第637話悲報、邪神を倒したら仲間と思ってた奴らに殺されそうな件!

 全員が衝撃を受ける中、私は当然のようにその展開を受け入れる。


「そっ、まだ死んでなかったんだよ。だからそいつは自分を殺させて邪神を葬ろうとした」


 《へえ……、やっぱりわかっていたのね》


 そりゃー、邪神倒してレベルアップしてなきゃね。それにそんなに簡単に倒せるとも思ってなかったし。


「簡単にって……あれだけ苦労したのに」


「いや、苦労したレベルで済んでる時点でね」


 相手は神。


 その程度のはずがないのだ。


「まあ、私が来るよりもずっと前、最初にヤーカムルと接触した時点で契約してたんだろ? そしてお前は、今回死ぬ直前にヤーカムルの中に逃げ込んだ。いや……移動できるように種でも植えてたか?」


 《その通り、流石あれだけの時間過ごしただけの事はある。しかし酷い奴ね。そこまでわかっていてすぐに殺してやらないなんて》


 あれだけの時間過ごしたも何も、ただ一方的に何百回と殺されただけだけどね。


 邪神の言葉に、苦しみながらヤーカムルが私を睨み非難する。


 どうやら言葉を発する余裕もないようだ。


「だって無駄だろ。そいつを殺してもお前の魂はどこか別の所に行くだけ、どうせその内何年後か何十年後には復活すんだろ。そいつの体に居るのも気が付かれなければ復活が少し早まるからってだけ」


 肉体を乗っ取り、ゆっくりと力を呑み込みながら受肉するか、精神体のまま更に長い時を掛けて復活するかの二択。


 強いて言うなら前者の方が圧倒的に楽だというくらいだろう。


「なっ!?」


 《あっははははは。それもバレていた。そう、その通り。まあ、コイツは自分を犠牲にすれば、それで神をも殺せると思っていたようだけどね》


「では私のした事は……」


「ええ、そうよヤーカムル。ハクアちゃんの言う通り私達では邪神を滅ぼす事は普通出来ないの」


「そん……な……」


 《さあ、どうするハクア。我を殺せなかったとしてもコイツを殺すか? それとも我が復活するまで黙って見ているか? 好きな方を選んでいいわよ》


「くっ……」


「どうすれば……」


「仕方ない。俺が殺ろう。例え時間稼ぎだろうと邪神の復活をみすみす見逃すなんて選択はねえ」


「ああ、お前達はよく戦ってくれた。後は我らが背負おう」


 その選択肢はどちらにしてもこちらに傷が残るだろう。龍王達が背負うというのはある意味で優しく、ある意味で厳しい選択だ。


 しかし方法はそれしかないのだ───通常なら。


「私さあ、才能ないんだよね」


「ハクア?」


 《何を言って……くっ……》


 一瞬の隙を突き、おばあちゃんが示し合わせたようにヤーカムルの体を取り押さえる。


 どれほど威圧しようと私達との戦いで消耗しているのは事実。


 ヤーカムルの中に逃げ込んだだけの状態の今なら、弱っているおばあちゃんでも簡単に拘束することが出来る。


 そして私もこの瞬間を待っていた。


 こちらがなんの手出しも出来ないと踏んで油断するこの瞬間を───。


 これでもずっと頑張っていたのだ。しかしそれでも今この瞬間、最後の最後まで時間が掛かってしまった。


「大変だったよ。何度も接触して、何度も殺されて、その間も戦いながら、気が付かれないようにするのはね」

 

 ミコトとおばあちゃん、二度の戦闘と精神空間に入り込んでベルフェゴールと接触して殺されまくった時、その全ての時間を使ってフルで解析しまくった。


 そうして戦いの中、ここまで弱らせる事でようやく解析は完了した。


 ベルフェゴールがヤーカムルの体を侵食する時間を稼いでいたように、私もまたその時間が欲しかったのだ。


 《まさか……》


「そのまさかだよ。縛魂ばっこん


 欲しかったのは魂の情報。


 解析し、詳らかにし、術式を作用させる為の情報。


 ヤーカムルに近付いた私は、手に持ったアメジストを押し当て、この戦いを終わらせるキーワードを唱える。


「があああああああ」


 《クソ! クソォ!》


 するとアメジストは魔法陣を浮かび上がらせ、ヤーカムルの体から黒いモヤのようなモノを吸い出し、一際大きく輝いた。


「……何が起こったんっすか?」


「あっ、ヤーカムル!?」


 ミコトの声に反応して、全員がヤーカムルに視線を向ける。


 不自然にボコリと変形し、ベルフェゴールの顔を形どっていた体も元に戻り、苦しそうに顔を顰めていたヤーカムルの顔色も今は戻っている。


 《お前か……お前なのか水龍王。一体いつ……》


 全員が驚く中、響くベルフェゴールの声。


 それは私の持つアメジストの宝石から発せられている。


 ベルフェゴールの魂をアメジストに封印した縛魂は、龍神の使う脱魂に、ベルフェゴールをおばあちゃんの中で封じていた封印術式を掛け合わせたもの。


 オリジナルなうえにベルフェゴールにしか使えない欠陥品ではあるが、ただ一度この時に成功すればなんの問題もない。


「アナタがハクアちゃんを精神空間に招いた時よ。おかげでやりやすかったわ」


「ああ、いきなりだったから驚いたけど、欠けていたピースを揃えられたよ」


 《ありえない。あの時すでにお前の意識はなかったはずだ。なのにどうやって───》


「そんなもの……最初からよ。アナタならハクアちゃんを必ず取り込むと思った。だから私の魂に外部から接触しようとしたら、強制的に私が読み解いた術式を転写するようにしていたのよ」


 《バカな! 絶対に行動を起こすとは限らないのに、そんな賭けに出るだと》


「いや、そもそもおかしいと思わなかったのかお前?」


 《おかしい……だと?》

 

 だってそうだろう?


 おばあちゃんの中に力が封印されて数百年、強力な封印術があったとはいえ、神の力を純粋な自身の力で押さえ付けていた猛者が、切り分けられていた力と精神が力を取り戻したくらいで、なんの抵抗もなく乗っ取られるなんてあまりにも不自然だ。


「なら、何か仕掛けがあると考える。そしてコンタクトが取れない以上それは中にあると考えるのが自然だ」


「ええ、ハクアちゃんならそう考えてくれると思っていたわ」


 《バカな。お前はそんな不確かな憶測であんな事をしたのか!?》


「えっ、そうだけど?」


 だってどっちみち助ける必要もあったし必要な行為だよね?


 《狂ってる……》


「失敬な!?」


 邪神から恐れ戦く声で言われ、何故かお仲間からもちょっと引かれている。


 解せぬ。


「でもハクアちゃん。これからどうするつもり?」


「どうとは?」


「だってそれ、そろそろ壊れるでしょ?」


 《ちっ、バレたか……》


「「「えぇーーーー!?」」」


 アメジストを指さしながら言うおばあちゃんに、うんと返事を返すと何故か皆に凄く驚かれた。


 いや、だって……仮にも相手は邪神、弱っていてもこんな宝石一つに封じれる訳がない。


 むしろ数分持っているだけ褒めて欲しいくらいだ。


「ど、どどどどうするのハクア!?」


「どうって? こうする」


 《バッ止め───》


 ミコトに聞かれた私は当然のようにアメジストを口の方へ。


 ベルフェゴールの声も無視してパクリと呑み込む。


「ご馳走様でした。と」


「「「な、何やってんだぁーーー」」」


「ふにゃーーー!?」


 突然怒鳴られたもんだからビックリした。


 見ると全員何故か怒りつつ慌てている。


 因みにおばあちゃんは大爆笑中である。解せぬ?


「えっ!?」


 しかも何故かシーナとムニ、アトゥイとユエ達四人に手足を拘束された。


 何事!?


「なんでもかんでも口に入れるからこうなるんっすよ」


「そうなの。さっさとペッとするの」


「よし。そのまま押さえとけ」


「ハクア。じっとしてる。今吐き出させてあげる」


「待って、龍王クラスの一撃で腹パン食らったら、吐き出す前に真っ二つになるから!?」


 悲報、邪神を倒したら仲間と思ってた奴らに殺されそうな件!


 わぁー、なんか最近のなろう系っぽい。


「じゃねぇわ!? やめて、マジで死んじゃうから!?」


「皆、大丈夫よ」


 本気で洒落にならんと暴れているとおばあちゃんが助け舟を出してくれた。


 でも、欲を言えばもう少し早いと嬉しかったの。


 離してもらった所で、前回も邪神を呑み込んだ事を伝えてなんとか納得して貰えた。


 あー、殺されるかと思った。


「……ハクア」


 そんな一連の流れに参加していなかったミコトの声。


 視線を向けるとそこには一人倒れる奴が居る。


「ねえ、ヤーカムルはどうなっちゃうの。邪神が居なくなれば───」


「ごめん。それは無理だ」


「───ッ!?」

 

「そいつの体はもうボロボロなんだ。それに、魂も邪神に侵食されてもうどんな回復も受け付けない」


「そんな……」


「良いんです。ミコト様。これは自業自得なのですから」


「でも、でも! ヤーカムルはわたしなん───」


「ミコト」


 私なんかの為に。


 そう言葉を発しようとしたミコトを止める。


「そいつは間違えた。里を犠牲にして、邪神を操ろうとした。誰かに相談すれば、ミコトにだけでも言えれば違ったかもしれない未来を選べなかった」


 これは事実。


 もしも少し違えばまた違った結末もあったかもしれない。


 だがそれはタラレバでしかない。


「でもさ。少なくともそいつが頑張ったのは、ほかの誰よりもミコトを選んで救おうとしたからだ。それだけは事実なんだ。だから、『私なんか』なんていわないでやれよ」


「あっ……うん。ヤーカムル……ありがとう。わたしの為に本当にありがとう」


 その言葉に目を見開くヤーカムル。


「いえ、私は……私はその言葉だけで……ハクア」


「何?」


「私は貴様が気に食わない」


「うん」


「だが、頼む」


「ああ」


 私の返事を聞いたヤーカムルは満足そうに笑う。


「ハクア……何を」


「ドラゴンコアを取り出す」


「そん───」


「ミコト様、これは私の望みです」


「なんでそんな……」


「この体はもう持ちません。だからこそ、最後まで貴女の役に立ちたいのです。どうか、私の力を役立てて下さい」


「そんなの……そんなの……」


「悪いなミコト。脱魂」


 ヤーカムルの胸に手を当てドラゴンコアを取り出すと、ヤーカムルの体は砂のように崩れ落ちていく。


「なんで……こんな風に……」


「言ったよね。もう限界だったんだよ。それこそドラゴンコアでやっと命を繋いでるような状態だったんだ。これはミコトに渡す。どうするかは自分で決めると良いよ」


「くっ、うぅっうっアアアアアアアアア!」


 ドラゴンコアを受け取ったミコトは声を押し殺して泣いていたが、耐え切れなくなって思い切り泣き始める。


 その背中を擦りながら、私は一つある事を心に誓った。


 こうして龍の里での戦いは、ミコトの泣き声だけが鳴り響く中、後味の悪い結末を迎えた。

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