第549話よきかなよきかな
「いきなりずいぶんな言い草だな。おい」
「あ、ああ悪い。言い方がおかしかった。その……戦う時、お前は何を見て、どう考えて動くんだ? それに力の使い方、水龍王様に教えを乞うことが出来てそれを考えるようになったから聞きたかったんだ」
「ふむ」
まあ、確かに今までは目の前の敵を叩き潰せば勝てた。それだけの力があったのも事実なんだから、その考えは分からなくもない。
「確かにそれはわしも気になるのう。レリウスの訓練をする時に少し聞いたが、その少しだけでも興味深いものじゃったし」
「そうけ?」
「うむ。自分で言うのもなんだが、わしはあそこまで考えて戦ったことはないのじゃ。全く、という訳ではないが、ハクアほど深く考えてというのはないのじゃ」
「私は全く考えないっす」
……鳥頭。
「と、言う訳でわしもそれには興味があるのじゃ。ついでに言うとこの間の戦いで色々見せた、ハクアの技とか変身に就いても詳しく聞きたい」
「あっ、それはムーも聞きたいの。あの最後のとかかっこよかったの」
うーん。面と向かって言われると照れるの。
とはいえここまで言われてはしょうがない。
普段考えながらやっている事とはいえ、それを明確に言語化すると言うのは中々厄介だが、それでも出来る限り詳しく話す。
「───て、具合かな」
「うーむ。全体の動きを把握して、過去の動きから未来の予測、自分の行動を含めた全体の動きで起こる未来の流動性のある動きを、常に変数として頭に入れて変化予測する……と、頭がこんがりそうじゃなぁ」
「私も少しはわかった気になっていたがまだまだ遠いいな」
「それがわかってるなら簡単だよ」
「えっ?」
「私やほかの奴が遠いいと思うなら出来る事からやればいい。幸いアトゥイはこの中だと、ミコトの次くらいには全体を把握出来てるし」
「そうなんっすか?」
「うん。その辺は普段の視線の動きで分かる」
そしてそれさえ出来ているのなら次はそれを意識すれば良い。
それだけか? と、思うかもしれないがこれは案外バカに出来ないし、とても難しい。
無意識を意識下に置いて実行する。そしてそれをまた前よりも高い精度で無意識下で行い、自身の意識下で取捨選択して実行。
簡単に言えばそれである程度出来るようになる。
そもそもが全体を見て把握するというのは、実は誰でも無意識下でやっていることなのだ。
人は本人の意思さえついていければ、高性能な機械にも負けない性能を誇る。
例えば目で見ている情報は、自分が思っているよりも膨大で、普通では頭がパンクしてしまうほど高性能だ。
では、それなのに何故周りが見えなくなるか、それは自分の見たいものを中心に、脳が勝手にフォーカスして、必要のない情報を極力削ぎ落としているからだ。
そしてこの必要のない情報の削ぎ落としが人によって大きく異なる。そしてそれは無意識下で行われる行為であると同時に、意思下で行うことでその情報量を増やすことは可能なのだ。
「それ、簡単に言ってるけど大変なの」
「まあそうだね。んで、それが出来るようになったら次は、個人の情報データと今までの経験予測を組み合わせてそれぞれの動きを予測、修正を常に同時に全部やる」
「だが、そうは言ってもそれだと考える事が膨大過ぎないか?」
「その場合はシチュエーションを限定するといい」
「シチュエーションの限定?」
「あーと……」
シュチュエーションの限定は何も難しい事じゃない。
例えばスポーツ。
バスケをしている時にボールを蹴る動作が入る事を考えなくて良いように、その状況を踏まえた上で予測を限定するのだ。
仮に予定外の行動を取る奴が居ても、それすら調整して予定の中に組み込めばそれで良い。
「途方もないな」
「そりゃ習得は簡単じゃないよ」
「それでも一歩づつ、一回積んで歩いてを繰り返して積み上げていくしかない。これは肉体的なスペックとは全く違うものだから、また難しいよね」
「意識……意識か……うむ。わしもこれからやってみるか」
「ミコトもアトゥイも意識を変えればそれなりにだったらすぐ出来ると思うよ。まあ、大変なのはそっから先だけど」
私がそう言うと、二人は頭を突き合わせて話し始めた。
多少の遠慮はまだあるようだが、順調に仲良くなっているようだ。
よきかなよきかな。
「そだ。私もハクアに聞きたい事あったんっすよ」
「なんぞ?」
「いや、あの竜面鬼神影法師や竜化外装、それに倶利伽羅天童の事っすよ! 他にも聞きたいことは山ほどあるっすけど特にその辺が気になるっす」
「そうなの。ムーもずっと聞きたかったのにすごく我慢してたの!」
「まあ、わしも気になるの」
「いや、言っても全部既存の組み合わせとかだよ?」
話せと言われても何をどう言えばいいのやら?
「まずあの竜面鬼神影法師だが、ぶっちゃけ役にたつのか?」
「トリスさんマジでぶっちゃけましたね!?」
酷くない!?
「うーん。多分この辺は聞いてると思うけど、ぶっちゃけ私以外には役にたたんよ?」
あれは私の防御力が信用出来ないからこそ有用なのだ。ぶっちゃけあんなことが出来る奴は普通に戦った方が強いし、消耗も格段に少ない。
そして竜化外装は主に魔力……もといマナを駆使して戦うスタイルだ。このスタイルは接近戦もするが主に中、遠距離をメインとする防御よりになっている。
「へー、そうだったんっすね」
「うむ。防御をノクスに任せるから、私は攻撃に使う分の力に集中力を割ける。その分、より精密で高いコントロール性能があるんだ」
「ふむ。良く考えられているの。正直わしらは力を使うこと自体は考えているが、その力をどのように使うかなど、細かい所は考えてなかったのだと、ハクアの話を聞いていると考えるのじゃ」
「まあ、君ら普通になんも考えないでもブッパで勝てる強者だからね。考える必要も少ないだろう」
「うむ。だが、ハクアのお陰で最近はそれではダメだと気がついた。その辺は感謝してるのじゃ」
うーむ。照れる。
「倶利伽羅天童についても聞きたいの」
「あれは私の中にある、竜の力と鬼の力を今の私が最大限使えるようにした形の一つだよ」
「形の一つ? それは他にもまだあれ以外の形態があると言う事?」
「あー、いや、今の所はシフィーの言うようなのはないかな。だってあれ、まだ完成してない力だから」
「アレがか!?」
「うん」
そもそもあれは、砲撃一回で全ての力を使い切ってしまう。そんなものは戦闘に組み込める訳がない。
あの状況、あの相手だからこその奥の手だった。
そして本来であれは心龍召喚で生み出した龍を操りながら、自身も戦うというのがあれの目標でもある。
しかし今現在の未熟な私の力では、力の維持が精一杯で、一発撃てば全てを絞り出すしかない、不完全な扱えない力なのだ。
「とてもそうは見えなかったの」
ムニの言葉に全員が頷くが私としてはまだ納得のいくものではない。
「そもそも隙も大きいし、時間も掛かり過ぎ。使えるとしたら仲間の居る状況で、守ってもらいながらだね。そうじゃなきゃ殺されるどころか、途中で力が暴走して辺り一帯吹き飛ぶ大惨事ですよ」
「それは大惨事っすね」
「まあ、邪魔が入らなくても私が制御を少しでもミスれば同じく大爆発だけど」
「……ハクア」
「はい?」
「ちゃんと使えるようになるまで気を付けてね」
「……はい」
最終的に真面目な顔で念を押される私だった。解せぬ。
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