第251話お、おう。ら、楽勝だぜ……

 現在私はコロがアイギスに紹介して貰った鍛治屋の工房に居ます。


 何故私がそんな所に居るのか、それは昨日多少のいざこざがありそこで一人の男を漢に変えた事で、その現場を見ていた男性のほとんどが、私を見ると内股になり股間を抑え動けなくなる。そんな事案が発生した為だ。


 しかも中にはそのまま踞る人間も居るとの事、更に言えば今日の朝は騎士が戦場に出て、精神を病んでしまった時に御世話になる精神科医的な医者の元に、悪夢を見て寝れなくなると言う患者が列をなしていたらしい。


 なんでも白い悪魔に襲われる夢を見るそうだ。


 白い悪魔とか怖いね。


 そんな訳でせめて今日一日精神の安定を測る為、そんな名目で私は訓練所を一日出禁にされてしまったのだ。


 全く。サンドラちゃんのせいで私はいい迷惑だよ!


 因みにサンドラちゃんは未だ目覚めずうなされてるのだとか。別に関係無いけど。


 まっ、そんな訳で出禁になった事を聞いたコロが、私の装備を作ってくれると言ったので私はここに居るのだ!


 そう、自らの意思。


 決して、合法的な休みだヒャッハーとか思っていた所に、何時ものテンションとは違うコロに半ば強制的に連行された訳じゃ無いのだよ!


 そんなコロは現在、ゼーゲンの腕輪を使いブリギットと対話中なのである。


 そして工房の中には私とコロの他にフーリィー、澪、アリシア、ヘルさん、テア、エルザの六人も居る。


 他の人間は訓練中です。


 因みにこの人選、最初は監視役のフーリィーだけだったが、フーリィーだけだと言葉巧みに騙される恐れがあると澪が参加、アリシアとヘルさんも私の暴走を止める役として参加が決定したのだった。


 因みに残りのメイド二人は面白そうだから、だそうだ。自由だなメイド。


 そう、お分かりいただけただろうか? この事から分かる通り私の信用値はゼロである。


 何故だろう解せぬ?


 〈何度も言いますが自業自得ですね〉


 …………信用って何処に行けばドロップするのだろう。もしくは売り場を教えてほしい。


「しかし、龍気結晶石まで加工出来るなんてコロは本当に優秀な鍛治師なのですね?」

「へー、フーリィーがそんな風に言うって事はそんな扱いが難しい素材なの?」

「勿論、素材としても一流なら扱い難さも一流よ」


 と、私の質問に答えたのはいつの間にやら鍛治屋の入り口に立っていたアイギスだった。


 その横にはアクアとアレクトラも居てこっちに手を振っていたので、私はホニャッと顔を綻ばせながら振り返す。


 実はこの二人何気に仲が良く、私としてもアクアに普通の友達が出来た事が嬉しかったりする。


「いつの間に生えた?」

「失礼な言い方ね。さっきも言った通り龍気結晶石を扱える人間は貴重だもの。今後の為にも確認に位来るわよ」

「ほうほう。本音は?」

「何処かの誰かがやらかしてくれて、反対派の貴族の嫌味が朝から凄いのよね?」

「ふむ。迷惑な奴だね何処かの誰か」

「ふふふ、本当よね? 特徴としては白いらしいんだけど、ハクアは何か知らないかしら?」

「あははは、心当たりが全く無いね。知り合いに白いのは居ないし」


 だって私は知り合いでは無いのだよ?


「……はあ、そうなの? なら良いわ。因みにそのやらかした子。裏で【白き魔王】【白き死神】【白髪鬼】【処刑人】なんて呼ばれ始めてるらしいわよ? しかも朝から相談を受けてる医者からは新しく【白い悪夢】なんて呼び名が追加されてるとか?」


 いやん! 何か知らない内に中2ネームが拡がってるよびっくり!? でも、ちょっとだけドキドキしつつ良いかもと思う私も居ます。


 〈救いようが有りませんね〉


 辛辣! 最近突っ込みが鋭角過ぎません?


「まあ、七割本気の話しはさておいて──」

「七割は本気なんですね……」

「助かったわ。正直あそこら辺の貴族は、私が何しようと突っ掛かって来るでしょうし。貴女を恐れて中からの声が少なくなった方が重要ね」

「私は別にアイギスの為にやった訳じゃ無いけどね」

「知ってる。まあ、貴女の仲間を貶める言葉と、私の批判はあの結果に繋がる。みたいな感じに噂流したから」


 うむ。しっかり利用されてるね。


「でも、問題は他の事なのよね。貴女には言ってないけど、潰してくれた騎士の実家からは結構な量の食料を買い上げているのよ。その分どうしようかしら?」

「ああ、それなら心配無いよ」


 実は私は昨日の夕飯後から今朝方に掛けて、ヘルさんとエルザの三人で一緒にアリスベルへと行ってきたのだ。


 そして、カーラとコンタクトを取りそこから十商内で食料品をメインにしているタスクとアルベルトという男に、それぞれフープに食料を売って欲しいと商談を持ち掛けて来たのだ。


 私はそれをアイギスに話し、二週間後にその二人が詳しい契約を話しに来る事を告げる。


「驚いた。すでに手を回していたのね」

「向こうは商人だからね。商気と見れば寄ってくる。すでに割高で仕入れている位だから、多少の吹っ掛けを受けても赤字にはならないと思うよ。それにこれを機に反対派の資金も少しは断てるしね」

「そうね。と、なると次は街道の整備かしら? 今後アリスベルと付き合って行くとなると、街道の整備をして通商効率を上げたい所ね」

「それもそんなに時間は掛かん無いでしょ?」

「……お前、街道の整備だぞ? 時間は掛かるだろ?」

「いやいや。だってアリスベルからここまでが約400キロ位だよ?」

「まあ、そうね」

「しかも、少し外れると山とか森も在るけど、直線の間には特に何も無くて平地が広がるだけ、ならそこの整備はアスファルトじゃ無いけど、そんな感じで凹凸の少ない道を引けば良いだけでしょ?」

「だからそれが難しいんだろ? 石畳にしたって石を切り出したりする所からだぞ? ましてやセメントとかが在るわけでもロードローラーも無いんだぞ」

「そうですね。私もさほど詳しくは有りませんが、街道整備は石を退けながら道をならすか、大国ならばミオ様が仰ったように石畳を敷きながら。と、いう感じですね」

「フーリィー様の言う通りですよハクア様。石材の用意、作業員の用意、金、時間どれもこれも必要になる大事業が街道整備ですよ」


 はて? なんで皆そんな面倒な事を言っているんだ?


「……あのさ。人や時間、金は確かに必要だけど、なんで石材?」

「お前がアスファルトみたいの敷くって言ったからだろうが」

「てか、土魔法使えばその距離ならそんなに時間掛からんだろ?」


 私が違うの? と、言う感じに聞くと皆が何故か物凄く驚いた顔をしている。


 何故だ?


『シルフィン:誰もそんな工事に魔法を使おうだなんて思わないからですよ』


 えっ? なんで!? 土木関係なんて土魔法が使えれば地球よりも早く終われんじゃん。


『シルフィン:実は私にもその発想は無かったので目からウロコですね。言われてみればその通りなのですが……』


 頭かてぇな皆。


「……確かに全く想像もしなかったけどそれなら──」


 複雑な工程や装飾の要らない道の舗装程度で良いなら、私ですら一分もあれば20メートル位は行ける。集中力やMPの関係もあるけど人数さえ集まれば……。


「一週間位で出来んじゃね?」


 うん。最低でも十人位、土魔法が得意な真面目な奴が居ればそれくらいで行けんじゃね?


 私が自分がやらないのを良い事に、結構タイトなスケジュールでの目標を出して、ウンウン。行ける行ける。と頷いていると、何やら視線を感じそちらに目を向ける。


 ……そこには、アクアとアレクトラの称賛と尊敬の眼差しが有った。


 ワッツ!?


「おねちゃん凄い。そんな短い時間で一人・・で作れるなんてゴブ」

「ハクア様凄いです。私も多少土魔法を扱えますが、とても私では真似できません」


 えっ? ちょっ、ちょっと待とうか御嬢さん方。いつの間に私がやる事になってるの? それに今の計算一人でやるのじゃ無いよ!?


「えっ? そうなんですかご主人様。私はてっきり人を集めてその期間だと思ってました」


 そう、その通りだよアリシア!


「アリシ──」


 アノ言う通り。と、言おうとした私の言葉は後が続かなかった。


「アリシア、おねちゃんを甘く見ちゃダメ。おねちゃんは凄いゴブ」


 ノォーーー!? 無理だからね! そんな信頼寄せられても無理だからね! は、早く否定しないと!


「わ、私は何もご主人様の事を甘く見ている訳じゃ有りませんよ。ご主人様ならそれ位、出来て当然です!」


 当然じゃねぇーーーー!? 無理だよ! 信頼が重いよ!


「くっ、ふ、ふふ、ぷ。そう、ですね。ハクア様なら楽勝ですね」

「ええ、全くです。白亜さんの力と才能を持ってすればこれ位造作も有りませんよ。……ふふふっ」


 お前らーーーーー!!! 笑ってんじゃねぇかよぉ! 勘違いだと分かった上で乗って来やがったこのメイド共! なんだこのメイドコンビ最強か!? 悪乗りが過ぎるわ!


「あら、そんな太鼓判押してくれるなら任せようかしら?」

「くくっ、そ、そうだな。良いんじゃないか?」


 お前らも乗るのかよ! フーリィーおろおろしてないでヘルプ! 警察! 誰か警察を! 違法労働させようとしてる事業者が! ブラック越えてブラックホール並の仕事が!! 私、死んじゃうから!!

 無理、無理だよ! 幾らなんでも一人じゃ無理だよ! あ、謝ろう。今ならまだ訂正出来る!


 私はそう胸に決意を秘め真っ直ぐ顔を上げる。そこにはアクアとアレクトラ、アリシアの三人の尊敬と期待の籠った瞳が私を一身に見詰めていた。


 くっ、今からこの期待に満ちた瞳を裏切るのか? 裏切れないよこの瞳! でも、出来ない物は出来ないのだよ! そう、謝れば良い。出来ないと、無理だと、そう言ってしまえば楽になれるんだ! 出来る! 私はやれる子だ! さあ、言え! 言うんだ私!


「お、おう。ら、楽勝だぜ……」


 何故か私の口から出たのはこんな言葉だった。


 アホかぁーーーーー!! 馬鹿じゃねえの? 馬鹿じゃねえの!? 何、親指まで上げてサムズアップしてるさ!


 私の言葉に尊敬の眼差しを送るアリシア達の後ろでは、必死に笑い声を抑える鬼畜共が居た。


 クソ! クソ! 裏切れないものが私にだって在るんだよ! 特に女の子の期待に満ちた純粋な眼とか! チクショウ! なんで! なんでこうなった!


 〈見栄張ったからですね〉


 うわん!


「えっと、皆どうしたのかな?」


 今までブリギットと集中して話していたコロが訳が分からず尋ねる声がした。

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