第507話もしかしてミコト達も信じてた?

 元老院の奴らをなんとか退けた私達は、さっさとその場を撤収して住処に戻ると、既にテアが夕飯を作って待っていてくれた。


 しかしそこには当然のようにおばあちゃんとシフィー。そしてその隣に他にもう一体、見知らぬ男が一緒に居た。


 黒髪のロングを後ろで束ね、ドラゴンには珍しく眼鏡を掛けていて、スッキリとした印象の顔によく似合っている。

 大きい。という印象はないが鍛え抜かれた肉体は、服の上からでもその実力を窺わせる強者。おそらくはトリスに近い実力を持っているだろう。

 格好はタキシードで全体的な印象は執事のように見える。


 しかし今回新キャラ多くないだろうか? こんなに多いと覚えるだけで大変なんだよ?


「ヤーカムル。帰ってきておったのか」


「はい。無事帰って参りました。長らくの不在申し訳ありませんミコト様」


 若干警戒しながら観察していると、後ろから顔を覗かせたミコトが男に声をかけた。

 そのミコトへの返事は、義務的でありながらもミコトに対する敬意と親愛がみてとれる。


 どうやらあの元老院のじじい達とは違うようだ。


「ふむ。ミコト絡みの新キャラ?」


「新キャラ言うな。ハクアは初めてじゃったな。こやつの名はヤーカムル。わしの教育係兼世話役じゃ」


「ほほう」


「初めまして。ミコト様からも紹介があったが私の名はヤーカムル。貴女が来る少し前から留守にしていましたが、先程帰ってまいりました」


「そうか私はハクアよろしく」


「ああ、よろしくハクア」


 自己紹介。

 

 当たり前と言えば当たり前の行為だが、龍王達とその系譜以外からは、ほぼ初めてと言っていいほど対等な存在として扱われている。

 どうやら本当に他のドラゴンとは違うようだ。


「さあ、用意が終わったので、立ち話はそれくらいにして食事にしましょう」


「そうそう。早く食べないと冷えちゃうよ」


 と、そのタイミングでテアとソウが声をかけてくる。


 それに従い全員席に着き、揃っていただきますと、食事を開始する。


 しかし……改めて人数増えたな。描写が大変そうだ。


 などと益体のない事を考えていると、話題はやはり先程の事に移っていった。


「しかし意外だったっすね」


「何が?」


「いや、私ら竜の鱗っててっきり高い物だと思ってたんっすけど、そんな事なかったんっすね」


「えっ? いやいや、高いよ?」


「高いですね」


「高いね」


「高いわよ」


「高い」


「竜……ドラゴンの素材は軒並み高価で取り引きされる。シーナはなんでそんな勘違い?」


 不可解そうな顔をしてシフィーがシーナに訊ねる。もちろんシーナはというと、ビックリした顔で私を見ている。

 それはミコト達も一緒だ。


 あれ? もしかしてミコト達も信じてた?


「ど、どういう事じゃ? 確かにハクアはそう言っておったぞ?」


「そうなの。元老院の陰険真偽官も居たから嘘は吐いてないはずなの」


 そこから三人は身振り手振りを加えて先程のやり取りを説明する。やはりどういう事なのか気になるのか、トリスやレリウスも注釈を入れて詳しく話している。


 皆よく覚えてんなぁ。


「なるほどそういう事ですか」


「あはは。流石ハクちゃんだね」


 皆の話を聞いたテアとソウ。


 テアは感心したようににやりと笑い、ソウはその場面を直接見たかったと愉快に笑う。


 うん。私の周りの反応としてはやっぱりこっちだなぁ。だってあの場に澪達が居たら、一緒に騙すか、胡乱うろんな目で見られるに違いない。


 テアは咳払いをして表情を戻すと、そんな皆に向かって説明を始める。


「つまり白亜さんがした事は単純に嘘を言わずに相手を騙したんですよ」


「嘘を吐かずに騙す? そんなん出来るんっすか?」


「まあ、普通に出来るよ」


「ええ、白亜さんの言う通り出来ます。相手の言葉の本質を理解して、意図的にズラせば良いんです」


「えーと……」


「わからないの」


 テアの言葉は確かにその通りだが、どうやら皆には分かりにくいようなので、私は仕方なく先程の会話の解説をする事にした。


 まずアイツらは鱗や爪が高く売れるはずなのに、少ない食料との交換がおかしいと言った。


 だから私はあえてその言葉を一部完全に認めた。


「一部?」


「そう一部。完全に否定する事は嘘になる。けど一部を認めればそれは嘘じゃないんだよ」


 そうして認めた事で相手の追及は一時的に止まり、私の言葉を聴く態勢が皆に調った。

 そこで私は更に話題を出す事で話題をすり替えた。


「確か……襲って来た奴は落ちてる物を拾わないじゃったな?」


「そうだね」


「ムーもそれを聞いたから、これには価値がないと思ったの」


「うん。でもよく考えてみ? 強い相手が居る所に準備万端で戦いに行くのに、わざわざ落ちてる物を戦闘前に拾うと思う?」


「あー、確かにっす」


 そう。相手はドラゴンなのだ。


 この里の中では弱いと言われても、外の世界からすれば、言語を操る高位の竜種。

 そんなモノの住処に行く段階で、討伐かドラゴンの素材が目当てなのは明白。

 しかも素材目当てなら、より良い物を獲たいと言うのは当たり前なのだ。


「だから実際には戦った後で回収とかはすると思うよ。でもその時は、死んでるか逃げた後だからいちいちそんなの確認もしないでしょ」


「そうっすね。で、でも、落ちてる物を取りに来る奴も居るんじゃないっすか?」


「確かにいるかもだけど、お前ら自分達が要らないと思ってるごみを、勝手に持って行くからっていちいち相手する? しかも相手はほとんど戦っても勝てないと思って、最初から気が付かれないように、落ちてるごみをねらう奴らだよ?」


「……むしろごみを持って行ってくれるのは助かるの」


「でしょ」


 そうやって話題をすり替えながら、身振り手振りを使って相手の視線を集め、時折問い掛け、肯定させる事で正しい事を言っていると誤認させる。


「そんで次はあの皆に見せたボロボロの鱗。あれも実は無造作に取ったようにみせたけど、あそこに行くまでにしっかり見定めてから取った」


「まじっすか?」


「まじだよ」


「適当に取ったと思ったの」


「しかもあれも価値がある」


「あんなにボロボロなのに? どうやっても価値があるようには見えんのじゃ」


 そう。ミコトが言う通り普通は価値がない。


 しかし普通ではない方法なら価値を持たせる事が出来る。


 その方法が錬金術の素材としてだ。


 粉々に砕いて粉にして薬に混ぜたり、塗布する事で多少だが品質や効果を高める事が出来る。

 腐ってもドラゴン素材という事だ。

 正しこれが出来る人間は少ないので、普通は価値がないとみなされる事が多い。


「それでは嘘と言う事になるのではないか?」


「甘いぜミコト。私はお前が言ったような価値はないと言ったんだよ。そして普通は価値がないともね。あっちが言った意味での価値はないし、普通の方法では価値がないから嘘は言ってない。そもそもスキルも私の嘘を判定するから、私が嘘と認識してなければ引っかからないんだよ」


「えー……そんなのありなか?」


「有りですな」


「そして最後に相手の質問、利益を貪っていないか? と、いう質問に対しても白亜さんは、お代は気にしてないと答えたのですよね?」


「そうっすね」


「これもハクちゃんは言葉をすり替えてるんだよ。利益は貪ってるけど、お代としては気にしてないってね」


「「「あっ!?」」」


「もちろん私はお代なんて全く気にしてないんだよ? だってボロボロだろうが、ちゃんとしたのだろうが等しく全部黒字だもん」


「……なんというか詐欺師が居るのじゃ」


「そんな褒めんなよ」


「褒めとらんが!?」


「皆さんも気をつけた方が良いですよ。本物の詐欺師は嘘を吐かずに相手を騙しますから」


「いやー、スキル頼みの嘘発見器とか、向こうで勝手に信憑性増してくれるんだから楽だよね」


「人間怖いっす」


「なの」


 失礼な。


「でも皆これで賢くなれたね」


 その言葉に何故か苦笑いと、引き気味の反応で返されたのは何故だろう? 解せぬ。


 次の日、そこには予想外な状況が待っていた。


「ハクアー。こっちまだ足んないっす」


「こっちもまだなのー」


「今作ってるよい! ちくしょう何故こんな目に」


 私が嘆くと、最近共に料理を作る係になっているミコトから予想外な答えが帰ってくる。


「あれだね。今までは元老院の目を気にして来なかった奴が、昨日の一件で元老院の許可が出たから来たんだよ」


「結局あのじじいのせいか!? 本当にろくなことないな!」


「ハクアこっち素材もう無くなる」


「マジか!? えっと誰か取りに行ける?」


「行ける……ゴブ」


「じゃあユエお願い」


 予想外の客の多さに素材が足らなくなってきた為、明日の為に仕込んでいた物をユエに取りに行ってもらうことにした。


 こういう時にボックスのスキルだと、完全に時間が止まった空間だから、味を染み込ませるのに向いてないんだよな。今度何かしら考えよう。


 そんな事を考えながら私はひたすら料理に没頭する。


「ユエ何かあったのかな?」


「わかんない」


 あれから結構時間が経ったが、ミコトのその言葉の通り、何故かユエが帰って来なかった為、負担が掛かるのを承知で、シーナにユエの様子を見に行って貰った。


 もしかしたら量が多いから苦戦してるのかもしれん。

 最初から二人で行ってもらうべきだったかも?


「ハクア!?」


「どうだったシー……ナ……」


 そんな事を考えていたらシーナの慌てる事が聞こえてきた。

 どっかで食材落としたのかもと思いながら、その声に振り向くと、シーナは何かを抱えている。


 いや、違う。


 それは何かではなく、誰か……だ。


 見覚えのある服。


 泣きそうな顔のシーナ。


 近付くにつれその抱えてる人物の姿が鮮明になる。


 力なく腕が垂れ、その腕を伝いながら鮮血がポトリポトリとこぼれ落ちる。


「ユエ!」


 混乱する頭を無理矢理再起動しながら、シーナの腕に抱えられたユエの名を叫んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


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