第444話一緒に居たいんだ
僕が彼女、レティと契約を交わすと言うと、彼女は嬉しそうな顔で一瞬喜び、その後すぐに暗い顔に変わり、聞いて欲しいとポツリポツリ自分の事について語り始めた。
レティは僕が身を潜めていた森の近くにある村に住んでいる。そして彼女はその村を治める領主の私生児なのだそうだ。
「昔、うちの村に視察に来た時にお母さんを気に入ったらしくて、無理矢理……」
しかし、そんな経緯で生まれたレティを母親が邪険にする事はなかった。むしろレティの事を大切に愛情を持って育ててくれた。
だが、そんなレティの母親は元々身体が弱かった所に病を患ってしまい、この世を去ってしまった。
それでも村長がレティの事を引き取ってくれたのだが、追い討ちをかけるように村には重税が課された。
「何故?」
「領主様の息子が将来の為に、私達の村を含めたこの辺りを管理する事になったの」
もちろん、本来ならば税を重くした所で物自体がなければどうにもならない。
しかも、村の住人が生きられるギリギリの食糧を奪われれば、生産効率も仕事をする人間も減る悪手だ。
「でもそれは行われたと?」
「うん。村の人の話では、重税を課して差し出す物が無くなった所で、私達全員を奴隷にするつもりなんじゃないかって」
「何故そんな事を?」
「多分……だけど、領主様は生産量や土地を増やす為に開拓を進めようとしてるらしいの。でも、それを行う為のお金が無い」
「なるほど。だから重税でレティ達から全てを巻き上げて、タダで手に入る開拓者と金になる奴隷を作ろうとしたのか」
「多分」
「でもそれだとわざわざ自分の領の収穫を減らす事になるんじゃ。そうなったら大変になるのは結局自分達にならないか?」
「ううん。実はね。私達の村を含めたこの辺りは、収穫量なんてほとんど無いの。だから領主様としては、この辺りの税ならほかで賄えるからそれよりも」
「確実な金と安い労働力の方が大事なのか」
「うん」
重税に喘ぐ中、レティに差し出される物などほとんどと言ってもいいほど無かったが、それでも雨風が凌げるだけマシ。
それだけでもレティは村長に感謝していた。
しかしレティを襲う不幸はそれだけではなかった。村長はレティを領主代理の息子に差し出す事にしたのだ。
そう、レティという醜聞を盾に重税の緩和を願った。
「そんな事をしても……」
「うん。何も変わらなかったよ。でも村長さんの気持ちも分からなくはないんだ」
領主には息子は居ても娘は居ない。
そんな中、レティという駒があれば政略結婚というカードが出来る。その一点だけを狙って切られたカードがレティという存在だったのだ。
「無謀だな」
「そうだね。でも残された手札だなんて本当にそれだけだったんだよ。元々収穫量の少ない村で食べる物にも困ってる状態だった。そんな中で重税を課されたら反抗する力すらなかったんだよ」
「それでレティは僕の力を求めたのか」
ビクリと僕の言葉に反応したレティは、消えてしまいそうな声で、そう。と答えた。
たまたま村に立ち寄った冒険者がドラゴンの話をしていた。それを聞いたレティはそのドラゴンになんとかして貰おうと思ったらしい。
「また無謀な」
「うっ、だってドラゴンはとても賢いってお母さんに習ったんだもん。だからそんなドラゴンなら私の話を聞いてくれると思ったの」
「それでなんで僕を従える大召喚士なんて事に?」
「ドラゴンを従えるのは竜騎士とかでしょ? でも私は騎士じゃないから、ドラゴンに頼めるのは召喚士かなって」
「ふっくく……」
その突飛な答えに思わず笑いが漏れる。それを聞き咎めたレティは顔を真っ赤にして僕の身体をポカポカと殴る。
しかし、そんな攻撃が効く訳もなく、それを理解すると悔しそうにしながらドスンと座り話を続けた。
そこからは僕の知っている通りだった。
僕の協力を得る為に、レティは毎日村の人間にバレないように僕の元に通っていた。
しかし、ある日からレティは村長に監禁されてしまった。
重税の緩和それ自体は出来なかったが、領主の息子がレティに興味を持った。
その為、レティは領主の息子に差し出す為に逃走しないようにと監禁されたのだ。
「それでどうして襲われる羽目に?」
「本当は私に興味を持った訳じゃなかったの。村長さんから私の事を聞いた息子は、すぐに領主様に私の事を知らせた」
そして、レティの存在が邪魔だと思った領主は、レティの素性を知る唯一の人間である村長一家を野盗の仕業にみせて殺し、レティも殺そうとした。
「本当なら私もすぐに殺される所だったんだけど、あいつら、逃げてる人間を追いかけ回して殺したかったみたいで」
そのお陰で助かっちゃった。そう笑う彼女の身体が震えているのに気が付かない振りをする。
「私の話はこれでおしまい。私は貴方の事を利用しようとした。それでも……それでも私と──」
「うん。契約しよう」
僕の言葉に目を見開き驚くと、次の瞬間には花が開いたようにレティは笑う。
「さて、それじゃあ僕と契約をしようかレティ」
「えっと、ごめんなさい。私どうやったら良いのかぜんぜん知らないの」
そうだと思った。
最初からそうだと思っていた僕は契約についてレティに話す。
契約とはテイムのように従えるのではなく、互いに対等な立場で協力するものだ。
従魔側はテイムよりも自由があり、契約者から魔力を貰う事が出来る。
契約者側は魔力を捧げる事で契約した従魔を呼び出し戦って貰う事が出来る。
こう聞くとテイムと変わりが無いように思えるが、細かくはかなり違う。その中で最たるものは、契約ならば本人の得意不得意に拘わらず従魔に出来る事だろう。
テイムはテイマーの資質による部分が大きいが、契約はそれを無視する事が出来る。
本来ならドラゴンを従えようとすれば、レティ程の子供では魔力を不足で干からびてしまうが、契約ならばその辺もこちら側で調整出来る。
「と、こんな感じか」
「ちょっ、ちょっと待って。それだとわたしに都合が良すぎない?」
「ああ、確かにそうだ。でも、僕はそれでも君が気に入ったから一緒に居たいんだ」
「っ!? うぇ、あ、その」
何故か知らないがレティが顔を先程よりも真っ赤にして言葉を詰まらせる。
「ん。コホンッ! えっと、そうだ。そうじゃないそうじゃない。ううん。じゃあアーク。私と契約して下さい」
「うん。じゃあレティは僕の言葉に続いて」
「うん」
「それじゃあいくよ。今ここに汝との絆を結び 共に学び 共に育ち 共に歩む誓いを捧ぐ」
契約の言葉を発し、レティもその言葉に続くように言葉を紡ぐ。
「「汝の力 我と共に 我が魂 汝へ捧ぐ ここに契約を結び 我ら永久に寄り添わん」」
「我が名アスクニルカ」
「我が名レティ」
「「我らここに契り 契約を魂に刻まん」」
契約の言葉が終わると、互いの手の甲に紋章が現れる。
「えっと、これで終わったの?」
”うん。そうだよ”
「わっ!? 頭の中に声が!?」
”これは契約の効果の一つ【念話】だよ。他にも魔力をつかって相手を呼び出したり、居場所を確認する事も出来る”
へぇー。と声を出しながら手を掲げて甲にある紋章を眺めるレティを見る。
恐らく、領主は気が付いたのだろう。
レティの人間にしては大き過ぎる魔力に……。この魔力を利用すれば、確かに益になるだろう。しかし、もしもその力が自分達に向けば。
そう考えて、レティが力を扱う術を覚える前に殺そうとしたのだろう。
今も嬉しそうに紋章を眺めるレティ。
そんなレティの姿を見ながら僕がこの少女を守ろう。この感情がどんなものなのかも知らずに、僕はそう考えるのだった。
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