第200話この親友はダメかも知れない。主に頭が。

「クハハハハ! 言ってくれるじゃネェか! さあ、さっさとやろうぜ!」


 私達二人のセリフに笑いながら戦闘体制に入るグロス。隣の澪もそれに合わせ臨戦態勢に入る。当然私も──などと言うことは無く。


「ターイム!」


 止まる時間、固まる空気、絶対零度もかくやという様な視線、それが私に集中する。


 オイコラ! 澪までそんな見るんじゃ在りません! お前アレだからな! 私の側なんだから同罪なんだからな!

 つーか、いきなり始める訳ないじゃん! 空気読めよ空気! 私? 私は読めて無いんじゃ無くて読まないだけだよ! それが私のクオリティーでい

 !


「……好きにしろヨ」

「……何か済まん」


 オイ! 呆れるなよグロス! 澪は何謝ってんの?! そっちは敵さんで味方さんはこっちなんだよ!?


 私は釈然としない気持ちを抱えながら、瑠璃に近づき抱き抱えると少し離れた所まで連れていき、回復薬を渡しておく。そして【念話】を使い幾つかの事を確認する。


「ハーちゃん言い付け守らず──」

「良いよ。お疲れ、グロス相手に良く持ちこたえたね。後は任せて」


 瑠璃の言葉を遮りながらそういうと「ハーちゃん」と何やら感動したように呟きいきなり口許を押える瑠璃。その手の隙間からは血が溢れており、私は少し慌てて瑠璃の様子を確認する。


「瑠璃! 大丈夫か! まさか何処か内蔵にでも怪我を──」

「大丈夫です。ちょ、ちょっとハーちゃんが男前過ぎで鼻血が出てしまっただけですから」


 ……この親友はダメかも知れない。主に頭が。


 私は「あ、そう」と、返事をして瑠璃の周りに土魔法で壁を作りその場を離れる。


「終わったカヨ?」

「サンキュー。さっ、始めようか?」


 何だかんだと待ってくれるんだから、ビックリだよね? って、なんか澪が見てる?


「……お前、本当いつでもどこでも唯我独尊でゴーイングマイウェイだよな?」


 失礼な! こんなに色々気を配っているのに何て言い方だ! 全く何でそうなるんだか? 解せん?


「くかか! まあ良い、これで心置き無く殺りあえんだからな! さあ、楽しませろよ! テメェら!」


 叫ぶグロスから感じる圧力は以前とは比較にならない程強く荒々しい魔力だった。


 これは、予想以上かも? 向こうも平気かな?


「白!」


 予想よりも数倍早い速度でグロスが動き、私達に向かって魔力を纏った拳を振るう。その攻撃は地面に突き刺さると同時にドガァァア! と、音を立て地面を陥没させる。


 馬鹿じゃねぇの!? 何あの威力! 前の時はどんだけパワー下がってたの?!


 澪の言葉に返事をする余裕も無く横に飛びながら、グロスの攻撃を何とか回避。同時に【雷装鬼】を発動する。

 見れば私に注意を促すと同時に、逆へと飛んだ澪も【闘気】と【魔闘技】を発動して、すでに攻撃態勢に入っている。

 手で銃の形を作り「行け!」と言うと、指の先から氷の弾丸が発射される。


 これは、澪のギフトに依る攻撃で名を【氷弾】と、言うらしい。実に安直な名前だが、この業、実は結構えげつない性質がある。


 一つの大きさは普段は弾丸程度だが、その気になればさっき降らせた人間大の大きさにまで出来る上に、連射性も良くMPの消費も少ない。

 更に言えば氷を圧縮する事もでき、込めた魔力によって硬度も変わり相手に当たると同時に、込めた魔力以上の魔力や気力でガードしていなければその部分が凍るオマケ付きなのだ。


 いいな~、チートいいな~、羨ましいな~。


 その攻撃を羨みながら眺めていると、グロスは拳に魔力を纏い、横殴りにする事で弾丸を砕く。それを見て驚いている辺りかなりの魔力を籠めたのだろう。南無。


 私は着地と同時に【雷速】を使い。澪の方を振り向いた事で、私に背を向けているグロスの後頭部に、雷の速度の飛び蹴りを入れる。あっ、勿論足は【結界】でコーティングしてるよ!


 ついで、足に風縮の要領で風魔法を使い、攻撃に転用して追撃の一撃を放つ。思いの外良いところに当たり、グロスの頭は前に倒れ……無かったよ!?


 なんと!?


 攻撃を耐えきり逆に私の足を掴みに来たグロスの腕を【結界】で阻害して一瞬遅らせると、その場で体を捻り何とか回避して着地する。

 その間に詰め寄って来た澪の、氷を剣の様に腕に纏わせた【氷斬剣】がグロスの腹に突き刺さる。

 しかし、その一撃ですらグロスは腹に力を入れ、そのパワーだけで砕きたいしたダメージは入らない。


 うそん!?


 それどころか、懐に飛び込んできた澪に両手を組み、叩き付ける様にその後頭部を狙う。


 オイ! それは死ぬ!


 私は着地と同時にまたも【雷速】を使い澪を拾い上げそのまま駆け抜ける。だが、後ろからドゴォーーオオ! と、音を立てながら放たれた一撃で地面が捲れ、私達を追って割れて来る。


 何だそれ!? 衝撃波か!?


 何とか【雷速】を解除しながら横に飛び衝撃波をやり過ごすが、グロスの馬鹿は何故か再びその場で腕を引き絞り、私達に向かって思いきりストレートを放つ。


 いや、それはもう嫌な予感しかしないんですが……嘘だよね? そんなん出来ないよね!?


「「うそん!」」


 私の願いも虚しく、グロスの放つストレートはその威力凄まじくドバァ! と、風を叩き付ける音を立てながら、私達に衝撃波……いや、これ壁だね! 壁となって迫ってくる!


「うわっ!」

「くっ!」


 私達は風の壁に打撃され吹き飛びながら地面を転がっていく。


 しかし、私は最近吹き飛ぶ事に慣れてきたので、見事な受け身を取りながら地面を転がり、ダメージを最小限に抑えられる! うん、全く嬉しくない特技が出来たよ!


「おい、白亜あそこまで強いとか聞いてないぞ」


 それは、私も予想外何ですが!? 私か! 私が悪いのか!?


「想定外だね。まさかここまでとは……」


 こ~れ、勝てるのかな?

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