第349話(……凄っ)
自分の力が通用すると分かったエレオノは巨人に向けて疾走する。
そんなエレオノを近付けまいと、巨人は脚を突き出し攻撃するが、今度はそれを受け止めず上に飛んで回避する。
そして──。
「ブラッドアーム・
エレオノが叫ぶと、自分で傷付けた傷口から血が溢れ、鎖の形へと姿を変える。【血創操】で作られた鎖は手首から無数に飛び出し、巨人の脚を大地へと縫い止めた。
しかし、如何な強化された鎖と大地を使った拘束と言えど、巨人の恐るべき膂力の前には一瞬の停滞を生み出す事しか出来ない。
──だが、エレオノもその一瞬さえあれば構わなかった。
巨人の脚を拘束すると、その一瞬を使い脛へと着地。それと同時に勢いを殺す為に曲げた膝を、バネのように使い一気に巨人へと跳躍する。
「ハアアァァア!」
──狙うは一点。
眉間の部分、核となったリス型のスケルトンが最後にチラリと見えた場所。
その一点に全ての力を込め剣技【穿孔迅】を打ち込む。
だが──。
(──ッ! やっぱり硬い!)
ガギィッ!! と、硬質な音を立てエレオノのの攻撃を受け切る巨人。
「キャッ!?」
エレオノの攻撃は頭蓋骨に当たる部分を壊し、リス型を露出させたものの、後一息の所で身体全体を捻る事で、眼前のエレオノに大剣を振るって来た巨人の攻撃を受け止め切れず吹き飛ばされてしまう。
強化によって大きく力を上げたエレオノと言えど、中空で巨人の強烈な攻撃を受ければ、その威力と体格差の前に堪える事は出来なかった。
(イツツ……。大分吹き飛ばされちゃった。でも、一人でもちゃんと戦えてる。それにもっと無理すれば核を壊せるかも。だけどアリシアが控えてる今、私がそのリスクを負ってまで今無理する必要は無いよね。むしろ……アリシアでも無理だった時に対処出来るよう、探りを入れながら動くべきかな?)
そう考えたエレオノは空中戦に関しては捨てる事にする。
地面であれば無理矢理攻撃を耐え切る事も出来るが、空中では踏ん張りが効かず耐え切れない為だ。
──震える手を見て握り締める。
それは恐怖から来ていた先程までのものとは違う。
強大な敵相手に一人で戦えているという実感からの歓喜の震え。
「ハァーー……フゥーー……よし!」
深い呼吸で浮つく心を鎮め、冷静に相手を観察する。
今までは力任せに襲って来ていた巨人が、今ではエレオノに向かって構えを取るように警戒している。
どうやらここまでの攻防で、漸くエレオノの事を敵として認識したらしい巨人は、先程までと打って変わり動かず此方を窺っている。
(こっちを警戒してるのかな? それなら時間稼げるから好都合だけど……。何か嫌な予感がする)
時間を稼ぐ。
その一点だけで見れば好都合な状況だが、エレオノは敢えて自分の勘に従い一気に距離を詰める。
巨人にとってその行動は予想外だったのか、慌てたようにエレオノに攻撃を仕掛ける。
(これは……駄目!)
何故か直感的にこの攻撃を受けるのは駄目だと感じたエレオノは、今までのような次の攻撃に移りやすい避け方ではなく、何が起こっても対処出来る程大袈裟な回避を選択。
自身の身体をバネのようにしならせ一気に中空へと跳躍した。
その瞬間、入れ替わるように大剣が地面に辿り着くと、その地点を中心に魔力による大爆発が起こる。
(うわ!? 受けてたら粉々になってた……。でも、さっきまでの行動を見るにアレを出すには時間が必要な筈。そして時間を十分に与えたら、今度はアレよりももっと凄い攻撃が来る。そうしない為には──)
そこまで考えたエレオノがとった行動は攻撃。
相手を引き付けアリシアに向かわせず、同時に相手に力を溜める時間を与えない。
その為にエレオノは真正面から巨人に戦いを挑んだ。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
(エレオノ……凄い。いつの間にこんなに強く)
アリシアの前方では今もまだエレオノが、巨人との激しい戦いを繰り広げている。
自分があの場に居れば一合と持たずに吹き飛ぶような攻撃に、時に受け止め、時に弾き返し、時に受け流す事で巨人と対等の戦いをしている。
それだけでなくエレオノは【血創操】を効果的に使い、様々な物を血で創り出し戦況を自分に有利にコントロールしていた。
(……そう言えば、ご主人様との訓練では考えながら戦わないといけないから、身体よりも頭が疲れるとボヤいてましたが、アレもその訓練の効果でしょうか?)
エレオノの戦いを見ながらも焦らず、可能な限りのスピードで急速に魔力を高めていく。
(──もっと。もっと深く……集中を……)
エレオノと巨人の戦闘は、今の所エレオノが優勢に進めている。
──だが、エレオノの動きは徐々にだが、しかし確実にパフォーマンスが落ちていっているのがアリシアには分かった。
(恐らくエレオノは、あの技を使い慣れていない。そして長時間の使用は今回が初めてに近いんでしょう。その証拠にもう息が上がってきてる)
アリシアの予想通り、エレオノが【血鬼】の力を実戦で使うのも、長時間使う事も初めての事だった。
そしてその代償は恐らく後少しもすれば、エレオノの死という形で現実の物となる。
その予感があるからこそ、アリシアは焦る気持ちをなんとか抑えながら、集中力を上げていた。
(──ッ! これなら!)
「灯火よ」
漸く自身が今放てる最大級の魔法を行使する魔力が溜まったアリシアは、ゆっくりと歌うように呪文を紡いでいく。
「我が
巨人もアリシアの強大な魔力に気が付いたのか、アリシアへと攻撃を加える為に向かおうとするが、エレオノがそれを許さない。
そんなエレオノは後ろに一瞬振り向きニコリと笑うと、再び巨人へと斬り掛り足止めする。
「太陽神の欠片たる我が身を今ここに顕現せん」
アリシアもまた巨人の動向は分かっていたが、その詠唱も集中も微塵も揺るがない。
それはエレオノなら確実に自分の事を護ってくれると信じるが故。
「全てを焼き 総てを照らし 我が敵を浄化せよ 我が仲間を勝利へと導かん 我が全てを持ってここに罪炎を与えん 審判はここに下される」
魔力の高まりから詠唱の終了を感じ取ったのか、エレオノは巨人の一瞬の隙を突き片足を斬り飛ばす。
そしてその影響で倒れた巨人を、先程よりも更に数と強度を上げた、大量の血の鎖で地面へと拘束すると、更に血の槍を創り出し巨人を貫ぬき、鎖と槍の二つを使い大地へと縫い付ける。
──そして、その瞬間遂にアリシアの詠唱は完了する。
「【日輪】」
堂々と鈴のような声で発声された魔法名。
それと同時に巨人の直上に人工の太陽が産み落される。
巨人は力を振り絞りエレオノの鎖から脱出するがもう遅い。
その太陽を遠ざけようとしたその手は、太陽に触れた先から一瞬で溶解し、蒸発して行く。
(……凄っ)
眼前で起こる一方的な蹂躙。
それを見ながらエレオノは恐怖する。
それは圧倒的な力に対してではない。
これだけ近くに居るにも拘わらず、一切熱を感じない完璧に制御された魔力コントロールにこそだ。
自分自身が幾らか魔法を扱えるようになったからこそ分かる高み、その高みを見ながらエレオノは負けたくないと思い、そしてアリシアもまた、エレオノの戦いを見て同じ思いを抱いていたのだった。
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