第331話ゲーマーの見切り舐めんな!
くっそ。こいつ今までのモンスターで一番頭が回りやがる。
私が作った服じゃ肌触りや柔らかさなんかの、洋服としての着心地は素材のお陰で良いけど、良いんだけど!!
防具としての性能はあんまりは良くないから、極細にして動きに支障ない程度に硬くした糸を、一応身体にグルグルと巻き付けておいて正解だった。
コロから「ハクアの糸は下手な防具よりも頑丈みたいかな」って、言われてたから無いよりマシだと思ってやった苦肉の策だったけど、どうやら少しは効果あったみたい。
そうでなければギリギリでヌルが【眷属使役】を使い、スライムをクッション代わりに移動させてくれててもHPを全て削られ危なかっただろう。
それに動きに支障が無い程度の硬さだった事も糸の弾性が少し出て良かったのかも知れない。まあ、わからんけど。
まあ、とにかくお陰で助かったが、目の前にいるこいつは魔族以外でいえば今までで一番厄介な相手だった。
こいつは確実に私が攻撃を避ける事まで計算に入れた上で二撃目、三撃目を放って追い詰めてきた。
しかもそれは私が攻撃を避ける軌道まで予測した上で……だ。ここからはモンスターではなく、人間や魔族並の知性を持つ厄介な相手と思って相手をしなければ危なそうだ。
八咫大烏
HP:29000/33000
口へとせり上がってくる血を吐き出し傷付いた内臓を治しながら【鑑定士】を使ってHPだけは確認しておく。
今ので四千かぁ。内訳の詳しいのは分からんが防御もやっぱり硬いな。でも、戦えない訳じゃない。気を付けるのはそれぞれの頭が違う属性を使う事だな。左が土、右が氷、上手く見分けないとこっちが危なそうだ。
観察している間も細かく軌道を変えて動きながら隙を探す。が、やはりそんな物は中々晒してくれない。
それどころか私を仕留めようと巨大氷柱が何本も私を狙って襲ってくる。なんとかそれを避けながら足を止めずに走り回るが常に回避はギリギリだ。
くそ! 突破口が見当たらない。
しかしそんな攻防に痺れを切らしたのか、八咫は氷の魔法を氷柱から礫のように小さく切り替え、面による制圧攻撃に切り替え私の周りの空間そのものを埋め尽くすように攻撃を放つ。
まずい!
それを見た私は回避が不可能だと悟ると、その場に留まり岩石魔法で石壁を作り、更に【結界】を何重にも展開してなんとか礫を防ぐ。
もちろん全ては防ぎ切れずに何十発と貫通してくる。
しかし、貫通された端から壁を生成して自身には回復魔法をかける事で、なんとか30秒もの時間続いた氷の礫による暴風雨をやり過ごす事に成功した。後に残ったのは礫によって抉れた地面とボロボロになった石壁だ。
なんとか耐え切れた。礫になったお陰で一つ一つの攻撃力ならなんとか耐えられたのが大きかった。
耐えきった私は見えなくなった事を利用して再びヌルに【隠蔽】を使い。じっと機会を窺って貰う事にする。そしてヌルにその指示を出すと私は壁から抜け出し外壁に沿って一気に走る。
こうする事であの巨体から繰り出される爪攻撃の方向を限定するのが目的だ。いくら相手の方が速いとはいえ、攻撃の来る方向が限定されればなんとか避けきる事は難しくない。
そんな私を狙いその大きな羽根を羽ばたかせ猛スピードで迫る八咫。
選択した攻撃方法は先程と同じく氷の礫。動き回る私には一撃で仕留められる大威力攻撃よりも、面による制圧攻撃が有効打だと正確に理解したようだ。
全く、厄介な。
だが、突進から繰り出される礫には先程よりも空間に隙間がある。とは言えそれは人一人がようやく通れる程の大きさだ。が、それだけあればなんとかなる。
これだけの隙間があれば行ける。弾幕が酷すぎてクソゲー認定されたゲームをノーコン出来るゲーマーの見切り舐めんな!
途中何度か氷が私の身体をカスリながら通り過ぎていくが、なんとかその包囲網から抜け出し、最後の礫を抜けると【結界】を足場にして八咫の攻撃をスレスレの所で飛び越える。
「【水枷】&【鬼砲】」
スレスレの所を飛び越えた私はすれ違いざまに【水枷】を八咫に掛けると、手を突いた場所を起点に魔力が八咫を包み込みスピードを下げていく。
スキルを掛けた私は腕に力を込め、再び飛び上がると空中に逆さまになった状態で八咫の背中目掛けて【鬼砲】を放つ。
HPは少ししか減らないがそれでも確実にダメージにはなっている。
攻撃を受けた八咫は旋回するとその場で羽ばたき、自分で放った氷の礫を巻き上げて私に攻撃を仕掛けてきた。
しかし八咫が攻撃に移るであろう事を見越していた私はまたしても【結界】を足場にしてその場から離れ、カウンター気味にシャインボールを放ち八咫の目の前で爆発させて左の頭の視界を奪い、私自身は視界を奪えなかった方の頭の標的になりやすいように動く。
その隙を狙いヌルが再び左側から【ヒドラ】を使い体当たりをする。しかも今度は【眷属使役】を使いドラゴンスライムに毒竜スライムまで呼び出し【ドラゴンオーラ】や【ヒドラ】を使った眷属と一緒に体当たりをかましている。
私に目を潰され【水枷】&【怠惰の魔眼】の効果で各種ステータスが下げられ、デバフも付いた八咫には、例え片方の頭の視界が無事だったとしても逃れる術は無い。全ての攻撃をマトモに喰らった八咫のHPはガリッと削れていく。
「白雷!【黒炎】」
ヌル達が避難したのを確認すると、未だダメージに苦しむ八咫へと攻撃を仕掛ける。頭の上から白い雷を降らせ、続け様に【黒炎】を放つ。
【白雷】はモンスターへのダメージが上がる上に、鳥系モンスターには一部を除いて雷の効き目は抜群だ。
【黒炎】の本領は聖属性の相手とは言え、火と闇の二つの属性での攻撃と、聖属性攻撃を当てるか【浄化】のスキルを使う、もしくは術者以上の魔力で吹き飛ばすしか炎を消す方法が無いのはやはり脅威だ。
その証拠に八咫は自分を焼き殺さんとする炎を消す為に滅茶苦茶に暴れ回り、大量の魔力を放出しはじめる。吹き荒れる魔力の奔流は風を起こし辺りの物を吹き飛ばし、遂には私が放った【黒炎】も吹き飛ばしてしまう。
だが、そんな物は想定の範囲内。
撒き散らされた魔力の奔流に土魔法で砂を混ぜ視界を塞ぎ、八咫の真上の天井へと飛び上がると、重力に天井を蹴り砕く程の勢いを利用してやっとの事で炎を消した八咫の脳天を【魔力装甲】で強度を上げ、今までで身体に纏っていた【竜装鬼】を全て脚に集中させた状態で【剛脚】を使って蹴り砕く。
無防備な脳天に、多数のスキルを掛け合わせた一撃を喰らった八咫の頭は頭蓋を陥没させ、私に蹴り抜かれた事でバランスを崩した勢いのまま地面へと墜落していく。
その隙を逃す私達ではない!
地面へと墜落した八咫の背中に飛び乗ると、少しでもダメージを蓄積する為にスキルを駆使してダメージを与える。その甲斐あって片側の頭は完璧に再起不能に追い込み刀で切り落とす事に成功した。
「ギィギャァァァアーー!!!」
見れば今の攻撃でHPは半分まで減っている。どうやら先程の脳天への一撃は不意打ち扱いになり良いダメージが入っていたようだ。
実際にほぼあの一撃で私が攻撃した頭は再起不能に近かったしね。
片方の頭を潰された事に怒りを感じたのか、一際大きな鳴き声と共に暴れ回るが、その頃には私達は八咫から離れ合流している。
勿論この隙にもう一度【隠蔽】をヌルに掛け、私自身も姿を隠す為だった。だが、暴れ回っていた八咫は天井ギリギリまで飛び上がると空中に停止して、自身の魔力を急激に高めていく。
なんだ!?
今までと比較にならない程高まっていく魔力と共に八咫の体からはドクンドクンッ! と、ここまで聴こえる程の脈動を感じる。更には可視化する程にまで高まった魔力は、八咫の身体を包み混み繭のようになった。
もちろん私だってそれを黙って見ていた訳ではない。
何度か攻撃を仕掛けてみたが、どれも魔力に阻まれて掻き消されてしまったのだ。
攻撃はされないけど攻撃も出来ないってか。
ならばと、この時間に少しでも身体の回復に努めていると、魔力で出来た繭がいきなり弾け光の粒子になっていった。そして同時に中から出て来た八咫の身体にも変化が起きている。
今までは茶色がベースだった身体の色が黒く染まり、二つあった頭は一つに、全体的に一回りか二回りほど大きくなっていたのだ。
そして八咫はその巨大になった嘴を大きく開ける。
おい! ちょっとまてよ! そのエフェクトからの攻撃は一つしか想像出来ないぞ!?
八咫の開けた嘴の前にはいつの間にやら巨大な魔法陣が現れ、先程弾けた繭の光の粒子のような物になった魔力が周囲から嘴に集まっていく。そして口の中には強大なエネルギーを込めた光が蓄えられていく。
「なっ!?」
危険を感じなんとか範囲外へと逃れようとした私の事を、囲むように現れる氷の壁に閉じ込められてしまう。
干渉は? 今なお膨大な魔力で覆われてる。不可能ではないけど時間が掛かり過ぎる。飛び越える? 高さは十メートル程、簡単に抜け出せるがその瞬間を狙われたらどうにもならない!
数秒、あらゆる手段が頭の中を駆け巡るがその全てが、他ならぬ私自身によって否定されていく。
「くっ! ヌル!」
ヌルに指示を出すと巨大化したヌルが私を呑み込み、更にその中へヒールスライムを全て呼び出す。
これでなんとか行くしかない! なんとか頑張ってくれヌル!
その瞬間、白銀の閃光が私とヌルへと向かい放たれた。
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