第157話 「うわぁ~、ないわ~」
「な、んっ、でっ! 何であのハゲが指揮取るのさ!? 普通上から二番目でしょこの場合! しかも優秀なら分かるけどこの状況で闇雲に追い掛けろとかバカなの! いやもう聞かなくても分かるわバカだよ! 全員に死ねってか! うが~~」
「ハーちゃん、ドードー」
「そうですご主人様落ち着いて下さい」
「言いたい事は分かる。凄く分かる」
「ハクア様、言いにくいのですがあの無能は私の親族に当たります。私が何を言った所で気は晴れないでしょうが……それでも申し訳ありません。ですがここで断るのは……」
「いや、エルザが謝る事じゃない。本当にエルザが謝る事じゃない……はぁ~、私は一応現場の様子を確認してから追うけど、あんた達はどうするの?」
「俺も着いて行こう。隊の方は副官に指示を出させ半分に分ける。五十でここを守護し、もう半分の五十で追う」
「私も行くわ。こっちも副官に言って出撃準備を整えたら、全隊の四十で追うわ」
「ごめん。ならメルの方に私の仲間とアレクトラを頼んで良い?」
「私の方は構わないけど?」
突然のハクアの申し出をメルは快く受け入れる。だが、その言葉に驚いたアリシア達はハクアへと詰め寄り質問責めにする。
「ご主人様!?」
「ハーちゃんはどうするの?」
「状況によるけど、私はヘルさんと二人で斥候役してくるわ」
「なっ! 二人で何て危ないよハクア」
「そうだぜ嬢ちゃん。せめてウチの若いの連れてきな」
「ありがと。でも二人の方が良いんだよ。何せ空から偵察するからね」
「「空から?」」
「私は機人種ですから、空を駆ける武装も在ります」
「なるほど、確かにそれなら二人の方が良さそうだ」
「まあ、それも夜だから何処まで見えるか分からないけどね」
「……わかりました。無茶はしないで下さいね」
「うん。了解」
それからハクアは皆に出立準備を任せ、ギルド長の陣幕があった所へジャック達と共に様子を見に向かう。
「予想以上に厄介みたいねフープの兵って、何処もかしくも怪我人ばかりだわ」
「確かに、見事な奇襲と引き際だ。だが、こちらにも大怪我をした人間は居ても、死人が出なかったのは幸いだ」
「怪我人だけで死人が居ない? …………そうだ、二人ならフープに有名な兵士が居るかどうか知ってる?」
「ん? ああ、確か白騎士カークスと剣姫フーリィーとかってのが居たぞ。二人とも俺達と同じAクラス並みの実力者だって話しだな」
「フーリィーは一度だけ一緒に戦った事が有るけれど、本当に強い子だったわ。剣姫何て言われるのも分かるくらいね」
「それでも勇者の手に落ちた……か、その二人の相手は二人に任せるかも、操られてる可能性が高いから、なるべく殺さない様にって枷付きで」
「そりゃ難儀だな。だが、任された」
「私も良いわ。可愛い子は私も殺したく無いしね」
「よろしく。それで他にも幾つか有るんだけど──」
「──分かった。善処しよう」
「それに何の意味が有るの?」
「心配性何でね。全部の事に対処したいのさ」
「了解、お手並み拝見ね」
そして、陣幕に辿り着いたハクア達が見たのは、異様な張り切りと共に各所に指示を出しているゲイルの姿だった。
「うわぁ~、ないわ~」
「あそこまでイキイキとしていると流石に苛つくわね」
「副長のシルクの嬢ちゃんが縮こまっちまってるな」
(あの人有能だけど小心者っぽいからな~。あのハゲに強く出られたら、ああなっちゃうよね。歳上だけど小動物みたいで可愛いな~、本当。まあ、今はそれが超裏目に出てるけど)
「良し。シルクさんに話しを聞こう」
そう言ってシルクに近付いて行こうとしたハクアだが、ゲイルがこちらの事を目敏く見つけ、ドヤ顔をしながら近付いて来る。
「ふん。貴様何をしている? この私がギルド長不在の為、指示を出して居るのに、命令の一つもまともに聞けんのか!?」
しかし、ハクアは何も聞こえないかの様にゲイルの横を通り抜け、人員の整理等を行っているシルクに話し掛ける。
「シルクさん状況は?」
「えっ、あの」
「こら! 貴様! こんな大事な時まで何をふざけて──」
「うるさい、黙れ。忙しいんだろ? 構わず続けてろ。それで状況は?」
「は、はい、良いんですかハクアさん?」
「大丈夫」
ハクアの言葉に更に興奮して何かをまくし立てるが、それを無視して話しを進める。
「えっと、現在ギルド長と秘書のマチルダさんが何者かに連れ去られ、その代わりにゲイルさんの指示の元動いています」
「誘拐は確定なの?」
「はい、これを」
そう言ったシルクからハクアが手渡されたのは、ギルド長を預かったという内容の書き置きだった。
「これが焼けた陣幕の側に有りました。それと、火災発生後の奇襲により、ハクアさん達と黒龍連合、暁の乙女以外の冒険者は半壊しています。幸い怪我人だけで死者は出て居ませんが、代わりに昏倒させられた何名かが同じく連れ去られた様です」
「連れ去る? どう言う事だシルク嬢ちゃん」
「言葉通りです。確認が取れているだけでも、二十名程連れ去られました」
「戦力として持って行かれたか。恐らくは洗脳でもして私達にぶつけるんだと思うよ」
「なるほどね。強く無くても仲間とは戦いにくいものね」
「他には何も無かった?」
「後は近くにこれが落ちていたそうです」
「これは……」
「知っているの?」
「…………いや、分からん。取り合えず預かっても?」
「は、はい」
「ふん。用は済んだか。それなら早く奴等を追跡しろ! 逃げられたらどうするんだ!」
「……チッ。分かった。シルクさんありがとね。行こう」
「もう良いのか?」
「うん。用は済んだ。これ以上ここに居るとハゲが移る」
ハクアが吐き捨てる様にセリフを吐き陣幕を後にしようとすると、何故かゲイルがハクアの肩を掴み引き止める。
「おい、ちょっと待て」
「何? まだ何か用? つーか触んな」
「貴様等がヘマをしないようこの私も着いて行こう」
「「「はっ?」」」
「聞こえなかったのか! この私がわざわざギルド長救出の手助けをしてやると言っているんだ。貴様等だけでは敵の罠に掛かり手を焼くかも知れんからな。何よりルーリンさん一人を危険な所にはやれん」
(チッ! それが本音か)
「いらん、邪魔だ!」
「逆らう積もりか? ギルドに」
(……この男いっそここで殺るか。その場合何処がどう敵に回る……)
「なっ、何だその目は」
「落ち着け嬢ちゃん。あんたはウチの連合で預かるそれで良いな」
「ふん。良いだろう」
「行こう。そろそろ準備が終わる頃だ」
「チッ!」
「分かったわ」
こうしてハクア達は荷物を抱えたまま罠の中に飛び込んで行く事になってしまったのだった。
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