第228話私も疲れてたんだね?

「どうやらここは魔物の卵の保管場所だった様ですね。恐らく澪達が居た為に用心の為隠して在ったのでしょう」


 ヘルさんの言葉に辺りを見回す。わざわざ気を使ってヘルさんが言わずにいたが、どうやらここは保管場所で在ると同時に苗床&生まれた魔物の食事場所でもあったようだ。


 辺りには粉々になったカラの破片と共に幾つかの骨と死体があった。


 なんの意味も無いと分かりつつ私は手を合わせる。その時ふと、カラが山の様に散らばっている場所に一つだけ割れていない卵を見つけた。


「あっ、一個だけまだ産まれて無いのがある。……ゆで玉子、いけるか?」

「いかないで下さいマスター」

「まず食えるかどうかを疑うのはどうかと思うぞ主様」

「流石ですハクア様」


 エルザさんはこういう時だけ尊敬してくれるよね?


「何の卵だろ?」

「魔物の卵ですよハクア様」


 バカにされた!? いくら私だってこの状況なら分かるよ!!


「特定は出来ませんが、よろしければ【魔獣調教】なさっては? 有益な魔物なら売る事も可能ですよ」

「……売れるの?」


 やはり食用か?


「もちろん売れますよハクア様。魔物使いが従えている魔物は、買い取った相手に契約を移せば手っ取り早い戦力にもなりますしね。契約さえ結んでいれば人を襲う事は滅多にありません」

「主がけしかけた場合、不慮の事故で死んだりした場合はその限りではありませんが、それでも一部では戦力やペットとして需要があります」

「ほうほう、でも産まれても無いのに契約出来るの?」

「可能です。むしろ卵の状態で契約を交わし、生まれた魔物を育てるのが一般的です。道具などを使えば一般人でも契約出来ますしね」


 意外な魔物商売だな。


「うし! それじゃあやっておこうかな?」


 私は卵に向かい【魔獣調教】のスキルを使う。


 ▶【魔獣調教】のスキルを???の卵に使用しました。


 ▶スキル成功しました。


 当たり前の事だが簡単に成功する。


 まあ、意思なんて無いしね?


「どんなのが生まれるか楽しみなのじゃ」

「美少女希望!」


「「魔物です」」


 私の言葉にヘルさんとエルザのツッコミが重なる。


 ただの願望なのに。


「さて、他にめぼしい物も無いしそろそろ行こうか」

「そうですね」


 私はバスケットボール位の卵を抱えその場を後にする。因みに、皆の所へ卵を持って帰ると何故か全員からトラブルの匂いしかしない──と、言われてしまった。解せぬ。


 その日は流石にボス戦と連続しての探索の為、御飯を食べたら皆泥の様に寝た……が、私としては夜中辺りから身体中を襲ってきた筋肉痛が大変だった。


「のおぉぉぉおぉ~」

「だらしのない奴め」

「あはは、しょうがないんじゃないかな? ハクア昨日は頑張ってたし」


 現在私はフープの王城の一室でベッドに転がされている。


 最近マシになったんだけどな~。


 実はこの筋肉痛【雷装鬼】の反動だったりする。覚えたての時は知らずに使いまくって筋肉痛になっていたが、訓練のお陰で最近はなんとかなっていたが、昨日はグロス相手に戦って、その後直ぐに巨大化したマハドルとの戦闘だったからね。


 しかもグロスとの戦いでは、白雷装どころか鬼炎雷装まで使ったし、そりゃ反動も出るってもんだよ。


 因みに言うと寝込んでいるのは私だけではない。実は隣の部屋ではアリシアとエレオノも寝込んでいるのだ。


 なんでもアリシアは【精霊融合】の影響で、身体と魔力に負担を掛けすぎたらしい。エレオノはエレオノで完全な吸血鬼になった事で、見た目こそ変わらないが身体の中身が急速に作り替えられている最中なのだそうだ(※ヘルさんとクー談)


 二人曰く危ない事は無いとの事なので、少し心配だがまぁ何とかなるのだろう。


 そんな訳で現在は身体を休めている。澪達はフープの為に色々とアイギスの手伝いをしているのだそうだ。二人は現在休憩を利用して見舞いに来てくれていた。


 因みに私の看病はエルザが付き、アリシアとエレオノはミルリルとミミが担当して看病している。じゃんけんで決めたそうだが、ミルリルが何故か非常に悔しそうな顔をしていたのが印象的だったりする。何故だろう?


 今まで話しには出なかったが、フープは王城を一時魔族に占拠されてからと言う物、城下の人間も人質扱いになっていた。


 実を言えば最初魔族の下に付くのは、澪を初めとしたアイギス、フーリィー、カークスの四人だけの予定だった。いくらアレクトラが人質になっているとは言え、その為だけに全ての人間を裏切れ──とは、流石に兵士に言えなかったからだ。とは言えそれでも反対はされていた。


 だが、魔族はそれを許さなかった。


 結局城を襲った魔族は澪達が兵を連れて行かないと言うと、今度は城下の人間全てを人質にしたのだ、それでも一部の兵は魔族に屈する事など出来ない──と、言っていたが澪達が説得し魔族の下に付いたと言うのが、今回の流れだったらしい。


 澪達が仲間になる事で国民の安全性は確保された。

 だが、それは魔族の管理の元と言うものだった。澪が掛けられた呪いは、裏切った際呪い殺され魔物になると言うものだったが、フープの国に配置され管理していたのは、同じ呪いを受けた人間から産まれた魔物だったらしい。


 町の中なら自由に歩ける。だが、一歩でも外に出れば容赦なく殺されると言う現実は、町の人間に大きな精神的負荷を与えた。しかし昨日、突然その魔物が苦しみ出したと思ったら、そのまま息絶えてしまったらしい。


 なにが起こったか解らない町民は当然不安になった。だが、そんな不安も直ぐに消える出来事が起きた。


 それは、先触れとしてアイギスが送った兵士によるマハドル討伐の知らせだったのだ。


 町を見張っていた魔物は、呪いから産まれた為にマハドルの忠実な人形だったが、マハドルと繋がっていた為に同時に死亡したらしい。これは澪が予め調べていたそうだ。


 そして今日、フープではここ暫くの重苦しい空気が嘘だったかの様なお祭り騒ぎとなっていた。皆はこの手伝いや城での処理に終われているらしい。しかもこの祭り何と城の備蓄の大部分を解放したそうだ。


 自分達が人質になった為にフープの兵が魔族に付いた。そんな事は住人からすれば知った事ではない。ゴタゴタに巻き込まれ人質になった時点で不満が募って当然だろう。


 言い方は悪いが、アイギスはそんな悪感情を爆発させる前に城の備蓄を解放する事で、町の人間の悪感情を減らしたのだ。元々ロークラの動きが怪しかった為に、色々と準備をしていたからこそ出来た事だそうだ。


 まあ、そのせいで備蓄はかなり減った様だけどね。それでも悪感情が高まって謀反やクーデターみたいな物を何処かの誰かに煽動されるよりは、はるかにマシだろう。いやいや、為政者は大変だな~。


 澪達はそんな中、炊き出しや備蓄の受け渡し在庫確認等を色々と手伝っているのだそうだ。


 あぁ、出店が出てるらしいのに買い食いが出来ないなんて。私はなんて不幸なんだ。


「まあ、今日は大人しく寝ていろ。明日は正式な褒賞の授与式があるんだ。それまでには動ける様になっておけ」

「面倒だからパス」

「はあ、出来る訳が無いだろ」


 ですよね~。


「さて、そろそろ休憩も終わりだ私達も行こうかコロ」

「うん。了解かな」

「じゃあエルザ、コレを頼んだぞ。甘やかさなくて良いからな?」

「わかっています」


 何だこの会話。解せぬ。


 その後私は、痛みのせいであまり眠れなかった為再び眠気に襲われ、起きたら次の日の朝だった。


 私も疲れてたんだね?

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