第155話(ウチの子の涙ぐましい努力に涙でそう)

「皆さん起きて下さい!」

「うぅ~」


 真夜中と言っても差し支え無い様な時間。突然のヘルの声にハクア達は起こされる。


「どうしたんですかヘルさん?」

「陣の各地でいきなり火の手が上がり、それに呼応する様に敵襲が在った様です」

「本当ですか!」

「本当の事です結衣。外ではまだ戦闘が続いています」

「早く行かないと、ってハクア! 何寝てんの!? 早く起~き~て~よ!」

「まだ眠い。せめて、せめて後五時間……」

「それ、ガッツリ快眠時間かな」

「起きる気ゼロじゃな」

「ご主人様早く起きて下さい!」

「ハーちゃん! 起きて!」

「う~ん。二人も一緒に寝よ?」

「「きゃっ!」」


 ハクアの事を起こそうとする二人だが、自らの睡眠欲を優先させる為、ハクアは二人を布団に引き込み抱き締める。


「…………アリシアちゃん。私このまま寝ても良い気がして来ましたよ」

「奇遇ですねルリ。私もです」

「大変じゃ! 二人が主様に取り込まれたのじゃ」

「最近二人も欲望に忠実過ぎないかな?」

「はぁ、仕方ありません」


 ゴンッ! ゴンッ! グシャッ!


「三人とも色んな意味で目は覚めましたか?」

「「はい、すいませんでした」」

「……わ、私だけ音違いませんでした?」

「何か言いましたか?」

「……アクアはまだ寝てるのに」


 未だに夢の中に居るアクアを見つつ少し拗ねるハクアだが──。


「マスターはリーダーなので」

「理不尽だ!」


 ジャキン!


「さっ、早く支度しよ」


 文句を言った瞬間に、ヘルに銃器を突き付けられたハクアは、冷や汗を垂らし素早く身仕度を始め、仕度を終えたハクアは次に寝具などを片付け始める。


「えっ? ここ壊すんですか先輩? 防御とかに使った方が良くないですか?」

「魔法が無いならね。向こうが見えなきゃ対処も出来ないでしょ」

「あ~、確かにハクアの言う通りだね」

「主様大変じゃ!」

「どうしたの?」

「遂にアクアがキャラを立たせる為に、寝息までゴブになったのじゃ」

「何と!?」

「ゴブ~、むにゃむにゃ……」

「うわ、マジだよ」


(ウチの子の涙ぐましい努力に涙でそう)


「うむ、我も見習いたいものじゃ」

「頑張れ」

「ご主人様何時までもふざけないで下さい!」

「そうだよハクア! 早く助けに行かなきゃ!?」

「エレオノ待って!」

「どうしたんですかハクア様?」

「皆ももっとよく見て」


 ハクアがエレオノを制止して指し示す方向を皆が見る。そこには人同士が争っている光景が映っている。


「えっ? 何で人同士で?!」

「アレクトラは分かるでしょ?」

「…………はい。彼等は、彼等は我が国の兵士達です」

「なっ! じゃあ今襲ってきてるのって人間の……フープの兵なの!?」

「そう、今いけば同士討ちの可能性が高い、だから私達はここで待機。と、言う事でそんな所で牽制しようとしなくても良いよ」

「「「えっ?」」」

「主様がこう言っているのじゃ。早く出て来てはどうじゃ?」

「そうですね。お二方共、用が有るなら手早く済ませて頂けると助かります」


 ハクアがそう言うと、エレオノ達は訳がわからず困惑する。しかし、フロストと瑠璃はそれぞれ左右に視線を巡らせ、クーとヘルはハクアに続けて言葉を放つ、するとハクア達を挟み、左右から男と女が進み出てくる。それを見たハクアと瑠璃、アレクトラ以外の全員が油断無く構える。


「そう警戒しないでくれ。と、言ってもこの状況じゃ無理だな」

「全く貴方までここに来るとはね」


 進み出て来た人間は、それぞれ言葉を放ちながら近寄って来る。


 男の方は歳は30代前、半髪を短く刈り上げ、身長はかなり高い、そして見るからに上等そうな漆黒の鎧を着込み、歴戦の強者の雰囲気を放っていた。


 女の方は歳は20代後半、燃える様な短めの赤い髪。そして、その肢体を惜し気もなく晒した、それでも明らかに防御力の高そうな軽装の鎧を着込み、彼女も又只者では無い実力者の雰囲気を放っていた。


「なっ! 貴殿方は……」


 フロストが驚くのは無理からぬ事だった。彼等は他国のフロストですらその名と武勇を知る人物だったからだ。


 フロストの呟きを聞くと男の方が立ち止まり言葉を放つ。


「どうやら、元カリグの教会騎士殿は俺の事を御存知の様だな。が、自己紹介はさせて頂こう。俺の名前はジャック=ライドス黒龍連合の長にして、クラン刻炎のリーダーも務めている」

「あら、じゃあ私も自己紹介をしようかしら? 連合ヴァルキリーズの副団長、クラン暁の乙女リーダーのメル・カササギよ。よろしくねお嬢ちゃん達」


 二人の名乗った名前にハクア以外の全員が驚く。

 しかしそれも当たり前の事だった。そもそもクランとは、ゲームで言うギルド等のパーティーとは違うチームの事で、このクランをギルドで登録する事で、クランでしか承けられないクエストや様々な恩恵を獲られる。


 クランの結成には条件が在り、冒険者のランクがAなら一人、Bなら二人、Cクラスなら四人の人間が必要となり、最低でも三人の仲間が必要となる。

 この条件を満たす事で、クランを結成し冒険者のランクの様に、依頼等をこなす事でクランのランクをGから上げていく事が出来きる。


 そして、クランのランクがCになる事で、本拠にしている都市や街にクラン専用の建物を建てる許可を貰う事も出来るのだ。

 更に最低Cランクのクランが三つ、互いに協力関係になり同盟を組む事で、連合と名乗る事が出来きる。連合は大規模討伐等様々な物に縛られ参加させられる代わりに、莫大な利益や栄誉、一国の軍に匹敵するほどの武力を得る事が出来きる。


 その中でも、黒龍連合や連合ヴァルキリーズは、かなりの大所帯の有名な連合だった。


 そんな二人がハクアへと話し掛けて来たのだった。

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