第638話鹿角でい!

「───皆、盛大に騒いで欲しい」


龍神の挨拶が終わり、ここ最近では当たり前になった普通の調理された料理に人々が群がる。


邪神との戦いから数日、怪我人の治療、被害の確認、あるゆるものが一段落した事で合同葬儀という名の宴会が始まった。


故人の為に生きている者は盛大に食って飲み、大騒ぎする。


それが龍族の弔い方なのだそうだ。


そして私はこれが正しいと思う。


葬式というのは故人の為よりも、これからを生きる者が前を向く為のものだと私は思う。


だからしんみりとするのではなく、盛大に飲み食いして騒ぐというのは個人的に共感が持てた。


「どうしたのハクア?」


「うんにゃなんでも」


隣に居るミコトが私の顔を覗き込み不思議そうな顔をする。


最近はヤーカムルの事で塞ぎ込んでいたが、時間が経ち少しづつミコトの中で消化出来てきているようだ。


因みにヤーカムルのドラゴンコアをミコトは受け入れる事にした。


彼の望みを叶え、その罪も背負いたいらしい。


本人はそこまで望んでいなかっただろうが、これはこれでミコトらしい考えだと思うし、それで立ち上がり、歩けるならそれでもいいと思う。


良かったのはドラゴンコアを受け入れた事で、実力が上がるだけではなく、ミコトの中の神の力も安定した事だろう。


これは私とおばあちゃんも予測していた事だ。


ミコトには言わないが、恐らくこれもヤーカムルの思い描いた構図だと思う。


邪神に侵食されたされた事で魂が侵されたヤーカムル。


それが体の崩壊に繋がった訳だが、これの主な原因は過剰な神力にあった。


神力を授かった事で力は簡単に増すが、通常神の力はそれを受け入れる肉体が必要だ。


それでも無理矢理受け入れれば、肉体は拒絶反応を起こすか、はたまた力によって崩壊していく。


しかしミコトの場合それを受け入れる肉体ではあるが、同時にその身に邪神が封じられていた事で、徐々に慣れていくはずの神力に肉体が馴染んでいなかった。


と、なればどうなるか。


邪神の封印はミコトの神力と龍としての力が使われ、無理矢理押さえ付ける形で維持され、結果として無意識に力を鍛え上げていた。


それがいきなり解き放たれれば、ミコトは自身の力で私のように肉体が崩壊していただろう。


……改めて私の状況やべぇな───ではなく。


だからこそヤーカムルはことを起こす時期を慎重に見計らっていた。


ヘタをすれば助けたいはずのミコトを殺す事になってしまうからだ。


と、そこで私が登場し利用する事にした。


アカルフェルとの対立関係を加速させ里全体を巻き込み、邪神にも私を邪魔な存在として認識させることで、復活後すぐに私を狙う状況を作り出す。


そうする事で、復活した際に溢れ出した力を発散させ、ミコトの肉体への負担を軽くするつもりだったのだろう。


そして同時にヤーカムルは邪神のことを調べる過程で、神の力についても学んだのだろう。


邪神の力を受け入れる事で、神力を持ったドラゴンコアを無理矢理作り出した。


自身の肉体は崩壊しても、一度神力を受け入れれば力の無い自分のドラゴンコアでも神力に対して多少耐性が出来る。


長年その力を身に宿していれば尚更だ。


全ての罪を受け入れ、ドラゴンコアを奪わせ、それをミコトに吸収させる事で、溢れ出た神力を制御させるつもりだったのだろう。


全てミコトの為。


最初から自分の死も計算の内。


奴は全ての願いを叶えたのだ……死ぬ事も含めて。


奴は私のことを気に食わないと言った。


しかし私も奴の事は───。


「───クア。ハクア」


「どうしたの?」


「どうしたはこっちのセリフだよ。さっきから呼んでるのに反応しないんだもん。わたしの顔見てたけど何か考えてたの?」


「……んー。やっぱり、美少女(小学生)から一気に美少女(高校生)になると、その間の美少女(中学生)の成長途中スチルもゲットしたかったな……と」


「うん。よく分からないけどハクアは今日もハクアだね」


「ちょっと待て、その反応は解せぬ」


「何やってんっすか二人とも?」


ミコトの反応に抗議の声を上げていると、シーナ達いつものメンツが集まって来たのでミコトが今の会話を簡潔に説明する。


「───て、感じで、今日もハクアはハクアだなって話をね」


「そりゃそうっすよ。ハクアだし」


「そうなの。ハクアはハクアなの」


「また訳の分からない事を言ったの?」


「アトゥイさん。またとはなんぞ!?」


解せぬ。


「それに今のハクアはむしろ言われる側なの」


「うっせいやい!」


そう。現在の私はまたも力を使い尽くした為、またケモ耳幼女ガチャ週間に突入中なのである。


って、ケモ耳幼女ガチャとは……?


「立派な角生えてるけど今回はなんなんっすか?」


「鹿角でい! おかげで朝から死ぬかと思ったよ」


どうやらガチャ抽選は寝てる間に行われるらしく、今日もそのタイミングで角が生えた。


その為、寝返りをうとうとしたら角で頭がホールドされ、体だけが回転して首がグキっとなりました。


せっかく邪神にはなんとか勝ったのに、決まり手角ホールドの、死因寝返りとか嫌すぎるんだよ。


「そうだ。そういえばハクア、体は大丈夫なの?」


「うん。全然平気だよ。今日の朝にはスッキリしてた」


実を言えばここ数日、体調不良とは言わないが、なんとなく消化不良気味でずっと残っている感じだった。


まあ、原因はもちろん最後のアレだ。


なんとなく体の中で抵抗されてる感があったのだが、それも今日寝て起きたらスッキリとなくなっていた。


これにて本当に邪神戦は終わったのであった。めでたしめでたし。


因みに邪神戦の膨大な経験値で戦闘に関わった皆はほとんどレベルアップした───が、私は今回レベルアップしなかった。


テア曰く、膨大な経験値はベルフェゴールを吸収する為に消費されたのだそうだ。ちくせう!


因みに獲得した怠惰のスキルがこちら。


1つ目が神の御手みて


神力で作られた手を生み出すスキルで、何かを掴んだり、押し潰したり出来る。


威力は距離が近ければ増し、遠ければ弱くなる。実体化出来る時間は短いのでこれを使って戦闘などは難しそうた。


2つ目はそのままズバリ怠惰。


効果はパッシブで相手の一番高いステータスを一割落とす事が出来るモノ、そして私の各ステータスが相手より上のモノがあると、勝っているステータスを二割落とせる二種類の効果がある。


強敵にも、格下にも使える腐らないスキルだ。


しかも嬉しい事にこの効果は必ず発動するので、どんな強敵が相手でも、必ず何かしらのステータスを一割削れるのが良い。


そして最後の3つ目、その名を怠惰なる指揮。


これは仲間を強化する支援スキルで、私が動かずに座って指揮する場合、仲間のステータスを二割上げるのだ。


その代わり立ち上がるなど行動するとその効果はすぐに切れるらしい。


う〜ん……実に怠惰らしいスキル。


そして更に既存スキルも強化された。


その1つが邪神体のスキル。


今までは戦闘中は高速再生だけは普通に使えて、高速回復の効果が著しく下がっていたが、戦闘中に行動を起こさず集中するとHP、MPの回復効果が上がるようになった。


因みにこれも動くと無効になります。


そして2つ目が暴喰の強化。


各種暴喰を使ったスキルや技が強化され、新たに併呑へいどんというスキルを覚えた。


これは自身の持つスキルを2つ以上混ぜ合わせ、新たなスキルに出来るモノらしい。


最近増えてきたから整理するのにちょうどいいスキルだ。


因みに怠惰も暴喰もまだスキルが隠されていて、ほかの七罪を取り込めば強化出来るとかなんとかと、テアが言っていたがそんな事をする気は全くない!


うん。フラグとかじゃないからな。絶対だぞ!


「なに一人で頷いてるのハクア?」


「いや、未来へ釘刺してる」


「うん。わかんないや」


そのまま会話を続けていると、話題は先程龍神が話していた内容に移る。


「それにしても驚いたっすね」


「なにが?」


「ああ、元老院の人達の事だよね?」


「そうっすそうっす。まさかあの戦いで知らない内に戦ってやられてたなんて」


「確かにそうなの。またいつも通り、終わってからデカい顔して出て来ると思ってたのに」


そう。元老院のジジイ共は今回の戦いで戦死した───と、言う事に表向きなっている。


「……まあ、奴らは奴らなりに里のことを考えてたんじゃね?」


皆とは違う、奴らなりだけど。


「ハクア。ここに居たか」


「トリスとシフィー? どうしたの今日は忙しいんじゃなかったっけ?」


「うん。でも龍神様がハクアを呼んでるから迎えに来た」


「私、用事ないんだが?」


「いいから来い」


「みゃ〜!!」


こうして私はミコト達と別れ、トリスとシフィーに首根っこを掴まれながら連行されるのだった。

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