第255話私の身体が(素材として)コロとアイギスに狙われてる!?

 突如として刀から球体へと形を変えてしまった物体Xを前に固まる私。そんな私に白けた目を向けながら追い討ちを掛けてくる人でなし。


「……お前、今度は何をやらかしたんだよ。全く次から次に」

「わ、私のせいじゃないぞ! 多分、きっと、恐らく、だと良いと思っています」

「自信無くなっていってるわよ?」


 しょうがないじゃん! こんな呆然としちゃってるコロ見たらさぁ! いや、でもまだ諦めるのは早い! 今からこの球体を延ばせばなんとか……。いける……のか?


 〈無理でしょうね〉


 ですよね!


 使う前から壊す。そんなミラクルを起こしオロオロする私の横を抜け、テアが球体を調べ始めると、いつの間にやらブリギットに駄女神まで加わっていた。


「おい。そこの駄女神いつの間に生えて来た!」

『まぁまぁ、それよりも随分と面白い変化をしましたね』

「ええ、興味深いです」

「あ、あの、ボクの作った刀はどうなったんでしょう?」


 お、おう。コロの遠慮がちな質問が胸に刺さるぜ。


『安心しろコロ。これは間違いなくお前の作った物だ』


 セーフ! 私セーフ?


「でも、これじゃあボクが打たなくても変わらないですよね……」


 アウトー! こんな顔させたら流石にアウトだよ! セーフとか言えねえよ! ちくしょう!


『いや、そうじゃない。素材にしたハクアのスキルとコロの技量の問題だな。恐らく、コロの技量が高かった事で龍気結晶石と素材の効果が高く出て、普通よりも必要魔力がグンと上がったんだろう。そこに何故か上乗せして魔力を大量に送り込んだ事で、刀に付くスキルが無理矢理進化させられ、それに合う形に刀が変質したんだ。だからコロ。これは紛れもないお前の才能と、どこかの誰かの非常識な行動が重なった結果だ』


 ……あれ? 今さりげなく非常識とかディスられませんでした?


『ふふふ、私は誇らしいぞコロ。口しか出せなくともお前は私の弟子だからな。その弟子の成長は嬉しいものだ』

「ブリギット様」


 うん。なんか知らんが丸く収まったのは良いとして。


「世界観違くね?」

『そうですね。この作品にあんな感動風景は要りませんね』

「全くだ。世界観は守って欲しいよね」

『本当ですよ。途中から世界観の変わる作品なんてすぐに飽きられるんですから』


 私と駄女神が困ったものだ。と話していると後ろでは「何を言ってるんだあの二人は」とか「たまに、良く分からない事で、同調するんですよね」なんて会話が聞こえる気がするが、多分気のせいなので丸っと無視する。


「結局はその進化したスキルのせいでこんな形になったって事?」

「ええ、そうですね。この武器の説明は私達よりもブリギットの方が適任でしょう」

『ん? そうだな。まずはハクア、この玉に触れてさっきの刀を思い浮かべてみろ』


 テアに説明を振られたブリギットの言葉に従い、私は球体に手を触れながらさっき見た刀をイメージする。すると球体が光を放ちながら次第に形を変え、コロの打った刀へと変形した。


 お、おお~。


 武器の変形というファンタジーに、再び私の中の厨二心がニョッキと顔を出そうとするのを必死に堪えていると「これ、ボクの打った刀かな……」と、コロの声が聞こえた。


 全く同じ物?


『コロの言う通りだ。この武器には【軟鋼鉄】【破壊不可】【蓄積】【自己進化】【形態変化】【武器吸収】【召喚】【使用者制限】というスキルが付いている。今のは【形態変化】だな』


 ほうほう。……えっと、なんかスゲー沢山スキル付いてね?


「ブリギット。一つ良いか? 同じような方法で武器を作れば、似たスキルが付いた武器が作れるのか?」


 私が考えた事を澪も思ったのか、量産出来そうか? と、ブリギットに質問する。しかし、その答えは『無理だ』の一言だった。


『素材にしたハクアの腕もそうだがコロの職人としての腕もある。それに何よりもこんな力業のスキル進化など何千回。いや、何万回に一回成功するかどうかだろう。とにかくこの一回は偶然に偶然が重なり、非常識な行動が奇跡的に結果を出しただけだ。まあ、土台としてコロの腕がなければ成り立たないがな』


 また非常識とか言われたよ!


「その一回を引き当てるとか流石だよな。お前」

「……う、生まれで苦労した分の運かな?」


 きっとそうじゃね?


『ふふふ、違いますよハクア。これこそきっと【レアイベント遭遇率up極大】の効果です。感謝しても良いんですよ。ホラ! カモン!』


 なんかイラッとする事を言っているので、全力の腹パンをお見舞いするも防がれてしまう。


 チッ!


『危っ、危な! 何するんですか!』

「そのスキルのせいで苦労する事の方が多いんだが?」


 私が怨みを込めて睨みを効かせると、ダラダラと滝のような冷や汗を流し始め『……あっ、ネコ型ロボットの放送時間ですね。では、去らば』という言葉をだけを残しスッと姿を消しやがった。


「うわ逃げた! クソ。しかも、着けてもいない腕時計見る小芝居まで入れてたのがムカつく」


『シルフィン:様式美です』


「くっ、アニメ好きゲーマーとしてはその言葉を言われると納得するしかない」


 私はあまりにも完璧な答えを言われてしまって膝を折り屈するしか無かった。


「……意外に仲良いよな。お前ら」


 澪の言葉に何故か全員が頷く。何故だ?


「マスター、そろそろ話を進めたいので終わりにして下さい」

「あっ、はい。続きお願いします」


 ヘルさんの言葉に姿勢を正しブリギットに続きを促すが、何故か周りからは微妙な感じで見られるのは何故だろう。解せぬ?


『ま、まあいい。まず初めに言うべきなのはこの武器は様々な武器の形を【武器吸収】で取り込む事が出来るんだ。刀や剣、槍という感じにな』

「武器の形?」

『ああ、刀は元になったコロの打った物だが、他の物も取り込んだ武器の形になる。注意するのは例えスキルが付いた武器を取り込んでも、その武器のスキルは付かないという事だ』

「成る程。だから武器の形か」


 つまり、刀というカテゴリーにも様々な物がある。一般的な打刀や太刀、脇差し、短刀、小太刀などその時々に合った物を使えるのか。

 それと武器を吸収してもあくまで形だけだから、特殊な効果は何も無く、あくまで色んな武器を使えるとおもえば良いのかな?


『次の【軟鋼鉄】は防具によく付く物だが、鋼鉄の固さを持ちつつも使用者の行動の妨げにならないんだ。まあ、使用者には布のような柔らかさ、敵からしたら鋼鉄の固さという感じだな。【破壊不可】はそのままだ。このスキルの付いた武器は決して壊れない。その代わり腐食攻撃やこのスキルを突破するスキルもあるのには気を付けろ』


 対策の対策があるとか恐ろしい。


『とはいえ、お前にも話したがこの世界の武器のあり方からすればこのスキルは最上位に近い物だ。コロの腕に感謝するべきだな』

「それはいつもしてる」


 この世界の武器は、ゲームのように武器自体に攻撃力がありステータスを上げる訳じゃない。考えれば当然だったけど力が一万くらいの人間が、初心者用のナイフを全力で使えば当然壊れる。そんな感じにこの世界の武器は使用者のステータスに耐えられる武器。という感じなんだよね。


『【自己進化】は、使用者の扱い方に合わせて武器自体が進化、適合していくものだ。使用者によって変わるから一概にどうなるとは言えないな。【蓄積】は、この武器に使用者の力を溜める事が出来る。ハクアなら電気や魔力を溜めて放つとかだな。最初は少ないが使っていれば【自己進化】の能力で次第に蓄積量も増えていくだろう』


 ふむふむ。【自己進化】良い響きだ。自分の好みに変わっていく武器とかロマンそのものだよね! 【蓄積】も使い方次第で戦い方に幅が出来そうだな。


『【召喚】は、手元に武器を呼び寄せたり、装着形の武器を装着状態にする事が出来るスキルだな。【使用者制限】は当人しかその武器を扱えなくするものだ』

「……ふむ。つまり【召喚】を使えば、売っぱらった後に手元に呼び戻す事が出来るのでは?」

「……ご主人様」

「ハクア取り敢えず独房に入ってみる? 招待するわよ?」

「結構です」


 冗談ですやん。本気にしないで!


「しかし、思った以上に凄い物が出来たな」

「うん。ハクアの体もそうだけど、多分【軟鋼鉄】はハクアの糸で出るスキルだと思うんだ。だから、ハクアの糸があれば良い防具が沢山作れるんじゃないかな?」


 あ、あれ? コ、コロさん目が怖いよ? なんでそんな良い物見付けたみたいな顔してるの?


「……そう、ハクアはとても優秀なのね?」


 アイギスさん何そのギラギラした感じ!? 怖いよ! 二人共怖いから!


「「ハクアの糸を使えば、良い防具が出来そうね(かな)」」


 た、大変だ! 私の身体が(素材として)コロとアイギスに狙われてる!?


「まあ、アレだな。チート存在には成れなかったがチート素材には為れたと」

「誰が上手い事言えと!?」


 うわん! そんなん嫌だ!


 私、異世界にてチート存在ならぬチート素材になったようです。グスン。


 ・・・・・


 ・・・・


 ・・・


 ・・


 ・


 一週間後。


 フープに一つの怪現象が起き市民を賑わせる。


 それは今まで何も無かった所にいきなりフープとアリスベルを結ぶ、石で出来た地球で道路と呼ばれる物が突如として出来上がったからだった。


 そしてその横に白い少女が燃え尽きたかように倒れていたとかいないとか?


「ふ、ふふふ、こ、これで皆のあの称賛は私の物……ふ、ふふふふふふふふふ」


 パタッ──。

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