第559話良い顔でサムズアップするにゃー!?

「さあ、白亜さんの異常性が知れたところで話を進めましょう」


「なんだ貴様その言い方!」


「まず今回の白亜さんの目標は」


「スッキリ無視するにぁー!」


「どうしたんですか白亜さん?」


「心底面倒くさいみたいな反応やめて貰えます!?」


 しまいにゃ泣くぞコラ!


「全く、何が気に入らないんですか?」


「強いて言うなら全てだが!? 私は異常じゃないやい!」


「「「えー……」」」


 声のした方を睨むと全員が顔を逸らした。


 くそう。敵しか居ねぇ。


「では白亜さん。一つ質問です」


「な、なんでい」


「先程、水龍王が言った通り、死の淵に立ち生還すれば人の霊力は増大します。お手軽だと思いませんか?」


「まあ、それが本当だとすれば確かにお手軽」


 例えば薬かなんかで仮死状態になって、そっから復帰すれば良いだけなんだから、それで鍛えにくい霊力上がるなら安いもんだろう。


「ハクア……本気?」


「えっ?」


 見れば何故か全員もれなく引いてる。


 何故に!?


「分かりましたか白亜さん」


「な、何が?」


「あのねハクちゃん。普通は臨死体験したら強くなるって言われてお手軽なんて誰も思わないんだよ」


 ……マジで?


「いや、だって皆あんなに霊力鍛えるのは苦労するとかなんとか言ってたのが───」


「だとしてもだよ」


 全員の顔を見る。


 全員に頷かれた。


 oh……。


「さて、もう良いですね」


「……はい」


 あかん、泣きそう。


「では続けます。白亜さんの目標は竜の力をもっとちゃんと扱えるようになる事です」


「うぐっ」


「えっ、霊力の修行じゃないんっすか?」


「それにハクアは竜の力をこの間もちゃんと使いこなしていたの」

 

 そ、そうだよね。私頑張ってたよね?


「いえ、全く使いこなせていません」


 そんなシーナ達の擁護はテアによりバッサリ切り捨てられた。


 酷い。


「どういうことじゃ?」


「ハクアちゃんが使ったのは竜化じゃなくて、文字通り竜化|外装〈・・〉なのよ」


「それが何か問題なの?」


「ええ、竜の力を使うということは、まずその体を力に適応させる必要があります。そして今の白亜さんは種族的に竜化は出来なくとも、半竜化。つまり部分的な竜化なら出来るはずなんです」


「む、確かにそうじゃな」


 竜の力を十全に使うには竜に戻るのが一番効率が良い。それを知っている皆は頷きながら聞いている。


「ですが白亜さんが使ったのは竜化外装。つまり竜の力を纏ってその上澄み部分の、自分でも扱える分量だけ使っていたんです」


 そう───つまり竜化外装とは、扱えない力の部分を纏って固め、扱える部分だけ使えるようにした形態なのだ。


 本来なら竜の力を十全に使えれば、手足に羽と尻尾くらいは竜化出来るはずなのだ。

 そうして身体を竜化させる事で、竜の力を扱いやすくしつつ、その力に耐えられる状態を整えなければいけないのだが、私はその部分をまるっと放り投げた。


 それが竜化外装の真実である。


 いやだって、とりあえず竜の力を使う練習の為のもんだったし。


「そ、そうだったんっすか」


「実はそうだったんっす」


「本来、白亜さんが使った|倶利伽羅天童〈くりからてんどう〉は、鬼神や龍神に迫る程のポテンシャルを秘めた変身形態なんです」


「マジっすか!?」


「すごいの」


「しかし実際は、マナビーストレベルに手こずり、固定砲台として一発で全ての力を使い潰す始末。しかも力の変換効率がすこぶる悪い」


 フグッ……。


「あの形態術式は、本来なら遠距離モードと近距離モードの使い分けも出来る設定だよね? だけど今のハクちゃんは遠距離モードしか使えず、しかもそれも固定砲台で一発きりじゃね?」


「……出来損ないですみません」


 どうせ私はウジ虫だい。


 地面にのの字を書き書きしていじけても誰も慰めてくれない。悲しい。


「まあ、その理由の大部分は鬼の力と竜の力のバランスの悪さから来ています。なので白亜さんには少なくとも鬼の力と同等レベルまで、竜の力を引き出せるようになってもらいます」


「簡単に言ったなぁ」


「大丈夫ですよ。今なら鬼の力も引き出せる分が減ってるので、頑張ればなんとか釣り合いは取れます」


「なら安心……って、なんでそんな事になってますの!?」


「ノリツッコミのブームでも来てるんですか?」


「うん。ちょっとね!」


 それにしてもそんな状態なんて聞いとらんのや。


「いや、だってハクちゃん。龍神に鬼神にビーストコアのせいで、軒並み力が不安定になってるじゃん」


「そうだったよ! 何してくれてんだあの神共がぁー!」


 ただでさえ扱えなかったもんに、力を注がれてまた少し安定してたのが不安定になってるんだったぁ。


「まあ、その分、出力は上がってるんですけどね」


「その代わりに制御不能になったら、戦力はダウンするんですが!?」


「使いこなせば良いだけです」


「良い顔でサムズアップするにゃー!?」


 その使いこなす過程で、死にかけたり、血塗れになったり、爆発したり、死にかけたりするの私なんだよ!?


 死にかけ率多いな!?


「うぅ……未来が暗い」


「因みに今の白亜さんが扱える力は、鬼の力が30%ほど、竜の力が10%ほど、神の力が5%ほどですね」


「思った以上に低かった!? えっ、元はどんくらいだったの?」


「……軒並み20%ほど下がってますね」


「ほんと何してくれんだよぉーー!?」


「えっと……ハクア。父上がすまん」


「いや、ミコトのせいじゃないから良いよ。その内絶対殴るけどあの愉快犯」


「じゃあ、それが出来るようにおばあちゃん頑張ってハクアちゃんを鍛えなきゃね。うふふふ」


 いかん。結局地獄の入口に舞い戻ってきてしまった。


 どこでルート間違えたのだろうか? マップ欲しいけど、結局マップみても道中分かれるだけでゴール同じっぽい気がする。解せぬ。


「わしとしてはどういう心境でその言葉を聞けば良いか微妙じゃな。まあ、悪いのは父上じゃが」


「まあいっか。どうせいつものことだし頑張ります」


「……簡単に諦めて切り替えられるハクアってやっぱ凄いの」


「「「確かに……」」」


 ふふ、皆も早く諦めの境地に達すると良いよ。


「ところで白亜さん」


「何?」


「いえ、先程から何をそんなにソワソワしているんですか?」


「あ〜、その。今日はもうそろそろお開きかなぁと」


「ふむ。確かに今の白亜さんにこれ以上のタスクを積んでも無駄ですね。見た目以上にボロボロですし」


「うむ」


 実はさっきから身体中がミシミシと締められているかなってくらいには痛い。


「……それで、何が気になっているんですか?」


 おぅ、上手く誤魔化せたと思ったら全然だった。


「いや、特になんということもないんだけど、ちょっちさっきから向こうの方が気になってるだけです」


「向こうですか?」


 私が指し示した方にテアが視線を向ける。


 私としても何が気になっているのか分からないから、なんとも言い難い。


「……水龍王。向こうには何かありますか?」


「いえ、向こうには特に何も……」


「ああ、妾達も行った事はあるが、大して奥行もない洞窟だけじゃ」


「トリスと入った事はあるけどなにもなかった」


「……で、ハクちゃんはなんか知らないけど気になると?」


「うん。まあ?」


「……じゃあ行ってみようか」


「そうですね。それが安全ですし」


「良いの? わーい。って、安全とは!?」


 訓練サボって探検の許可が出たことで一瞬喜ぶ私だったが、どうにも看過できない一言に食いつく。


 しかし私のそのツッコミは、全員の今度は何をやらかすんだという視線に封殺されたのだった。


 解せぬ。

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