第132話比較がおかしい

 ハクアが拐われたすぐ後、アリシア達はギルドへと駆け込み、ギルド長へ事情を話していた。


「だから! アリスベルの入り口の所で人混みに呑み込まれて、その時にハクアが誰かに拐われたです!」

「事情は分かった。こちらでも早急にギルドの雇っている冒険者に対応して貰おう」

「それじゃ遅いんです! ご主人様に何かあったらどうしてくれるんです! もし……もしもご主人様に何かあったら……私はこの都市の全てを敵に回しても、その人間を……絶対に赦しません」

「あ、アリシア? 落ち着くのじゃ。お主そんなキャラじゃ無いのじゃ!」

「そうだよアリシア! いくらギルドでもこれ以上は無理かな」

「でも……ご主人様に何かあったら……うっくっ」


 そう言ってアリシアは泣き崩れて仕舞う。そんなアリシアを結衣とコロに頼み、瑠璃達は話を続ける。


「私達の方でも何とかしてみます。そちらはお願いしますギルド長さん」

「分かった。ギルドの名誉に掛けて……。と言いたいが、正直人手が足らんのは確かだ」

「確かに、この都市の全てを探すとなれば、ギルドの雇っている冒険者では少ないですね。なら個人的に頼む事なら出来るのでは?」

「出来るには出来る……が、それでは今度はギルドが手を出せなくなる。何せ依頼として出した物をギルドが横取り出来んからな」

「じゃあどうしろと言うのじゃ?」

「それは……」


 クーの言葉にギルド長が口ごもる。その時、タイミングを見計らった様にドアを開ける音が響き、全員がドアを注視する。


「失礼、お邪魔するわね」

「君はカラバス・マーン何故ここに?!」

「あら、ご挨拶ね。ハクアは私にとってもパートナーですもの。拐われたとなれば力を貸すのが当たり前でしょう」

「しかし……」

「私が、私の私兵を出すのにギルドが口を出す権利は無いわ。そうよね?」

「分かった。協力してくれ」

「ええ、私のビジネスパートナーだもの。絶対に助け出してみせるわ。その代わり、兵を出す為の手続きは頼んで良いかしら?」

「分かった。王には私から連絡を入れ、謁見を申し出よう。それが一番早いからな」

「頼んだわ。いくら十商といえどギルドの緊急案件程、王との謁見をすぐには果たせないもの。それじゃあ皆は、外にデミグスを待機させているから、合流して私の兵と準備をしていて頂戴」

「「「はい!」」」


 こうしてアリシア達は外に待機していたデミグスと合流し、カーラの私兵とハクアの救出に向かう準備を始める。同時に、ギルド長も職員に捜索の手配を頼み、カーラと共に王城へと向かった。

 そして、先んじて今回の事情を報告させていた事もあり、二人は何とか王との謁見を果たす。


「それで?」

「ハッ! カラバス・マーンが自らの兵を出す許可を戴きに参りました」

「ほう、何故そなたがそこまで?」

「拐われた彼女は私にとっても大切なパートナー。その彼女が拐われたのなら、私は私の財を投げうってでも救いたいのです。ですからどうか! 私に彼女を助けるチャンスを与えて戴けないでしょうか」


 そのカーラの言葉にその場に集まった家臣は息を飲み、感動を覚える者までいた。


「ギルドだけでは足りないのか?」

「はい、どうしてもこの都市全土となると」

「我々王城の兵士が個人の為に動く事は出来ません。ここは彼女の気持ちを汲むのはどうでしょうか」

「ええ、誘拐を企てる者を放置したとなるのも、問題が在りますし……」


 と、カーラの言葉に心うたれた者が次々に王へと助言をしていく。そんな周りの反応もあり、遂に王もカーラへと出兵の許可を出した。


「分かった。兵を出す許可を出そう。早急に対処しろ」

「「ありがとうございます」」


 王からの許可を獲た二人は退出する道すがら、ハクア救出の為の段取りを相談しながら足を進める。


「何とか彼女達との約束を守れそうだ」

「ええ、そうね。じゃあ私は許可が出た事を知らせてくるわね」

「ああ、こちらも出来るだけ早く動こう。しかし、しらみ潰しに探すとなると、この人数でも時間が掛かるぞ。何か当てはあるのか?」

「安心して良いわ。だって私には優秀な仲間がいますからね」


 そしてカーラはギルド長と別れ、外に待機させていた竜車に飛び乗る。


「ふう、これで条件は満たしたわね。予定通り……後は任せたわよ」

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 同時刻?????にて。


 ハクアが目を覚ました時、そこは薄暗い建物の中だった。しばらくの間夕飯が遅れる事実に嘆いていたが、考えると逆にお腹が空くと思い考えるのを止めた。

 そしてふと思い出したのは、ゴブリンとして生まれた時にいたあの洞窟だった。


「思えばあれからそんなに経って無いんだよね? そのわりに死にそうになる回数が多いけど……」


(ゴブリンとか、ホブゴブリンとか、魔族とか、うん。比較がおかしい)


『シルフィン:この状況で随分と余裕ですね?』


(あ~、まあね。そう言えば聞きたい事あったんだ)


『シルフィン:そこが何処かとか、何人いるかなんて教えませんよ? まあ、違うでしょうけど』


(うん。全く違う。私が聞きたいのは勇者倒した。ボーナスポイントだよ)


『シルフィン:ボーナスポイント? あぁ、あのギフトを変換した』


(そうそう)


『シルフィン:それで何を聞きたいんですか?』


(あれってさもっと細かく割り振れないの?)


『シルフィン:と、言うと?』


(いや、だからさ。え~と、一口に敏捷って言っても速さには色々あるじゃん? 反射神経とか、動きとか、そんな風に出来ないかな~と)


『シルフィン:そう言う事ですか。それならステータスを開いて、細かく見たい所にスキルの説明を見る時のようにしなさい』


(ほう、あっ、出来た!)


『シルフィン:はあ、前に細か過ぎるとクレームがあったから今の感じにしたのに……』


(あ~、これに関してはごめん。つっても私の弱さを何とかするには、これぐらいしないとね?)


『シルフィン:まあ、そうですね。それで何を上げるんですか?』


(ふむ。敏捷の項目は、攻撃速度、回避速度、移動速度、呪文詠唱速度、魔力合成速度か、最後の何?)


『シルフィン:魔法を使う為に魔力を練るスピードを上げる物です。これが高いと必要魔力の多い呪文も、早く撃つことが出来ます。因みに敏捷はその5項目の合計数値ですよ』


(そうなんだ。呪文詠唱はとりあえず良いな、私まだそんなでかいの使えないし)


『シルフィン:そうですね。最高位の魔法になれば、詠唱が必須なものもありますが、まだ覚えていませんしね』


(そうそう。と、言うわけで割り振れるのは50だから取り合えず、回避と移動に15ずつ振ろう。後は帰ったら他の項目を見て決めよう)


「起きろっ!!」

「冷たっ!!」


 目を瞑り、ステータスの割り振りに集中していたハクアは、監禁されている部屋にいきなり来た男に水を掛けられ、飛び起きると男はハクアの腕を掴んでくる。


「こっちだ。来い」

「やだ!」

「良いから来い小娘が!」

「おわっ!」


 そしてハクアは部屋の外へと連れて行かれた。部屋を出るとそこは予想通り、どこかの使われていない屋敷のようだった。


「ここは……」

「お前が知る必要は無い」


 後ろ手にロープで縛られたハクアは大人しく男達に従い廊下を進んで行く。


 コンコンッ!


「連れて来ました」

「入れ」


 部屋の中に入るとそこには一人の男が座っていた。


「お前が白い少女ハクアだな?」

「そうだけど……」

「座れ!」

「荒っぽいのは許せよ? 俺達は育ちが良くないからな。さて俺はお前にどうしても聞かなければいけない事がある。その為にここに来て貰ったんだ」


 ハクアの目の前に座る人物、ククス・エイドスはそう前置きをするとゆったりと話をし始めた。

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