第640話生きてて良かった

「それじゃあまずはハクアちゃんがわかったことを教えて貰える?」


 いつも通りの笑顔で問うおばあちゃん。


 それに頷き、私は龍神の方を見る。


「これはあくまで私の憶測。それを踏まえて……まず最初に共通認識としてアンタは本物の龍神じゃないんだよな? いや、正確に言えば二代目って所か?」


「「「なっ!?」」」


「ハクア! いきなり何を言って、そんな事がある訳が───」


 全員が絶句し、トリスが私に食って掛かる。


「ああ、そうだ。よくわかったな」


 だが、そのトリスを制したのは他でもない龍神本人だった。


「まさか……今、嬢ちゃんが言ったのはマジなのかよ?」


「本当なのですか水龍王……」


「ええ、ハクアちゃんの言った通りよ」


 何も言わない龍神ではなく、驚く様子を見せないおばあちゃんに信じられないとでも言うように問う地龍王。


 だが、おばあちゃんの答えは簡潔にただ事実を肯定する。


「それにしてもハクアちゃんはよくわかったわね。参考までになんでわかったか聞いても良いかしら?」


「うん。これはさっきから言ってる通り私が外様だからってのがあるけど、それ以外にもいくつかある」


 一つはおばあちゃんと龍神のやり取り。


 普段は上下関係がキッチリとしているが、たまに見せるお互いへの気やすさが妙に気になっていた。


 そして二つ目は五行山にあった修行跡。


 おばあちゃんですら知らなかった龍神の修行場だが、あそこにはあの時言わなかったが明確におかしな点があった。


 それが修行で付いた痕跡そのものだ。


 あそこには大きく二つの痕があった。


 一つは神の力を得る前のモノ、もう一つは神の力を得た後の痕跡。


「それの何がおかしいーんだ嬢ちゃん? 俺らでも修行次第では神に到れる事はある。それと一緒だろ?」


「まあ、その経緯で龍神として崇められるようになったでも良いんだけど、問題なのは神の力を得た後の痕跡の方」


 神の力を手に入れると言っても、それは火龍王が言った通り自分の行き着いた先での話であり、私のように突然手に入れて制御不能な力という訳ではない。


 しかしあそこにあった痕跡は、力のコントロールがされていない痕ほど古く、徐々にそのコントロールを出来るようになったものだったのだ。


「なるほど、それでハクアちゃんは誰かから譲り受けた……と、考えた訳ね」


「そ、いきなり不相応な力を扱う経験は豊富だからね!」


 泣いていいだろうか?


「んで、最後に確信したのが偽りの天を抱いたのが間違いだった。って元老院のあの言葉だね。あそこで確信した」


 天とは自身の頭の上にあるもの、そしてそれは神を指す言葉でもある。


 つまりは偽りの神を崇めた事が間違いだった。と、言う事だ。


「そうか……あの言葉はそう言う……」


「そして一連の出来事は、かつて邪神がこの地を狙って攻めて来た時からの計画だ」


「なっ!? そんな前からだったのか……」


「お前の想像通りだハクア。我───いや、俺の名はレギオム。かつての龍神の息子……言わば今のミコトのような存在。そして奴らの妄執もその時から続いている」


 そう前置して龍神は過去を話し始める。


 かつて邪神がこの地を攻めて来た時、邪神側に付いた一部を除き、龍神を含めた全ての者が共に戦った。


 邪神側に付き、邪龍としての力を手に入れた者達は誰も彼もが強敵、そして更に怠惰の権能により増やされる配下は強力無比、不死身と来た。


 それは私達が今回経験したものとは段違い。


 力を取り戻していない状態の今回ですらあれほど強かった配下が、万全の状態から産み出されたらと思うと、それは地獄と言っても良いだろう。


「当時の私は力の弱まっていた龍神様の次期後継……巫女として生きていたわ」


「巫女? それに龍神は戦う前から弱体化していたの?」


「そうだ。ハクアの言う通り、母上の力は陰りを見せていた。その理由までは知らないがな」


「なるほど、そこをベルフェゴールに狙われたわけね」


 ちなみにおばあちゃんが、神の力を発現した私の特訓を普通に考えられていたのは、そういう下地があったかららしい。


 つまり自分が受けていた修行をブラッシュアップして私にやらせていたと……次期龍神候補の龍族ホープが受けていた修行のブラッシュアップを私に? いや、もう考えるのはやめよう。生きてて良かった。


「戦いは苛烈を極めた。その中で偶然、最後の場に居合わせたのは俺と水龍王だけだった」


 龍神は最後の力を使い邪神を三つに分け、一つをこの地に、もう一つをおばあちゃんの中へ、そして最後の一つを封印し、残った力をレギオムに分け与えた。


「なんでおばあちゃんに邪神入れたの? アンタ───レギオムの方が適任だったんじゃない?」


「私の力はレギオムには届いていなかったの。それに龍神様の強力な力を受け取る体も出来ていなかった」


「なるほど」


 だが元老院になった奴らはそれが気に食わなかった。


「当時のレギオムは努力を見せるのを嫌がって、それを見せてこなかった。彼等は表面上の姿しか知らなかったのよ」


「それなら追放すれば良かったのでは?」

 

「いや、いくら反対派とは言え一緒に戦った奴をそれだけの理由で追い出す訳には行かんでしょ。戦いで全体の数も減ってただろうしね」


「確かに」


 それに引き継いだばかりで独裁的に映るのは良くないし、反乱分子を放逐して恨みを買うのも、見えない場所にやるのも上手くない。


「ええ、そうね。だけどそれが間違いだった」


「そうだね。普通ならそれでいいかもだけど、相手は龍族、厄介な考えを実現出来る時間も力も知識もある。邪神に与した奴らを里に残したのも奴らの進言だろ?」


「ええ」


「そうなのか? なんでんな事をわざわざ奴らがしたんだ?」


「実験のためだろうね」


 長い時間恨みの矛先を向ける相手。


 そして龍族なのにその力を奪われた恨み。


 そういった負の感情を集める為の苗床として、そして実験動物として飼われたのだ。


「そしてこれが現代に繋がってさっき話した今回の騒動ってわけ」


「そんなに前から……」


「多分、ヤーカムルが一人だけ生き残ったのも実験の一環。それ以外は使われたか処分されたんだと思う」

 

「そんな事までしてたのか」


「実験と言うがそれはなんだ?」


「えっと……」


 地龍王の言葉に思わず言い淀む私。


「大丈夫よハクアちゃん」


「わかった……奴らがしていた実験は恐らく邪龍を人工的に作り出す実験。その理由は邪神の受肉先だろうね」


「なるほど……でもそんなに簡単に作り出せるものじゃない……でしょ?」


「うん。でも……元老院には過去の実験で既にそのノウハウがあったとしたら?」


「過去……まさか!?」


「ええ、その通りよ。私の息子アスクニルカが邪龍に堕ちたのは元老院が関わっていたの」


 やっぱり。


「おばあちゃんは知ってたの?」


「いいえ、当時私も探ったけれど、敵国に龍族が接触した所までは掴めたけどそこまでだった。そしてこの間、ハクアちゃんが教えてくれた元老院の隠れ家でその記録を見付けたわ」


 ちなみに私が元老院の居場所を知っていたのも、隠れ家を見つけられたのも、龍脈を奪って一時的にこの地と繋がったからだ。


 普通にしてたら絶対見つけられなかったろうな。


「恐ろしいな。妾達は何も知らなかったと言うわけか」


「これが全部だよ。採点は?」


「その前に最後の答えを聞いていないな。お前はもうわかっているのだろう? 龍神が何処にいるのかを」


 なるほどそれも話すのか。


「本当なのハクア?」


「はぁ……ミコト。だよな?」


「えっ!?」


「どう言う事だハクア!」


「そのままだよ。ミコトは全ての力を使い切って、記憶も力も無くした前龍神なんだろ?」


「ああ、正解だ。全てを終え、母上は眠りについた。そして次に目覚めた時、全てを無くされていた」


「だからアンタは隠した。自分の娘だと偽り、龍神を復活させようと画策していた元老院から」


「そうだ」


 そしてこれは見事に成功した。


 現に元老院はミコトの事を、邪神の、そして龍神の器としてしか見ていなかった。


 目的のモノは目の前にあったのに皮肉な話だ。


「さて、これで全てだな」


 レギオム───龍神がそう締めくくる。


 だが、私とおばあちゃん、龍神以外は頭を抱えて必死に内容を飲み込もうとしている最中だ。


 まっ、当然だろう。


「ハクアちゃんは何か聞きたい事あるかしら?」


「そうだな……アンタにとってミコトはなんだ?」


 頭を抱えていた龍王が、私の殺気に反応して反射的に構える。


 それを無視しながら私は龍神をまっすぐ見つめる。


「変わらぬ。あれは我の娘───我の愛しい子だ」


 まっすぐ見つめ返し返事をする龍神。


「あっそ。今回の騒動の褒美楽しみにしてるよ」


 それに満足した私はそれだけ言い残してその場を去った。


 あー、神を相手に二連戦にならなくて良かった。

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ミニゴブリンから始まる神の箱庭~トンデモ進化で最弱からの成り上がり~ リーズン @ryu46

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