんだけど」


「その前にここのギルド、酒場も経営してて食事出来るから、座ってゆっくり話さないかな?」


「良いよ」


 お腹すいたしね!


 私達はボクっ子ドワーフに付いていき、席に着いて食事を頼み改めて話を聞く事にする。


「えっと、まずは自己紹介させて貰おうかな? ボクの名前はコロナ。皆にはコロって呼ばれてるから、出来ればそう呼んで欲しいかな?」


「ひとまずよろしくコロナ。私はハクアそれでこっちが私の仲間の──」


「アリシアですよろしくお願いします」


「私はエレオノよろしくね」


「アクアはアクアゴブ」


「……うん、よろしくかな。それで聞きたい事ってなにかな?」


 コロナはサラッと呼び方を流されて、何か奥歯に物が詰まったような顔をするが、それも一瞬で切り替えて話を続ける。


「まず一つ目。どうして私達なの?」


「えっと、それは……。皆も見ていたなら分かると思うけど、正直に言えば誰でも良かった──かな。でもさっきハクアが冒険者の男の人の事をぶっ飛ばした時、この人にお願いしようと思ったんだ」


「じゃあ次に依頼の内容と報酬教えて」


「報酬はさっき言った通りボクの家に泊まる事と、ギルドに依頼として出しているから、その分の銀貨10枚が報酬かな。依頼内容はここユルグ村に在る鉱山の中に一緒に入って、ボクが鉱石を掘る間の護衛と採掘を手伝って欲しいかな」


 ふむふむ。内容自体は至ってシンプルな護衛依頼だな。


「なんでこの時期に? 今は祭りの最中で依頼なんか出しても誰も受けてくれないんでしょ? それはこの村の住人なら分かってるよね?」


「それはそうなんだけどね。ボクの家はそれなりに有名なんだ。もしかしたらハグナスって言えば分かるかな?」


「ふむ。知ら──」


「えっ!? ハグナスってあのハグナス! じゃあコロナはハグナスの娘なの?」


「うん、でもボクは家の中でも一番へたな落ちこぼれかな」


「エレオノ知ってるの?」


 エレオノが凄い勢いで食い付き興奮していたので思わず聞いてみる。


「勿論ハグナスって言えば、このフリクス地方で一番の名工の家だよ! 人の作った物でありながら、ダンジョン級や秘宝級に届くって言われてる程の家で、アリスベルでも高値で取引されてる位だよ!」


「それって凄いの?」


「凄いですよ! ダンジョン級だけでも作れる人は国に重宝されますけど、秘宝級は更に一握りの天才が更に努力を重ねてようやく作れるレベルです」


 確かにそれは凄い。


「でもそれと依頼はどう関係が?」


「ボクは武器を作らせて貰えないから」


「えっ! そうなのなんで?」


 その言葉を聞いてエレオノが問いかける。


 言いにくそうな事をグイグイ行くなエレオノよ。


「ウチは兄弟も多くて跡継ぎには恵まれてるからね。女のボクにわざわざ教えなくても良いって考えらしいかな」


「そんな。それだけの理由で……」


「それでも昔は教えて貰えてたんだよ? だけどボクがこの年になってもまだ鍛冶師になりたいって親に言ったら、そんな事の為に教えた訳じゃないって言われちゃったかな」


「それでどうしてこの依頼を? コロナは鍛冶師にならせて貰えないんでしょ」


「ちょっ、ハクア!」


 エレオノが言い過ぎだ。と言うように言ってくるがこればっかりは聞かないといけない。


「うん。だからボクは自分一人で武器を作って……そして、認めて貰いたいかな!」


「その為にまずは材料集めって訳か」


「うん、だからこの依頼をどうしても受けて欲しいんだ! お願いします!」


 そう言ってコロナは私達に頭を下げて来た。


「ご主人様」


「ハクア」


 ふぅ、しょうがないか。


「良いよ、その依頼私達が受ける。よろしくコロ」


「あっ! う、うん。よろしくハクア、アクア、エレオノにアリシアも」


「こっちこそよろしくコロ」


「よろしくお願いしますコロさん」


「コロよろ」


 こうして私達はコロの依頼を受ける事に決め、改めて受付で依頼を受け今日の所はコロの家に行く事にした。


「さあ入って、狭くてごめんね」


「コロは独り暮らしなの?」


「うん。家そのものが工房で夜中でも弟子達が試作を作っているから、うるさくて。でも家族はほとんど工房に籠りきりだから、ボクにはこの家が与えられたかな」


 コロが少し寂しそうに言うとエレオノが──。


「ねぇコロ。本当はその工房に今も居たかったんじゃないの?」


「……仕方ないかな。鍛冶を教わっている時もあまり上手く作れなかったし……お父さんも他の兄弟の方が優秀だったから、ボクの時と違ってずっと付きっ切りで教えてたし。でもたまにこの家に来て話をしたり、ご飯を食べたりも出来るから寂しくはないかな」


「そっか」


 エレオノはまだ納得しきってはいないようだが、本人に言われて仕方なく引き下がる。その時コンコンッと、玄関の戸を叩く音がした。


「誰だろう? 今開けるから待ってて欲しいかな」


 扉の向こうにいる人間に向かって語り掛けながらコロが入り口の戸を開ける。


「おとうさんどうしたのかな?」


「コロお前に話がある」


「ちょっと待ってて欲しいかな。今ちょうどお客さんが来てるから」


「なら尚更ちょうど良い。その客人にも用がある」


「ちょっ!? おとうさん!」


 私達はそう言って押し入って来た人物。コロの父親を見やる。背が低く、髭を蓄え、ずんぐりむっくりした体、まさに私の思い描くドワーフと言った風体だった。


 おぉー! ほ、本物のドワーフだ!


 〈今考えるのがそれですか?〉


 いや、だってわりと本気で感動してるし!


「お前達がコロの依頼を受けた冒険者達か?」


「そうだけど」


「悪いがコロの依頼を断って貰いたい」


「お父さん!」


「コロ、お前は黙っていろ。今ワシがこいつらと話しているんだ」


「でも!」


 そのあまりの物言いに少しイラついた私は、少ーしお話しようかな? っと、口を開こうとする。だが、そんな私よりも先にエレオノが食って掛かる。


「勝手な事言わないで! 私達はコロの依頼を受けてるの! 貴方にとやかく言われるいわれは何処にもない!」


 あぁ、ウチのエレオノは他人の為に怒れる良い子だな~。


 〈マスター現実逃避は後にしてください〉


 そんな私の現実逃避中も話は進む。


 なかなかにヒートアップしてきてるな~。と、そろそろ良いかな?


「ひとつ聞きたい」


 急に言葉を発した私に全員の視線が集まる。


 うわ~、最近結構頑張ってるけど基本人見知りなんだからあんまり注目すんなし!


 〈いや、話し掛けておいてそれは無理でしょう〉


「なんだ、何が聞きたい」


「あんたはなんでコロの依頼を断らせたい」


「理由を話す義理は無──」


「いや、あるでしょ?」


 相手の言葉に言葉を被せ主導権を渡さないようにする。


 渡したらそのままうやむやにされそうだしね~。


「エレオノが言った通り、私達が依頼を受けたのはコロにであってあんたじゃない。でもそれを一考して欲しいならあんたの事情を話すべき……でしょ?」


「それは」


「それとも、ギルドを敵に回しても私達の邪魔をしてみる?」


 私の言葉にコロの父親は考え込む。


「分かった。ただし──」


「皆、少し出てくるから待ってて」


 またも言葉を被せ皆に用件を伝える。


 あっ、自分の言おうとした事先に言われて驚いてる。


「あのご主人様?」


「まかせて」


「分かりました。気をつけて下さい」


「うん、行ってきます」


 そして私はコロの父親と外へと出掛ける。

 前をズンズンと歩いて行くコロの父親について行くと、だんだんと人気の無い所まで来てしまった。そして不意に足を止めると私へと向き直り、コロの父親は静かに問い掛けて来た。


「話す前にひとつ良いか?」


「何?」


「何か知っているのか?」


「何も、でもコロの話には少し嘘が混じっていたから」


「嘘だと?」


 そう嘘だ。意図しないものなのか、誤魔化そうとしたのかは分からないけど、おかしな点があったのは確かだ。


「うん、コロは私達に自分がだから鍛冶師になれないって言ってたけどさ。鍛冶なんて特殊なもの、子供の頃から遊びでなんて教えないよね?」


「お前ももう聞いているだろうがウチの家は工房なのだ、簡単な物作り位ならやらせていてもおかしくはないだろう?」


 確かにそれならおかしな点は無い。でも、それだとまた話が違ってくる。


「そうだね。けどコロは自分・・で素材の鉱石を採掘して武器を作りたいと言った」


 そんな物、簡単な物作りで出来るようになるものじゃないし、何よりも武器を作った事が無い・・・・・・・じゃなくて、武器を作らせて・・・・貰えない・・・・って言っていたからね。


「これは誰かがコロに武器を作らせた事があって、その結果武器を作らせて貰えなくなってるって事じゃないの?」


 まあ、私の推測だけどね。多分大きく間違ってはないでしょ。


「それに、そうでもなければわざわざ工房から引き離す意味も無いしね? 何よりあんたがこうやって、コロに聞かれない場所で話をしているのは、コロが知らなくて、知られたくない話があるからなんじゃない? 違う?」


 私は今までの情報からの推測を述べていく。


 間違ってたらかなり恥ずかしいな~。と、いうか私頑張った! こんな長文話すとか超頑張ったから帰って良いんじゃね?


「そうか、そこまで分かっているならしょうがない。事情を話すがコロナの為、他言無用にしてくれ」


 そう言ってコロ父は話を始める。


 えっ!? 喋るの? 信用すんの早くない!? て言うか、まだ続くの? もう喋り疲れたから帰りたいんですけど?

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