第284話勘違いしているなら有り難いな

 この間襲ってきた兵士達がモンスターに襲われるのを見ながら工藤くどう かけるは思う。


(まさか、ここまで上手くいくとはな。兵士も男だけかと思ったら意外に女も居るんだな。やっぱ、魔法なんてものがあると女も多くなるのかね?)


 翔がこの世界で初めて目覚めたのは何処か薄暗い広間の中だった。


 その後の展開は正に某かの物語のような展開。


 魔王を倒す為に特殊な能力を授かって呼ばれた自分達、その力を使いこなす為の訓練や衣食住は保証する。そんな感じの事を言われた気がするが今はもう忘れてしまった。


 だが、やはりそんなものに賛同する人間は多くはなかった。当然反発もあったが、協力しないのであれば、勇者として呼び出しはしたがこの国から追放する。この一言で従わざるを得なくなった。


 この時、翔は既にこの国は自分達の事を道具としてしか見ていないと考えた。


 そして事件は起こった。


 呼び出した勇者達の能力を城の人間達が一人づつ調べていた時、一人の男に無視できない能力が見つかったのだ。


 それは【染まる精神】相手に触り名前を呼びそれに相手が応えれば、対象者は心の底から自分の意思で使用者に服従を誓う。と、いう能力らしい。


 この時、翔はその能力の恐ろしさと共に一つの事を思い付いた。そう、この異世界の人間達が自分達に都合の悪い人間が現れたらどうするのか? そう、考えたのだ。


 だから翔は誰もが思っていても口に出さなかった考え。じゃあ、そいつがその気になれば全員そいつの奴隷にされちまうのか? と、言葉にした。


 声は大きくなかった。


 それどころか普段なら誰もが気にする事が無い程の声量。

 実際誰が漏らした言葉なのか誰にも分からなかった。だが、声を殺しながら城の人間達を遠巻きに眺めていたこの空間では、その一滴の悪意の言葉は瞬く間に拡がり、城の人間も自分と同じ召喚された人間達の心も黒く染め上げた。


 最初は扱いあぐねた反応だった城の人間達の視線は明確な敵意に変わりその男を眺める。


 周囲の空気が変わった事に敏感に気が付いた男は必死に弁明しようとする。


(馬鹿か。もう手遅れだよ)


 その男はここまでの人生でこんなにも沢山の悪意に晒された事が無いのだろう。翔の想像通り必死に弁明しようとした男は兵士に押さえ付けられ、結果としてこのモンスターの蔓延る世界で自衛の手段さえ教えられず追放された。


 それを確認した翔は自分のギフト【空間跳躍エリアジャンパー】を見る。


 翔のギフトは早い話が空間転移だ。


 自分を含めた対象を任意の場所に一瞬で移動させる能力。制限はそれなりにあるがそれでも強力なものだ。


 だが、何故かこの世界の人間にはその凄さがイマイチ伝わらず、物資人員の輸送役という感じの扱われ方だった。


(勘違いしているなら有り難いな。このまま能力を鍛えるか)


 最初こそその扱いに不満を感じた扱いだが今となっては有難い勘違いだった。


 それからの日々は中々に疑心暗鬼に満ちたものになった。


 それもその筈、国の不利益と誰かに密告を受ければ簡単に追放されると知れ渡り。また、自分達の疑心暗鬼が同じ境遇の一人の仲間を殺した。

 そのどうしようもない事実が、なんの耐性も無い普通の高校生という未成年の少年少女達の大多数の心に重くのし掛かったのだ。


 そして、もう一つ。


(何か……おかしくないか?)


 翔が感じた違和感。それは洗脳や催眠に近いものだった。地球でもいわゆるアングラな所に属していた翔はそういった人間を何人も見てきた為に感じる事が出来た違和感だった。


 恐らくはスキル。

 それに、全員に蔓延する罪悪感が抵抗を弱めているのだと翔は考えた。現に違和感を感じる人間は大抵があの事を気にしていた人間や、異世界での生活に適応出来ていない人間だったからだ。


 しかし翔にはそんな物は関係無かった。


 この世界に存在する魔法やスキルを習い。自身のギフトを使いこなす訓練をしながら、扱い易い人間を探し続けた。


 そして翔が目を付けたのが動野どうの 育斗いくと。魔物使役のギフト【魔物支配の波動】を持つクラスメイトだった。


 このギフトは弱い魔物なら無条件に、瀕死にまで追い込んだ魔物ならばどんな物でも自分の手駒に出来る。又、どのモンスターがどのように育てれば何に進化出来るのかわかるというものだ。


 育斗は元の世界で虐めを受けていた。そしてこの世界でも扱いは変わらなかった。だが、翔はこの男が実はプライドが高く嗜虐的な人間だと知っていた。

 何故なら翔はこの男が飼育小屋の動物を痛め付けているのを見た事があったからだ。そこで翔が虐めから守ってやり、育斗の事を認めているような発言をしてやれば育斗は簡単に翔の扱い易い手駒になった。


(ふん。主体性の無いやつ。こんなんだから弱者になるんだ。せめてここに柏木の奴が居ればまた違ったのに……アイツもこっちに来てる。なんてのは流石に無いよな)


 そして、この世界の事を十分に学び、この国自体がキナ臭くなって来た所で翔は育斗を連れ城を逃げ、王都から離れた森の中の洞窟を拠点にした。


 そんな翔が最初に行ったのは勿論レベル上げだ。

 レベル上げ自体は簡単。ギフトで死角に移動した直後に攻撃すれば、大抵の魔物は一撃で仕留められた。たまに危ない場面はあったがギフトの扱いに慣れ、大きな岩などを頭上から落とし先制攻撃が出来るようになれば更に効率や安全性が上がった。


 それと同時に行ったのがモンスターの収集だ。


 最初こそ強いモンスターを育てよう。と、思ったが育成に手間が掛かる上に、使い捨てに出来ない弱い仲間が増えても邪魔なだけだった。


 だが、そこで翔は切り替えた。


 育てるべきモンスターと共に、使い捨てに出来るモンスターを支配する事にしたのだ。そしてその候補がゴブリンだった。


 城に居た時に聞いた事だが、ゴブリンはどんなに種族でも孕ませる事が出来る上に一週間もあれば五倍から六倍に増える事もあると聞いたのだ。


 最初は襲ってきたメスのオークだった。そこで数を増やしていき更に他のメスも増やす。更に嬉しい誤算だったのは支配したモンスターの孕ませた子供は最初から支配状態で産まれてきたのだ。


 そうしてゴブリンの数が五十を過ぎた頃、前々から狙いを付けていた盗賊団のアジトを襲撃した。


 その時初めて人を殺したが思ったよりも特に何も感じなかった。育斗も最初こそ躊躇していたが反撃して来た一人を殺した所で吹っ切れたようだ。


(これもあの国で受けたスキルの影響か?)


 ゴブリンの数は十まで減ったものの翔や育斗、本命のモンスター達に欠けは無しの大勝利に終わった。男は全て片付けモンスターの食料に、女は二人が気に入った者達以外はゴブリンを増やす為に与えた。


 更に盗賊団自体が村から拐って来た女を囲っていた為に、ゴブリンを大量に増やせた事も有り難い誤算だった。心が痛まなくもないが、もう既に盗賊団の慰み者になって心が壊れているのだからしょうがない。と、割り切った。


 その後もゴブリンを増やしながら互いに殺し合わせレベルを上げさせる。そしてまた数を増やしてを繰り返す。そんな事を繰り返し今度は近くにある小さな村を襲う事にした。


 理由としては手狭になった為、食料の問題、何よりも新しい女が欲しいと育斗が駄々をこねたからだ。


(ちっ! 何も考えない癖に調子にのりやがって)


 目標の村は人口が約七十程の村で半数以上が老人、子供、女。戦える人間は二十程で脅威になるほどのステータスを保持している人間は見当たらなかった。


 そんな中、翔が取った手段は降伏勧告。


 村の周囲をモンスターで囲み恐怖を煽りながら従わせる。


 しかし、当然ながらそんなものを素直に受け入れる人間はいない。戦える村の人間が前に出て来るのを眺めながら、思い通りに動いた事に内心ほくそ笑む。


(本当に扱い易い)


 しかしこの村人の行動は翔のシナリオ通りのものだった。その後のやる事は簡単だった。スキルを使いただ相手を圧倒して一方的に叩きのめす。そして動けなくなった奴等をモンスターに襲わせ喰わせれば、それだけで目の前の凄惨な光景に村人は屈するしか無かった。


 そこから先は順調だった。


 女が増えた事でゴブリンの数は飛躍的に増え、村を拠点に出来た事で食料の問題が無くなり、育斗のモンスター捕獲も精力的に行えたのが大きい。


(生かした男は奴隷として食料を生産させモンスターに見張らせる。寝る場所を分ける事で計画を練る時間を与えずに、逆に密告制にすれば誰も彼もが仲間だとは思えなくなるだろうな。後は、働きに応じて女でも与えれば大人しいだろう)


 翔のこの考えの通り、一度反乱の計画を練る人間が居たが、他の村人により密告を受け制裁を加える場面を村人全員に見せた事で誰も逆らう者はいなくなった。


 その頃にはゴブリンの数はもう既に数えきれなくなり、元々周辺に巣くっていたゴブリンも加わり徐々にだが勢力、支配領域を伸ばして行った。


 そして更に時間が経ち、育斗が偵察用に放っていたモンスター。クールルアイズの報告により遂に何処かの国の兵隊が討伐にやって来た事を知る。


「ど、どうするんだよ! 兵士なんて相手にしたら負けちまうよ!」

「いや、作戦通りやれば大丈夫だ」


 育斗は次第に集まる兵士の数に尻込みしていたが、翔は集まる兵士の様子を見て行けると踏んだ。


 翔の考えた作戦は単純な物。


 村を中心に円状にゴブリンを配置して、中に行く程進化したゴブリンを置く。そして敵が調子に乗り引き返せない所まで食い込んで来た所で、後ろからゴブリンよりも強力なモンスターで挟撃するというものだ。


 幸いにして翔の能力は既に互いに触れてさえいれば何体何百体であろうと瞬時に移動させ、背後を取る事が出来るまでに成長していた。


 更に言えば翔は平民と獣人、貴族が連携を取れるとも思っていなかった。


 そしてこの作戦は大成功。


 貴族と平民で更に隊を別けてくれた事で更にスムーズに事を運ぶ事が出来たのも大きい。その上ただでさえ数の少なくなった兵士を、犠牲にするのも構わず魔法で巻き込んでくれたお陰でこちらの勝ちは揺るがないものになった。


 翔自身も兵士を殺しレベルも上がった為に今回の成果は上々だった。


(ま、遊んでて一人殺し損ねたけどあの怪我であんな所から落ちりゃ生きてないだろう。ここから始めてやる。魔王も王族も知った事か、俺は俺のやりたいようにやってやる。そしてこの世界を俺が……)


 翔は兵士達の中で気に入った女を汚しながら更に兵力を伸ばしていく。そんな翔の耳に敵襲の報せが届いたのは、ゴブリン討伐隊が壊滅させられてから四日後の事だった。

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