第635話カビが生えるぐらい休みたい所存
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア……」
私達二人の一撃を喰らい、胴体に風穴を空けられたベルフェゴールが、断末魔の声を上げながら塵となり崩れ落ちていく。
その光景を最後の瞬間まで確認した私達は、全てが塵になった瞬間、同時に倒れ込んだ。
「「だぁー」」
「疲れたぁー!」
「だね。もう動きたくないよ」
いやもうね。本当キツすぎ。もう暫くはゆっくりとカビが生えるぐらい休みたい所存。
そんな事を考えながら死力を振り絞り、なんとかベルフェゴールを撃退した代償に、力無く倒れ込み、顔を見合せて笑い合う。
「ハクア。ミコト様」
ベルフェゴールが居なくなった事で怠惰の世界が消え去ったようで、ようやく動けるようになった皆が駆け寄り、次々に称賛してくれる。
「ミコト様霊薬を。ハクアちゃんも早く飲んで」
「いや……私らよりもおばあちゃんの方が……」
「水龍王様には既に服用していただいてるから大丈夫。それよりもハクア達こそ早く飲んだ方が良いわ」
「ん。そういう事ならありがたく」
「「はあ〜……」」
アトゥイの言葉に私達は受け取った霊薬を飲み干し一息吐く。
「スッキリとしたフルーツっぽい味が染みるわぁ」
「うん。美味しい。やっとゆっくり出来るね」
おばあちゃんとかに渡された霊薬との違いよ。やっぱりあのトロピカルな七色は呑んだらいけないやつだったのでは?
「それにしても、最後は凄かったっすね」
「本当なの。創世龍とかムーもおとぎ話だと思ってたの」
シーナとムニの言葉に全員が思い思いに感想を言うが、私達は揃って微妙な表情をする。
「あるじ、どうしたの?」
「あー、いや。実を言うとあれ、想定よりも全然力で出なかったんだよね」
「えっ、そうなんっすか!?」
「うん。ダメージがあったっていうのもあるんだけど、それよりも私が上手く力を引き出し切れてないような感覚がずっとあったんだよね」
「まあ、ぶっつけ本番もいい所だったし、何よりギリギリ成功って感じだったからね」
「全くそうは見えなかったが……」
「うん。私もトリスと同意見」
先程までの奇跡のような光景を思い出しているのだろう。
トリスとシフィーが首を捻りながら言う。
「いや、確かに感じる圧力に対して出力は全く出てなかったぞ」
「ああ、ミコト様にこんな事を言いたくはないが、あれがもし創世龍だと言うならあの程度ではないだろう」
「そうでしょうね。ハクアちゃんとミコト様はわかっているでしょうけど、ほぼ見せ掛けだけだったと言ってもいい感じだったものね。正直に言えば他にも安全な方法はあったんじゃないかしら」
しかしやはりと言うべきか、歴戦の龍王達からみれば、あれが実に行き当たりばったりの穴のある作戦だったかわかったようだ。
「「面目次第もありません」」
「でもまあ、言い訳させて貰えば、あの状況では他の案なんざ全く思い付かなかったし、何より一応理由もあったしね」
「理由?」
「そう。理由」
不思議そうに聞かれた私は頷いて説明を始める。
「まあ、皆も戦ってわかったと思うけど、基本的に神ってのは特定の攻撃でしかとどめを刺す事が出来ないんよ」
「なんとなく感じてはいたがそうなのか?」
「うん。称号の勇者や英雄、それに同じ神の力だね。ダメージは与えられてもそれ以外だと、基本的には弱らせて封印が精一杯。根本的に滅ぼす事はその力があっても難しいくらいだし」
「へぇー。そうなんっすね」
「ソーナンス」
なので先程の戦い。
神の力を多少使え、龍脈の力を引っ張って来る事は出来るが、私では出力が足りなかった。
そしてミコトでは神の力をまだ扱う事が出来ないが、出力は私より上だった。
そこで私は龍脈の力を使い、心龍召喚のスキルを拡大解釈、そうして古い契約を交わした事で通常よりも深いパスを繋いだミコトを、擬似的に進化させ、言い方は悪いが操作する事で神の力を使って倒したのだ。
「とまあこんな感じなんだけど、実際もうちょいちゃんと進化させてあげられると思ったんだけど、実際は進化と言うよりも、龍脈の力で皮だけ作った感じだったんだよね」
つまりなんとか神の力は使えたが、進化したミコトの肉体と言うよりは、私が流し込んだ龍脈の力を使って皮だけ立派に感じにした、まさにハリボテのような状態だったのだ。
そのため、全ての力を使い切ったらハリボテが崩れ私達の変身&擬似進化も解けたという訳だ。
ちなみにミコトが人化状態なのは、この状態が一番コスパの良い消費電力状態になっているからだ。
私もなんとか幼女化は避けられたが、それでも力をほとんど使い切っているので、今は少し身体を動かすのも精一杯だ。
「なるほどそういう事だったんっすね」
「でも、何はともあれ全部終わって良かったの。人も土地も傷付いたけど皆生きてる。それならどうとでもなるの」
「ああ、そうだな」
「残念ながら、ほとんど終わったけどまだ終わってないよ」
「「「えっ?」」」
「なあ、そうだろ?」
私は皆の向こう側、そこに居る人物に向かって話し掛ける。
「ハクア何言って───」
「ヤーカムル!? 良かった無事だったんだね!」
「ダメですミコト様!」
「えっ?」
私が話し掛けた人物。
それはドラゴンにしては珍しくメガネをかけた、ミコトの教育係にして世話役の男ヤーカムルだった。
そんなヤーカムルを見つけたミコトが、喜びの声を上げながら近付こうとするのを止めるシフィー。
「なんで?」
「よく見てくださいミコト様。アイツはこの騒動の中、傷一つ負っていない所か、服さえ汚れていない」
「そうっすよ。これで良かった無事だった……とは流石に言えないっす」
ミコトの疑問にトリスが答え、シーナも続きながら一気に警戒心を高める。
「答えるの。今まで何してた?」
「そんな事……いちいち口にせずともわかっているでしょう」
「それでも……それでも聞いているの」
「はぁ……お察しの通りだ。これは俺が仕組んだそれだけだ。これで満足か?」
「嘘……だよね? ヤーカムル。嘘だよね? そんな事……ヤーカムルがする理由なんて……」
「理由? 理由なんてそんなもの決まっているだろう? 散々俺を虐げて来たこの里を壊したかったそれだけだ」
「そんな……嘘だ。嘘だよね!?」
「はぁ。それに貴女の面倒などもう見たくなかったのですよミコト様。力もないのに龍神の娘というだけの存在。そんなモノに今まで時間を割いていたのがどれほど苦痛だったか」
「お前!」
「それ以上喋るな。そこから先は容赦しないっすよ」
ヤーカムルの言葉のその場の空気が悲鳴を上げるかのように張り詰めていく。
「だが……それももう終わりだ。本当は全ての住人を殺すつもりだったが、お前達に全て阻止された。今更この人数差でどうする事も出来ない。殺したければ殺せば良いだろ?」
「ヤーカムル……」
「ああ、ならお前の望み通りに───」
「で、私はいつまでお前の寸劇を見てれば良いの?」
ヤーカムルが大人しく首を差し出し、殺気を撒き散らしたトリスとシフィーが手を掛ける瞬間、私の言葉で場の空気は凍った。
あれ? 私やらかした?
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