第256話 ……何か。嫌な電波を受信した気がするんだよ
何処とも知れぬとある一室。
そこでガダルは報告を受けていた。
「そうか。もう良いお前は計画に集中しろ」
「はっ」
報告をしていた影が消えると、ガダルは一人とある調査の途中に出会った白く美しい少女の事を考える。
ガダル達がスケルトン祭りでハクアに出会ったのは偶然ではない。
グルドが倒された事が伝わりガダルが興味を持ったというのが真実だった。
グルドを倒した名も知れぬ白い少女。それに興味を示したガダルは、元々不死の王について調査する予定だった事から、わざわざ予定した人員を別の仕事に変えてまで自ら調査に乗り出し、人間の振りをしてハクア達の監視をしていたのだ。
グルド達の調査は、あの鉱山の奥深くに封印されている筈の不死の王の封印を解き、可能ならば仲間に加える。もしくは暴走させるのが目的だった。
だが、いざ鉱山に侵入して最下層まで降りてみても、ダンジョンと化した鉱山の魔力の発生源は見付けたが、それ以外なんの手掛かりも見付ける事が出来なかった。それどころか自分達を狙うボス型モンスターまで出る始末に、徒労だったと少なからず肩を落とした。
実はこの時ガダルが見付けたのは、クーの魔力を吸収した後に魔力をダンジョンに行き渡らせる為の要の部分だった。
そうとは知らず、そこに魔力を流し込み調査をした為に、クーはその逆流した魔力を使いガシャドクロを産み出したのだった。
(ボスモンスターを出した後は、ここで死人が増えれば魔王になんらかの変化が起きるやもと放置したが、あの時は、まさか出現させたガシャドクロを倒しトップ争いに食い込んで来るとは思わなかった)
結果として目論みは知らぬ間にハクア達に崩されたが、そのお陰でハクア達の実力を知れたのは大きな収穫だった。
「ククク」
思い出し、知らぬ間に漏れた笑いが自分の耳に届き、それさえも可笑しく感じる。
思い出すのはあの白い少女が発した言葉。
何故モンスターや魔族を殺すのか。という戯れの相手を生かす気など毛頭無かった質問。
その答えは当たり前だ。
自分達が殺す。相手も殺しに来る。
これは遥か過去、モンスターが生まれた時から決まっている当たり前の事、考えるまでもなくそういうものだと、質問したガダル自身もそう考えていた。
だがそんな質問にあの少女は答えた。
「私があんたを気に入らないからだよ!」
理不尽の一言。
だが、そんな理不尽極まりない答えが誰かから与えられる死というものだ。
人間は……いや、その他の種族も同じ立場になれば他者を言い訳にする。誰かの為、世界の為、そうやって自分以外の者を殺す行為を正しい事だと正当化する弱い者達ばかりだった。
だが、あの少女は違った。
理不尽を理不尽として他者の命を奪う覚悟があった。
それが分かった瞬間ガダルは笑い。少女、ハクアを殺す事を止めた。
それからの報告で力を付けていた事は知っている。
だが、それでもグロスをカーチスカをマハドルを倒せる程の実力では無かった。
「それを成し遂げる程の仲間が居たか。新たな力を手に入れたか。それとも……ククッ! 良いぞ。それでこそ────だ」
ガダルの呟きは空気に溶け、誰にも聞かれる事も無く消えていく。
そして一人。ハクアとの邂逅が近付く気配を感じていた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「以上が白い少女に関する報告で~す」
「アリスベルは実質その白い少女が手綱を握り始めていると考えた方が良いですね。それに逃げたした騎士と勇者様も一緒ですか……」
イの七番と呼ばれていた二十歳程の女性の報告を聞いた教皇は顎に手を当て思案に入る。
(あ~あ。暇だな~。早く任務に戻ってハクアちゃんのお菓子が食べたいな~)
実は七番。アリスベルでクーが見付けハクア達が気に入りよく行っている、ガドゥルゥというサイのようなモンスターの肉料理を出す店に、店員として潜り込みハクア達と仲良くなっていた。
今では屋敷のメイドとも顔馴染みになり、ハクアのお菓子を食べに行く程、仲良くなっていた。
(まっ、勿論そんな事言わないけどね~。だって絶対怒られるもん)
こうやって教皇にハクア達の情報を流しているがそれは仕事としてだ。情報を流すという事はハクア達に対する裏切りとも言える、気分的には教皇よりもハクア達に傾いているが、それはそれ、これはこれだ。
(まっ、しょうがないよね~? 私だってお仕事だし~。それにしてもハクアちゃんも無用心だよね~。まさかこんなに簡単に私を信じて情報収集させちゃうんだから~)
実際容姿の良い七番は店でも結構な人気が出た事で店に馴染むのは早かった。しかも、ハクア達が店の料理を気に入りよく食べにも来るので、仲良くなるのにも時間は掛からなかった。
(十商関連でハクアちゃんも派手に動いてくれたから接触も簡単だったしね~)
ハクアの派手な動きに助けられ、ハクアに興味を持つ切っ掛けも簡単に作れたのは本当に時期が良かった──と思う。
今回七番が教皇に報告したのは、ハクア達が澪達と戦ったところまでだ。
今回の魔族の騒動は少なからず色々な国に波紋を広げた。そしてそれは聖国と呼ばれるカリグも例外ではなく、教皇の時間が取れなかった為報告が今になった。
(フフ~ン。でもハクアちゃん達が今回の闘いで死んじゃわなくて良かった~。あの子達可愛いくて面白いもんね~)
遅れに遅れた報告は、ハクア達が騒動に関わる切っ掛けを事後報告として伝えたようなものだった。だからこそ、全て終わった今となっては教皇にとって脅威となるのは、ハクアのアリスベルに対する影響力の方だった。
「では、報告は以上ですので引き続き白い少女の監視に戻りま~す」
「今は件の国。フープに居るのでしたか?」
「そのようで~す。では、私は此れにて~」
教皇の部屋から出た七番はドアを閉めると共に、フゥと一息吐くと楽しげな足取りで歩き出す。
しかし、そんな七番が不意に後ろに気配を感じて、バッと振り返るがそこには誰も居らず、勘違いか? と、首を傾げると後ろからいきなり少女の腕が肩越しに現れ、後ろから抱き締められる。
「ひゃっ!」
「ふっふふふ。教皇の狗の割には可愛い悲鳴を上げるじゃない?」
後ろから現れた少女は、とても聖国と呼ばれ神官やシスターを育てる国ではあり得ないような、扇情的な格好をした少女だった。
「あ~。姫様? 私~。これからまた直ぐに任務に行かないといけなくて忙しいんですけど~?」
(うう、こんな所で厄介なのに捕まるなんて、ひゃん!)
「ふ~ん。そんな急がなくても良いじゃない。貴女そんな真面目じゃないでしょ。わ・た・し・も、白い少女とかって子の事聞きたいな~♪」
(うひゃ~ん。ちょい! そこはそれ以上は~!?)
必死に言い訳する七番の身体に手を這わせ、感触を楽しみながら追い詰める少女。
「あ、あの。ほ、本当にそれ以上は洒落にならないんですけど~!? 何処に手を入れてるですか~」
「ふ~ん。まあ、良いわ。確かに……ね? それじゃあ私の部屋でゆっくりお話ししましょうか。夜は長いし自分から話したくなるようにタップリ身体に聞いて上げる♪」
(嫌~ん。誰か助けて~! ハクアちゃ~ん!)
女性の声に成らない悲鳴は闇に呑まれ。二人は消えていった。
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その頃、城の裏手ハクアの作った家の中。
「う~ん」
「どうした白亜?」
「か、風邪ですかハーちゃん!」
「そうなんですかご主人様?」
「みゃあ~が身体で暖っためて上げるニャ。人形とネコ型どっちが良いニャ?」
「人形でお願いしゃす! って、違う、間違い。だから少し落ち着こう。会話のキャッチボールの弾みです!」
私は一気に殺気が膨れ上がった二人を必死に宥め澪の質問に答える。
「……何か。嫌な電波を受信した気がするんだよ」
「何処から受信するんだその毒電波?」
「う~む。何やら知らない所でフラグが乱立してる気がするよ」
何故か私の言葉に皆が呆れるのだった。
解せぬ。
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