第463話頭も、頭も使わせてーーー!

「あらあら、吹き飛んじゃったわね」


 壁に叩き付けられた私に投げ掛けられた言葉はそれだった。


 いきなりすぎて戦闘態勢にも入ってなかったから、折角強化された身体の恩恵も働かなったかんだよ! 気持ち切り替えなきゃ、ステータスも発揮されないんだよーーー!!

 しかしそれにしても酷くないですか!? 頭がダルマ落とし並にスコーンって吹き飛ぶかと思いましたのよ!?


 しかしおばあちゃんに悪びれる様子は無い。

 むしろ、あらあら困ったわ。とでも言いたげな雰囲気だ。


「じゃあ、一応聞くのだけれど……ちゃんとわかったかしら?」


「何を?」


 その問いに反射的に答えてすぐに私は自身の失敗を悟る。何故ならおばあちゃんは笑顔を深くして、さっきよりも力を込めたデコピンをもう一度放とうとしているからだ。


 なんで脊髄反射で答えたよ私ぃーーー!!


「待って、考える。ワンチャン! ワンチャン頂戴!」


「そんな事をしなくてももう一度やればハクアちゃんならちゃんとわかるわ」


「待ってーーー!! 頭も、頭も使わせてーーー!」


「大丈夫よ。今から(私が)使うわ」


 大変だ! 私の頭の所有権が私に無い!? というか、物理ではなく使わせて欲しいの!?

 いやーーー! さっきよりも確実に力が入ってる。次は本当に取れちゃうから!! しかもさっきよりも壁に近いからツーヒットのコンボが確定なんだよ! 前門のデコピン後門の壁なんだよーー!


 必死に助けを求めて視線をさ迷わせる。だが、ユエは既に修行をつけるという名目でソウに連れ出され、テアは向こう側の人間。

 そして頼みの同じ側の人間は……。


「ゴメンっす……」


「尊い犠牲なの……」


 私と一切目を合わさないように顔を背けている。

 同じ境遇という仲間意識は儚くも砕け散ったようだ。


 この裏切り者共め!!


「じゃあ次はしっかりと感じてね」


 痛み以外の何を感じれば良いのかを、せめて最初に教えて頂けませんでしょうかーーー!!


 人生とは無慈悲だ。


 仲間には裏切られ、身内には面白がられ、無体な仕打ちを受ける。刻一刻と迫るデコピンという名の、金属製ハンマーのフルスイングのような衝撃がまたやってくる。


 脳が脳が出ちゃう!? デロンしちゃう!?


「はい。行くわね」


「軽い!?」


 来る! 来る! 来る! ヒィーーーー!!


 目を閉じて来るべき衝撃に備えたい。そう思う心と身体を強引に留め、デコピンへと意識を集中する。


 だって今回でわかんなかったら次の威力は本当に死ねるんだyoー!!

 怖いー。怖いー。なんでデコピンが迫って来るのってこんなに怖いのだろうか? もっと痛いのとかはなんとか我慢出来るのにーー!


 意識が集中し、デコピンが私の額に放たれた瞬間、必死に目をこじ開ける私の中である変化が訪れる。

 それは私の身体の内側から、今この瞬間も額に向かって、何か私の知らない力が自分の意志とは関係なく集まって来ているのだ。


 なんだこれ?


 集まる力。それは今までの私にはなかったモノだ。

 しかし更に集中すると、その力は額に集まろうとしているが、私自身の力が拒絶反応のように邪魔をしているようにも思える。


 だから上手く混ざり合わずに阻害してるのか。


 それを自覚した私はその拒絶が起きないよう意識する。するとその力は、それが正しいのだというように急速に勢いを増し形を成していく。


 しかし私は更にそこでひと工夫。


 その力を更に鬼の力を混ぜて加速させていく。


 何故そうするのかというとただの勘。何故かそうした方が良いという根拠の無い直感に従う。


 しかし時とは無情だ。


 そんなものを待つ気は無いと言わんばかりにデコピンが私に迫る。


 間に合え!


 ガギンッ!


 およそ人体から鳴る音でもなければ、デコピンの出していい音でもない。そんな音を響かせながら、私の中で動いていた力がデコピンを防いだ。


 やった! おばあちゃんが言ってたのはこれの事だったのか!!


 デコピンの衝撃に頭を持っていかれながら、さっきよりもダメージが少ない事に喜ぶ私。


 だが──


「あっ、痛ったぁーー!!」


 衝撃に飛ばされた頭は物の見事に後頭部を壁へと激突させた。


 なんで? なんで?


 どうやらこの力はパッシブ系ではあるが、自分が攻撃と判断しない。または、認識していないものには働かないようだ。

 後頭部を押さえ、痛みに呻きながらもなんとかそう結論付ける私。


 しかしさっきのは一体なんだったのだろうか?


 そう不思議に思っていると、その考えを読んだおばあちゃんがそれは竜の力だと教えてくれた。


「竜の力?」


 脳が揺れる程の後頭部の痛みから立ち直った私は、後頭部を押さえて涙目になりながら聞き返す。


「正確に言えばドラゴンコアの力ですね。攻撃を受けた際に力で出来たうろこを発生させ、主人を守る防護膜ぼうごまくを作るんです」


「竜化状態では常に鱗として発動してるんだけど、人化中は意識出来る攻撃にしか反応しないのよね」


 なるほど、これがドラゴンの防御力の秘密か。

 ただ硬いだけじゃなくて、常時発動型のスキルまで込みだったのか。そりゃ硬ぇわ。


「ハクアさんはもうさっきので【竜鱗りゅうりん】というスキルを覚えたはずなので、意識すれば確認出来ますよ」


 そういえばさっきのたうち回ってる時に、アナウンスがあったような?

 最近はスキルを覚えたり、レベルが上がったりした時のアナウンスが、ゆっくり聞ける状況じゃない事が多いんだよなぁ。


 それにしてもずいぶん簡単だな? とか思ったら、自然に発動するものだから、意識さえ出来ればスキルとして発現するとの事。

 加えて言えば、竜の眷属ならば効果の差はあれどリザードマンから持っている種族特有の初期スキルなのだとか。


 あの……すいません。声に出てないのに答えないでください。


 テアの言葉に早速試してみると、確かに集中した腕に淡いオレンジ色に光る透明な鱗が浮かぶ。


 おお、どんどん人間から離れてくな。まあ今更だけど……。


 因みにドラゴンコアの成長具合で色が変わるらしく。

 水色→オレンジ色→赤色→黄色→黄金色→紫色→銀色→白色となるらしく、その中でも濃淡が有り淡い色程力が弱いらしい。


 神龍で輝くような純白。おばあちゃん達龍王も銀色と紫色なのだそうだ。


 龍王でそこの段階とか私には無理じゃね?


 その話を聞きながらシーナ達も試していたが、二人はどうやら淡い黄色だったようだ。


 淡い黄色で喜んでいた二人を見るおばあちゃんの笑顔が深く、迫力があった事は黙っておこう。

 そしてそれを確認した瞬間から、トリスが胸を張ってる事から恐らくあいつはそれよりも上なのだろう。


「淡い赤色までいけば、ちょっと強いモンスターのドラゴンレベルですね。そこまでいけば低級の魔法程度はダメージを負いません」


「おお」


「私達と同じ銀色までいけば、大抵の攻撃は防げるわよ」


「生まれながらにこれってドラゴン狡いなぁ」


 素直な感想である。


 話によれば、主体としては魔法防御が上がるものらしいが、ある程度の物理防御力もあるとの事。

 しかしドラゴンの言うある程度なので、実際には下手な盾よりも硬いだろうとテアが言っていた。


 まあ、ドラゴンの鱗なんて、弱いドラゴンでも魔法あんまり効かない、下手な武器も通じないって言うからね。

 それぐらいのレベルと言われてむしろ納得である。


 むしろ重要なのは、本来自前の鱗がある竜化状態でこそ真価を発揮するスキルなので、人化状態の鱗が無い状態では効果が落ちるのだそうだ。

 だから竜族が使う時は、部分的に竜化して使ったりするのが一般的だとか。


 ふむふむ。スキルで防御をしてるなら鱗を剥がしても変わらないかと思ったけど、これが通用するならやはりドラゴン退治は、鱗を剥がすのが一番の攻略法なようだ。

 そうすれば防御力が物魔両方激減するからね。


 因みに豆知識として、地龍などの鱗の無い外皮が硬いドラゴンは物理防御に優れ。火龍などの鱗があるドラゴンは魔法防御に優れているらしい。


 ▶継承個体がドラゴンに関する知識を深めた為、継承が再開します。

 ……15.55%……16.48%……17.66%…………20.12%継承個体が未熟な為、継承が中断されました。

 継承個体が成長する事で継承が再開されます。


 そんなふうにドラゴンに関するあれやこれを聞いていると、どうやら継承が少しだけ進行したようだ。


 しかしこれどういう基準で上がるのだろうか?


 実際、ドラゴン以外にドラゴンコアを獲得した成功例は極端に少ないらしく、一般的なドラゴンとは上がり方や条件も違うようで、おばあちゃんやテアも詳しく分からないらしい。


 えっ、ちょっと指導者さん達……? ここまでやっててまさかの手探りでしたの!?

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