第515話娯楽とは麻薬の様なもの

「まあ、なんというかいつも通り滅茶苦茶じゃな」


 遂にミコトにまでそんな風に言われてしまった。どうして私の評価はすぐにこんな風になってしまうのだろうか? 解せぬ。


「何はともあれ、仕返しも済んだしスッキリしたっすね」


「いやいやシーナ。何言ってんの? 嫌がらせされた仕返しはこれからなんだよ?」


「えっ? まだやるんすか?」


「そもそも今回は仕返しでもなんでもなくて、ただ邪魔なトカゲを素材として有効活用してやっただけだし」


「流石ハクアなの」


 ムニが恐れ戦きながらそう呟く。


 何が流石なんだろう?


「それで具体的には何をする気だ? また大規模な事をすれば今度こそ奴も正面から来るぞ」


「確かにあの様子じゃと次はそうなりそうじゃな」


「大丈夫。そもそも嫌がらせってのは正面からじゃなくて、陰湿にやらないとね!」


「それ堂々と言うことじゃないのじゃ!?」


「それで、ハクアちゃんはどうするのかしら?」


「うむ。やる事は単純、屋台を止める!」


「……えっ? それだけなの?」


「そうだよ」


 あれ? 何この反応? 皆の反応が芳しくない。


 どうやら私の考えを正確に理解しているのはテアとソウの二人だけのようだ。その証拠に皆は不思議そうな顔をしているが、二人はとても面白そうな顔をしている。


「なんでそれがアカルフェルへの嫌がらせになるんすか?」


「皆は今私の作った物を食ってるから良いけど、明日から今まで通りの素材の味そのままの物食えって言われたらどうする?」


「嫌っす!」


「嫌なの!」


「だよね? それはもちろん屋台に来てた奴らも一緒。いや、皆よりも供給が少ない分もっとかな?」


「そうじゃな。正直そうなったらわしもツラい」


「うん。じゃあそこで私が止める理由に、今回ユエが襲われたからってのを理由にしたらどうなるか分かる?」


「そりゃ───あっ!?」


「皆もアカルフェルとハクアの事は知ってるの」


「そう。その矛先はアイツらに向く」


 アイツらの事だ。ここまで来るまでに身を隠すなんて発想はないだろう。

 そんな奴らが昨日は嬉々としてここに向かい、今日は殺気を隠そうともせずここに来た。そして帰っている今もそれは変わらないだろう。

 そうなれば今回の事と関連付けるなと言う方が難しい。


 普通ならばそれがどうした? という程度の事。


 いや、恐らくは同じドラゴンとぽっと出の私。


 心情で言えば同じドラゴンであるアカルフェルに、気持ちが傾く確率の方が高いだろう。

 もしそうでなくても対岸の火事。自分が巻き込まれなければどうでもいいというのは、ドラゴンでも人でも同じだろう。


 だが今回は違う。


 アカルフェルのいさかいに巻き込まれる形で屋台がなくなり、自分達が食べられなくなるのだ。


 娯楽とは麻薬の様なもの。


 知らなければなんという事はないが、一度それを知り、味わってしまえば、元の水準に戻るというのは難しい。

 しかもそれが自分で成し遂げた事ではなく、一方的に人からもたらされた物だとすれば尚更だ。


 当たり前になりつつあった楽しみを理不尽に奪われたその怒りは、表面上噴出しなくても燻り続ける。

 私からすれば、それがいつ爆発しても良いし、燻り続けてじゅくじゅくと爛れてくれても良いのだから、仕掛ける甲斐が有るというものだ。


「でも、それでよいのか? 別にそれはハクアに味方するという訳ではないじゃろ?」


「確かにね。でも今の私の状況では、敵じゃなくて、相手に不満を持ってるって状況だけでもありがたい。敵の敵は味方じゃなくても、知らん奴がいきなり敵になってて、背後から襲われるよりはマシだからね」


「まあそうだろうな」


「それに私の敵にならず、あっちにも付かない勢力は、おばあちゃんやミコトが取り込めば、結局は私の敵になる確率は低いからね。って事ではいコレ」


「これはなんじゃ?」


「少しづつだけど用意しててね。この里の周りに住んでる奴らを料理人として仕込んでたんよ」


 実を言うとこの里の周りには複数の種族が暮らしてる。

 それは竜に連なる眷属でドラゴニュートやリザードマン達、数種の種族がいる。

 そいつらはいずれ竜へと至る為に修行しながら周辺に暮らし、この里に住むドラゴン達を神のように崇め、周辺で狩って来た獲物を献上したりしているのだ。


 そんな彼らは時折、気まぐれでドラゴンに雇用される事がある。


 私が見た中で言えば、この里に来てすぐに牢屋にぶち込んでくれた警備兵達がそうだ。


 扱いはそんなに良いものではないが、ドラゴンを神のように崇める彼らにとって、そんな奴らに仕える事が出来るのは、どんな仕事だとしても誉れなのだとか。


 そこに目を付けた私は、面倒な事を投げる為───ではなくて、今後私が居なくなっても、ドラゴン様に美味しい料理を提供出来るよう、料理人を育成していたのだ。


「そんな事までしていたのか!?」


「いつの間になの」


「企業努力で企業秘密です。まぁそんな訳で、その紙は中でもセンスが良くて、簡単な物なら一通り作れる奴らのリストだよ」


「まあ、これはありがたいわね」


「シフィーとか忙しそうだからこれで来れない時でも飯食えるよ」


「うん。ありがとうハクア。凄く嬉しい」


 おお、静かな微笑み。好感度が上がったようだぜ。


「しかし、妾達に紹介するにしては資料が厚すぎないか?」


「ああそれは別の理由。皆がそれぞれ料理人選んで雇用し終わったら、それを元に他の奴らにも紹介して欲しいんよ。予めミコトやおばあちゃん、シフィーが、私なんかに頼らずに済むように仕込んでたって感じで」


「わし等がか? そこはハクアにすれば他の者達の態度も変わるのではないか?」


「いや、それだと反発があるし、雇用されなくなると向こうが可哀想だ。それにおばあちゃん達の勢力の地盤固めの材料にした方が良い」


 そもそも私はここに味方を作りに来た訳ではないのだから、穏健派が増える方が、少数の個人の味方が増えるよりも有意義だろう。


「確かにそれもそうじゃな」


「つーか、味方は皆が居ればそれで満足」


「そ、そうっすか?」


「なんか照れるの」


 ……そんなに顔を赤くされるとこっちまで照れるんですが。


「それじゃあ、これは有難く利用させて貰うわ」


 ニコリと笑うおばあちゃんは清々しい。決して背後にどす黒い影とかは見えないのである。


「それじゃあこの件はおしまい。……さて、私から一つユエに提案があるんだけど」


「提案……ゴブ?」


「ユエさんもうゴブ付けなくても良いよ?」


「い、いや。無理なんかしてない! ゴブ」


「……」


「……主、提案って何?」


 諦めた!?


「うん。もしもユエが強くなれるかもしれない方法があって、その結果自分自身が歪む可能性があったとしたら、ユエはどうする」


「どういう意味じゃハクア?」


「そのままの意味だよ。実は───」


 そうして私はついこの間、強敵との戦いの後に手に入れたモノについて話し始めた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


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