第398話真っ直ぐ行ってぶっ飛ばしたんだよ。右ストレートでぶっ飛ばしたんだよ
ベルゼブブを召喚した私は数秒の時間を稼ぐと、その間に目星を付けていたポイントに到達した。
よし、予想通り! ここなら行ける。
目星を付けていた場所は、アベル達までの間に遮蔽物の存在しない針の穴のようなポイント。
ここからなら木に当たってパチュンする心配も無く辿り着ける……筈?
スキルを使って、最速で、最短で、真っ直ぐ一直線に!! な、感じでアベル達の居る場所へと突き進む。
そしてふと思う。
あれ? このまま行けばあれだよね?
そう思った瞬間【鬼角鎧】を腕に纏わせ、勢いのままにブレードマンティスの頭をぶん殴る。
うわっ……グロ……。
元々防御の薄いブレードマンティスは、私の最高速の一撃から繰り出された右ストレートで、頭がパァンと弾け飛んでしまった。
うん。ちょっとテンション上がってやり過ぎてしまった。
でも、しょうがないと思うんだよ。
だってあれだよ。今私はブレードマンティスを、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばしたんだよ。右ストレートでぶっ飛ばしたんだよ。
うん。わかる人間だけ分かれば良いんだよ。分からなければ勝手にググれば良いんだよ。
しかし、いやー、ギリギリだけど間に合った。
ベルゼブブの事は後で追及されるけどまあ、仕方が無い。隠していた訳でもないから別に良いんだけどね。
ついでに言うと今回は澪と瑠璃。それに縫華まで居て、私にしては珍しく余裕があるからネタにも走れた。
この短い間に三ネタも入れられるとは新記録樹立ですな。
うん。誰にも分からないよね。でも、言えた事にもやれた事にも満足してるから良いのです。
しかしアベルだけは反応してるから、やはりこいつは異世界に順応出来るレベルのオタクだったのだろう。閑話休題。
そしてテンション上がり過ぎて、自分で制御出来る限界値少しオーバーして、装甲纏って殴ったのに骨折れちゃったけど【邪神体】のスキルのお陰でもう治ったから実質ノーカンだよね!
「んな訳あるかぁーー!!」
「ぐはっ!」
「もう、ハーちゃんはもっと自分の身体を大事にしてください」
澪は登場の襲撃そのままの勢いで、ブレードマンティスに続き私にまで攻撃を仕掛けてきやがった。
瑠璃は瑠璃で攻撃こそして来なかったが、澪にはなにも言わず私を咎める。
しかし……私はしっかりと見ていた!!!
二人とも殲滅系の広範囲攻撃もちゃんと技があるのに、迷わず私と同じく真っ直ぐ行ってぶっ飛ばしてた。右ストレートでぶっ飛ばしていた!
しかも微妙にニヤけてるから絶対私と同じ考えだったに違いない。
それなのに何故私だけが攻撃を受け怒られねばならんのだろう? 解せぬ。
後から追い付いた縫華は呆れ気味だが、呆れていると言う事はネタを知っているに違いない。
流石コスプレイヤー。
私が感心していると、流石と言うべきか三人は何も言わずともブレードマンティスの相手を始める。
因みにブラッドグリズリーの方は、着いて速攻で厚さ一メートル程の壁に囲ってあるので、五分位は最低でも時間を稼げる筈だ。
そしてその間にアベル達の治療を始める。
「ほら、MP回復薬だ。アベルとダリアはそこ座っとけ今治す。って、どうした?」
アベルを治療してやろうとすると、何故だか知らないがバツの悪そうな顔をしている。
何故そんな顔をしているのか分からずにいると、そんな私にアベルが頭を下げてきた。
「ごめん。最後の最後で失敗した。上手くやれる筈だったのに……」
「アベルのせいじゃないわ! 私だって出口が見えて気を抜いたもの……」
なるほどそれを気にしてたのか。
見れば他の二人も頷き、同様に自分達にも非が有ったと認めているようだ。
まっ、いい傾向か。
「今回の事は気にしなくても良い。完全にイレギュラーな状況だったしね。むしろここまで良くやったと思ってるよ」
実際これは私の本音だ。
ここに来て状況を見て分かった事だが、今回こうなってしまったのは本当にアベル達のせいではない。
ブラッドグリズリーは一種の狂騒状態になっていた。恐らくはここに来る前に戦闘があったのだろう。その証拠に何匹かは傷を負っている個体が居る。
その為、興奮状態で獲物の匂いに敏感になっていたブラッドグリズリーは、巣に居た大量のブレードマンティスの匂いを嗅ぎ取りやって来たのだろう。
そしてブレードマンティスも、殺気を振り撒きながら集団で移動するブラッドグリズリーの気配を感じ取り、巣から離れた場所を戦闘区域に選んだ。それがたまたまココだったのだ。
つまりアベル達は完全に巻き込まれた形だ。
これは私達だって少し気が付くのが遅ければ巻き込まれるレベルだ。索敵能力が私よりも低いアベル達ではまだ難しいだろう。
流石にコレを査定に入れたりしないんだよ。
それに所々でアベル達の手伝いはしたが、後半に関してはほとんどその必要も無かった。私の予想よりも遥かに成長してみせたコイツらに文句など付けるはずも無い。
「それでも……完璧にやり遂げたかったんだ」
完璧……ね。
「なあ、そんなものこうやって偉そうにお前らに物教えてる私だって無理だぞ?」
「えっ!?」
「当たり前だろ。私だって足りない物だらけだよ。だから私は仲間に頼って助けて貰うんだ」
うん。正確に言えば頼ると言うよりもブン投げてやって貰うと言う方が正しいけど……。
「完璧にプラン通りに出来るのがそりゃ理想だ。でも、現実には想定外が起きるものだ。その中で最良の結果を出せたならそれは十分誇っていい」
「でも、どう考えたって失敗じゃないか。パーティーの全員を危険に晒して、皆死ぬ所だったんだから!」
「でも、生きてるだろ?」
「……」
「最悪の状況下で誰も諦めなかった。だから私達が間に合った。そしてその結果を私は認めてる。だから今回はそれで良いんだよ。ほい、治療完了。後は私達がやってる、ゆっくり休んでろ」
さて、全部終わったし私も参戦しますかね。
「待ってくれ。俺も……俺達も戦わせてくれ」
「ほう」
全員が私の事を見ている。
その目はまだ終わりじゃないと言っている様だ。
なら、私がする事は取り上げる事じゃないね。
「澪、瑠璃、縫華。そっちのカマキリは私達で受け持つから熊よろしく」
「良いのか?」
「うむ。やる気が出てるみたいだからね」
少し話してる間に三十匹程居たブレードマンティスは、十匹程にまで減っている。
怖いわ〜この人達。
「分かりました。じゃあ私達はあっちの熊さん倒せば良いんですね」
「うん。でも、お昼ご飯はそれで熊鍋作る予定だからあんまりグチャグチャにしないでね?」
「ハーちゃんのスキル使えば大丈夫ですよ」
「駄目だからね。【解体】さんもグチャグチャだと品質下がっちゃうからね。品質下がると肉の臭みとか出ちゃうからね」
「うーん。と言う事は【水蛇】は使えませんね」
「うん。あれ血が抜けないから臭くなる【水蛇】No。氷付けはOK。出来れば首狩る方向で血抜きもしてくれると、品質が更に上がります!」
うん。食料品の品質上げるのはとても大事な使命だからね!
「了解。じゃあこっちは任せた」
「ういうい。さて、じゃあ準備は良いか?」
「「「おう!」」」
「私が指示を出す。お前らはその通りに動け! ヒストリア、アベルに強化魔法を! エイラ、左手前の三匹の前に泥沼作れ」
「「はい!」」
私が指示を飛ばすと二人は呪文の詠唱を開始する。
壁役に私とアベルの二人が居るから、失敗しない為に敢えて呪文の詠唱をするのは良い判断だ。
エイラの詠唱がひと足先に終わり、三匹のブレードマンティスは沼に沈み足を取られる。そしてその頃にはヒストリアの詠唱もすべて終わりアベルの強化が完了する。
目配せをすると、アベルがコクリと頷きスキルを使ってブレードマンティスを引き付ける。
万全の強化で防御だけに集中すれば、今のアベルであれば七匹居ようとそうそう落ちる事は無い。
そしてそれは、今現在全ての個体の目にはアベルしか映っていないと言う事でもある。
その間に一人パーティーから離れていたダリアが、最後尾に居た私の【鈍重】を食らって動きの遅れたブレードマンティスを背中から一突きにする。
ブレードマンティスの防御力なら、背後攻撃に威力が上がるダリアの攻撃なら一撃で沈む。
アベルに気を取られていた内の二匹が、仲間が殺られた事に気が付きダリアへと向かう。
だが──。
「エイラ今だ」
「分かってるわ! フレイムブレッド」
予め魔法を待機させていたエイラの炎の弾丸が、ダリアを追い掛ける為に私達に向けた背へと突き刺さり、爆発する。
「「キイィー……」」
悲鳴のような鳴き声を残し焼け落ちるブレードマンティス。その影に隠れるようにダリアはまた姿を消す。
なかなか様になってるじゃん。
立て続けに三体が殺られた事で、他のブレードマンティスにも僅かな動きの乱れが生じる。
そして、今のアベルはそれを見逃す訳が無い。
鳴き声に顔を傾けた一体の隙を突き、袈裟斬りで胴体を真っ二つに両断すると、すぐ様二体目に飛び掛る。
しかしその攻撃を予測したかのようにブレードマンティスの鎌がアベルを襲う。──だが、アベルは既に私の指示でその数センチ手前で止まっている。
そして、十分に相手の注意を引き付けたアベルがその場から横に飛ぶと、今まさにアベルが居た場所を通り、ヒストリアの放った光の矢がブレードマンティスを貫き、同時に放ったエイラのロックスピアがもう一体に突き刺さり、二体同時にブレードマンティスを倒した。
魔法を回避したアベルを残りの一体が襲う。しかし、その攻撃は隠れ潜んでいたダリアの弓矢を払い除けただけで、その瞬間をアベルに叩き切られた。
さてと、じゃあ解放。
戦闘の間、泥沼に埋もれさせ私が【結界】で抑えていた三体のブレードマンティスを解放する。
しかしそのブレードマンティスも、身体にこびり付いた泥をエイラに凍らされ、呆気なく戦闘は終了したのだった。
「うん。良い動きだったよ皆」
途中からは【念話】で指示出てたけど、皆が指示通り動いてくれたからやり易かった。
私がやったのも三体抑えてただけだし良い感じだったな。
しかし、何故か皆は喜びもせずに何か驚いている。
「どうした?」
「あんなに苦労したブレードマンティスをこんなにあっさり倒せるなんて……」
「指示一つでここまで戦闘が変わるものなのね」
「ええ、エイラの言う通りです。私もビックリしました」
「私も一人でブレードマンティスを倒せるなんて思わなかったわ」
「は? 何言ってんだ。ダリアは背後からの攻撃だけとはいえ立派な遊撃兼物理アタッカーだからな? ああ、弓も良い感じだったぞ。あれからも練習ちゃんとやってたみたいだな」
「そりゃ、ちゃんとやるわよ」
「良き良き」
ビックリはしているようだが、全員が充足感のある良い戦闘になったようだ。
そしてもう気にしないようにしていた後ろの惨劇も終了している。
「こっちも終わったようだな」
「ハーちゃんの言う通りになるべく傷付けずに倒しときましたよ」
「オワッタ」
「乙! じゃあチャチャッと【解体】して昼飯にしますかね」
こうして長い長いアベル達の修行は終わったのだった。
実は私がなにもしてないとか言っちゃ駄目なんだよ?
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