第452話さようならゴブ生、こんにちは地獄の扉
「あるじ!」
アカルフェルが部屋を去ると同時、ユエが部屋へと駆け込み私を助け起こす。
崩れ落ちた壁に埋まってたから助かった。
「あはは、派手にやられたねハクちゃん」
「ケホッ……ああ、まったく……だよ」
それでも個人的な収穫は幾つもあった。
ここでアカルフェルと当たれたのはとても大きい。
コロから聞いた話だが、ドラゴンの鱗は物理的に硬いだけでなく、高い魔法耐性も備えている。
だからこそ私も魔法での攻撃を最初から除外して行動したのだが、物理防御、魔法耐性は私の想像を大きく超える性能だった。
特に魔法耐性は漫画や小説、ゲームのように鱗を剥がしてそこを狙った所で私では突破出来ないだろう。
ブレスを妨害した時、ブレスとして放とうとした魔力は恐ろしい程の威力が集束していた。
あの暴発もアカルフェルは口が焦げ、全身に軽い火傷程度しかダメージが無かったが、私が喰らえば身体が吹き飛んでいた程の威力だっただろう。
そして何よりも龍としての力だ。
私が得たのが【竜力】だったから恐らくはその上の【龍力】とかであろうスキル。
私の物よりも数段上だとしても、私の使う竜の気とは似て非なるものだった。
例えるなら私の竜の力は側だけ似せた偽物だ。
騙し騙しでも多少は使えていると思っていたら、どうやら私は全くと言っていい程、竜の力を扱えていなかったようだ。
恐らくは根本から何かが違う。
今まではトリスが私相手に本気になる事など無かったから、違いが分からなかった。だが、アカルフェルの本気の殺意に晒されそれを理解する事が出来た。
その何かが分かれば私も少しは竜の力を扱えるかもしれない。
私がそうして先程の戦闘でわかった事を頭の中で整理していると、おばあちゃんが私の前にやってきて治療を始めてくれた。
因みに補足なのだが私のスキルには竜と龍と表示、理解出来る違いだが、それは私ようにそう表示されているだけで、実際には竜をドラゴン、一定以上の力を手に入れた存在を龍と区別するらしい。
まあ、ドラゴンだろうが龍だろうがどうでもいいけど。
「さて、ハクアちゃん。今の戦闘はどうだったかしら?」
問い。
短く簡潔な問いだ。
しかしその目は既に私の事を見定めようとするものへと変化している。
その事を感じながら、口に溜まった血を吐き捨て口元を拭い問いに答える。
「遠くない」
「フフフ、面白い子ね。ここまで一方的にやられてそれでも貴女の力が届き得ると?」
「そうだよ。理由は幾つかある」
収穫は何も、悪い事、出来ない事が分かっただけでは無い。
一つはアカルフェルの近接格闘技術だ。
おばあちゃんの身のこなしから、その息子であるアカルフェルも相当な練度だと予想していたが、実際戦ってみてわかったのはそうでもないという事だ。
ステータスの高さと龍としての身体の強さ、この二つは確かに脅威だ。
だが、アカルフェルの近接格闘技術は経験による我流な部分が多い。そして何よりも身体能力に頼った強者の戦い方なのだ。
多少動きが読みにくい部分もあるが、それでも読み切れない程でもない。近接戦闘でならばリスクに見合った成果も得られるはずだ。
そして二つ目は魔力の制御だ。
トリスから事前にブレスの事を聞いていた。だからぶっつけ本番にはなったが、無属性の魔力でブレスを妨害する事が出来た。
繊細な術式。
だからこそ異物が入り込む事で狂いが生じ暴発した。
そして何よりもそれは同時に私の魔力でも、術式に介入する事は可能だという事だ。
出来る場面、やれる事は限られるがこの事実は大きい。
後は──
「あいつを初めて見た時、私はあいつの強さは相当なものだと思った。けど、それは私があいつの潜在的な力も感じてたからだ」
だが、アカルフェルは私から見ても明らかに練度不足だ。今のあいつはせいぜい三割程度の力しか扱えていない。
私を小物と侮る限り奴が修練する事はないだろう。
それでも十分な強さを誇っているが、そこはなんとか自分自身で埋めていくしかない。
おばあちゃんは私の答えを聞いて一つ頷く。
「流石ね。ハクアちゃんの言う通りよ。そして、私が手伝えば貴女はアレを超えられる」
「良いの? 私はあいつが気に入らない。だから全力で叩き潰すよ」
それを聞いたおばあちゃんは嗤う。
「フフフ、構わないわ。自らの血と力に驕り修練を疎かにする者などいらない。ハクアちゃん、私アクアスウィードは貴女に力を上げる。そしてあれを倒す事から始めなさい」
容赦ない、これが龍王か……。
強くなる事、その歩みを止め停滞した者は例え息子であろうと容赦しない。
そして私にその息子を叩きのめせと言うその目は猛禽類のようだ。
絶対的な強者の目。
強さを求める者の目。
その目は私のよく知る人達の目と同じものだ。
「上等。潰してやるよ」
おばあちゃんはその言葉を聞いて嬉しそうに嗤うと、いつもの柔和な笑顔に戻る。
その瞬間、何故か私は背中に冷たい悪寒を感じた気がした。
い……いやいや。気の所為だよね?
うん。さっきの目の方が喰われそうな感じがするくらい怖かっのに、今の笑顔の方が何故か怖い気がするとかきっと気の所為なんだよ。
だからいい加減身体の震え止まってくれないかなぁ。
「ふう。良かったわ。アカルフェルを倒すという事は修行には勿論全力で取り組めるものね。私も正直少〜しだけ、やり過ぎちゃったと思ったけど心配は要らないみたい」
「……あの、あんまり厳しくしなくても良いんだよ? ゆったりまったり百話くらいかけて修行したってきっと誰も怒らないんだよ?」
「言ってる意味はよくわかないけれど。まさかハクアちゃんは楽がしたいなんて言わないわよね? たった今虫けらのようにやられて、頼もしく潰してやるよなんて言ったものね」
「いや……その……」
言葉の綾なんです。空気感にやられただけなんですよ。
「フフフ、私も本人の同意が得られずに、アレをやらせるのは気が乗らなかったのだけど、ハクアちゃんが心の底からやる気になってくれて本当に嬉しいわ」
「……はい」
な、なんとか逃げる方法を模索しなければ殺されてしまう気がする。
「微力ながら私も協力しますよハクアさん」
元女神と龍王のタッグチームだと!? わ、私本当に死ぬんじゃないだろうか?
ハッ! しかもいつの間に私を支えてくれていたユエが、自然に二人の向こう側に居る……だと。な、なんという身のこなしと空気読みスキル。
私、先にあっち習った方が良いような気がしてきたよ。
ちょっと恨めしそうにユエを見ていると目を逸らされた。そして代わりに私の肩に片方づつ手を置き、おばあちゃんとテアが目を合わせて下さる。
「頑張りましょうかハクアちゃん」
「ハクアさんなら出来ると信じていますよ」
「……はい」
さようならゴブ生、こんにちは地獄の扉。
ぐすん。
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