第432話三種の盛り合わせとなっています

 サーキュス=ナールバルトとの邂逅を終えた私は、奢りだと言われた言葉を真摯に受け止め、店の食材を全て平らげ、それでも足らない分は他の店から食材を買取り料理して貰い、もう勘弁してくれと言われてからは、自分でキープしていた食材を売り付けて料理して貰った。


 差し引きゼロですな。


 近くの店から応援に来た料理人十名との熾烈なバトルだったと言っておこう。

 今日の売り上げだけで三年分の稼ぎになったと喜んでいた。


 私としても大満足で双方ウィン・ウィンの結果となった。


 そんな私は今、ヘグメスの実験台となっていた獣人達の元へとやって来た。

 場所は郊外の私が一度屋敷を建て吹き飛ばした跡地に作ったマンションだ。


 実はこの世界初の物件なのではと考えてみたり。閑話休題。


 彼等は一度奴隷に落とされてしまった為に簡単には解放出来ない。それが例え違法な方法でのものだったとしても、成立してしまったからには無条件で解放する事は出来ないのだ。

 その為申し訳ないが、全員私が買取り一時的に私の奴隷となって貰って、資金が出来次第解放するという流れになったのだ。


 もちろん子供に関しては全員即時奴隷から解放した。支払いの義務があるのはこの世界の基準の成人からだ。


 私としてはもう少し年齢を引き上げても良かったのだが、それに関しては色々な人間、しかも張本人達からも止められた。解せぬ。


 家族が居る者達は一緒の部屋で住めるように配慮し、親や庇護者が居なくなってしまった子供は孤児院に引き取る事に、孤児院に引き取った子供とマンションの子供に関しては、全員文字の勉強と簡単な計算を孤児院の子と一緒に教える予定だ。


 マンションの住人も仕事を斡旋しつつ、希望する者には勉強する機会も与える。

 その他にも冒険者を目指す、なりたいという者達には、 冒険者ギルドで受講出来る新人講習を受けさせる。


 これにもお金は掛かるが先行投資だ。稼げるようになったら返して貰うので問題は何も無い。


 正直、何故か周りからは背負い過ぎだと言われたがそれは違う。

 一時的とはいえ私の奴隷となり、孤児達も私の経営する孤児院に居るのなら、それは私の管理下という事だ。

 それならば私には面倒を見る義務があるのだ。

 生活基盤、教育、仕事、この全てを揃えて与えるのは私のやるべき事。

 そこから先サボったり、怠けたりするのならそこからは私の知った事ではない。

 お金が入ったらマンションの住居代も請求する。それが払えないなら出ていって貰うくらいの事はする。


 最低限、しかも最初しか面倒をみないのだから、むしろ文句を言われても仕方ない程だ。などと反論したら困った子を見る目をされ、頭を撫でられた。解せぬよ。


 そして現在は、働ける住人の全てに就きたい職業の聞き取りをしている最中だ。


 ふむ。これで終わりか。

 やっぱり基本、男は冒険者に女は商業系か……。その他、文字や計算を学びたいって人は全体の三割、主に商業系で働きたいって言ってる女の人の方が割合は多いか。

 冒険者になりたい奴等は全員、ギルドに叩き込んで新人講習を受けされば良いとして、子供は安全な薬草取りと街の中の手伝いか。

 まあ、その辺は上手く捌いてくれるだろうから投げよう。


 商業系に進みたいやつはそれぞれ変えないとな。

 上昇志向がありそうな奴は働かせながら、ある程度の勉強が済んだらアリスベルに送るか。

 家計の足し、生きる為、奴隷から解放される為の資金を稼ぐ為に働きたいってやつは、こっちの店で面倒をみれば良いかな。


「あの、我々は助けて頂いただけでも充分なので、そこまでハクア様がお気になさらなくても」


 聞き取り調査を終えて今後を考えていると、獣人が暮らしていた村の村長の息子だったやつが話し掛けてきた。


「……ん? ああ、大丈夫だよ。全員の希望通りとはいかないけど、それなりに希望に沿う形には持ってくから、その代わり割り振りに少しかかるからそれまで待って貰うのは大丈夫?」


「ええ、それはもちろん大丈夫です」


「そっか、じゃあ準備が整うまで少し待っててね」


 難色を示されると思ったが色良い返事を貰えた事を安堵する。


「はい。その、ハクア様」


「ん? どうしたの?」


「「「ありがとうございました!」」」


 その場の全員からお礼を言われフリーズする私。

 そんな私にその後も泣きながら礼を言う人が殺到した。

 ▼▼▼▼▼▼▼

「ああ、ビックリした」


「ある意味当然の反応かと」


「そうかなー。大袈裟過ぎない? 私は自分のやるべき事をやっただけだよ」


「いえ、この世界では破格の待遇ですよ」


「……だとしたら、私がどうこうじゃなくて、この世界の方がって事だと思うよ」


 ヘルさんと二人、冒険者ギルドに向かいながらさっきの出来事について話す。


 どうやらこの辺の認識に関しては平行線らしい。


 そうこうしている内にギルドへと辿り着いた私は、受け付け嬢のココットの元へ向かうと、いつも通りお菓子のレポート用紙を受け取り、幾つかの素材を渡しながらエグゼリアへの取り次ぎを頼む。


 査定の間もお菓子に関しての要望を聞いていると、ようやく仕事が一段落したエグゼリアがやって来たので、そのまま執務室に入る。


「ああ、ハクアのお菓子が荒んだ心に染みるわ」


「お疲れ」


「ええ、ありがと。それで大体は決まったのかしら?」


「うん。えっとね──」


 返事を返した私は、聞き取り調査で冒険者になりたいと言った者達の人数、大体の力量をエグゼリアに伝える。

 その他にも子供へ斡旋する仕事の内容、獣人でも安全に仕事が出来そうなものなどの諸々を話していく。

 もちろんその時にナールバルトとの話も伝えておいた。


「──うん。こんなものね。後はやっていきながら調整しましょう」


「だね」


 相変わらずギルド長を通さないやり取りに、最近あの人見てないな、などと思いながら相槌を打つ。


 エグゼリアだけの方がやり易いしね。


「ところでハクア」


「どうしたの改まって?」


「いえね。実はヘグメスや捕まえた貴族と繋がりがあった残党が残っていてね」


「ほう。貴族以外にも逃げ延びたのが居たのか? てか、今日遠くの方からこっちを窺ってた奴かね?」


「多分そうね。今もこのギルドの前に居るみたいだし」


「そうですね。取り囲むように人数が集まっています」


 マンションに居る時からあった気配だが、どうやら私の事を襲撃する為に人数も集まっているらしい。面倒な。

 そして全員にバレているというのがまた……。


「問題はその相手がとある戦闘集団なのよ」


「ほう」


 まあまあ強そうなのが居るけどそれの事かな? しかしどう考えてもエグゼリアが心配するレベルではないのだが?


「それが懸賞金をかけられる程の奴でね」


「ほう、懸賞金」


「お金持ってるんだからお金に反応かとしないの」


 怒られた。しかし考えてみてほしい。

 目障りな羽虫だと思っていたら、実は私のお小遣いだったのだから反応もしてしまうだろう。

 買い食いするにもお小遣いは必要なのである。そしてちょっと欲しい素材とかは高いからやっぱりお金は必要なのです。

 そしてお金持ってるけどお小遣いは少ないのですよ。解せぬ。


「まあ、わかってると思うけどそんなに強い訳ではないのだけど、問題は容赦無く他人を巻き添えにする奴等って事ね」


「ああ、なるほど」


「だから穏便に手早くお願いねって事」


「了解っと。じゃあ──」


 パチンッと私が指を弾くと、なにやら外から断末魔のような複数の悲鳴が起きる。

 それを聞いたヘルさんは回収してきますと言って窓から外へと出て行った。


「何したの?」


「いやー、予め準備しといたんだよね」


 そう。ここに入った瞬間から全員が集まるのを待って罠が仕掛けてあったのだ。

 端的に言えば【暴喰獣】の蝿に、私の調合した毒を持たせて相手の頭上に分からないように待機させていた。

 そのお陰で、その戦闘集団(笑)は頭から私の毒を浴びて現在のたうち回っている最中だ。

 暴れれば暴れるほど苦しむぜ。


 本日のメニューは麻痺毒と全身を爛れさせる毒、神経を過敏にする毒の三種の盛り合わせとなっています。


 そう話すとエグゼリアは紅茶を一口優雅に飲み。


「いっそ憐れね」


 そう言って気の毒そうな目で窓の外を見詰めていた。解せん。

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