第270話ハクアは私が守る!

 ハクアとの戦闘を終えた私は、現在治療が終わったハクアと共に正座させられていた。


 ハクアはというと怪我自体は専用フィールドの影響で無かったが、痛みだけは幻痛としてあったので治療されていたのだが、教育的指導という事で治療を半ばで中断され、現在正座の体勢で呻きながらも強制的に姿勢良く座らされていた。


 因みに私は治療さえされずに正座している。その理由は。


「二人ともやりすぎです! 加減というものを知らないのですか!」


 と、言う事らしい。端的に言えば反省させるためだ。


 いや、うん。やり過ぎたのは確かに自覚してるから認めるが、治療くらいしてくれても良いんじゃないか?


「異議あり! 私はメッタメタにしてやんよ! レベルでやられたんだから正座を解いても良いと思う! そして治療の続きプリーズ」


 ……君は速攻で私を切り捨て自分だけ逃げようとするんだな? まあ、いつも通りと言えばいつも通りか。


「却下です。そもそも最初の白亜さんの攻撃から狂っていってるんですよ。自覚しなさい!」

「やれると思ったからやった。今痛いから後悔はしてる。でも反省はしてな──ぎゃぁぁあ! 頭が割れるぅぅう~!」


 この場面であんなボケに走るのは流石過ぎないか?


 ボケに走った結果テアからアイアンクローを頂戴する事になったハクアは、締め付けられた頭からミシミシ音を立て必死にもがいて抜け出そうとするが、だんだんと動きが少なくなる。


 さ、流石にやり過ぎではないか? 変な痙攣しだしたぞ!?


 そんなハクアへの説教を止めようかどうしようか迷っていると、何故か聡子がハクアをからかう時のようなニマニマした笑顔で後ろから抱き付いてくる。


「んっふっふっふ。いや~、それにしても本当に心さんはハクちゃんの事大好きですよね~? 今回だってただ単にハクちゃんに良い所見せようと頑張ってやり過ぎちゃった結果ですもんね~

「い、いや、ちが……」


 いやいや、ちょっと待て!

 ここで否定して良いのか? す、好きとかいうのは置いといて、ひ、否定したらハクア落ち込んだりしないか? というかなんの反応も無かったら私が落ち込むぞ。大人組は無理矢理巻き込んで深酒するぞ! って、そうじゃない!

 聡子が変な事を言うからおかしくなったんだ! そうだ! 惑わされるな。ここは……そうだ! この世界に来てからハクアの事をまだちゃんと褒めて無いな。うん。そうだそうだ。私はハクアを褒められるし、ハクアだって褒められて悪い気はしないだろう。これは一石二鳥じゃないか? うん。これで行こう!!


「う~ん? どうしたんですか心さん。何か違うんですか~?」


 くっ!? 本当に昔から性格悪いな。いやいや、ペースを乱されるな。落ち着いて無視すれば良いんだ。しかしなんだな? いざ面と向かって褒めようと思っていると気恥ずかしいな。いや、褒めるのは悪い事じゃない! 何も恥ずかしがる必要など無いな。


「その……ハクア?」

「ん? どったの心?」


 ハクアは私の言葉に振り向くとコテンッと首を傾げる。


 君はたまに小動物の空気を纏うな! 無性に抱き締めたいぞ!


「あ~。その、強くなったな。見違えたよ。私も本気でやったがどの時点で負けても不思議じゃなかった。その、良く頑張ったな?」


 私の言葉に正面を向いて固まるハクアの頭にポスンッと、手を置いてなるべく優しく撫でる。


 うん。綺麗な髪だ。相変わらず撫で心地が良い。


 ハクアの撫で心地に一人ほんわかする。だが、次の瞬間、私は思わず……えっ? と、間抜けな声を出してしまった。


 しかしそれはどうしようもない事だと思う、何故なら私に成すがままで頭を撫でられていたあのハクアが何時の間にか泣いていたからだ。


 瞬間的にドッと冷や汗が流れるのを感じる。


 な、な、な、何が起きた!? わ、私か? もしかして、もしかしなくても私が泣かせたのか!?


「だ、大丈夫かハクア!? どこか痛いのか? ひ、酷い事でも言ってしまったか?」


 突然の事態に盛大に混乱した私は、正座を崩し膝立ちになりながら何故泣いてるのか聞き出そうとするが、ハクアは一向に泣き止まず私の混乱は加速する。


 だが、そんな私の首筋にヒヤリと金属特有の冷たさが押し付けられる。見ればいつも通りの笑顔でいつもとは違う威圧感を持った聡子が刀を押し付けていた。


「フフフフフフ、ハクちゃん泣かせるとか……少ーし反省しましょうか心さん。安心して良いですよ。人の首くらい簡単に落とせますから」


 ……マジだな。目が全く笑ってない。


「聡子。心の説教は確定ですが状況を整理してからにしてください」


 私に刀を向ける聡子を後ろから羽交い締めにしながら冷静に言うテア。


 いや、空気が揺れてるし何よりもプレッシャーが物凄い。ほ、本気でキレてるな。私よりよっぽど過保護じゃないか? いや、そんな事より。


「ハ、ハクア? その悪かった。私がなにか傷付けてしまったんだろう? 泣かせる積もりなんて無かったんだ。ただ……その、お前の事をどうしても褒めてやりた──」


 私の言葉の途中で何故か私の胸の辺りに抱き付き「ム~」なんて良いながらしゃくりあげるハクアに、どうすれば良いか分からず狼狽えながらも、とりあえず頭を出来るだけさっきよりも優しく撫でる。


 考えて見ればハクアはこの世界で一からずっと頑張って来たんだ。ここまでの道程は分からないが甘えたくなってもしょうがないか。


 ハクアは今もまだ魔族に狙われている。これからはより一層厳しくなるはず。それなのに私は神であるせいでこの世界に干渉できない。この世界に渡るのでほとんど無くなった神の力なんて棄てて、半神としてレベル1からこの世界でやり直してハクアを守るべきじゃないか?


 いやいや落ち着け。そんな事をしたらハクアを鍛える事が出来なくなる。今ここでハクアを鍛えるのは大事な事の筈だ。落ち着け落ち着け私! そんなに簡単に決めて良い事ではないぞ。ちゃんとテア達全員と話しあってから決めなくては。


 混乱の坩堝に入る中なんとか思い留まる事に成功する。だが、ふと視線を感じ下を見ると未だに抱き付きながら、少しだけ泣いていたせいで赤くなった顔と目が私を見上げていた。


 目の合ったハクアは直ぐにまた抱き付き私の体に頭をグリグリと押し付けてくる。


 ……よし。神の力なんて捨てよう。ハクアは私が守る!


 その威力は私が自分の存在自体を否定してでも、神の力を捨てさせるように考えさせるには十分な威力だった。

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