第639話言っといてなんだけどちょっと怖い
「ハクア達は何を話していたの?」
「ん? ああ、元老院の事だよ。邪神と戦って死ぬとか意外だったって言ってた」
引き摺られている最中にシフィーに聞かれ簡潔に答える。
「……ハクア。聞きたいんだが、結局、全ては奴らの企みだったのか?」
トリスが意を決したように私に質問する。
「うん。色んな思惑が重なってたけど、大元はあいつらだよ」
その問いに答えながら私は数日前の事を思い出していた。
▼▼▼▼▼▼▼▼
「やはり所詮は裏切り者の残りカスか」
「全くだ。ここまで時間をかけたのに無駄になるとは」
「ああ、だがそれでも最悪ではない」
邪神討滅から数時間後、とある隠し部屋の中でそんな会話が行われる。
「最良の結果ではないがそれでもまだ挽回は出来る。それにこれであの方の復活にまた一歩───」
「へぇー、面白そうな話だね。私も混ぜてくんない?」
私の言葉に一斉に振り向いた怪しい集団───元老院達が驚愕しながらも戦闘態勢を取る。
クズの癖に反応は早いなぁ。
「人間……それに小娘や龍王もか……」
そう、私の横にはトリスとシフィー、そして元老院達を挟むようにおばあちゃん達龍王が陣取る。
「その様子では全てわかっているようだな」
「ああ、一応な」
まあ、あまり時間なかったからちゃんと情報共有出来てるの私とおばあちゃんだけだが、雰囲気的にこいつらが敵だということは皆理解しているようだ。
「だが、その疲弊した状態で我らに敵うと思っているのか?」
こちらの数は六人、対して向こうは十人。
しかも邪神戦でほぼ全ての力を出し切っているのに対して、向こうは全く疲弊していないのだから、このまま戦えば結果は明白だ。
しかしこっちだって勝算もなく出てきた訳ではない。
「貴様らの相手は我だ」
「貴様……なるほど、この小娘は貴様の差し金か龍神!」
元老院の一人の言葉に龍神は答えない。
だがしかし私が龍神の駒のような言い方はやめて欲しい。
なんなら今回は私があっちに「お前なんもしてないんだからちょっくらムカツク奴しばきに行くの付いてこい」と誘ったのだから。
……うん。これは秘密にしておこう。
そんな事を考えている間にも深刻な空気で会話が進む。
その間も龍神とおばあちゃんは何も口に出さず、ただ黙って言い分を聞いている。
その顔にあるのは憐れみだ。
「やはり偽りの天など抱いたのが全ての間違いだったのだ!」
その言葉と共に遂にしびれを切らして元老院が一斉に龍神に襲い掛かる。
しかし───龍神がただ腕を振るう。
たったそれだけの動作で、十人も居た元老院の全てが真っ二つに切断され一瞬で絶命した。
「最後の最後まで済まなかったなハクア」
それだけ口にした龍神は全ての遺体を片付けその場を後にした。
▼▼▼▼▼▼
「ハクアは大元と言ったけど、結局元老院は何にどう関わっていたの?」
シフィーの質問に現実に引き戻された私は少しだけ考えて口に出す。
「そうだね。全ては全てだけど、二人はヤーカムルの話を聞いておかしいと思わなかった?」
「何も知らなかった側からすれば全ておかしいとしか思わなかったな」
「うん。私もそう。あまり理解出来なかった」
「聞いた事とは違うけど……感情面で理解出来ないって言うなら、レリウスとシーナがミコトと同じ目にあっていたと思えば少しは理解できると思うぞ」
言った瞬間二人の殺気が膨れ上がる。
「ああ、それなら理解出来るな」
「ん、ちょっと理解した」
言っといてなんだけどちょっと怖い。例題を間違えたようだ。
「話を戻すけどヤーカムルはこう言った。「偶然元老院が話している事を聞いた」ってね」
「ああ、言ってたな」
「おかしいと思わない? 長年秘密になっていた事、しかも龍王達ですら知らなかったのに、それが偶然ミコトの為に命を投げ出すような奴だけが聞くって」
「あっ……もしかしてわざと……」
「うん。証拠はないけど多分そう」
それにヤーカムルは、昔邪神が里に攻めて来た時に、邪神側に付いた一族の生き残りだと聞いた。
それがミコトの従者になったからといって、いきなり全員に受け入れられるわけがない。
それなのに実際、里の中の感情をコントロールしていた。
「確かにそうだな。アカルフェルなどの一部ならまだしも、里全体となると難しいだろう」
「そうかも……」
「実際、そっちの動きに合わせて元老院側からも自然に働き掛けてたんだろうな。全体をコントロールするには元老院ってのは最適だし」
それにマナビーストを気が付かれないように里に引き込むのも、ちょいちょいこっちにちょっかいを掛けて、アカルフェルと私をぶつけたのも計画の内だろう。
その他にも色々……ヤーカムルが元老院と接触していたのか、協力していたのかは知らないが、手のひらの上で踊らされていたのは間違いないだろう。
まあ、私個人としてはそれすら踏まえて利用していたのだろうと思うが。
「なるほど……全て理解した訳ではないが、あの状況を見れば奴らの思惑だったのは明白だからな」
「ん。あの時、付いてきてと言われたからハクアに付いて行ったけど、詳しく説明されてもそんな事まで元老院がするとは思わなかったと思う」
「まっ、そうだろうね。それだけあいつらは上手く潜ってたし。私が気が付いたのは外様だったからって言うのが一番大きいだろうしね」
そして何よりも、そんな事をする訳がないという先入観がなかったのが一番だろう。
「ハクア。もう一つ聞く」
「なんぞ?」
「奴らが言っていた「偽りの天」とはどう言う意味だ」
「それは私もあれからずっと気になってた。ハクアは分かるの?」
「……多分分かる。けど、もしも私が考えている通りの事だとしたら、それこそ外様の私が軽々に言える事じゃないんだよね。最低でもあの二人に聞かないと……そうだよねおばあちゃん」
「ふふっ、気遣ってくれてありがとうハクアちゃん」
引き摺られながら話し、目的地に辿り着いた所でおばあちゃんに話し掛ける。
するとやはりと言うべきか、おばあちゃんは私達の会話に最初から交ざっていたかのようにあっさりと交ざってきた。
「これで全員?」
集まったメンバーは当然この間元老院を追い詰めた面子だ。
「ええ、これで全員よ。当然ハクアちゃんはなんで呼ばれたのかわかっているわよね?」
「うん。まあね。こっちは話せるくらいは話したけど、そっちは?」
「こちらもよ……と言うより、面倒だからハクアちゃんの説明をこっちでも聞いてたわ」
「あっ、やっぱり」
ぶっちゃけて言えば盗聴だが今更文句もない。むしろここからの話に齟齬がないから楽でいい。
あっちで聞いててこっちが聞いてないとか、その逆とか、面倒くさくなるからね。
「さて、それじゃあハクアちゃん。答え合わせをしましょうか? ハクアちゃんも色々と気になっているでしょう?」
「まあ、確かに、でもいいのそれを話すのは……」
チラリと龍神を見ると静かに頷く。
ならまあ、良いか。
こうして私はおばあちゃん達と答え合わせをする事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます